22 / 65
春
大ピンチの体育祭・後編
それから2人はリビングに移動した。
あやめはソファーに座った恭の後ろに回ると、さっそく髪を乾かし始める。
あらかた髪が乾いたところで、あやめは「ひひっ」と笑って、
「髪を乾かすついでに、お姉ちゃんを助けてくれた偉い弟を、たくさん撫でちゃお」
と恭の頭をよしよしと撫でた。
「助けられた分際で子ども扱いすんな」
身じろぎして嫌がる弟に、姉は口を尖らせて尋ねる。
「じゃあ、他にどんなお礼がいいんだよ~?」
「別に礼とかいいけど……お前に頭を撫でられるのはムカつくから、いつものでいい」
「いつものって?」
素で問い返すあやめに、恭はゴニョゴニョと説明する。
「いつも礼とか言って、して来ることあるだろ……」
「お礼のチューのこと言ってんのか? チューされたいのか、恭?」
弟のまさかの要求を、姉は面白がって追及した。
「違う。どうしても礼をしたいならって話」
「じゃあ、どうしてもお礼したいからしちゃお」
あやめはローテーブルにドライヤーを置くと、恭の前に回ってニコニコと膝によじのぼる。
「今日はお姉ちゃんを助けてくれて、ありがと。アイツにお姫様抱っこされんの、マジで嫌だったからメッチャ助かったわ」
正面から弟の肩に両腕を回すと、頬や額に何度もキスした。
ところが恭は、あやめの肩を押し返すと、怖い顔で尋ねる。
「アイツにお姫様抱っこされるのは嫌って、何か変なことでもされたのか?」
水飲み場で聞いた限り、異性としての関心は薄そうだった。しかし、だからこそ邪険にされたのかもしれない。
そんな弟の心配を、姉は「んにゃ」と否定する。
「特別何かされたことは無い。向こうが勝手に私のこと『こっちが頼むなら抱いてもいいレベル』とか、ほざいてるだけ」
けれど安心させるつもりが、
「……は? 自分の恋人でもない女に、上から目線で何言ってんだ?」
と恭はかえって不機嫌になった。
我がことのようにイラつく恭とは反対に、当のあやめはあっさりと言う。
「まぁ、でも男女ともにやりがちじゃないか? 実際は話したことも無い相手に、勝手に有り無し判定するのは」
あやめも岡本のことは『地球上で最後の人類になっても付き合いたくねぇ』と思っているので、お互い様だと受け止めていた。
「だとしても付き合うとかならともかく、抱くとか最低だろ」
本人よりも怒っている弟に、姉は「ひひっ」と笑う。
「何笑ってんだよ?」
からかっているのかと顔をしかめる恭に、あやめは、
「お姉ちゃんも、そういうこと言うヤツ嫌い。だから、お前は違くて嬉しい」
と信頼し切った顔でギュッと抱き着いた。
しかしすぐに体を離すと、心配そうに恭の顔を覗き込む。
「ところで体は大丈夫か? 騎馬戦もヤバかったけど、棒倒しは特に激しくてガチの戦争みたいだったし。どっか痛めてない?」
「別にどこも痛くない。子どもの頃から鍛えてんだから、あれくらい全然平気」
居心地悪そうに目を逸らす弟に、姉はしみじみと言う。
「なんかカッコいいな。いつの間に、こんなに強くなったんだろ? 昔はなんでも『お姉ちゃん、やって~』の泣き虫の甘えん坊だったのにな」
「お前がそうやって馬鹿にするから強くなったんだよ」
「馬鹿にはしてないぞ。確かお前が『大人になったら結婚して』とか言うから『お姉ちゃんは護って欲しいタイプだから、泣き虫の甘えん坊とは結婚しない』と言っただけ」
「十分馬鹿にしてるだろうが……」
恨めしそうに言う恭に、あやめは意外そうな顔で尋ねる。
「じゃあ、お姉ちゃんに見直して欲しくて強くなったのか?」
「違う。見返すため」
キッと言い返す恭を、あやめは「ひひっ」と笑って茶化す。
「見返すっていうのは相手の理想になった上で、去ってこそ意味があるんだぞ。せっかくいい男になっても、お姉ちゃんとイチャイチャして助けてくれるんじゃ、私が得しただけ。意味ねー」
姉は笑いながら、弟の肩にグリグリと額を押し付けた。
「イチャイチャはしてない。お前が勝手にくっついて来るだけ」
恭のツッコミに、あやめは「うん」と顔を上げると、
「昔も可愛かったけど、今はもっと強くてカッコいい自慢の弟だから、大好きでくっついてる。へへっ、こんなにいい弟がいて、お姉ちゃん、いいだろ~?」
と幸福そうに自慢した。
そんな姉から弟は顔を逸らすとボソッと注意する。
「……いい加減、風呂に入って来いよ。汚ねぇ」
「いきなり酷いこと言う」
あやめも流石にショックを受けたが、
「まぁ、風呂上りに汚れた体でくっついて確かに悪かったな。じゃあ、お姉ちゃん、風呂に行くわ」
と素直に恭の膝から降りた。
「今日はありがと」
去り際のあやめの感謝に、恭は顔を背けたまま「……うん」と短く答えた。
あやめはソファーに座った恭の後ろに回ると、さっそく髪を乾かし始める。
あらかた髪が乾いたところで、あやめは「ひひっ」と笑って、
「髪を乾かすついでに、お姉ちゃんを助けてくれた偉い弟を、たくさん撫でちゃお」
と恭の頭をよしよしと撫でた。
「助けられた分際で子ども扱いすんな」
身じろぎして嫌がる弟に、姉は口を尖らせて尋ねる。
「じゃあ、他にどんなお礼がいいんだよ~?」
「別に礼とかいいけど……お前に頭を撫でられるのはムカつくから、いつものでいい」
「いつものって?」
素で問い返すあやめに、恭はゴニョゴニョと説明する。
「いつも礼とか言って、して来ることあるだろ……」
「お礼のチューのこと言ってんのか? チューされたいのか、恭?」
弟のまさかの要求を、姉は面白がって追及した。
「違う。どうしても礼をしたいならって話」
「じゃあ、どうしてもお礼したいからしちゃお」
あやめはローテーブルにドライヤーを置くと、恭の前に回ってニコニコと膝によじのぼる。
「今日はお姉ちゃんを助けてくれて、ありがと。アイツにお姫様抱っこされんの、マジで嫌だったからメッチャ助かったわ」
正面から弟の肩に両腕を回すと、頬や額に何度もキスした。
ところが恭は、あやめの肩を押し返すと、怖い顔で尋ねる。
「アイツにお姫様抱っこされるのは嫌って、何か変なことでもされたのか?」
水飲み場で聞いた限り、異性としての関心は薄そうだった。しかし、だからこそ邪険にされたのかもしれない。
そんな弟の心配を、姉は「んにゃ」と否定する。
「特別何かされたことは無い。向こうが勝手に私のこと『こっちが頼むなら抱いてもいいレベル』とか、ほざいてるだけ」
けれど安心させるつもりが、
「……は? 自分の恋人でもない女に、上から目線で何言ってんだ?」
と恭はかえって不機嫌になった。
我がことのようにイラつく恭とは反対に、当のあやめはあっさりと言う。
「まぁ、でも男女ともにやりがちじゃないか? 実際は話したことも無い相手に、勝手に有り無し判定するのは」
あやめも岡本のことは『地球上で最後の人類になっても付き合いたくねぇ』と思っているので、お互い様だと受け止めていた。
「だとしても付き合うとかならともかく、抱くとか最低だろ」
本人よりも怒っている弟に、姉は「ひひっ」と笑う。
「何笑ってんだよ?」
からかっているのかと顔をしかめる恭に、あやめは、
「お姉ちゃんも、そういうこと言うヤツ嫌い。だから、お前は違くて嬉しい」
と信頼し切った顔でギュッと抱き着いた。
しかしすぐに体を離すと、心配そうに恭の顔を覗き込む。
「ところで体は大丈夫か? 騎馬戦もヤバかったけど、棒倒しは特に激しくてガチの戦争みたいだったし。どっか痛めてない?」
「別にどこも痛くない。子どもの頃から鍛えてんだから、あれくらい全然平気」
居心地悪そうに目を逸らす弟に、姉はしみじみと言う。
「なんかカッコいいな。いつの間に、こんなに強くなったんだろ? 昔はなんでも『お姉ちゃん、やって~』の泣き虫の甘えん坊だったのにな」
「お前がそうやって馬鹿にするから強くなったんだよ」
「馬鹿にはしてないぞ。確かお前が『大人になったら結婚して』とか言うから『お姉ちゃんは護って欲しいタイプだから、泣き虫の甘えん坊とは結婚しない』と言っただけ」
「十分馬鹿にしてるだろうが……」
恨めしそうに言う恭に、あやめは意外そうな顔で尋ねる。
「じゃあ、お姉ちゃんに見直して欲しくて強くなったのか?」
「違う。見返すため」
キッと言い返す恭を、あやめは「ひひっ」と笑って茶化す。
「見返すっていうのは相手の理想になった上で、去ってこそ意味があるんだぞ。せっかくいい男になっても、お姉ちゃんとイチャイチャして助けてくれるんじゃ、私が得しただけ。意味ねー」
姉は笑いながら、弟の肩にグリグリと額を押し付けた。
「イチャイチャはしてない。お前が勝手にくっついて来るだけ」
恭のツッコミに、あやめは「うん」と顔を上げると、
「昔も可愛かったけど、今はもっと強くてカッコいい自慢の弟だから、大好きでくっついてる。へへっ、こんなにいい弟がいて、お姉ちゃん、いいだろ~?」
と幸福そうに自慢した。
そんな姉から弟は顔を逸らすとボソッと注意する。
「……いい加減、風呂に入って来いよ。汚ねぇ」
「いきなり酷いこと言う」
あやめも流石にショックを受けたが、
「まぁ、風呂上りに汚れた体でくっついて確かに悪かったな。じゃあ、お姉ちゃん、風呂に行くわ」
と素直に恭の膝から降りた。
「今日はありがと」
去り際のあやめの感謝に、恭は顔を背けたまま「……うん」と短く答えた。
