霞ヶ関

dragon49

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霞ヶ関

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 新盆の終わりかけた頃、男は霞ヶ関に休日出勤し、家路についていた。男の座った席のトイメンには、年の頃は小学生と中学生と思しき姉妹がミッキーマウスの帽子を被ってスヤスヤと寝ており、母親らしき中年女性が側でグッタリとして居る。

  大方、ディズニーランドで遊び疲れたのであろう、男は遠い昔日の少年時代に今は亡き父親に大阪万博に連れて行って貰った記憶を思い起こしていた。「いつの世も変わらないな」。

  男の父親は、都内の工業高校を出ると直ぐに職工見習いとして自動車メーカーに就職した。未だ日本国内に工場が留まっていた時代、「蒼い鳥」「家老ら」などの大衆車が国内外に次々と売れた時代である。父親の給料は、右肩上がりに上昇した。

 その御蔭で、男は都内の大学に進学する事が出来、法学部を卒業した。父親は、同じ自動車メーカーに就職する事を望んだが、男は寧ろ官僚を目指し、首尾良く上級公務員試験に合格しキャリアとしての道を歩み始めた。

 霞ヶ関は、江戸時代に松平などの譜代大名が上屋敷を構えた所だという。今は国政の実務を執る中央官庁が軒を連ねる。男は、この歴史的由緒に金ではない価値を見出し言い知れない満足を覚えて居る。

  男は、家族にも恵まれた。気立てのいい妻と結婚し、一男一女が立派に成長した。が、気掛かりな事が一つだけある。勃たないのだ。五十路を迎え、当然と言えば当然なのだが、お役ご免なのだろうか?
(来週、専門医に診てもらおう)、トイメンの家族連れを見ながら男は呟いた。

(終わり)
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