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最終話
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カチャリ…
「!!」
ジュンは驚いてドアに目をやった。
なにッ…
家にはこの3人しかいない
玄関の鍵も閉めている
誰だ!?
ドアが開くと、黒いスーツを着た背の高い30代後半ほどの男が一人、その後ろからも同じ風体の男がさらに一人入ってきた。
二人は母親を跨ぐと、言葉を発することなく真っ直ぐジュンの方へ向かってきた。
理解ができない状況に、ジュンの脳内は一瞬無音になり、侵入者の動きがスローモーションに映っていた。
な…なんだこいつらは
強盗には見えない
まさか警察か!?
いや違う
そんな雰囲気じゃあない
二人とも堂々と顔を晒しているぞ
耳にインカムも付けている
どこかと連絡を取り合っているということだ
なんだ?
何者だ!?
ジュンの考えがまとまらないうちに、先頭の男がジュンの目の前まで迫った。
「ハッ…!」
ジュンは反射的にスタンガンをその男に突き付け、スイッチを押した。
しかし男はスタンガンを手の甲で返し、くるりと回してジュンもろとも床へ叩き伏せ、護身術のような動きでジュンの身動きを封じた。
「ゲホッ!」
胸から床に叩きつけられたジュンは一瞬息ができなくなった。
「9916は確保。尋問へ移る」
男はインカムでどこかへ連絡した。
美子はジュンが押さえられたのを見て警察が来たと思い、咄嗟に叫んだ。
「刑事さん!この人は連続殺人犯なんです!」
美子が叫ぶと、二人目の男がチラリと美子を見た後、一人目の男に話し掛けた。
「女の方はどうしますか?」
「女と母親は投与だけだ」
「わかりました」
そう言うと男はポケットから小箱を取り出し、蓋を開けて中から注射器を取り出した。
美子は状況がわからず、怪訝そうな顔をして男に尋ねた。
「あ、あの…警察の方じゃないんですか?」
注射器を出した男は座り込み、美子の腕を掴んだ。
「我々は警察ではない。国家機密員だ。この青年を拘束するために来た。君に危害を加えることはない」
そう言って美子の腕をガーゼで消毒すると、注射針を打ち込んだ。
「痛っ…」
男は注射器を仕舞うと、小型のタブレットの様な物を取り出し、一人目の男に相槌を打った。
ジュンを押さえていた男は既にジュンの両手両足をインシュロックの様な物で固縛し、座らせたジュンの前に立っていた。
一人目の男がジュンに向かって口を開いた。
「花崎純、ギフテッドナンバー9916。我々は機密捜査員だ。ギフテッド計画の規約によりお前の拘束が決定された。連行前に尋問を含めた10分間の会話を行い、その全てを記録する」
ジュンも美子も訳がわからないまま二人の男を見上げていた。
「これから説明を行うが、お前の返答も記録に必要なため途中の質問は全て受け付ける」
ジュンは状況が把握できないまま二人の男を凝視していた。
な…
何が起こっているんだ…
国家機密…
拘束が決定されただと…?
僕のことを9916と呼んでいた
僕以外にもいるということなのか?
ギフテッド計画とは何だ?
僕の殺人は関係しているのか?
男は淡々と説明を始めた。
「第二次世界大戦以降、この国では大規模な有事に備え、1960年から水面下で遂行されている計画がある。それがギフテッド計画だ。ギフテッドとは幼児期から高い知能を備えたIQ130以上の人間を指す。生まれながらに備え持つその高い知能を、神が与えた贈り物に例えてギフテッドと呼ぶ。そしてお前は人工授精により国家に作られたギフテッドだ。そこに倒れているのは母親ではない」
「なにッ!」
「えっ!?」
ジュンも美子も声を出して驚いた。
「この国では約2%がギフテッドとして存在しているが、そのほとんどは一般人として生活し、平凡な人生を送る。我々の計画はギフテッド同士の種を混ぜ合わせて人口的にギフテッドを作り、存在率を3.5%まで上昇させる。作られた新生児は各地の産婦人科でその日生まれた赤子と密かに交換され、社会性を学ぶため一般人の子として育てられる。そこに倒れている母親も、お前を自分の子供だと信じて育ててきている。交換後、組織の子にギフテッドの片鱗が確認されれば、18歳までの監視と精査が始まる。お前はその対象者の一人だ。耳の下に埋め込まれているチップと、この家に取り付けられた27個の隠しカメラで、お前の言葉と行動は18年間監視されてきた」
ジュンは耳の下に手を当てた。
「チップは動脈の内側に埋められている。皮膚の上からでは確認できない」
ぼ…
僕が人口的に作られただと…?
