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間の話・村に帰るまでのあれこれ
一瞬で退場するライバル
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彼の秘めた想いにも気づかず、思いきり自爆した翌朝。
テントの前で、カイルが用意してくれた朝食を一緒に食べながら
「結婚すると決まったからには父に紹介したいです。俺の村に来てください」
両想い(?)の幸福からか、輝く笑顔で言う彼に
「いやいやいやいや……」
まだ決まってないとツッコむも、カイルはスッと無表情になって
「悪いけど、魔女さんにはもう拒否権はありません。引きずってでも連れて行きますから」
「わ、分かった。言うことを聞くから、怒らないで……」
私はカイルの気持ちを弄んでしまった側だ。彼は知らないが記憶まで奪っている。その罪悪感から私はカイルに言われるまま、再会してからひと月めの今日、迷いの森を出た。
カイルの村を目指す前に、まずは近くの街で旅支度を整えることになった。すると買い物の途中で
「カイル!? 貴様、ひと月も音信不通で何をしていた!?」
「フレデリカ。どうしてここに?」
声をかけて来たのはカイルと似た服装の若い女性だった。鮮やかな赤のショートヘアに、意志が強そうな金の瞳。華やかな美貌の彼女は、カイルに詰め寄ると
「どうしても何も、お前がひと月も行方をくらましているから探しに来たんだろうが! 迷子を救出してから迷いの森と街を何度も行き来していたと言うが、いったいひと月も何をしていたんだ!?」
その口ぶりと帯剣していることから考えて、彼女はカイルの同僚か何かだろう。すごい剣幕で怒っていたが、ふと私に目を向けると
「って、その女性はどうした? まさかその女性を捜すために、迷いの森に出入りしていたのか?」
そう考えるのが自然だろうが実際は
「説明が難しいんだけど、この人は遭難者じゃなくて俺の婚約者だよ。俺、彼女と結婚するんだ」
同僚の衝撃発言に、フレデリカさんは「……は?」と呆気に取られた。でも驚いたのは私も同じで
「ちょっ、聖騎士様。なんで彼女にそんなことを話すんですか?」
「本部への報告はまだですが、結婚するからには聖騎士をやめる旨を、同期であるフレデリカには先に説明しておいたほうがいいかと」
カイルはあっけらかんと話したが、硬直が解けたフレデリカさんは
「聖騎士を辞めて、その女と結婚するだと!? たったひと月で、どうしてそんな展開になる!?」
「俺が彼女に一目惚れしちゃって。結婚するなら聖騎士は辞めなくちゃって」
口にすると馬鹿みたいな経緯を、えへへと照れながらのたまうカイルに
「貴様はなんで勉強はできるのに、たまにいきなり頭が悪くなるんだ!? 女のために聖騎士の地位を捨てるなんて馬鹿じゃないのか!?」
恐らくフレデリカさんじゃなくても、9割くらいの人は同じ感想を抱くだろうが
「フレデリカには悪いけど、俺はもともと聖騎士であることに、あまりこだわりは無いから。父さんにももし本当にやりたいことができたら、それを叶えろと言われているし。人助けなら聖騎士じゃなくてもできるから、これからは彼女をいちばん大事にしながら、なるべく他の人も助けるよ」
確かに私と神父様は、次にカイルが抱く夢は否定しないで応援しようと約束した。しかし8年の時を経て、同じ相手に全く同じ夢を抱くとは、私も神父様も思わなかった。
意識が遠のく私の代わりに
「み、認めない! そんな生き方! 好きな女ができたから結婚して聖騎士を辞めるなんて! そんな才能の無駄遣いは許されない!」
フレデリカさんが一生懸命止めようとしてくれたが、カイルは困ったように頬を掻きながら
「と言っても、俺は聖騎士の掟も破ってしまったし。掟を破りながら、素知らぬ顔で聖騎士を続けるほうが許されないんじゃないかと」
「掟を破ったって、なんの掟を……って、まさか!」
フレデリカさんはハッと私に目を向けると
「お前か!? お前だな、この 淫売め! 世間知らずのカイルを 誑かして、お前がコイツを堕落させたんだろう!?」
私に掴みかからんばかりの彼女を、カイルはサッと制止して
「フレデリカ。文句があるなら俺に言って。俺の大切な人を侮辱しないで」
フレデリカさんは「ギィィ!」と真っ赤になって地団太を踏むと
「この恥知らずの色ボケ男め! 私より2年も先に聖騎士になったくせに! これだけ期待されながら、その名誉をあっさり捨てるなんて! もう貴様なんか知らん! そのつまらない女と結婚でもなんでもして、名も無き村人として勝手にくたばれ!」
と肩を怒らせて去って行った。
修羅場に慣れていない私は怯えながら
「せ、聖騎士様、いいんですか? 彼女、すごく怒っていましたけど」
「彼女は騎士学校時代から、ずっと俺を目の敵にしていて、いつもあんな感じなので大丈夫です。いちおう同期ですが、今日からは他人ですし、もう会うことも無いでしょうから」
彼によると、同期の中ではカイルがナンバー1で彼女がナンバー2の実力者だったようだ。
しかも豊富な魔力に加えて光属性特有の並み外れた直感を持つカイルは、学校を出てからはさらに神がかった活躍をして、異例の速さで聖騎士になった。
フレデリカさんは何人も聖騎士を輩出した名門の出なので、ぽっと出の田舎者に先を越されたのが許せなかったんじゃないかとのことだ。
はじまりは「村育ちの平民が私の上に立つなんて気に入らない」だったかもしれないが、恐らく今はそれ以上の感情があったように見える。
