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十月のこと
夢を踏み躙る人と
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カザネにとっては不運な出来事だったが、ブライアンに好意を持つ女子にとっては羨ましすぎる触れ合いだ。例によって2人の様子を遠目に見ていたミシェルは、
「ねぇ、ジム。さっき皆で何を話していたの?」
トイレに行こうと皆から離れたジムに声をかけた。
「み、ミシェル。別に大したことじゃないよ」
ジムがどもったのは危険を感じたからだけでなく、ミシェルに好意があるからだった。金髪ロングに宝石のような瞳。十分なボリュームのあるバストと、くびれた腰を持つミシェルは、ジムにとって魅力的な異性の象徴だった。
異性の目に敏感なミシェルも、ジムの好意は当然承知で
「大したことじゃなくても教えてよ。ブライアンのことはなんでも知っておきたいのよ」
「いや、ブライアンというよりは、カザネとハンナの話だから……」
「ねぇ、お願いジム。そんなにはぐらかされるとかえって気になるわ。聞かなきゃ良かったなんて言わないから、隠さないで教えて?」
「わ、分かった」
憧れの子に哀願されたジムは、ハンナのヌイグルミの宣伝のために、3人でアニメを作っていることをミシェルに話した。ブライアンにも話したことだし、これくらいは知られても問題ないだろうと判断した。
ジムからアニメの件を聞いたミシェルは、何か弱みでも掴めないかとカザネのマイチューブをチェックした。するとカザネのマイチューブのプロフィールに、ドリームピクチャーに入社するのが夢だと書いてあるのを見つけた。
高望みだと馬鹿にされる可能性もあるが、もしかしたら関係者の目に留まるかもと期待して書いたものだった。カザネに悪意を持つミシェルの反応は当然前者だった。素人にしては上手いかもしれない。でもこれでアメリカ1のアニメスタジオに入りたいなんて笑っちゃう。カザネのマイチューブはミシェルにとって、夢というより黒歴史だった。目障りな相手の弱みを知ったミシェルは当然……。
ブライアンにマイチューブを教えた翌日。カザネは学校で、珍しくミシェルの取り巻きの子たちに話しかけられた。
「ねぇ、これってあなたのマイチューブなんですってね?」
「えっ、うん。そうだけど、どうして皆が知っているの?」
この時点ですでに嫌な予感がしていたが、
「ミシェルから聞いたの。同じクラスの子がSNSで作品を発表しているから応援してあげてって。でもプロフィールを見て驚いちゃった。趣味でアニメをあげているだけならともかく、将来はドリームピクチャーに入りたいなんて」
「ただの日本人のアニメオタクが、よくそんな大それたことを書けたわね?」
「オマケにハンナのヌイグルミも販売しているんでしょ? 素人の作品を、こんなに大々的に売ろうなんてすごい。本当に身の程知らずって言うか、ドリーマーよね」
教室の真ん中で、他の人たちにも聞こえるような大声で嘲笑されて、カザネはただ立っているだけで精いっぱいだった。
夢を持つことの何が悪いと、本当は言い返したかった。しかし面と向かって夢を嗤われることは今でも辛くて、言い返そうとすれば泣いてしまいそうで、カザネはグッと涙を堪えるしかなかった。
しかし、そんなカザネの代わりに。
バン!
