11 / 73
十月のこと
家にまで突されるカザネ
しおりを挟む
10月下旬のある夜。カザネは自室で学校の課題を済ませると、そのままパソコンでアニメ用の絵を描いていた。そこにコンコンとノックの音。
(ジムかおばさんかな?)
2人は普段から、よくカザネを遊びやお茶に誘ってくれていた。だからなんの疑いもなくカザネがドアを開けると、
「やぁ、お嬢ちゃん。いい夜だね」
マクガン家の廊下に、なぜかブライアンが立っていた。学校ならともかくなぜマクガン家に?
「ええっ!? どうしてブライアンがうちに居るの!? 私、悪夢を見ている!?」
あり得ない光景に動揺するカザネに、ブライアンはニヤニヤして
「ホラー映画の殺人鬼に会ったかのようなリアクションだな。映画と言えば今からジムの部屋で上映会をするんだ。人数が多いほうが盛り上がるから、お嬢ちゃんも来なよ」
ブライアンの後ろにジムの姿を見つけたカザネは、
「えっ? ブライアンとジムって、夜中に一緒に映画を見るほど仲が良かったの?」
けれどカザネの質問に、ジムは困惑した様子で
「いや、彼が家に来たのは数年ぶりだよ。なぜかさっきいきなり訪ねて来て映画を見ようって。いったいどういう風の吹き回しなのか、僕にも分からないんだ」
「別になんの魂胆も無いよ? たまには近所のお子様たちと心温まる交流をしたいと思っただけさ」
相変わらずの子ども扱いだが、カザネはブライアンになんだかんだ助けられているので、今はそんなに嫌いじゃない。せっかく遊びに来てくれたんだし、皆で映画を見るくらいいいだろうとOKした。
3人でジムの部屋に入る。日本と違ってアメリカは子ども部屋も広々サイズだ。それなのにブライアンは、わざわざカザネの横に座ると、
「それにしてもお嬢ちゃん、高校生とは思えない可愛いパジャマだね。それも何かのキャラクター?」
ブライアンの指摘どおり、カザネは小さな動物たちがたくさんプリントされたキャラクターもののシャツパジャマを着ていた。カザネは可愛くて気に入っているが、同年代の子と比べたら幼い趣味なのが自分でも分かっているので、
「うるさいなぁ。悪かったね。高校生なのに子どもっぽいパジャマで」
気持ちブライアンからパジャマを隠すように、体を縮こまらせたものの、
「褒めているのに怒るなよ。せっかく可愛いって言っているのに」
「えっ、本当に可愛い? ブライアンもこのキャラ好き?」
明らかに目の色を変えたカザネに、ブライアンは優しく話を合わせて、
「自分が欲しいわけじゃないけど、見ている分には和むよ。キャラの見た目といい色合いといい、脱力系って言うか癒し系だね」
「うん、そう可愛いの。アメリカのポップでお洒落なデザインも好きなんだけど、日本のキャラはほんわか可愛い癒し系で、リラックスタイムにピッタリなんだ」
オタクの悪いクセと言うか、自分の好きなものを褒められると、ついおしゃべりになってしまう。さっきまでの警戒も忘れて、笑顔でパジャマを見せていると、
「って、なんで撫でるの?」
いきなり頭を撫でられて困惑するカザネに、ブライアンはニコニコと、
「お気に入りのパジャマアピール可愛いなって」
「やっぱり馬鹿にしているよね!?」
「2人とも映画はじまるよ」
苦笑するジムの呼びかけで、おしゃべりをやめて映画を見始めたが、
「……えっ? これなんか怖い系の映画じゃない?」
開始早々漂う不穏な空気にカザネは戸惑った。そんなカザネにブライアンはケロッと、
「そうだよ。いまネットでトラウマ必至って話題の本格ホラー」
「なんでそんなもの見せるのぉ!? ホラーなら私やめとくぅ!」
叫ぶと同時に立ち上がったが、ブライアンはガシッとカザネを捕まえて、
「ホラー映画の何が面白いって、恐怖を感じてこそだと思うんだ。でも俺はホラー映画耐性ありすぎてイマイチ怖がれないから、お前が代わりに怖がってくれよ」
「そんな見方ある!?」
ソファーに座るブライアンの膝の上に抱え込まれたカザネは、
「ああっ、やだ! 放して! 放してよぅ!」
「いやー、さっそく耳に心地いい悲鳴だなー」
「うちの親もう寝ているから、2人とも静かにね?」
ジムに注意されたカザネは、騒いだらおばさんたちに悪いと、もはや声も出せなくなった。目を閉じて映像だけは遮断したが、流石は話題作だけあって音声だけでも十分な怖さがある。
映画のクライマックス付近には、カザネのメンタルはボロボロで、
「ぶ、ブライアンの馬鹿。怖い。怖いよぅ」
この状況を作り出した元凶であるブライアンに、真正面から縋りついてえぐえぐしていた。ブライアンはそんなカザネをニヤニヤ見下ろして、
