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Phase 1 生まれ変わってもブラック会社に勤めていた迷宮探索者の憂鬱
第2話 30階層の階層主
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目の前に現れたのは、全身が砂でできた人型の魔物だった。
「砂巨人?!」
思わず聞いたことがあるだけの、その名を呟く。
遠い異国で、砂漠を旅している時に遭遇することがあるという。
名前だけは聞いたことがあったが、実物を見るのは初めてだったし、どんな魔物なのかの予備知識もない。
「≪火炎柱≫!」
敵が姿を成すの同時にパーシィの魔法が炸裂する。
目の前に現れた敵は予定と違ったが、打ち合わせの通りにパーシィは先制攻撃の魔法を唱えたのだ。
砂巨人の足元から巨大な炎の柱が上がる。炎の柱によって、砂巨人の体の表面の砂が大きく波打った。
だがそれはすぐに元の形へと戻ってゆき、そして俺たちに向かってゆっくりと歩き出した。
「なんだこいつは?ロキ!どうすりゃいい?」
「新しい階層主だ!一定回数以上ボスが倒されると、バージョンアップしたり違うボスと入れ替わるっていうアレだ!悪い、俺もこの魔物は初めて見る!」
ダンジョンには特有の法則がある。その原因も理論も何も分からないが、確かに一定の法則が存在しているのだ。
その一つがボスの強化。
何度も何度も階層主が討伐されると、あるタイミングから階層主が強くなったり、違う階層主に入れ替わったりすることがあるのだ。
新しい階層主についての情報が広まれば対策も練れるが、その入れ替わりのタイミングで遭遇してしまうとは運が悪いというしかない。
そういう間にノエルは、仲間たちの前に出て砂巨人と対峙する。
砂巨人のリーチの長い右腕から、パンチが振り下ろされる。
ノエルは正面に構えた大きな盾でそれを受け止めるも、大きな衝撃に「うおっ!」という声をもらしながら後ろへよろめく。
「なんつー力だよ!」
ノエルに怪我はなさそうだ。
次の瞬間、後衛のチェインの放った矢が砂巨人に突き刺さる。だが矢は静かに砂に飲み込まれるだけで、なんのダメージも与えている様子はない。
それに動揺したチェインが情けない声を出す。
「ロキさん、どうしよう?」
「どこかに弱点はあるはずだ!観察しろ!」
そう言うロキも、最初からずっと砂巨人の弱点はどこかと観察を続けている。
今度は砂巨人の拳を交わしたノエルが大剣で攻撃をしかけるが、剣で切った跡は何事もなかったかのように元に戻っていた。
砂でできた肉体に剣の攻撃は通用しないらしい。
「くっそ!まるで感触がねえ!斬撃は効果ねえぞ!」
「≪火炎球≫! 」
続いてパーシィの魔法が再び唱えられる。パーシィの杖の先に発生した火の玉が砂巨人の頭部に炸裂する。
炎は砂巨人の頭部の砂を飛散させたが、すぐにまた再生し、その巨人はゆっくりとまた動き出す。
「効いてない?」
「パーシィ、おそらくこいつ火炎魔法も無効だ!後ろに下がっててくれ!」
「まじかよ!」
パーシィは炎系の魔法しか使えない単種魔法使いだ。炎系魔法の威力は申し分ないのだが、この様子では今回は戦力外になってしまうだろう。
物理攻撃無効で火炎魔法無効。この新しい階層ボスは、ロキたちがジャイアントトロール対策で用意していた装備は全て通用しそうにない。最悪だ。
再び砂巨人のパンチを盾で受け止めたノエルがよろめいていた。いつまでも一人で盾役をするのは耐えられそうにない。
ロキは後ろでの観察を一旦やめ、前へと出る。持っていた剣で砂巨人に切りかかっていった。
ボス部屋へ入ってすぐは退出不能だが、一定時間が経つと入り口から出てゆくことができる。それを時間切れ逃亡と呼んだりしているが、最悪の場合それを狙うしかない。脱出可能となる時間まで粘るとしても、ノエル一人に耐えてもらうのは困難だ。ロキは自分も前に出て少しでもノエルの負担を減らすしかないと判断した。
しかしロキの斬撃は砂でできた砂巨人の体をすりぬけるように通過し、ダメージを与えている様子はない。
返す刀で砂巨人の拳がロキの顔面に襲い掛かる。
間一髪しゃがんでそれを交わすと、ロキは一歩後ろへ下がる。
「気をつけろロキ!まともに食らうと一発でやられるぞ!」
ノエルから激励と共に、支援の一撃が砂巨人に繰り出される。
相変わらず斬撃は砂巨人の体をすり抜けるだけだが、それでも敵は俺たち二人を相手にするのに戸惑っているようだ。
「チェイン!何か見つからないか?」
「だめです!弱点らしきところなんて見あたらない!」
後ろからチェインの弱気な声が響く。
弱気になるのも仕方がない。矢が効かないのだから、弓士のチェインにできることも何もない。
弱点ととして一番最初に疑われる頭部は、先ほどの≪火炎球≫で一時的に吹き飛んだが無傷だった。
他に弱点となりそうな特徴のある部位は見当たらない。もしかしたらこいつは特殊な魔法以外は通用しないのかもしれない。
「最悪は時間切れを狙って撤退する!それまで生き延びることを考えろ!幸いこいつは動きが遅い!変な動きをしないかだけ気を付けるんだ!」
今のところロキとノエルの二人で対処できてはいる。だが全身が砂でできているため、突然形を変えて襲ってくる可能性だってありうる。
第一に生き延びること。第二にこいつを倒すことができる方法を考えることだ。
と、次の瞬間そんな悪い予感が的中した。
なかなかダメージを与えられないことにいらついたのか、砂巨人はただ殴るだけの闘い方をやめ違う戦法に切り替えたのだ。
ドサッという音とともにその姿は崩れ落ちる。地面に広がった砂は、まるで生き物のようにうねりながら動き出した。
慌てて逃げようとしたが、その砂場はあっという間にノエルの足元に広がる。
「ノエル!」
「くそっ!」
ノエルは剣を構え砂巨人が姿を現した瞬間に抵抗しようとしたが、足元から隆起してできた人型の砂はノエルの体を覆いつくした。
窒息する?!
