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2話
しおりを挟む「おいジュン、ものすごい物ってなんなんだよ」
夏休み中盤の8月某日。
20時を少し過ぎた頃、ジュンと一希は町外れにある高架下で待ち合わせをしていた。
「この事は誰にも言ってないよね、一希」
月の光がうっすらと差し込む中、お互いの顔はぼんやりと見えていた。
「言ってねえよ。お前が絶対言うなって言ったんだろ。つーかなんでこんな時間なんだよ」
同級生である一希はジュンの事が嫌いだった。
自分は腕っ節が強く学年のボス的存在なのに、成績だけでチヤホヤされているジュンは気に食わない存在であった。
「タウンミーティングだよ」
ジュンは持っていたリュックのジッパーを下げながらポツリと呟いた。
「あぁ?なんだそりゃ?」
「知らない?政治家と一般人が直接意見交換するような集会のことだよ。民主主義の原点さ。ある意味僕たちのような、知能の高い人間と低い人間が意見交換する場でもあるんだ」
一希は眉間にシワを寄せ、拳を握りしめながらジュンの目の前まで近寄った。
「人呼び出しといておちょくってんのかテメェ…ケンカ売ってんなら買ってやんぞ」
ジュンは小さくため息をついた。
「そんなバカしかしないようなもの、売ったり買ったりしないよ。大事な将来について話すために呼んだんだ。君は今、3年の生徒10人ほどとグループを作り、そのリーダーとして仕切ってるよね。そしてそのメンバー数人と一緒に、他の複数の生徒からお金を巻き上げている。それをやめてもらいたいんだ」
「ああ?そんな事テメーに関係ねーだろうが」
「校内の秩序が乱れてるんだよ。みんな君らがいる所をわざわざ避けて通ったり、駐輪場に屯してるから自転車が取れなくて困ってる。それにカツアゲされてる彼らも、卒業後に今のストレスが起因して社会生活に影響が出るかもしれない。だからそんなことをもうやめー」
ボゴッ!
喋り終わる前に、一希はジュンの顔面を思い切りブン殴っていた。ジュンは体がのけ反り、その場に尻もちをついた。
「誰に説教垂れてんだコラッ!教師かテメーは!」
ジュンは尻もちを着いたままリュックから何かを取り出し、ゆっくりと立ち上がった。
「一希…彼らは君達に金を渡すために、親の金を盗んだり他の生徒から金を借りたりしている。君の私利私欲のために、沢山の人間が被害に遭っているんだよ…」
「うるせえクソインテリ野郎が!何様だテメーは!テメーからも巻き上げてやろうか!アァ!?」
ジュンはため息混じりに呟いた。
「じゃあやめてくれないってことなんだね?」
「フンッ、ちょうどいい。テメーのことは前から気に入らなかったんだよ。俺をナメたらどうなるか教えー」
バチバチバチッ!!
今度は一希が喋り終わる前に、一希自身に稲妻のような衝撃が走った。
「んががあッ!!」
あまりの衝撃で一希はその場に転び、ジュンはそれを見下ろしていた。
「わかった。もういいよ」
「痛えッ!な、なんだ!?何しやがった!」
「スタンガンだよ」
「スッ…スタンガン!?」
ジュンは手に持った長さ20cmほどのスタンガンを一希に見せた。
「1番威力の高いヤツを選んでみたんだ。説明書には気絶したり死んだりはしないって書いてんだけどさ、スタンて気絶って意味もあるんだよね。でも気絶はしない。…ねぇ、矛盾してない?気絶しないのになぜスタンガンと名付けたんだろう?これじゃエレキガンが正解だよね。…あ、場所によっては気絶するとか?目とか股間なら気絶するかも」
「ちょっ、ちょっと待て!やめろ!卑怯だぞ!」
「卑怯?暴力で金を巻き上げるのは卑怯じゃないのか?ちょっとじっとしててよ」
バチバチバチッ!!