そんなことが…
「我々の目的は、そのギフテッドの中でも文明を発展させるほどの超高度な知能と、老若男女全てを平等に扱える人格を兼ね備え持つ、人類の統率者に相応しいギフテッドを獲ることだ」
文明を作る『人類の統率者』だと…?
「この国に壊滅的な有事が起きる時、選ばれた国民の一部はシェルターに避難する。この国に作られているシェルターは4つ。最も攻撃されにくい地域の地下30mに埋設され、300シーベルトの放射線とマグニチュード14まで耐えられる超耐震構造で出来ている。地表の温度が3000度まで上昇しても影響のないシェルターだ。広さは約20万㎡、容積は約500万㎥。わかりやすく言えば東京ドーム6個分ほどだ。2~3万人がストレスなく数年間生活出来るよう作られている」
ジュンは驚愕した。自分が置かれている状況よりも、国が機密的に戦争からの避難として大規模な対策をしていることに驚いたのだ。
「そんな巨大なシェルターが日本に4つも…また日本に核が落ちるというのか!?」
「世界の情勢上、50年以内に起こるとされている。そして選ばれた国民がシェルターに収容された時、それぞれのシェルターに統率者が必要になる。ギフテッド計画の最終目的はその統率者を作り、時が来るまで保護していくことなのだ。年老いた政治家などでは数十年後の未来が担えない。統率者となるギフテッドは、シェルター内で司法、立法、行政の全てを担い、秩序を築き上げ、地上へ出るその時に向けて社会を形成していくことなのだ」
な…
なんてことだ
そんな計画を日本は何十年も前から…
核兵器を持ったところで大国には勝てない。例え引き分けでもそれは負けと同じだ。国土は壊滅する
ならば未来に向けて必要な人間を保護し、また文明を作っていく計画
被爆国だからこそできる決断だ
覇権国なら敵を潰すことだけを考える
集団生活にリーダーは欠かせない
シェルターをひとつの国と考え、博識あるリーダーを設け、法を作り、秩序を保つ
たしかに凡人にはできない
ジュンはほぼ全てを把握した。
「ギフテッド計画…そんな映画のようなことがあるなんて信じられない。ものすごい計画だ。そして僕は、その統率者として選ばれたということなのか?」
「その逆だ、9916。お前は失格と見なされた。組織下のギフテッドが犯罪を犯すことは認められているが、それは将来それ以上の国民を救えることが前提だ。今日お前が行おうとしていたこの二人の殺害は何も生まない。なによりこの大橋美子を殺すことは認められない」
「なに?大橋美子がなんだというんだ」
「この大橋美子も我々が送ったギフテッドなのだ」
「な…、なんだとッ!?」
ジュンが美子の方へ振り返ると、美子はいつの間にか眠っていた。
「大橋美子とこの母親には、24時間以内の記憶を消去する薬が投与された。今はその副作用で眠っている。DCZという開発途中の薬だが、我々の組織で改良を行い、記憶の消去と安全性は確認されている。今日ここへ来たことも、我々と会ったことも、目が覚めれば全て忘れているだろう」
「まさかこの大橋美子が統率者になるというのか!?」
「いや、彼女にはギフテッドの兆候が出なかったため監視からは外れている。だが19歳になるまでは盗聴監視下にあり、殺害することは許されない。彼女は本と映画が趣味の平凡な学生だ。これからも一般人としての人生を歩むだろう。シェルターには入れないだろうがな」
大橋美子も組織に作られたギフテッド…
ハッ…
『私ね、謎を解く直感みたいなものがあって、矛盾したことが脳裏を走るの』
あれはギフテッドの片鱗だったのか…?
「残り2分です」
二人目の男が残り時間を告げた。
「9916、なぜ父親を殺した?」
「父親…?ああ、あの男は酒を飲むと母親に暴力を振るっていた。その度に僕の食事が疎かになっていたんでね。有り合わせの物だったり、弁当買ってきたり。だからいなくなってもらっただけだ」
「ふむ…。お前からの質問はあるか?」
「当たり前だ。人類の統率者を作る、その計画なら僕が最も適しているじゃないか!知性、才能、カメラアイ!文明を作るなら僕の存在は不可欠だ!なぜ失格になる!?日本を作り直すのに僕の力は絶対に必要なはずだ!」
「お前は人としては高い知性を持っているが、人間としては失格なのだ。統率者とは全ての人間を平等に扱える人間でなければならない。シェルターの世界を集団ではなく、仲間と認識できる人間でなければならない。お前にはそれが欠けているのだ。人を思いやる心…というものがな」
「お…思いやりだと…?そんなもの…そんなもので秩序を正せるか!悪い奴らを裁けるか!害のある奴は害を出す前に殺さなきゃダメなんだ!存在そのものを消さなきゃダメなんだ!」
「残り30秒です」
「僕はこれからどうなる?僕の殺人は当然知っているんだろう?この二人の記憶は消え、また振り出しだ。もう一度絡んできても僕には無意味だ。犯行が世に出ることはない。それでも僕を拘束する必要があるのか!?」
「お前の拘束は計画の規約なのだ。ギフテッドにはギフテッドの法がある。お前は不完全なギフテッドとしてこの社会からは抹殺される。今後の生成のため精液だけは採取されるが、その後の処分は我々も知らない」
「抹殺だと!?僕は既に社会の一員として生活している。学校にも通っているし、成績も全国1位で知名度もある。僕が突然いなくなることをどうやって収拾つける?そこの母親だってそうだ!息子が突然消えて何もしないはずがない!」
「我々の組織は行政や司法よりも上に存在している。仮に今警察を呼んでも来ることはない。この家からの発信は既に機密事項として扱われているからだ。この先お前の存在が消えることも組織によって処理される。それほどの力を持った組織なのだ。そこの母親も同じだ。ギフテッドを育てた親には永久的な経済援助が成される。新しい配偶者との出会いも用意され、第二の人生を歩むことになるだろう。いつどこで誰と出会うかはわからないが、それも全て組織が内密に用意するものだ」
「お…おかしいじゃないか…この母親には第二の人生が用意され、なぜ僕にはないんだ…なぜ僕にはやり直せる道がないんだ!」
「お前は既に6人を殺害している。成人していないとはいえ、極刑に値する行為だ。だから我々の法で裁かれる」
ピピッ…
ピピッ…
「時間です」
「打て」
男は注射針をジュンに打ち込んだ。
「ウッ…」
「即効性のある睡眠剤だ。9916、お前を連行する」
ジュンの意識は朦朧となり、二人に抱えられたまま部屋を出ていった。
ぼ…
僕は間違ってない
犯罪を裁く世界ではなく、犯罪の起こらない世界を作るべきなんだ…
ゴキブリやムカデは見ただけで殺され、蜂の巣は取り除かれる
害虫は害が出る前に殺さなきゃダメなんだ…
薄れていく意識の中、ジュンは考えていた。
しばらくすると別の4人の男が部屋に入り、母親と美子を抱えて出ていった。
カチリ。
玄関の鍵が掛けられた。
ーーーーーーーーーーー
「ママ、ママ!窓に変な虫がいるよ!」
「あッ!どきなさいジュン!」
バシッ!
「危なかった…。ジュン、これはムカデといって、とても危険な害虫なの。猛毒を持っていて、噛まれたら大変な事になるのよ。もしまた見つけたらすぐパパかママを呼ぶのよ?絶対にすぐ殺さなきゃダメ。ママやパパがいない時は、ジュンが頑張って殺すのよ。殺しとかないと、どこかで自分が噛まれてしまうの。わかった?」
「うんわかった!パパとママが居なくても僕が頑張って殺すよ!」
「えらいわね、ジュン」
「!!」
ジュンは驚いてドアに目をやった。
なにッ…
家にはこの3人しかいない
玄関の鍵も閉めている
誰だ!?