「馬鹿とか言いながら俺に縋りついて来んのウケる」
「だって君が放してくれないから君しか縋りつくものがない……」
「いいよ? 俺に縋っていて。お嬢ちゃん柔らかいから、クッション代わりにちょうどいい」
そう言いながらブライアンは、カザネの背中に腕を回してグッと引き寄せると、よしよしと頭を撫でた。悔しいけど、自分よりも大きく逞しい体に抱きしめられると、何があっても大丈夫な気がする。その安心感から離れがたくて、されるがままになるカザネをよそに、
「この監督、前作からただ者じゃないと思っていたけど、期待値を大きく上回って来たね。前作が評判だっただけにプレッシャーも大きかったはずだけど、こんなキワドイ球を大胆に投げ込んで来るとは……流石はホラー映画界・期待の新星だね……!」
ごくりと息を飲みながら熱く語るジムに、
「えっ? ジムってもしかしてホラー好き?」
カザネの質問に、ジムではなくブライアンが、
「コイツは俺よりもグロとかホラーとか好きだよ。マイチューブでおススメのゲームとか映画を紹介しているくらいだもんな?」
「えっ!? なんで僕のマイチューブを知っているの!?」
知人には内緒の活動だったようで、ジムはビクッとしていたが、
「普通に面白い映画を探していたら、お前のマイチューブにヒットしただけ。腐っても幼馴染だから、声を聞きゃお前だって分かるだけ。特にホラーと胸糞系が熱いよな?」
ブライアンからの情報にカザネは目を丸くして、
「意外な趣味だね、ジム。じゃあ、今日は2人にとっては普通に楽しい上映会だったんだね。水差しちゃってゴメ……ああでも怖いよぉ!」
再びギュッとブライアンの首に抱きつくと、彼は落ち着かせるようにカザネの髪を撫でながら、
「俺はお嬢ちゃんも居たほうが楽しいからいいよ。怖くないように抱っこしててあげるから存分に鳴いて?」
手つきは優しいが、言っていることは優しくない。いっそ雑談を続けて音声を掻き消したかったが、ブライアンはともかく心から映画を楽しんでいる様子のジムの邪魔はカザネにはできなかった。
残りあと何分だよぉ……と脳内でぼやくカザネは、けっきょく敵でしかないブライアンが、この後にもう1本、名作Jホラーを見せようとしていることを知らない。
(ジムかおばさんかな?)
2人は普段から、よくカザネを遊びやお茶に誘ってくれていた。だからなんの疑いもなくカザネがドアを開けると、
「やぁ、お嬢ちゃん。いい夜だね」
マクガン家の廊下に、なぜかブライアンが立っていた。学校ならともかくなぜマクガン家に?
「ええっ!? どうしてブライアンがうちに居るの!? 私、悪夢を見ている!?」
あり得ない光景に動揺するカザネに、ブライアンはニヤニヤして
「ホラー映画の殺人鬼に会ったかのようなリアクションだな。映画と言えば今からジムの部屋で上映会をするんだ。人数が多いほうが盛り上がるから、お嬢ちゃんも来なよ」
ブライアンの後ろにジムの姿を見つけたカザネは、
「えっ? ブライアンとジムって、夜中に一緒に映画を見るほど仲が良かったの?」
けれどカザネの質問に、ジムは困惑した様子で
「いや、彼が家に来たのは数年ぶりだよ。なぜかさっきいきなり訪ねて来て映画を見ようって。いったいどういう風の吹き回しなのか、僕にも分からないんだ」
「別になんの魂胆も無いよ? たまには近所のお子様たちと心温まる交流をしたいと思っただけさ」
相変わらずの子ども扱いだが、カザネはブライアンになんだかんだ助けられているので、今はそんなに嫌いじゃない。せっかく遊びに来てくれたんだし、皆で映画を見るくらいいいだろうとOKした。
3人でジムの部屋に入る。日本と違ってアメリカは子ども部屋も広々サイズだ。それなのにブライアンは、わざわざカザネの横に座ると、
「それにしてもお嬢ちゃん、高校生とは思えない可愛いパジャマだね。それも何かのキャラクター?」
ブライアンの指摘どおり、カザネは小さな動物たちがたくさんプリントされたキャラクターもののシャツパジャマを着ていた。カザネは可愛くて気に入っているが、同年代の子と比べたら幼い趣味なのが自分でも分かっているので、
「うるさいなぁ。悪かったね。高校生なのに子どもっぽいパジャマで」
気持ちブライアンからパジャマを隠すように、体を縮こまらせたものの、
「褒めているのに怒るなよ。せっかく可愛いって言っているのに」
「えっ、本当に可愛い? ブライアンもこのキャラ好き?」