「グワアアァッ!!」
一希は身体が硬直し、思うように動かすことが出来なくなっていた。
「股間でも気絶しないか。10秒くらい当ててみようかな」
「もっ…もうやめろ!降参だ!」
「しっ!」
ジュンは人差し指を口に当て、キョロキョロと周りを見渡した。
「さっきから馬鹿みたいに大声出しちゃあダメだよ。今度大声出したら口にコレ突っ込むよ。結果はもう決まったんだから大人しくしててよ。それより、ねえ一希、政治家にはなんで野党がいるんだと思う?」
「ハアッハアッ…もう勘弁してくれよ」
「だっておかしいよね。リーダーが確立したのに、なんで外野がゴチャゴチャ首を突っ込めるシステムになっているのか、疑問に思わない?」
「このことは誰にも言わねぇ、約束するよ…だからもうやめろ…な?」
「それはね、野党がいなかったら与党のやりたい放題になってしまうからだよ」
「ほ、本当に殴って悪かったよ…」
「つまりいくら僕が優秀でも、いつか間違った選択をしてしまう事があるかもしれないってことなんだ」
バチバチバチッ!
「ンガアアァッ!!」
「君みたいなクズを相手にしている時、無駄にストレスが溜まって感情的になることがあるからだ」
バチバチバチバチッ!
「グワアアアァーッ!!たっ…頼むからもうやめてくれッ!」
ジュンはリュックのサイドポケットから小さな何かを取り出した。
「痛っ!」
一希の足首あたりにそれを押し当てると、一希は一瞬ビクリとした。
「こっ、今度はなんなんだよ!」
「さあ一希、立って。乗ってきた自転車をここに立てて、この場でしばらく漕いで」
「なっ…なんだよそれ…もう帰させてくれよ!」
バチバチバチバチバチッ!!
「アガアアァアッ!わかったよ!やるよ!やればいいんだろ!」
「うん、それで終わりだよ。僕も帰るから」
一希は言われた通り、訳のわからないまま自転車を立てて漕ぎ始めた。
ジュンは一希の体にスタンガンを当て、いつでもスイッチを押せれるよう構えていた。
キィーコ…キィーコ…キィーコ…キィーコ…
無機質な音が高架下で響き続ける中、しばらくしてジュンが一希に話しかけた。
「ねえ一希…戦争はなぜ無くならないんだと思う?」
「はー、はー…せ…戦争?さあ…縄張り争いじゃねえのか…犬や猫でも死ぬまで縄張り争いしてんだ。人間も同じようなもんなんじゃない…のか…。はー、はー…」
「へえ、意外にうまい例えするね、50点あげるよ。地球ってさ、一つの家なんだよ。地球という家の中に、国という部屋が人類に割り当てられているんだ。だから戦争は自分の家を壊すのと同じことなんだよね。本当バカみたいだ」
キィーコ…キィーコ…
「つまり性善説なんてあり得ないのさ。人間は競争し合い、略奪し合う生き物だ。そして地球は今、その人間というガン細胞に侵されている。利益と権力を求め続けた人間と、その高度な知性が築き上げた文明に蝕まれ続けているんだ。そしてその代償は計り知れない。すでに自然には限界がきている。地球に限界がきているんだよ。学校で君らがやってる事もそれと同じだ。そう思わない?」
「お…思う…思うよ。俺が悪かったよ…なあジュン…いつまでこれやるんだ…気分が悪くなってきた…」
「ん?ああ、あと数分だよ」
「は…吐きそうだ…」
キィーコ…キィーコ…
……
さよならだ一希…
ヤマカガシから抽出した毒を君の足から注入した。
ヘビに咬まれたように見える針だ。
ヤマカガシの毒は数滴でもほっとくと致命傷になる、国内のヘビでは1番の猛毒だ。
毒は体を動かせば動かすほど体内への影響が加速する。自転車を漕がせているのはそのためだ。
もういくつかの内臓から出血しているだろう。
最後は脳もやられて死に至る。
君は今夜なんらかの目的で家を出て某所でヘビに咬まれ、自転車を漕いでいるうちに意識朦朧となって川へ転落。衝撃で気を失い、ヘビの毒が致命傷となって死亡。
素行の悪い君が夜に単独行動をしていても誰も不思議に思わない。
こんな最期がお似合いさ…
キィーコ…キィーコ…
キィー…
数分後、一希はぐったりとしてハンドルに前のめりになっていた。
ガシャガシャガシャン!
ジュンは自転車のスタンドを解除すると、自転車もろとも一希を川へ蹴り落とした。
3メートルほどの高さから浅瀬の川へ転げ落ちた一希は、川にうつ伏せになったままピクリとも動かなかった。
「カツアゲをやめるだけで死なずに済んだのに…バカだな…。それにしても汚い川だ。あちこちにゴミが散乱してる。粗大ゴミまで…」
ジュンは乗ってきた自転車に乗ると、何事もなかったように帰路へ向かった。
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