28 / 33
オマケ・2人ただ歩くだけで
それからの2人
しおりを挟む
久しぶりにドーエスと再会し、彼に抱かれた翌朝。ナンデはこれから再びドーエスと暮らさなければならない現実を、血まみれの殺人現場と化した我が家とともに突きつけられた。
父の亡骸の後始末をナンデにさせるのは、流石に気の毒だと思ったドーエスは
「誰か連れて来て掃除させるか、家ごと取り替えるかどちらがいい?」
ドーエスは前世でも人間たちを脅して無理やり働かせていた。ちゃんと生きられるように生活の保障はしていたが、それだってどこかの金持ちを殺して奪った金だ。
前世のナンデは王女だったので、自分で働くという選択肢が頭から抜けていた。
しかし今世のナンデは平民なので
「せ、せっかく再会できたんですし、しばらくは2人で暮らしませんか? 家事なら私がしますから」
なるべく他人に迷惑をかけないように、自分が身の周りの世話を引き受けようとしたが
「私に平民の夫婦のように暮らせと?」
ナンデはドーエスの不興を買ってしまったかとアワアワしながら
「も、もちろん強制では無いんですが! もう18年も平民として暮らして来たので、また人に仕えられるのは落ち着かないと言うか!」
必死で言い訳したものの、少しずつ語気を弱めて
「やっぱりしばらくは普通の夫婦のように、2人で暮らしたいなって。だ、ダメですか?」
ドーエスはナンデが自分と2人きりになりたいのではなく、憐れな犠牲者を増やしたくないだけだと分かっていた。
ドーエスはかつてのセージョのように、安全地帯から善だの徳だのを説くような人間には虫唾が走る。
けれどナンデのように、いちばん大事なのは自分だが、なるべく人も苦しめたくないという気持ちは自然な感情として許せたので
「いいだろう。しばらくは、そなたのやり方に合わせよう」
「えっ? 本当にいいんですか?」
「その代わり雑用は手伝わぬぞ。肉片は片づけてやるが、後はそなたがやれ」
父の部屋には、偽ドーエスの魔改造のためにパーツとして使われた後の残骸があった。
ドーエスは対象だけを焼き尽くす炎で、ケネンの遺体を手っ取り早く火葬した。
ナンデは消し炭の中に残った遺骨を
(ゴメンね、お父様。雑な弔いでゴメンね)
頭の中で詫びながら拾うと、後日。街の共同墓地に葬ることにした。
ナンデは吐き気を堪えながら、なんとか家の掃除を済ませた。これまで通ってくれていた家政婦はドーエスの脅威から遠ざけるために、多めの退職金を渡して辞めさせた。
それからドーエスと2人きりの生活がはじまった。ドーエスは黒猫だった時と同様、たびたびナンデの傍を離れたが、夜には必ず家に戻り同じベッドで眠った。
そんな夫の動向に関して
(恐らく外で誰かしら殺している)
ナンデはドーエスの殺人癖が完全に収まったとは思っていなかった。
しかし前世のように人類の脅威として公然と何万人もの人間を殺すよりはマシだと考えていた。
希代の殺人鬼と長く居すぎたせいで、大丈夫の判定が狂っていることはナンデも自覚しているが
(少なくともこの近所で大量殺りくの話は聞かないし、まだ被害を抑えられているほうだわ。この調子で今世は、なるべく平穏に一生を終えたい……)
ナンデはドーエスの気まぐれに怯えながら、表面上は普通の夫婦のように暮らした。
ドーエスは宣言どおり、全く家事を手伝わなかったが、ナンデからすれば自分の前で人を殺さないでくれるだけでありがたい。
ナンデの作った食事がまずいとドーエスが気分を害する恐れもあった。しかし意外とドーエスが、ナンデの料理にケチをつけることは無かった。それどころか
「妻に食事を作ってもらうのもいいものだ」
と笑みすら見せた。
ドーエスの優しさに慣れていないナンデは、突然の飴に「はっ? えっ? はい」とキョドった後。ドーエスから顔を背けて真っ赤になりながら
(普通の夫みたいな発言、やめて欲しい……)
ドーエスの残酷さを嫌になるほど知っているはずのナンデでさえ、あの美しい顔で微笑みながら優しい言葉をかけられると、胸がギュッとなってしまうので参った。