フレデリカさんにとってのカイルは、かなり大きな存在だったようなのに、こちらは「もう会うこともない他人」扱いなのだから天然って恐ろしいな。
テントの前で、カイルが用意してくれた朝食を一緒に食べながら
「結婚すると決まったからには父に紹介したいです。俺の村に来てください」
両想い(?)の幸福からか、輝く笑顔で言う彼に
「いやいやいやいや……」
まだ決まってないとツッコむも、カイルはスッと無表情になって
「悪いけど、魔女さんにはもう拒否権はありません。引きずってでも連れて行きますから」
「わ、分かった。言うことを聞くから、怒らないで……」
私はカイルの気持ちを弄んでしまった側だ。彼は知らないが記憶まで奪っている。その罪悪感から私はカイルに言われるまま、再会してからひと月めの今日、迷いの森を出た。
カイルの村を目指す前に、まずは近くの街で旅支度を整えることになった。すると買い物の途中で
「カイル!? 貴様、ひと月も音信不通で何をしていた!?」
「フレデリカ。どうしてここに?」
声をかけて来たのはカイルと似た服装の若い女性だった。鮮やかな赤のショートヘアに、意志が強そうな金の瞳。華やかな美貌の彼女は、カイルに詰め寄ると
「どうしても何も、お前がひと月も行方をくらましているから探しに来たんだろうが! 迷子を救出してから迷いの森と街を何度も行き来していたと言うが、いったいひと月も何をしていたんだ!?」
その口ぶりと帯剣していることから考えて、彼女はカイルの同僚か何かだろう。すごい剣幕で怒っていたが、ふと私に目を向けると
「って、その女性はどうした? まさかその女性を捜すために、迷いの森に出入りしていたのか?」
そう考えるのが自然だろうが実際は
「説明が難しいんだけど、この人は遭難者じゃなくて俺の婚約者だよ。俺、彼女と結婚するんだ」
同僚の衝撃発言に、フレデリカさんは「……は?」と呆気に取られた。でも驚いたのは私も同じで
「ちょっ、聖騎士様。なんで彼女にそんなことを話すんですか?」
「本部への報告はまだですが、結婚するからには聖騎士をやめる旨を、同期であるフレデリカには先に説明しておいたほうがいいかと」
カイルはあっけらかんと話したが、硬直が解けたフレデリカさんは
「聖騎士を辞めて、その女と結婚するだと!? たったひと月で、どうしてそんな展開になる!?」
「俺が彼女に一目惚れしちゃって。結婚するなら聖騎士は辞めなくちゃって」
口にすると馬鹿みたいな経緯を、えへへと照れながらのたまうカイルに
「貴様はなんで勉強はできるのに、たまにいきなり頭が悪くなるんだ!? 女のために聖騎士の地位を捨てるなんて馬鹿じゃないのか!?」
恐らくフレデリカさんじゃなくても、9割くらいの人は同じ感想を抱くだろうが
「フレデリカには悪いけど、俺はもともと聖騎士であることに、あまりこだわりは無いから。父さんにももし本当にやりたいことができたら、それを叶えろと言われているし。人助けなら聖騎士じゃなくてもできるから、これからは彼女をいちばん大事にしながら、なるべく他の人も助けるよ」
確かに私と神父様は、次にカイルが抱く夢は否定しないで応援しようと約束した。しかし8年の時を経て、同じ相手に全く同じ夢を抱くとは、私も神父様も思わなかった。
意識が遠のく私の代わりに
「み、認めない! そんな生き方! 好きな女ができたから結婚して聖騎士を辞めるなんて! そんな才能の無駄遣いは許されない!」
フレデリカさんが一生懸命止めようとしてくれたが、カイルは困ったように頬を掻きながら
「と言っても、俺は聖騎士の掟も破ってしまったし。掟を破りながら、素知らぬ顔で聖騎士を続けるほうが許されないんじゃないかと」
「掟を破ったって、なんの掟を……って、まさか!」
フレデリカさんはハッと私に目を向けると
「お前か!? お前だな、この 淫売め! 世間知らずのカイルを 誑かして、お前がコイツを堕落させたんだろう!?」
私に掴みかからんばかりの彼女を、カイルはサッと制止して
「フレデリカ。文句があるなら俺に言って。俺の大切な人を侮辱しないで」
フレデリカさんは「ギィィ!」と真っ赤になって地団太を踏むと
「この恥知らずの色ボケ男め! 私より2年も先に聖騎士になったくせに! これだけ期待されながら、その名誉をあっさり捨てるなんて! もう貴様なんか知らん! そのつまらない女と結婚でもなんでもして、名も無き村人として勝手にくたばれ!」
と肩を怒らせて去って行った。
修羅場に慣れていない私は怯えながら
「せ、聖騎士様、いいんですか? 彼女、すごく怒っていましたけど」
「彼女は騎士学校時代から、ずっと俺を目の敵にしていて、いつもあんな感じなので大丈夫です。いちおう同期ですが、今日からは他人ですし、もう会うことも無いでしょうから」
彼によると、同期の中ではカイルがナンバー1で彼女がナンバー2の実力者だったようだ。
しかも豊富な魔力に加えて光属性特有の並み外れた直感を持つカイルは、学校を出てからはさらに神がかった活躍をして、異例の速さで聖騎士になった。
フレデリカさんは何人も聖騎士を輩出した名門の出なので、ぽっと出の田舎者に先を越されたのが許せなかったんじゃないかとのことだ。
はじまりは「村育ちの平民が私の上に立つなんて気に入らない」だったかもしれないが、恐らく今はそれ以上の感情があったように見える。
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