1 / 1
紙屋与平 2
しおりを挟む
-江戸元禄
与平は、江戸の人形町で紙屋の商いをしている。
風光る季節、隅田川の水面がキラキラと光り、棒手振りの声も朝から威勢がいい。
「納豆~納豆~」「豆腐~豆腐~」
「よっ、紙を少し分けてくれねーかな」
馴染みの金物屋の大吉が、手拭いで汗を拭き拭き、客としてやって来た。
「安い紙が沢山入ったよ」
与平は、浅草の浅草紙を指した。
「随分と黒っぽい紙だな。いつもの和紙はねえのかい。こちとら新しい鍋を売り出したいのさ」
「上方の上等なやつが入ったよ。一枚十文」
「ちっと高えな。そっちの黒い紙でいいや」
「これは、十枚一文でいいや。古紙をまた漉いた奴なんでね」
与平は、大吉を見送ると軒先の雀にコメを少し撒いて与えた。
「チッ、しけた客だぜ」
雀がチュンチュと啄ばんでいたが、呉服屋の女将が来たらさっさと飛び去った。
「今度、上方の呉服を売り出したいの。お品書きに忙しいから、上等な紙がほしくてさ」
「何か最近、皆さん景気がいいっすね」
「そうなの、改元してからお城からの注文も多くてさ」
女将は、扇子で口元を隠して笑みをかみ殺した。
「ところで与平さん。お義父さんが労咳でね、なかなか良くならないんだけど、いい知恵はない?」
「鯉こくがいいって聞きやしたよ。鯉を味噌で煮込んだやつで」
「まあ、鯉が」
女将は、さも得心がいったという風に頷くと、先々の分まで金一分を置いた。
「品物は、すぐに日本橋の方まで届けさしますので、まいどあり~」
与平は、時代の潮目に手応えを感じた。
「あんた、随分と商い気張ってくれたじゃないのさ」
その日の昼餉には、女房の機嫌も宜しく、初鰹の切り身が一品ついた。
与平は、江戸の人形町で紙屋の商いをしている。
風光る季節、隅田川の水面がキラキラと光り、棒手振りの声も朝から威勢がいい。
「納豆~納豆~」「豆腐~豆腐~」
「よっ、紙を少し分けてくれねーかな」
馴染みの金物屋の大吉が、手拭いで汗を拭き拭き、客としてやって来た。
「安い紙が沢山入ったよ」
与平は、浅草の浅草紙を指した。
「随分と黒っぽい紙だな。いつもの和紙はねえのかい。こちとら新しい鍋を売り出したいのさ」
「上方の上等なやつが入ったよ。一枚十文」
「ちっと高えな。そっちの黒い紙でいいや」
「これは、十枚一文でいいや。古紙をまた漉いた奴なんでね」
与平は、大吉を見送ると軒先の雀にコメを少し撒いて与えた。
「チッ、しけた客だぜ」
雀がチュンチュと啄ばんでいたが、呉服屋の女将が来たらさっさと飛び去った。
「今度、上方の呉服を売り出したいの。お品書きに忙しいから、上等な紙がほしくてさ」
「何か最近、皆さん景気がいいっすね」
「そうなの、改元してからお城からの注文も多くてさ」
女将は、扇子で口元を隠して笑みをかみ殺した。
「ところで与平さん。お義父さんが労咳でね、なかなか良くならないんだけど、いい知恵はない?」
「鯉こくがいいって聞きやしたよ。鯉を味噌で煮込んだやつで」
「まあ、鯉が」
女将は、さも得心がいったという風に頷くと、先々の分まで金一分を置いた。
「品物は、すぐに日本橋の方まで届けさしますので、まいどあり~」
与平は、時代の潮目に手応えを感じた。
「あんた、随分と商い気張ってくれたじゃないのさ」
その日の昼餉には、女房の機嫌も宜しく、初鰹の切り身が一品ついた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
【時代小説】 黄昏夫婦
蔵屋
歴史・時代
江戸時代、東北地方の秋田藩は貧かった。
そんな中、真面目なひとりの武士がいた。同僚からは馬鹿にされていたが真面目な男であった。俸禄は低く貧しい。娘二人と実母との4人暮らし。
秋田藩での仕事は勘定方である。
仕事が終わると真っ直ぐ帰宅する。
ただひたすら日中は城中では勘定方の仕事をまじめにして、帰宅すれば論語を読んで知識を習得する。
そんな毎日であった。彼の名前は立花清左衛門。年齢は35歳。
娘は二人いて、一人はとめ15歳。もう一人は梅、8歳。
さて|黄昏《たそがれ》は、一日のうち日没直後、雲のない西の空に夕焼けの名残りの「赤さ」が残る時間帯のことを言う。「|黄昏時《たそがれどき)」。 「黄昏れる《たそがれる》」という動詞形もある。
「たそがれ」は、江戸時代になるまでは「たそかれ」といい、「たそかれどき」の略でよく知られていた。夕暮れの人の顔の識別がつかない暗さになると誰かれとなく、「そこにいるのは誰ですか」「誰そ彼(誰ですかあなたは)」とたずねる頃合いという意味で日常会話でよく使われた。
今回の私の小説のテーマはこの黄昏である。
この風習は広く日本で行われている。
「おはようさんです」「これからですか」「お晩でございます。いまお帰りですか」と尋ねられれば相手も答えざるを得ず、互いに誰であるかチェックすることでヨソ者を排除する意図があったとされている。
「たそかれ」という言葉は『万葉集』に
誰そ彼と われをな問ひそ 九月の 露に濡れつつ 君待つわれそ」
— 『万葉集』第10巻2240番
と登場するが、これは文字通り「誰ですかあなたは」という意味である。
「平安時代には『うつほ物語』に「たそかれどき」の用例が現れ、さらに『源氏物語』に
「寄りてこそ それかとも見め たそかれに ほのぼの見つる 夕顔の花」
— 『源氏物語』「夕顔」光源氏
と、現在のように「たそかれ」で時間帯を表す用例が現れる。
なおこの歌は、帖と登場人物の名「夕顔」の由来になった夕顔の歌への返歌である。
またこの言葉の比喩として、「最盛期は過ぎたが、多少は余力があり、滅亡するにはまだ早い状態」をという語句の用い方をする。
漢語「|黄昏《コウコン》」は日没後のまだ完全に暗くなっていない時刻を指す。「初昏」とも呼んでいた。十二時辰では「戌時」(午後7時から9時)に相当する。
「たそがれ」の動詞化の用法。日暮れの薄暗くなり始めるころを指して「空が黄昏れる」や、人生の盛りを過ぎ衰えるさまを表現して「黄昏た人」などのように使用されることがある。
この物語はフィクションです。登場人物、団体等実際に同じであっても一切関係ありません。
それでは、小説「黄昏夫婦」をお楽しみ下さい。
読者の皆様の何かにお役に立てれば幸いです。
作家 蔵屋日唱
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる