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足軽 2
足軽 2
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足軽2
妻子の眠る丑三つ時。
玄関をドンドンと叩く音がした。
「どなたかの?」
「富山の薬売りでごさる。山道に迷いました。日の出まであと数刻、風雨を凌がせてはくれまいかと」
元来気のいい又吉は、事情を察すると快く薬売りを家に招き入れた。
「ささ、囲炉裏に薪を入れるので暖まるといい」
薬売りは、担いでいる薬箱を囲炉裏端に置くとフーッと息をした。
「ご主人に良い薬がござる」
「わしは生来丈夫だでー、薬はいらん」
「貧乏につける薬でござる」
薬売りは、辺りを憚るように又吉に耳打ちした。
又吉は、囲炉裏の火で耳まで紅潮している。
「何?そ、それは誠か?」
「誠も誠!ここに証文もござる」
薬売りは、又吉に一枚の書状を見せた。
「こうしてはおれんぞ。皆に知らせねば」
又吉は、血相を変えて漆黒の闇が広がる戸外に出て行った。
-翌朝、又吉が銃の手入れをしていると梅が囲炉裏の残り火を忙しく掻き回し始めた。灰が時折、天井まで登る。
「また、戦さですか。ハタケの麦も蕎麦も手がかかるのは、これからだっていうのにさ」
又吉は、玄関で草鞋の紐をきつく結んだ。
「今日は、コメを持って来れそうだ。いよいよこの村にもツキが来たぞ」
又吉の声はいつになく弾んだ。
「へん、何言ってるんだか。この前の勝ち戦だって、褒美を貰えたのはお侍さんの家だけだったじゃないか」
梅は、バカバカしいという風に鍬を持ってさっさとハタケに出て行った。
根城では、籠城の為の食糧が尽きそうになっていた。
領主の佐間主膳は、これ以上は籠城は無理として城の前に幕舎を張り、前に騎兵、さらに前線に足軽の鉄砲隊を配置して城をでた。
一益の部隊が隘路を進撃し伸びきった頃を見計らって、別の支隊で背後をツキ、前後から挟撃する作戦である。
一益の先鋒隊は、城外の幕舎を見て案の定隘路を進んできた。
「よーし、敵が来た。充分にひきつけるのじゃ」
騎馬武者の家老が軍配を持って叫んだ。
「鉄砲隊!構えー!」
何度も号令をかけるが、
しかし足軽の鉄砲隊はピクリとも動かない。
今度は、又吉が叫んだ。
「構えー!」
足軽の鉄砲隊が踵を返して、一斉に幕舎の前で守りを固める味方の騎馬隊に狙いを付けた。
「放てー!」
夥しい銃声とともに味方の騎馬隊は、血しぶきを挙げて一瞬の間に全滅した。
足軽の鉄砲隊は、銃を持ってヒタヒタと幕舎に迫った。
「佐間様、あんたはもういい。アンタとは終わりにしたい。皆が年貢で苦しんでる。あんたには三途の河を渡ってもらう」
「ま、まて年貢のことか、据え置きにして考え直しても良いぞ」
佐間が慌てて軍配を持ち直した。
「もう遅い!」
足軽鉄砲隊の銃が再び火を吹いた。夥しい銃弾が幕舎に集中して、佐間主膳と幕閣たちは蜂の巣状態となり全身から血を吹き出して即死した。
事の全てが終わった。
一益が静かに駒を進めて又吉と対面した。
「今回の働き、誠に見事。ここに約束のコメを用意した。干した肴や漬物、味噌もあるぞ。すぐに水煙を挙げて足軽たちに食わせてやれ。酒もあるぞ!」
「余った分は、一人一升ずつ持っていけ」
「年貢は、公三、民七でよいぞ」
兵士たちは小躍りして喜んだ。
「やっぱりお天道様はいらっしゃる」
兵士達が、味方の屍の傍らで水煙を挙げて飲み食いする様子を一益は、表情ひとつ変えずに冷徹に見ていた。
妻子の眠る丑三つ時。
玄関をドンドンと叩く音がした。
「どなたかの?」
「富山の薬売りでごさる。山道に迷いました。日の出まであと数刻、風雨を凌がせてはくれまいかと」
元来気のいい又吉は、事情を察すると快く薬売りを家に招き入れた。
「ささ、囲炉裏に薪を入れるので暖まるといい」
薬売りは、担いでいる薬箱を囲炉裏端に置くとフーッと息をした。
「ご主人に良い薬がござる」
「わしは生来丈夫だでー、薬はいらん」
「貧乏につける薬でござる」
薬売りは、辺りを憚るように又吉に耳打ちした。
又吉は、囲炉裏の火で耳まで紅潮している。
「何?そ、それは誠か?」
「誠も誠!ここに証文もござる」
薬売りは、又吉に一枚の書状を見せた。
「こうしてはおれんぞ。皆に知らせねば」
又吉は、血相を変えて漆黒の闇が広がる戸外に出て行った。
-翌朝、又吉が銃の手入れをしていると梅が囲炉裏の残り火を忙しく掻き回し始めた。灰が時折、天井まで登る。
「また、戦さですか。ハタケの麦も蕎麦も手がかかるのは、これからだっていうのにさ」
又吉は、玄関で草鞋の紐をきつく結んだ。
「今日は、コメを持って来れそうだ。いよいよこの村にもツキが来たぞ」
又吉の声はいつになく弾んだ。
「へん、何言ってるんだか。この前の勝ち戦だって、褒美を貰えたのはお侍さんの家だけだったじゃないか」
梅は、バカバカしいという風に鍬を持ってさっさとハタケに出て行った。
根城では、籠城の為の食糧が尽きそうになっていた。
領主の佐間主膳は、これ以上は籠城は無理として城の前に幕舎を張り、前に騎兵、さらに前線に足軽の鉄砲隊を配置して城をでた。
一益の部隊が隘路を進撃し伸びきった頃を見計らって、別の支隊で背後をツキ、前後から挟撃する作戦である。
一益の先鋒隊は、城外の幕舎を見て案の定隘路を進んできた。
「よーし、敵が来た。充分にひきつけるのじゃ」
騎馬武者の家老が軍配を持って叫んだ。
「鉄砲隊!構えー!」
何度も号令をかけるが、
しかし足軽の鉄砲隊はピクリとも動かない。
今度は、又吉が叫んだ。
「構えー!」
足軽の鉄砲隊が踵を返して、一斉に幕舎の前で守りを固める味方の騎馬隊に狙いを付けた。
「放てー!」
夥しい銃声とともに味方の騎馬隊は、血しぶきを挙げて一瞬の間に全滅した。
足軽の鉄砲隊は、銃を持ってヒタヒタと幕舎に迫った。
「佐間様、あんたはもういい。アンタとは終わりにしたい。皆が年貢で苦しんでる。あんたには三途の河を渡ってもらう」
「ま、まて年貢のことか、据え置きにして考え直しても良いぞ」
佐間が慌てて軍配を持ち直した。
「もう遅い!」
足軽鉄砲隊の銃が再び火を吹いた。夥しい銃弾が幕舎に集中して、佐間主膳と幕閣たちは蜂の巣状態となり全身から血を吹き出して即死した。
事の全てが終わった。
一益が静かに駒を進めて又吉と対面した。
「今回の働き、誠に見事。ここに約束のコメを用意した。干した肴や漬物、味噌もあるぞ。すぐに水煙を挙げて足軽たちに食わせてやれ。酒もあるぞ!」
「余った分は、一人一升ずつ持っていけ」
「年貢は、公三、民七でよいぞ」
兵士たちは小躍りして喜んだ。
「やっぱりお天道様はいらっしゃる」
兵士達が、味方の屍の傍らで水煙を挙げて飲み食いする様子を一益は、表情ひとつ変えずに冷徹に見ていた。
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