足軽

dragon49

文字の大きさ
1 / 3

足軽

しおりを挟む
足軽 1

戦国時代の信濃、小県

 織田から二万の兵を預かり、信濃の小県に攻め入った滝川一益は、国衆が治める小県の根城を攻めあぐねていた。

 この根城は南北に建てられ、背後は山、東に崖が迫り、西は大きく割れ込んだ谷間になっており、攻撃は正面の隘路の山道のみという天然の要害に守られていた。

 攻略しずらいのは地形ばかりではない。隘路を進む攻撃隊がことごとく鉄砲隊の標的になったのだ。

 「攻め方やめーい!」一益は、大部隊を城から一旦一里離れた地点にまで撤退させて陣容を立て直した。

 「よーし、ここに幕舎を張り、兵に派手に水煙を挙げさせよ」

一益は、兵に水煙を挙げさせるばかりで、一週間たっても二週間たも攻める様子がない。長期戦の様相を呈し始めた。

一益は、頃合と見て側近の一人を呼びつけた。

「例のモノを放て」


城中では、一益の一斉攻撃がないと知れると鉄砲隊の一部が交代で村に一時帰参できるようになった。
 
「織田が大部隊だと言っても、この山道じゃいっぺんには攻められない。流石は信玄公以来の根城、落ちることはないわ」

兵たちに分不相応な自信が芽生え始めた。

-小県、鉄砲隊足軽頭の木下又吉の家

「この辺は木がいっぱいあったのに、すっかり切り取られてしまった」

夕陽がとっぷりと暮れる禿山の枯れ枝に烏達が腹を空かせてギャーと鳴いている。

又吉は、家の周囲を見て眉をひそめた。

 「おい、何か食うものはないか?城では芋がらの煮しめしか食うておらんから、腹が減っていかん」

 身重の妻、梅は腹をさすりながら大根飯の粥を無造作に囲炉裏からよそって差し出した。

 「おーい、これだけか。味噌汁はないのか」

  「味噌?米もないのに何を言ってるのかね。あんたが兵役にとられている間、段々畑はアタシ一人でやってるんだよ!」

 妻は、又吉と目を合わそうとしない。

 「わ、分かった。飯はもういい。風呂に入ろう。薪をくべてくれんか」

 「薪なんてどこにあるんだい。木は戦の費用をこさえるために御領主がみーんな切ってしまったよ。蓄えた薪を風呂に使ったら囲炉裏で煮炊きする分がなくなる。川で洗いな!」

 5歳になる長男の小吉と3歳の長女あやが、真っ黒な顔をして夫婦喧嘩を呆然と見つめている。

又吉は、囲炉裏の火が消えるとすごすごと寝床に入った。少し経って、又吉は妻の肩に手を出してみた。

 「およしよ!子供が起きるじゃないか、触らないでおくれよ!」

又吉は、すごすごとツギハギだらけの布団に戻った。

「ねえ、アンタ。離れに住んでるお義母さんだけど、明日の朝姥捨山に棄てていいかい。もう頭もハッキリすることもないしさ」

又吉は、ガバっと起きた。

「何言ってる!?それは駄目だ」

「アンタが兵役にとられて、どうやって一家は食べていくのさー、オカアサンが食べる食い扶持がないのさ」

又吉は、押し黙ったままだ。

「アンタ、今度の高札を見たのかい?公六民四から公七民三になるのさ。今でさえ苦しいのに、お上は鬼だよ」

又吉は、布団の上で正座して膝を掴んでいる。

 「アンタ、オカアサンが駄目なら、このお腹の子は、生まれたら何処か裕福な家にあげよう」

 「養子に出すのか!」

「コメと交換してもらうのさ。コメ二俵とね、それで一家は一息つける。おなかの子には不憫だけれど」

 闇の中で、妻のすすり泣く声だけが聞こえた。


 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

卒業パーティーのその後は

あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。  だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。   そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

処理中です...