明らかに目の色を変えたカザネに、ブライアンは優しく話を合わせて、
「自分が欲しいわけじゃないけど、見ている分には和むよ。キャラの見た目といい色合いといい、脱力系って言うか癒し系だね」
「うん、そう可愛いの。アメリカのポップでお洒落なデザインも好きなんだけど、日本のキャラはほんわか可愛い癒し系で、リラックスタイムにピッタリなんだ」
オタクの悪いクセと言うか、自分の好きなものを褒められると、ついおしゃべりになってしまう。さっきまでの警戒も忘れて、笑顔でパジャマを見せていると、
「って、なんで撫でるの?」
いきなり頭を撫でられて困惑するカザネに、ブライアンはニコニコと、
「お気に入りのパジャマアピール可愛いなって」
「やっぱり馬鹿にしているよね!?」
「2人とも映画はじまるよ」
苦笑するジムの呼びかけで、おしゃべりをやめて映画を見始めたが、
「……えっ? これなんか怖い系の映画じゃない?」
開始早々漂う不穏な空気にカザネは戸惑った。そんなカザネにブライアンはケロッと、
「そうだよ。いまネットでトラウマ必至って話題の本格ホラー」
「なんでそんなもの見せるのぉ!? ホラーなら私やめとくぅ!」
叫ぶと同時に立ち上がったが、ブライアンはガシッとカザネを捕まえて、
「ホラー映画の何が面白いって、恐怖を感じてこそだと思うんだ。でも俺はホラー映画耐性ありすぎてイマイチ怖がれないから、お前が代わりに怖がってくれよ」
「そんな見方ある!?」
ソファーに座るブライアンの膝の上に抱え込まれたカザネは、
「ああっ、やだ! 放して! 放してよぅ!」
「いやー、さっそく耳に心地いい悲鳴だなー」
「うちの親もう寝ているから、2人とも静かにね?」
ジムに注意されたカザネは、騒いだらおばさんたちに悪いと、もはや声も出せなくなった。目を閉じて映像だけは遮断したが、流石は話題作だけあって音声だけでも十分な怖さがある。
映画のクライマックス付近には、カザネのメンタルはボロボロで、
「ぶ、ブライアンの馬鹿。怖い。怖いよぅ」
この状況を作り出した元凶であるブライアンに、真正面から縋りついてえぐえぐしていた。ブライアンはそんなカザネをニヤニヤ見下ろして、
「馬鹿とか言いながら俺に縋りついて来んのウケる」
「だって君が放してくれないから君しか縋りつくものがない……」
「いいよ? 俺に縋っていて。お嬢ちゃん柔らかいから、クッション代わりにちょうどいい」
そう言いながらブライアンは、カザネの背中に腕を回してグッと引き寄せると、よしよしと頭を撫でた。悔しいけど、自分よりも大きく逞しい体に抱きしめられると、何があっても大丈夫な気がする。その安心感から離れがたくて、されるがままになるカザネをよそに、
「この監督、前作からただ者じゃないと思っていたけど、期待値を大きく上回って来たね。前作が評判だっただけにプレッシャーも大きかったはずだけど、こんなキワドイ球を大胆に投げ込んで来るとは……流石はホラー映画界・期待の新星だね……!」
ごくりと息を飲みながら熱く語るジムに、
「えっ? ジムってもしかしてホラー好き?」
カザネの質問に、ジムではなくブライアンが、
「コイツは俺よりもグロとかホラーとか好きだよ。マイチューブでおススメのゲームとか映画を紹介しているくらいだもんな?」
「えっ!? なんで僕のマイチューブを知っているの!?」
知人には内緒の活動だったようで、ジムはビクッとしていたが、
「普通に面白い映画を探していたら、お前のマイチューブにヒットしただけ。腐っても幼馴染だから、声を聞きゃお前だって分かるだけ。特にホラーと胸糞系が熱いよな?」
ブライアンからの情報にカザネは目を丸くして、
「意外な趣味だね、ジム。じゃあ、今日は2人にとっては普通に楽しい上映会だったんだね。水差しちゃってゴメ……ああでも怖いよぉ!」
再びギュッとブライアンの首に抱きつくと、彼は落ち着かせるようにカザネの髪を撫でながら、
「俺はお嬢ちゃんも居たほうが楽しいからいいよ。怖くないように抱っこしててあげるから存分に鳴いて?」
手つきは優しいが、言っていることは優しくない。いっそ雑談を続けて音声を掻き消したかったが、ブライアンはともかく心から映画を楽しんでいる様子のジムの邪魔はカザネにはできなかった。
残りあと何分だよぉ……と脳内でぼやくカザネは、けっきょく敵でしかないブライアンが、この後にもう1本、名作Jホラーを見せようとしていることを知らない。
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる