ブライアンのお気に入り

知見夜空

文字の大きさ
36 / 73
一月のこと

いつかもっと苦しむとしても

しおりを挟む
 あれからブライアンによって医務室に運ばれたカザネは

「っ、カザネ! 大丈夫か!?」
「……ブライアン?」

 目が覚めたら、すっかり疎遠になっていた人物が横に居てカザネは不思議だった。簡易ベッドの上で体を起こすと、

「どうしてブライアンが……って、痛っ!?」
「俺が殴られそうになっているのを見て、止めようとして吹っ飛ばされたんだよ」

 後頭部を押さえるカザネを、ブライアンは心配そうに見ながら

「保険医は気絶しているだけで命に別状は無いと言っていたけど、全然起きないから焦った。良かった。ちゃんと目が覚めて」

 深い安堵を口にした。ようやく気絶前の記憶が戻って来たカザネは

「ブライアンは大丈夫だったの? 酷いことされなかった?」
「……馬鹿だね、お前は。自分のほうがよっぽど酷い目に遭ったのに」

 ブライアンはカザネの質問に、痛みを感じたように顔を歪めると、表情を隠すように俯いて

「急に態度を変えられて嫌な想いをしたはずなのに、なんで俺なんか庇うんだよ……」
「分からない……ブライアンが危ないって思ったらつい」

 カザネは善良だが、暴力や口論には弱く、つい怖気づいてしまう。物語のヒロインのように、誰のことでも庇えるほど勇敢ではない。それなのに、さっきは咄嗟に体が動いた。それは恐らく

「……ブライアンは私のこと、もうどうでもいいのかもしれないけど、私は今も好きだから護りたかったのかな」
「今も好きって……」

 ブライアンの呟きに、カザネは不器用に笑って

「ブライアンが好きみたい私」

 頭の中でさえ、ずっと認めないようにしていた気持ちをついに口にした。ただ、それは告白ではなく

「でもブライアンのために夢を捨てられるほど強い気持ちじゃないから、大丈夫。私もちゃんと諦める……」

 ブライアンと同じで、ただ自分の心境を正確に把握し、消し去ろうとする手順だった。しかし実際は

「そんなに泣いているのに?」

 ブライアンの指摘どおり、言葉とは裏腹にカザネは泣いていた。カザネは涙を見られないように、ブライアンから顔を逸らしながら

「ゴメン……。でもダメだって分かっているけど、ブライアンが構ってくれなくて寂しい。自分が悪いのに、悲しくなっちゃって……。本当は一緒に居たいって、思っちゃってゴメン……」

 頭ではどうしようもないと分かっているのに、涙とともにポロポロと本音が零れた。これじゃ泣き落としみたいだとカザネは自分が嫌になった。

 けれどカザネの涙によって喚起されたのは罪悪感ではなく

「……お前は本当に、なんでも素直に言っちゃうね」

 ブライアンは独り言のように呟くと、カザネをグッと抱き寄せて

「お陰でこっちまで馬鹿になるよ。せっかく離れようと思ったのに。気持ちが大きくなるほど、傷も深くなるって分かっているのに。それでも俺も、お前と離れたくないよ。いつかもっと苦しむとしても、今だけでも傍に居たい」

 腕の中の彼女を切なげに見下ろすと、慰撫するように目元にキスした。

「ぶ、ブライアン?」

 久しぶりのスキンシップにカザネは目を丸くしたが、

「お前が悪いんだよ。せっかく諦めようとしたのに、揺らがせるようなことを言うから。お前が目の前にいるうちは諦められないし、もう自制もできない」

 言い終わると同時に、ブライアンはカザネをベッドに押し倒した。飢えるように何度も唇を重ねた後、息苦しさに開いた口からぬるっと舌が侵入する。

「~っ、ブライアン。いきなりこういうのはっ」

 カザネはブライアンの胸を押し返そうとしたが、彼はビクともせず

「いきなりじゃないよ。もうずいぶん前から我慢していた。俺の気持ちを承知で傍に居たいって言うなら、こういう気持ちも受け入れて」

 苦しげな表情で見下ろされたら、カザネは抵抗できなくなった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! *全28話完結 *辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 *他誌にも掲載中です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...