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一月のこと
いつかもっと苦しむとしても
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あれからブライアンによって医務室に運ばれたカザネは
「っ、カザネ! 大丈夫か!?」
「……ブライアン?」
目が覚めたら、すっかり疎遠になっていた人物が横に居てカザネは不思議だった。簡易ベッドの上で体を起こすと、
「どうしてブライアンが……って、痛っ!?」
「俺が殴られそうになっているのを見て、止めようとして吹っ飛ばされたんだよ」
後頭部を押さえるカザネを、ブライアンは心配そうに見ながら
「保険医は気絶しているだけで命に別状は無いと言っていたけど、全然起きないから焦った。良かった。ちゃんと目が覚めて」
深い安堵を口にした。ようやく気絶前の記憶が戻って来たカザネは
「ブライアンは大丈夫だったの? 酷いことされなかった?」
「……馬鹿だね、お前は。自分のほうがよっぽど酷い目に遭ったのに」
ブライアンはカザネの質問に、痛みを感じたように顔を歪めると、表情を隠すように俯いて
「急に態度を変えられて嫌な想いをしたはずなのに、なんで俺なんか庇うんだよ……」
「分からない……ブライアンが危ないって思ったらつい」
カザネは善良だが、暴力や口論には弱く、つい怖気づいてしまう。物語のヒロインのように、誰のことでも庇えるほど勇敢ではない。それなのに、さっきは咄嗟に体が動いた。それは恐らく
「……ブライアンは私のこと、もうどうでもいいのかもしれないけど、私は今も好きだから護りたかったのかな」
「今も好きって……」
ブライアンの呟きに、カザネは不器用に笑って
「ブライアンが好きみたい私」
頭の中でさえ、ずっと認めないようにしていた気持ちをついに口にした。ただ、それは告白ではなく
「でもブライアンのために夢を捨てられるほど強い気持ちじゃないから、大丈夫。私もちゃんと諦める……」
ブライアンと同じで、ただ自分の心境を正確に把握し、消し去ろうとする手順だった。しかし実際は
「そんなに泣いているのに?」
ブライアンの指摘どおり、言葉とは裏腹にカザネは泣いていた。カザネは涙を見られないように、ブライアンから顔を逸らしながら
「ゴメン……。でもダメだって分かっているけど、ブライアンが構ってくれなくて寂しい。自分が悪いのに、悲しくなっちゃって……。本当は一緒に居たいって、思っちゃってゴメン……」
頭ではどうしようもないと分かっているのに、涙とともにポロポロと本音が零れた。これじゃ泣き落としみたいだとカザネは自分が嫌になった。
けれどカザネの涙によって喚起されたのは罪悪感ではなく
「……お前は本当に、なんでも素直に言っちゃうね」
ブライアンは独り言のように呟くと、カザネをグッと抱き寄せて
「お陰でこっちまで馬鹿になるよ。せっかく離れようと思ったのに。気持ちが大きくなるほど、傷も深くなるって分かっているのに。それでも俺も、お前と離れたくないよ。いつかもっと苦しむとしても、今だけでも傍に居たい」
腕の中の彼女を切なげに見下ろすと、慰撫するように目元にキスした。
「ぶ、ブライアン?」
久しぶりのスキンシップにカザネは目を丸くしたが、
「お前が悪いんだよ。せっかく諦めようとしたのに、揺らがせるようなことを言うから。お前が目の前にいるうちは諦められないし、もう自制もできない」
言い終わると同時に、ブライアンはカザネをベッドに押し倒した。飢えるように何度も唇を重ねた後、息苦しさに開いた口からぬるっと舌が侵入する。
「~っ、ブライアン。いきなりこういうのはっ」
カザネはブライアンの胸を押し返そうとしたが、彼はビクともせず
「いきなりじゃないよ。もうずいぶん前から我慢していた。俺の気持ちを承知で傍に居たいって言うなら、こういう気持ちも受け入れて」