ドアが開くと、黒いスーツを着た背の高い30代後半ほどの男が一人、その後ろからも同じ風体の男がさらに一人入ってきた。
二人は母親を跨ぐと、言葉を発することなく真っ直ぐジュンの方へ向かってきた。
理解ができない状況に、ジュンの脳内は一瞬無音になり、侵入者の動きがスローモーションに映っていた。
な…なんだこいつらは
強盗には見えない
まさか警察か!?
いや違う
そんな雰囲気じゃあない
二人とも堂々と顔を晒しているぞ
耳にインカムも付けている
どこかと連絡を取り合っているということだ
なんだ?
何者だ!?
ジュンの考えがまとまらないうちに、先頭の男がジュンの目の前まで迫った。
「ハッ…!」
ジュンは反射的にスタンガンをその男に突き付け、スイッチを押した。
しかし男はスタンガンを手の甲で返し、くるりと回してジュンもろとも床へ叩き伏せ、護身術のような動きでジュンの身動きを封じた。
「ゲホッ!」
胸から床に叩きつけられたジュンは一瞬息ができなくなった。
「9916は確保。尋問へ移る」
男はインカムでどこかへ連絡した。
美子はジュンが押さえられたのを見て警察が来たと思い、咄嗟に叫んだ。
「刑事さん!この人は連続殺人犯なんです!」
美子が叫ぶと、二人目の男がチラリと美子を見た後、一人目の男に話し掛けた。
「女の方はどうしますか?」
「女と母親は投与だけだ」
「わかりました」
そう言うと男はポケットから小箱を取り出し、蓋を開けて中から注射器を取り出した。
美子は状況がわからず、怪訝そうな顔をして男に尋ねた。
「あ、あの…警察の方じゃないんですか?」
注射器を出した男は座り込み、美子の腕を掴んだ。
「我々は警察ではない。国家機密員だ。この青年を拘束するために来た。君に危害を加えることはない」
そう言って美子の腕をガーゼで消毒すると、注射針を打ち込んだ。
「痛っ…」
男は注射器を仕舞うと、小型のタブレットの様な物を取り出し、一人目の男に相槌を打った。
ジュンを押さえていた男は既にジュンの両手両足をインシュロックの様な物で固縛し、座らせたジュンの前に立っていた。
一人目の男がジュンに向かって口を開いた。
「花崎純、ギフテッドナンバー9916。我々は機密捜査員だ。ギフテッド計画の規約によりお前の拘束が決定された。連行前に尋問を含めた10分間の会話を行い、その全てを記録する」
ジュンも美子も訳がわからないまま二人の男を見上げていた。
「これから説明を行うが、お前の返答も記録に必要なため途中の質問は全て受け付ける」
ジュンは状況が把握できないまま二人の男を凝視していた。
な…
何が起こっているんだ…
国家機密…
拘束が決定されただと…?
僕のことを9916と呼んでいた
僕以外にもいるということなのか?
ギフテッド計画とは何だ?
僕の殺人は関係しているのか?
男は淡々と説明を始めた。
「第二次世界大戦以降、この国では大規模な有事に備え、1960年から水面下で遂行されている計画がある。それがギフテッド計画だ。ギフテッドとは幼児期から高い知能を備えたIQ130以上の人間を指す。生まれながらに備え持つその高い知能を、神が与えた贈り物に例えてギフテッドと呼ぶ。そしてお前は人工授精により国家に作られたギフテッドだ。そこに倒れているのは母親ではない」
「なにッ!」
「えっ!?」
ジュンも美子も声を出して驚いた。
「この国では約2%がギフテッドとして存在しているが、そのほとんどは一般人として生活し、平凡な人生を送る。我々の計画はギフテッド同士の種を混ぜ合わせて人口的にギフテッドを作り、存在率を3.5%まで上昇させる。作られた新生児は各地の産婦人科でその日生まれた赤子と密かに交換され、社会性を学ぶため一般人の子として育てられる。そこに倒れている母親も、お前を自分の子供だと信じて育ててきている。交換後、組織の子にギフテッドの片鱗が確認されれば、18歳までの監視と精査が始まる。お前はその対象者の一人だ。耳の下に埋め込まれているチップと、この家に取り付けられた27個の隠しカメラで、お前の言葉と行動は18年間監視されてきた」
ジュンは耳の下に手を当てた。
「チップは動脈の内側に埋められている。皮膚の上からでは確認できない」
ぼ…
僕が人口的に作られただと…?
