東京辺鄙人の冒険

dragon49

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東京辺鄙人の冒険

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 東京は23区の西のはずれ、JR五日市駅からバスで山奥にまで行った東京では数少ない村落部落のH村に生まれた中村一郎は、大自然に囲まれたこの集落にバブル期を迎えて村に微かな変化が現れたのを発見した。
  一郎も思春期をとっくに過ぎた独身三十路である、偶に見かける猿や鹿が春先になって交尾をしているのを見かけると人間はなんと不便なものよ、ことセックスに関しては不自由なものよと慚愧の想いに耐えない。
  村では山の斜面を利用して蒟蒻芋を作ったり、ワラビやゼンマイなどの山菜を採って塩漬けにしたりと、季節ごとの仕事しかないので、農閑期の冬には温泉場の雑務をするしかなく、一郎には定職がない。
   旧盆の頃、一郎が谷川でワサビを採って村一軒の温泉宿に届けると、そこでウォークマンをしている脚の長い女子の一団が嬌声をあげているのを見つけたが、皆一様に一郎を類人猿でも見るような上から目線の白眼視である。
  「どうして俺には、ああいう風な女の子がくっつかないのかな?」、逡巡した一郎が意を決して、宿の食堂で山菜蕎麦を作っている賄いの婆に聞いてみると、「最近ではギャルっていうらしいよ。都会に出てみなさいよ、あんなのがいっぱいいるよー」という答えであった。
 どうして都会のギャルは、ああ輝いて見えるのだろう?
  学校の歴史の授業で桶狭間の話が印象に残っていた一郎は、まず都会の急所を抑えんと銀座に出てハンバーガーを食べたてみたが、牛肉が食べつけないせいか脂っこく、鹿の肉が欲しくなった。
  「この辺の土地が世界で一番高いって?」、目前をミニスカートやホットパンツで闊歩するギャルを茫然と見送りながら、一郎にはその理由が全く分からず不思議でたまらなかった。
  以前からテレビで見てから一度は口にしてみたいと思っていた寿司は、銀座では天文学的な値段だったので、一郎は次に庶民の匂いのする新宿に出てみた。
  甲州街道に連なる旧宿場町の新宿は、寿司がルーレットのように回り、勘定はあっという間に二千円を超えたので一郎は分を越えた自分を発見した。
  「この街は、狐に取り憑かれて総じて発狂している」、結局ギャルには一声も掛けずコーラを口にした一郎は、新宿を後にして虚しく村に帰っていった。

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