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藪医者
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江戸は享保の頃、茅場町の棒手振り文吉は納豆や豆腐を売って日銭を稼ぐその日暮らしをしていたが、隣町の八丁堀に医師のお得意さんがあり顔馴染みであった。
「随分と御盛況で、結構なことですね」、文吉が医師に声をかけると、「医は商売ではない。仁術じゃ」と殊勝な答えがいつも返ってくる。
文吉は、くだんの医師とのやりとりで、医師が無免許で開業できることを知り、自分にだってドクダミの区別ぐらいはついて野で摘める、自分にだってこの見入りのいい商売が出来そうだと考えた。
文吉は、八丁堀では流石に気がひけ、未だ野の広がる広尾で、裏に竹藪のある一軒を借りて、自ら小藪無苦斎と称し開業し始めた。
竹藪にはドクダミが自生していたので、ろくな薬学の知識がない小藪にとっては好都合、どのような症状の患者が来てもドクダミの一手で押し通した。
江戸はことに夏場は、多摩川からひいた生水で当たる町人も少なくなかったので、下手な鉄砲も数射てば当たるとばかり、このドクダミが少々の効を奏して町方だけでなく武家のものまでが小藪の所に来るようになった。
小藪は、武家屋敷の者が来るようなら八丁堀の先生のように体裁を整えなければと思い、身辺の雑事を任せる小者を雇うようになった。
春先、高輪の薩摩藩邸から見目麗しい女中が血の道が不順で腹痛を訴えて来るようになったので、三十路独身の小藪は張り切らないわけがなかった。
「先生、お腹が痛いのです」、小藪は早速に小者を呼びつけ、裏の竹藪でドクダミを採ってくるよう指示したが、しばらくして小者が持って来たものは、はたしてタケノコであった。
小藪が意中の女性の前で恥をかかせられたと思って激昂し、拳を振り上げたところ、小者は平身低頭して懇願した「先生、どうか足蹴にして下さいまし、先生の手にかかったら命が危ないですから」。
「随分と御盛況で、結構なことですね」、文吉が医師に声をかけると、「医は商売ではない。仁術じゃ」と殊勝な答えがいつも返ってくる。
文吉は、くだんの医師とのやりとりで、医師が無免許で開業できることを知り、自分にだってドクダミの区別ぐらいはついて野で摘める、自分にだってこの見入りのいい商売が出来そうだと考えた。
文吉は、八丁堀では流石に気がひけ、未だ野の広がる広尾で、裏に竹藪のある一軒を借りて、自ら小藪無苦斎と称し開業し始めた。
竹藪にはドクダミが自生していたので、ろくな薬学の知識がない小藪にとっては好都合、どのような症状の患者が来てもドクダミの一手で押し通した。
江戸はことに夏場は、多摩川からひいた生水で当たる町人も少なくなかったので、下手な鉄砲も数射てば当たるとばかり、このドクダミが少々の効を奏して町方だけでなく武家のものまでが小藪の所に来るようになった。
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