島津の剣

dragon49

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05 血路

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 「大御所様、中央を島津勢が突破して突進して来ます!」、側近の知らせにも家康は泰然としていた。(豊久の奴め、死にに来よった)。

 戦局を見つめる家康の軍配によって、陣営の前には既に鉄砲隊が配置され、両翼には弓隊と槍隊が配置、さらに騎馬隊が千騎近く待機していた。
 
  豊久率いる島津の突撃隊は、「飛んで火に入る夏の虫」の如く、この陣中に捨て身の攻撃を敢行した。

「よいか!第一波は撃滅しても、第二波は陣の前を掠め通るだけじゃ。これを決して深追い追撃してはならん!」、家康の命で鉄砲隊は射程になるまで息を潜めた。

 「放て!」、命令一下轟音とともに放たれた鉛玉は、次々と島津の兵をなぎ倒した。それでも後から後から突撃して来る島津の兵に弓矢が夕立ちの雨のようにいかけられた。

 血まみれになりながら、累々と屍を重ねる島津勢に家康本陣の騎馬隊が斬り掛かかろうとしたところ、家康の預言通り島津勢の第二波が二百ばかりの兵力で陣に迫った。

 「あれは陣のまえを通るだけじゃ!やり過ごせ!」、島津勢の第一波が全滅する寸前、義弘率いる第二波百は家康の陣営をかすめると中仙道に落ち延びた。

 「豊久済まん。島津の家は子々孫々まで約束通り守ろうたい」、豊久率いる島津勢の第一波攻撃隊全滅という、血によって贖われた血路によって、義弘は九死に一生を得て薩摩に帰還した。

(終わり)
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