幸せが訪れた日

Layla

文字の大きさ
1 / 6

第一話 裕福な家庭の娘・菊代

しおりを挟む
1923年2月、冬の寒空の東京で南 菊代は誕生した。父親の家は現在でも銀行が立ち並ぶような1等地を所有する地主で、幼馴染の娘と結婚。その娘が菊代の母であり、菊代は5人兄弟の2番目の子供で次女だった。

菊代の母親は生まれつき体が弱く、心臓病も患っていた。家が金持ちということもあり、家政婦を雇い家事全般はその人に任せて、母親は床にふせっていることが多かった。
幼い弟達3人の面倒は菊代と姉が率先してみて、母親と5人姉弟は仲良く暮らしていた。父親は、金に苦労したことがなく、仕事もせず日中は寝て過ごし、夜は友人を料理屋に招いて芸者を呼び寄せ、毎晩のように酒や芸者遊びに多額の金を使っていた。

当時、菊代はまだ5歳。父親は家にいるときは寝ていて、夜は家にいない人という認識しかなかったが、大きくなるにつれて、寝ている父親父はすごく酒臭いことや、夜中に酔っぱらい大声で子供たちを起こす姿を見て「嫌な大人、お金があってもこんな人と結婚したくない。なんでお母さんはこんな人と結婚したんだろう」と父親に対して嫌悪感が現れるようになった。

それから数年後のある夜、父親がいつものように酒の臭いをさせて帰ってきたが、その顔は青ざめており、酔いもさめている様子だった。
数か月前、父親は酔った勢いで遊び仲間の借金の全体保証人になってしまい、その友人は多額の借金を返せないと諦めて姿をくらましてしまった。
そして、そんなことも知らずに菊代の父親はこの夜もいつものように芸者を呼んで友人たちと遊びに行ったのだが、帰りの道中で人相の悪い男たちに捕まり借金をした友人が逃げて、すべての借金をお前が返せと脅されたのだった。

父親は病弱な妻を起こし今起こっている状況を説明し、「すべて借金の方に奪われるから数日中に最小限の荷物をまとめて出ていく準備をしろ」と指示した。その声で起きた菊代と姉は不安と恐怖を感じ身を寄せ抱き合った。

翌日、母親は父親の指示通り必要最低限の荷物をまとめて、家族は安く住めるボロボロの一間の長屋に引っ越した。
菊代の父方の祖父母はすでに他界しており、菊代の母方の祖母に長屋に一緒に住んでもらい、子供たちの面倒や家事全般をやってもらうことになった。

何不自由ない暮らしをしてきた菊代が、いきなり貧乏な子供になったのは8歳のころの出来事だった。

元々好きではない父親に対して益々嫌悪感が募った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

愛はリンゴと同じ

turarin
恋愛
学園時代の同級生と結婚し、子供にも恵まれ幸せいっぱいの公爵夫人ナタリー。ところが、ある日夫が平民の少女をつれてきて、別邸に囲うと言う。 夫のナタリーへの愛は減らない。妾の少女メイリンへの愛が、一つ増えるだけだと言う。夫の愛は、まるでリンゴのように幾つもあって、皆に与えられるものなのだそうだ。 ナタリーのことは妻として大切にしてくれる夫。貴族の妻としては当然受け入れるべき。だが、辛くて仕方がない。ナタリーのリンゴは一つだけ。 幾つもあるなど考えられない。

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~

絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...