幸せが訪れた日

Layla

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第一話 裕福な家庭の娘・菊代

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1923年2月、冬の寒空の東京で南 菊代は誕生した。父親の家は現在でも銀行が立ち並ぶような1等地を所有する地主で、幼馴染の娘と結婚。その娘が菊代の母であり、菊代は5人兄弟の2番目の子供で次女だった。

菊代の母親は生まれつき体が弱く、心臓病も患っていた。家が金持ちということもあり、家政婦を雇い家事全般はその人に任せて、母親は床にふせっていることが多かった。
幼い弟達3人の面倒は菊代と姉が率先してみて、母親と5人姉弟は仲良く暮らしていた。父親は、金に苦労したことがなく、仕事もせず日中は寝て過ごし、夜は友人を料理屋に招いて芸者を呼び寄せ、毎晩のように酒や芸者遊びに多額の金を使っていた。

当時、菊代はまだ5歳。父親は家にいるときは寝ていて、夜は家にいない人という認識しかなかったが、大きくなるにつれて、寝ている父親父はすごく酒臭いことや、夜中に酔っぱらい大声で子供たちを起こす姿を見て「嫌な大人、お金があってもこんな人と結婚したくない。なんでお母さんはこんな人と結婚したんだろう」と父親に対して嫌悪感が現れるようになった。

それから数年後のある夜、父親がいつものように酒の臭いをさせて帰ってきたが、その顔は青ざめており、酔いもさめている様子だった。
数か月前、父親は酔った勢いで遊び仲間の借金の全体保証人になってしまい、その友人は多額の借金を返せないと諦めて姿をくらましてしまった。
そして、そんなことも知らずに菊代の父親はこの夜もいつものように芸者を呼んで友人たちと遊びに行ったのだが、帰りの道中で人相の悪い男たちに捕まり借金をした友人が逃げて、すべての借金をお前が返せと脅されたのだった。

父親は病弱な妻を起こし今起こっている状況を説明し、「すべて借金の方に奪われるから数日中に最小限の荷物をまとめて出ていく準備をしろ」と指示した。その声で起きた菊代と姉は不安と恐怖を感じ身を寄せ抱き合った。

翌日、母親は父親の指示通り必要最低限の荷物をまとめて、家族は安く住めるボロボロの一間の長屋に引っ越した。
菊代の父方の祖父母はすでに他界しており、菊代の母方の祖母に長屋に一緒に住んでもらい、子供たちの面倒や家事全般をやってもらうことになった。

何不自由ない暮らしをしてきた菊代が、いきなり貧乏な子供になったのは8歳のころの出来事だった。

元々好きではない父親に対して益々嫌悪感が募った。
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