そんなことが…
「我々の目的は、そのギフテッドの中でも文明を発展させるほどの超高度な知能と、老若男女全てを平等に扱える人格を兼ね備え持つ、人類の統率者に相応しいギフテッドを獲ることだ」
文明を作る『人類の統率者』だと…?
「この国に壊滅的な有事が起きる時、選ばれた国民の一部はシェルターに避難する。この国に作られているシェルターは4つ。最も攻撃されにくい地域の地下30mに埋設され、300シーベルトの放射線とマグニチュード14まで耐えられる超耐震構造で出来ている。地表の温度が3000度まで上昇しても影響のないシェルターだ。広さは約20万㎡、容積は約500万㎥。わかりやすく言えば東京ドーム6個分ほどだ。2~3万人がストレスなく数年間生活出来るよう作られている」
ジュンは驚愕した。自分が置かれている状況よりも、国が機密的に戦争からの避難として大規模な対策をしていることに驚いたのだ。
「そんな巨大なシェルターが日本に4つも…また日本に核が落ちるというのか!?」
「世界の情勢上、50年以内に起こるとされている。そして選ばれた国民がシェルターに収容された時、それぞれのシェルターに統率者が必要になる。ギフテッド計画の最終目的はその統率者を作り、時が来るまで保護していくことなのだ。年老いた政治家などでは数十年後の未来が担えない。統率者となるギフテッドは、シェルター内で司法、立法、行政の全てを担い、秩序を築き上げ、地上へ出るその時に向けて社会を形成していくことなのだ」
な…
なんてことだ
そんな計画を日本は何十年も前から…
核兵器を持ったところで大国には勝てない。例え引き分けでもそれは負けと同じだ。国土は壊滅する
ならば未来に向けて必要な人間を保護し、また文明を作っていく計画
被爆国だからこそできる決断だ
覇権国なら敵を潰すことだけを考える
集団生活にリーダーは欠かせない
シェルターをひとつの国と考え、博識あるリーダーを設け、法を作り、秩序を保つ
たしかに凡人にはできない
ジュンはほぼ全てを把握した。
「ギフテッド計画…そんな映画のようなことがあるなんて信じられない。ものすごい計画だ。そして僕は、その統率者として選ばれたということなのか?」
「その逆だ、9916。お前は失格と見なされた。組織下のギフテッドが犯罪を犯すことは認められているが、それは将来それ以上の国民を救えることが前提だ。今日お前が行おうとしていたこの二人の殺害は何も生まない。なによりこの大橋美子を殺すことは認められない」
「なに?大橋美子がなんだというんだ」
「この大橋美子も我々が送ったギフテッドなのだ」
「な…、なんだとッ!?」
ジュンが美子の方へ振り返ると、美子はいつの間にか眠っていた。
「大橋美子とこの母親には、24時間以内の記憶を消去する薬が投与された。今はその副作用で眠っている。DCZという開発途中の薬だが、我々の組織で改良を行い、記憶の消去と安全性は確認されている。今日ここへ来たことも、我々と会ったことも、目が覚めれば全て忘れているだろう」
「まさかこの大橋美子が統率者になるというのか!?」
「いや、彼女にはギフテッドの兆候が出なかったため監視からは外れている。だが19歳になるまでは盗聴監視下にあり、殺害することは許されない。彼女は本と映画が趣味の平凡な学生だ。これからも一般人としての人生を歩むだろう。シェルターには入れないだろうがな」
大橋美子も組織に作られたギフテッド…
ハッ…
『私ね、謎を解く直感みたいなものがあって、矛盾したことが脳裏を走るの』
あれはギフテッドの片鱗だったのか…?