怒気を孕んだ鋭い音に、クラスメイトたちはビクッと振り向いた。彼女たちを黙らせるように机を叩いたのは、
「ぶ、ブライアン? どうしたの急に?」
恐々と尋ねる女子たちに、ブライアンは険しい表情で
「他人が作ったものを消費するだけのヤツが、自分でものを作っているヤツを嗤うんじゃねぇよ」
ブライアンに叱られた彼女たちは一瞬怯んだが、
「だ、だってこの子たちの場合は、大した腕前でもない癖に、あんまり大それたことをやっているから……」
ブライアンが怖いからこそ弁解が必要だと感じたのか、カザネとハンナの作品を批判したが、
「……大した腕前じゃないなんて思わないけどな」
クラスメイトの少年が独り言のように呟くと、
「私もそう思う。カザネもハンナも1人でこれだけ作れるなんてすごいよ」
2人の言葉に触発されるように、他のクラスメイトたちも、
「だいたいコメントが証明しているじゃないか。みんなカザネのアニメもハンナのヌイグルミも「ユニークで可愛い」って喜んでいる」
「すごいよね、2人とも。こんなの作れちゃって」
「ねっ! 今からこれだけ作れるなら、きっと2人とも将来はプロになれるよ!」
「あ、ありがとう」
ミシェルたちを敵に回すのが怖かっただけで、本当はみんな人の夢を笑いたくなど無かったのかもしれないとカザネは思った。
後で騒ぎを知ったジムは
「僕がミシェルに話しちゃったんだ。ゴメン。こんなことになって」
とカザネとハンナに謝った。刺された瞬間はグサッと来たけど、すぐにブライアンが注意してくれたし、もっとたくさんの優しい言葉に触れることができた。だから私もハンナも大丈夫だよ、とカザネは快くジムを許した。
1日の授業が終わり、教室を出て行くブライアンに
「ブライアン。さっきは助けてくれて、ありがとう」
カザネがお礼を言うと、彼は素っ気ない態度で
「別にお前を助けたわけじゃないよ。ただ自分を棚にあげて、他人の努力を嗤うヤツが嫌いなだけさ」
「ブライアンって最初は嫌なヤツかと思ったけど、結構いいヤツだね」
カザネの率直なコメントに、ブライアンはニコッと笑うと、
「お前はいつも言動が素直だね。でも相手を褒めたいなら後半だけにしておきな」
「だって半分はやなヤツだ~!」
また彼に首を掴まれてカザネは悲鳴を上げた。
結果としてアニメ作戦は大成功で、ハンナのヌイグルミはあっという間に完売した。完売を知らせてからも「再販の予定はありますか?」と、たくさんの問い合わせが来た。お客さんとのやり取りはジムに任せて、ハンナは負担にならない範囲で作品の販売を続けることになった。
カザネのほうも
「私もカザネのチャンネル登録したよ。がんばってね!」
と声をかけてくれる人が増えた。登録者が増えたことも、ヌイグルミが売れたことも嬉しいが、何よりハンナが、
「途中までは不安だったけど、勇気を出してやって良かった。2人とも力を貸してくれて、本当にありがとう」
今まで見た中で、いちばんいい笑顔を見せてくれた。それは勇気を出せた人だけが浮かべられる清々しい笑み。
夢を語ると傷つくこともあるけど、思い切って出してみたら認めてくれる人も協力してくれる人も居て、ともに喜び合うことができるんだなと、カザネは嬉しい発見をした。
「ねぇ、ジム。さっき皆で何を話していたの?」
トイレに行こうと皆から離れたジムに声をかけた。
「み、ミシェル。別に大したことじゃないよ」
ジムがどもったのは危険を感じたからだけでなく、ミシェルに好意があるからだった。金髪ロングに宝石のような瞳。十分なボリュームのあるバストと、くびれた腰を持つミシェルは、ジムにとって魅力的な異性の象徴だった。
異性の目に敏感なミシェルも、ジムの好意は当然承知で
「大したことじゃなくても教えてよ。ブライアンのことはなんでも知っておきたいのよ」
「いや、ブライアンというよりは、カザネとハンナの話だから……」
「ねぇ、お願いジム。そんなにはぐらかされるとかえって気になるわ。聞かなきゃ良かったなんて言わないから、隠さないで教えて?」
「わ、分かった」
憧れの子に哀願されたジムは、ハンナのヌイグルミの宣伝のために、3人でアニメを作っていることをミシェルに話した。ブライアンにも話したことだし、これくらいは知られても問題ないだろうと判断した。
ジムからアニメの件を聞いたミシェルは、何か弱みでも掴めないかとカザネのマイチューブをチェックした。するとカザネのマイチューブのプロフィールに、ドリームピクチャーに入社するのが夢だと書いてあるのを見つけた。
高望みだと馬鹿にされる可能性もあるが、もしかしたら関係者の目に留まるかもと期待して書いたものだった。カザネに悪意を持つミシェルの反応は当然前者だった。素人にしては上手いかもしれない。でもこれでアメリカ1のアニメスタジオに入りたいなんて笑っちゃう。カザネのマイチューブはミシェルにとって、夢というより黒歴史だった。目障りな相手の弱みを知ったミシェルは当然……。
ブライアンにマイチューブを教えた翌日。カザネは学校で、珍しくミシェルの取り巻きの子たちに話しかけられた。
「ねぇ、これってあなたのマイチューブなんですってね?」
「えっ、うん。そうだけど、どうして皆が知っているの?」
この時点ですでに嫌な予感がしていたが、
「ミシェルから聞いたの。同じクラスの子がSNSで作品を発表しているから応援してあげてって。でもプロフィールを見て驚いちゃった。趣味でアニメをあげているだけならともかく、将来はドリームピクチャーに入りたいなんて」
「ただの日本人のアニメオタクが、よくそんな大それたことを書けたわね?」
「オマケにハンナのヌイグルミも販売しているんでしょ? 素人の作品を、こんなに大々的に売ろうなんてすごい。本当に身の程知らずって言うか、ドリーマーよね」
教室の真ん中で、他の人たちにも聞こえるような大声で嘲笑されて、カザネはただ立っているだけで精いっぱいだった。
夢を持つことの何が悪いと、本当は言い返したかった。しかし面と向かって夢を嗤われることは今でも辛くて、言い返そうとすれば泣いてしまいそうで、カザネはグッと涙を堪えるしかなかった。
しかし、そんなカザネの代わりに。
バン!