あなたにおすすめの小説
好きな人の好きな人
ぽぽ
恋愛
"私には何年も思い続ける初恋相手がいる。"
初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。
恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。
そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。
思わせぶりには騙されない。
ぽぽ
恋愛
「もう好きなのやめる」
恋愛経験ゼロの地味な女、小森陸。
そんな陸と仲良くなったのは、社内でも圧倒的人気を誇る“思わせぶりな男”加藤隼人。
加藤に片思いをするが、自分には脈が一切ないことを知った陸は、恋心を手放す決意をする。
自分磨きを始め、新しい恋を探し始めたそのとき、自分に興味ないと思っていた後輩から距離を縮められ…
姉の婚約者に愛人になれと言われたので、母に助けてと相談したら衝撃を受ける。
佐藤 美奈
恋愛
男爵令嬢のイリスは貧乏な家庭。学園に通いながら働いて学費を稼ぐ決意をするほど。
そんな時に姉のミシェルと婚約している伯爵令息のキースが来訪する。
キースは母に頼まれて学費の資金を援助すると申し出てくれました。
でもそれには条件があると言いイリスに愛人になれと迫るのです。
最近母の様子もおかしい?父以外の男性の影を匂わせる。何かと理由をつけて出かける母。
誰かと会う約束があったかもしれない……しかし現実は残酷で母がある男性から溺愛されている事実を知る。
「お母様!そんな最低な男に騙されないで!正気に戻ってください!」娘の悲痛な叫びも母の耳に入らない。
男性に恋をして心を奪われ、穏やかでいつも優しい性格の母が変わってしまった。
今まで大切に積み上げてきた家族の絆が崩れる。母は可愛い二人の娘から嫌われてでも父と離婚して彼と結婚すると言う。
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
絶交した幼馴染と大学の合コンで再会した。
孤独な蛇
恋愛
中学生の浅野春樹は上級生と喧嘩騒動を起こしたことがあった。
その上、目つきが悪く地毛は茶髪のため不良少年のような扱いを受けて学校では孤立していた。
そんな中、幼馴染の深瀬志穂だけは春樹のことをいつも気遣ってくれていた。
同じ高校に行こうと声を掛けてくれる志穂の言葉に応えたい一心で受験勉強にも力を入れていた。
春樹にとって、学校で孤立していることは問題ではなかった。
昔から志穂が近くにいてくれるから……。
しかし、3年生なってから志穂の態度がよそよそしくなってきた。
登下校も別々になり、学校で話しかけてくることも無くなった。
志穂の心が自分から離れていってしまっている気がした春樹は焦っていた。
彼女と話がしたい。笑った顔が見たい。
志穂と一緒に帰ろうと、彼女が部活動を行っている体育館へ向かったのだが……。
そこで春樹が耳にしたのは、自分の悪口を言って部活の友達と楽しそうにしている志穂の声だった。
その瞬間、春樹の中で志穂に対する想いや信頼は……消滅した。
夫「お前は価値がない女だ。太った姿を見るだけで吐き気がする」若い彼女と再婚するから妻に出て行け!
佐藤 美奈
恋愛
華やかな舞踏会から帰宅した公爵夫人ジェシカは、幼馴染の夫ハリーから突然の宣告を受ける。
「お前は価値のない女だ。太った姿を見るだけで不快だ!」
冷酷な言葉は、長年連れ添った夫の口から発せられたとは思えないほど鋭く、ジェシカの胸に突き刺さる。
さらにハリーは、若い恋人ローラとの再婚を一方的に告げ、ジェシカに屋敷から出ていくよう迫る。
優しかった夫の変貌に、ジェシカは言葉を失い、ただ立ち尽くす。
俺をフッた幼馴染が、トップアイドルになって「もう一度やり直したい」と言ってきた
夏見ナイ
恋愛
平凡な大学生・藤堂蓮には忘れられない過去がある。高校時代、告白した幼馴染の星宮瑠奈に「アイドルになるから」とこっ酷くフラれたことだ。
数年後、瑠奈は国民的アイドル『LUNA』として輝いていた。遠い世界の住人になった彼女との再会なんて、あるはずもなかった――そう、変装した彼女が俺の前に現れ、「もう一度やり直したい」と泣きつくまでは。
トップアイドルの立場を使い強引に迫る元幼馴染と、過去の傷。揺れ動く俺の日常を照らしてくれたのは、俺の才能を信じてくれる後輩・朝霧陽葵の存在だった。
俺をフッた幼馴染か、俺を支える後輩か。過去の清算と未来の選択を描く、ほろ苦くも甘い、逆転ラブコメディ、開幕。