苦しげな表情で見下ろされたら、カザネは抵抗できなくなった。
「っ、カザネ! 大丈夫か!?」
「……ブライアン?」
目が覚めたら、すっかり疎遠になっていた人物が横に居てカザネは不思議だった。簡易ベッドの上で体を起こすと、
「どうしてブライアンが……って、痛っ!?」
「俺が殴られそうになっているのを見て、止めようとして吹っ飛ばされたんだよ」
後頭部を押さえるカザネを、ブライアンは心配そうに見ながら
「保険医は気絶しているだけで命に別状は無いと言っていたけど、全然起きないから焦った。良かった。ちゃんと目が覚めて」
深い安堵を口にした。ようやく気絶前の記憶が戻って来たカザネは
「ブライアンは大丈夫だったの? 酷いことされなかった?」
「……馬鹿だね、お前は。自分のほうがよっぽど酷い目に遭ったのに」
ブライアンはカザネの質問に、痛みを感じたように顔を歪めると、表情を隠すように俯いて
「急に態度を変えられて嫌な想いをしたはずなのに、なんで俺なんか庇うんだよ……」
「分からない……ブライアンが危ないって思ったらつい」
カザネは善良だが、暴力や口論には弱く、つい怖気づいてしまう。物語のヒロインのように、誰のことでも庇えるほど勇敢ではない。それなのに、さっきは咄嗟に体が動いた。それは恐らく
「……ブライアンは私のこと、もうどうでもいいのかもしれないけど、私は今も好きだから護りたかったのかな」
「今も好きって……」
ブライアンの呟きに、カザネは不器用に笑って
「ブライアンが好きみたい私」
頭の中でさえ、ずっと認めないようにしていた気持ちをついに口にした。ただ、それは告白ではなく
「でもブライアンのために夢を捨てられるほど強い気持ちじゃないから、大丈夫。私もちゃんと諦める……」
ブライアンと同じで、ただ自分の心境を正確に把握し、消し去ろうとする手順だった。しかし実際は
「そんなに泣いているのに?」
ブライアンの指摘どおり、言葉とは裏腹にカザネは泣いていた。カザネは涙を見られないように、ブライアンから顔を逸らしながら
「ゴメン……。でもダメだって分かっているけど、ブライアンが構ってくれなくて寂しい。自分が悪いのに、悲しくなっちゃって……。本当は一緒に居たいって、思っちゃってゴメン……」
頭ではどうしようもないと分かっているのに、涙とともにポロポロと本音が零れた。これじゃ泣き落としみたいだとカザネは自分が嫌になった。
けれどカザネの涙によって喚起されたのは罪悪感ではなく
「……お前は本当に、なんでも素直に言っちゃうね」
ブライアンは独り言のように呟くと、カザネをグッと抱き寄せて
「お陰でこっちまで馬鹿になるよ。せっかく離れようと思ったのに。気持ちが大きくなるほど、傷も深くなるって分かっているのに。それでも俺も、お前と離れたくないよ。いつかもっと苦しむとしても、今だけでも傍に居たい」
腕の中の彼女を切なげに見下ろすと、慰撫するように目元にキスした。
「ぶ、ブライアン?」
久しぶりのスキンシップにカザネは目を丸くしたが、
「お前が悪いんだよ。せっかく諦めようとしたのに、揺らがせるようなことを言うから。お前が目の前にいるうちは諦められないし、もう自制もできない」
言い終わると同時に、ブライアンはカザネをベッドに押し倒した。飢えるように何度も唇を重ねた後、息苦しさに開いた口からぬるっと舌が侵入する。
「~っ、ブライアン。いきなりこういうのはっ」
カザネはブライアンの胸を押し返そうとしたが、彼はビクともせず
「いきなりじゃないよ。もうずいぶん前から我慢していた。俺の気持ちを承知で傍に居たいって言うなら、こういう気持ちも受け入れて」
苦しげな表情で見下ろされたら、カザネは抵抗できなくなった。
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