怒気を孕んだ鋭い音に、クラスメイトたちはビクッと振り向いた。彼女たちを黙らせるように机を叩いたのは、
「ぶ、ブライアン? どうしたの急に?」
恐々と尋ねる女子たちに、ブライアンは険しい表情で
「他人が作ったものを消費するだけのヤツが、自分でものを作っているヤツを嗤うんじゃねぇよ」
ブライアンに叱られた彼女たちは一瞬怯んだが、
「だ、だってこの子たちの場合は、大した腕前でもない癖に、あんまり大それたことをやっているから……」
ブライアンが怖いからこそ弁解が必要だと感じたのか、カザネとハンナの作品を批判したが、
「……大した腕前じゃないなんて思わないけどな」
クラスメイトの少年が独り言のように呟くと、
「私もそう思う。カザネもハンナも1人でこれだけ作れるなんてすごいよ」
2人の言葉に触発されるように、他のクラスメイトたちも、
「だいたいコメントが証明しているじゃないか。みんなカザネのアニメもハンナのヌイグルミも「ユニークで可愛い」って喜んでいる」
「すごいよね、2人とも。こんなの作れちゃって」
「ねっ! 今からこれだけ作れるなら、きっと2人とも将来はプロになれるよ!」
「あ、ありがとう」
ミシェルたちを敵に回すのが怖かっただけで、本当はみんな人の夢を笑いたくなど無かったのかもしれないとカザネは思った。
後で騒ぎを知ったジムは
「僕がミシェルに話しちゃったんだ。ゴメン。こんなことになって」
とカザネとハンナに謝った。刺された瞬間はグサッと来たけど、すぐにブライアンが注意してくれたし、もっとたくさんの優しい言葉に触れることができた。だから私もハンナも大丈夫だよ、とカザネは快くジムを許した。
1日の授業が終わり、教室を出て行くブライアンに
「ブライアン。さっきは助けてくれて、ありがとう」
カザネがお礼を言うと、彼は素っ気ない態度で
「別にお前を助けたわけじゃないよ。ただ自分を棚にあげて、他人の努力を嗤うヤツが嫌いなだけさ」
「ブライアンって最初は嫌なヤツかと思ったけど、結構いいヤツだね」
カザネの率直なコメントに、ブライアンはニコッと笑うと、
「お前はいつも言動が素直だね。でも相手を褒めたいなら後半だけにしておきな」
「だって半分はやなヤツだ~!」
また彼に首を掴まれてカザネは悲鳴を上げた。
結果としてアニメ作戦は大成功で、ハンナのヌイグルミはあっという間に完売した。完売を知らせてからも「再販の予定はありますか?」と、たくさんの問い合わせが来た。お客さんとのやり取りはジムに任せて、ハンナは負担にならない範囲で作品の販売を続けることになった。
カザネのほうも
「私もカザネのチャンネル登録したよ。がんばってね!」
と声をかけてくれる人が増えた。登録者が増えたことも、ヌイグルミが売れたことも嬉しいが、何よりハンナが、
「途中までは不安だったけど、勇気を出してやって良かった。2人とも力を貸してくれて、本当にありがとう」
今まで見た中で、いちばんいい笑顔を見せてくれた。それは勇気を出せた人だけが浮かべられる清々しい笑み。
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