「残り2分です」
二人目の男が残り時間を告げた。
「9916、なぜ父親を殺した?」
「父親…?ああ、あの男は酒を飲むと母親に暴力を振るっていた。その度に僕の食事が疎かになっていたんでね。有り合わせの物だったり、弁当買ってきたり。だからいなくなってもらっただけだ」
「ふむ…。お前からの質問はあるか?」
「当たり前だ。人類の統率者を作る、その計画なら僕が最も適しているじゃないか!知性、才能、カメラアイ!文明を作るなら僕の存在は不可欠だ!なぜ失格になる!?日本を作り直すのに僕の力は絶対に必要なはずだ!」
「お前は人としては高い知性を持っているが、人間としては失格なのだ。統率者とは全ての人間を平等に扱える人間でなければならない。シェルターの世界を集団ではなく、仲間と認識できる人間でなければならない。お前にはそれが欠けているのだ。人を思いやる心…というものがな」
「お…思いやりだと…?そんなもの…そんなもので秩序を正せるか!悪い奴らを裁けるか!害のある奴は害を出す前に殺さなきゃダメなんだ!存在そのものを消さなきゃダメなんだ!」
「残り30秒です」
「僕はこれからどうなる?僕の殺人は当然知っているんだろう?この二人の記憶は消え、また振り出しだ。もう一度絡んできても僕には無意味だ。犯行が世に出ることはない。それでも僕を拘束する必要があるのか!?」
「お前の拘束は計画の規約なのだ。ギフテッドにはギフテッドの法がある。お前は不完全なギフテッドとしてこの社会からは抹殺される。今後の生成のため精液だけは採取されるが、その後の処分は我々も知らない」
「抹殺だと!?僕は既に社会の一員として生活している。学校にも通っているし、成績も全国1位で知名度もある。僕が突然いなくなることをどうやって収拾つける?そこの母親だってそうだ!息子が突然消えて何もしないはずがない!」
「我々の組織は行政や司法よりも上に存在している。仮に今警察を呼んでも来ることはない。この家からの発信は既に機密事項として扱われているからだ。この先お前の存在が消えることも組織によって処理される。それほどの力を持った組織なのだ。そこの母親も同じだ。ギフテッドを育てた親には永久的な経済援助が成される。新しい配偶者との出会いも用意され、第二の人生を歩むことになるだろう。いつどこで誰と出会うかはわからないが、それも全て組織が内密に用意するものだ」
「お…おかしいじゃないか…この母親には第二の人生が用意され、なぜ僕にはないんだ…なぜ僕にはやり直せる道がないんだ!」
「お前は既に6人を殺害している。成人していないとはいえ、極刑に値する行為だ。だから我々の法で裁かれる」
ピピッ…
ピピッ…
「時間です」
「打て」
男は注射針をジュンに打ち込んだ。
「ウッ…」
「即効性のある睡眠剤だ。9916、お前を連行する」
ジュンの意識は朦朧となり、二人に抱えられたまま部屋を出ていった。
ぼ…
僕は間違ってない
犯罪を裁く世界ではなく、犯罪の起こらない世界を作るべきなんだ…
ゴキブリやムカデは見ただけで殺され、蜂の巣は取り除かれる
害虫は害が出る前に殺さなきゃダメなんだ…
薄れていく意識の中、ジュンは考えていた。
しばらくすると別の4人の男が部屋に入り、母親と美子を抱えて出ていった。
カチリ。
玄関の鍵が掛けられた。
ーーーーーーーーーーー
「ママ、ママ!窓に変な虫がいるよ!」
「あッ!どきなさいジュン!」
バシッ!
「危なかった…。ジュン、これはムカデといって、とても危険な害虫なの。猛毒を持っていて、噛まれたら大変な事になるのよ。もしまた見つけたらすぐパパかママを呼ぶのよ?絶対にすぐ殺さなきゃダメ。ママやパパがいない時は、ジュンが頑張って殺すのよ。殺しとかないと、どこかで自分が噛まれてしまうの。わかった?」
「うんわかった!パパとママが居なくても僕が頑張って殺すよ!」
「えらいわね、ジュン」
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そうそう、もう彼のサイトではなくなるようですが、ビタさん長い間お疲れ様でした!記事はずっと読んでましたよ。お互いとても思い出のあるサイトになりましたね。。。
それでは、完全な自己満ですが、何か浮かんだらまた書いてみようと思います。
ご感想ありがとうございました!