父の亡骸の後始末をナンデにさせるのは、流石に気の毒だと思ったドーエスは
「誰か連れて来て掃除させるか、家ごと取り替えるかどちらがいい?」
ドーエスは前世でも人間たちを脅して無理やり働かせていた。ちゃんと生きられるように生活の保障はしていたが、それだってどこかの金持ちを殺して奪った金だ。
前世のナンデは王女だったので、自分で働くという選択肢が頭から抜けていた。
しかし今世のナンデは平民なので
「せ、せっかく再会できたんですし、しばらくは2人で暮らしませんか? 家事なら私がしますから」
なるべく他人に迷惑をかけないように、自分が身の周りの世話を引き受けようとしたが
「私に平民の夫婦のように暮らせと?」
ナンデはドーエスの不興を買ってしまったかとアワアワしながら
「も、もちろん強制では無いんですが! もう18年も平民として暮らして来たので、また人に仕えられるのは落ち着かないと言うか!」
必死で言い訳したものの、少しずつ語気を弱めて
「やっぱりしばらくは普通の夫婦のように、2人で暮らしたいなって。だ、ダメですか?」
ドーエスはナンデが自分と2人きりになりたいのではなく、憐れな犠牲者を増やしたくないだけだと分かっていた。
ドーエスはかつてのセージョのように、安全地帯から善だの徳だのを説くような人間には虫唾が走る。
けれどナンデのように、いちばん大事なのは自分だが、なるべく人も苦しめたくないという気持ちは自然な感情として許せたので
「いいだろう。しばらくは、そなたのやり方に合わせよう」
「えっ? 本当にいいんですか?」
「その代わり雑用は手伝わぬぞ。肉片は片づけてやるが、後はそなたがやれ」
父の部屋には、偽ドーエスの魔改造のためにパーツとして使われた後の残骸があった。
ドーエスは対象だけを焼き尽くす炎で、ケネンの遺体を手っ取り早く火葬した。
ナンデは消し炭の中に残った遺骨を
(ゴメンね、お父様。雑な弔いでゴメンね)
頭の中で詫びながら拾うと、後日。街の共同墓地に葬ることにした。
ナンデは吐き気を堪えながら、なんとか家の掃除を済ませた。これまで通ってくれていた家政婦はドーエスの脅威から遠ざけるために、多めの退職金を渡して辞めさせた。
それからドーエスと2人きりの生活がはじまった。ドーエスは黒猫だった時と同様、たびたびナンデの傍を離れたが、夜には必ず家に戻り同じベッドで眠った。
そんな夫の動向に関して
(恐らく外で誰かしら殺している)
ナンデはドーエスの殺人癖が完全に収まったとは思っていなかった。
しかし前世のように人類の脅威として公然と何万人もの人間を殺すよりはマシだと考えていた。
希代の殺人鬼と長く居すぎたせいで、大丈夫の判定が狂っていることはナンデも自覚しているが
(少なくともこの近所で大量殺りくの話は聞かないし、まだ被害を抑えられているほうだわ。この調子で今世は、なるべく平穏に一生を終えたい……)
ナンデはドーエスの気まぐれに怯えながら、表面上は普通の夫婦のように暮らした。
ドーエスは宣言どおり、全く家事を手伝わなかったが、ナンデからすれば自分の前で人を殺さないでくれるだけでありがたい。
ナンデの作った食事がまずいとドーエスが気分を害する恐れもあった。しかし意外とドーエスが、ナンデの料理にケチをつけることは無かった。それどころか
「妻に食事を作ってもらうのもいいものだ」
と笑みすら見せた。
ドーエスの優しさに慣れていないナンデは、突然の飴に「はっ? えっ? はい」とキョドった後。ドーエスから顔を背けて真っ赤になりながら
(普通の夫みたいな発言、やめて欲しい……)
ドーエスの残酷さを嫌になるほど知っているはずのナンデでさえ、あの美しい顔で微笑みながら優しい言葉をかけられると、胸がギュッとなってしまうので参った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
83
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる