根来半四郎江戸詰密偵帳

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06 わが父 幽玄斎

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半四郎の話によるとこうである。
 
1611年1月、家康は伏見の二条城に半四郎の父である幽玄斎を呼びつけた。
  「大御所様におきましては恐悦至極に御座います」、幽玄斎は御前にて平身低頭の礼を執った。
  「面をあげい、幽玄斎。関ケ原では、おぬしら根来の鉄砲衆にはいたく世話になった」、「勿体無いお言葉に御座います」、幽玄斎は恐縮した。
  「実はな幽玄斎、今日は折り入って頼みがあって来てもらったのじゃ」、家康は脇息を傍らにやった。「近くワシはここ二条城で、秀頼と会見する」、「はい、根来の一党にも聞き及んでおりまする」。
  「そこでじゃ、天下統一の仕上げにもう一働きして貰いたいのじゃ」、「と、申しますと?」、「秀頼が城に入る直前、これを狙い撃って貰いたい!」、家康の言葉には勅命の響きがあった。
 「しかし、大御所様、それは暗殺、武士が戦場で正々堂々と渡り合うのとは違いまする。余りに卑怯な手口.....」、幽玄斎はホゾを噛んだ。
 「幽玄斎、子供じみた事を言うてはならん。おぬしが秀頼を仕末しなかったら、儂はあの堅固な大坂城を二度三度攻めなくてはならん。それで敵味方の将兵がどれ程死傷するのか?」。
 「いかに大御所様の御言葉と言えど、武士の本懐にもとる事は出来ません」、幽玄斎は頑なに拒んだ。「お前が秀頼を射殺しても、お前が罪を被る事は無いのじゃ。豊臣に怨みを持つものなど他にいくらでもいる」、幽玄斎は怪訝な顔をした。
 「太閤に兵糧攻めにあって滅んだ北条家の浪人を既に捕らえて牢に繋いである。おぬしが秀頼を射殺したら、その浪人をその場で斬って首を城門に晒せば良い。熱りが冷めた頃にお前には紀州をやっても良いのだぞ!」、家康が好条件を突き付けた。
 「大御所様、この幽玄斎、平地での斬り合いでしたら、身命を賭して大御所様の陣地を御守りいたしまする。しかし暗殺に加担するのだけは、平にご容赦を!」、ここで家康の堪忍袋の緒が切れた。「幽玄斎!紀州の片田舎に戻って、蟄居閉門しとれ!おって沙汰するでな!」。
 幽玄斎はこうして紀州に戻され、切腹こそ免れたものの、家禄は三十俵二人扶持に減封された。
(続く)
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