そんなノエルを心配したロキは、次の瞬間魔法を唱える。
「≪突風≫!」
ロキの右手から巻き起こされた突風は砂巨人の胴体へと向かい、ノエルの顔を覆っていた部分の砂が吹き飛ばされた。
視界の開けたノエルは体を覆う砂の重さに抵抗しながら、転がるようにその場から脱出する。
ロキの魔法で吹き飛ばされた部位は、再びゆっくりと砂が集まってゆき元の形へと復元される。
ダメージは与えられていない。だが、ノエルが脱出するチャンスは作ることができたようだ。
「くそっ!顔中砂だらけだ。悪ぃロキ!助かった!さすがは四重魔法使いだな!」
「威力のない初級魔法しか使えないけどな!」
そう。ロキは四種の魔法に適性のある、稀有な四重魔法使いでもある。だが得意とするのは魔法よりも剣。そのためほとんど修行したことがなく、強力な魔法は習得していない。
「大丈夫ですかノエル?」
「ああ」
後ろからノエルを心配するチェインの声。ノエルは武器を構えなおし未だダメージを与えることのかなわない砂巨人に向かい合いながら答え、そして言葉を続ける。
「それよりも、万事休すだぞ。今度あれをやられたら、また逃げられる自信がない」
確かにロキも焦っていた。さっきの攻撃は、ロキの魔法とノエルのタイミングがうまく合ったから逃げ出すことができたが、同じことをまたやれと言われても成功させられる自信はない。
それにノエルの筋力があったからこそあの中から脱出できたのであって、もし自分が取り込まれたら脱出できるかどうかも分からない。
ロキの額から冷や汗が流れ落ちる。
「ロキ!」
「なんだチェイン?」
「さっき突風で胸に穴を開けた時、中に何かありました!」
「何だと?!」
「太陽のような模様の入った石のようなものが一瞬だけ見えました!」
「こっちからは見えなかったぞ!」
「胸の真ん中の奥です!」
「本当か?」
「ええ!おそらくそれが……」
「核か!」
スライムを倒す時には、その体の中にある核と呼ばれる部位を攻撃する必要がある。
同じような不定形生物のこいつにも核があって、それが弱点なのではないか?
今の短い会話からパーティメンバー全員がそう推測をした。
砂の体には物理攻撃が効かないかもしれないが、核には攻撃が入るのではなかろうか。
勝利のきっかけが見えてきたが、一つ問題があった。
その石が砂巨人の核だとして、それをどうやって露出させたらよいのか?ということだ。
先ほどの突風でも一瞬見えただけだと言うし、角度によっては見えなかった。
また見えたとしても、すぐに砂がそれを覆い隠してしまう。
四人がそれぞれその方法を考えていた時、ロキが声を上げた。
「パーシィ!チェイン!核が見えたら攻撃をしてくれ!」
「分かった、だがどうやって?」
そんな話をする間も、ノエルは砂巨人のパンチを盾で受け止める。よく見ると盾の中央が衝撃で変形してきていた。
パーシィの質問に答えるよりも先にロキが動いた。
「≪水球≫!」
ロキの指先に水の塊が発生し、宙に浮いたそれは砂巨人へと飛んで行く。砂巨人に当たった水の玉はパシャっという音とともにはじけ、水は砂に染みていった。明らかに何のダメージも与えられていない。
「ロキ!水球は攻撃魔法じゃないだろう?!」
水球は、飲料水や体や物を洗うための水を発生させるための、生活魔法に分類される魔法の一つ。それを砂巨人に向けて放ったロキの真意がつかめず、パーシィから突っ込みが入る。
だがその声も無視をし、ロキはさらに次の呪文と唱えた。
「≪突風≫!」
先ほどと同じように発生した突風が砂巨人の胸部に穴を開けた。チェインが言ったように胸の奥にある丸い握りこぶし大の石が、今度はロキにも見えた。
核が見えたためチェインとパーシィが慌てて攻撃に入るが、それよりも先に、さらにロキの魔法が唱えられる。
「≪凍結≫!」
凍結の魔法によって水を吸った砂が、砂巨人の核を露出したまま凍り付いた。
ロキの狙いを察した仲間は一斉に攻撃を仕掛ける。
チェインの矢が当たり傷をつける。そしてその次にパーシィの放った火球が炸裂した。
ボン!という大きな爆発音が鳴り、そして次の瞬間、砂巨人の肉体はボロボロと崩れ落ちていった。
地面に落ちていった砂はやがて煙となり、そしてその姿は完全に消えた。
砂巨人を倒したのだ。
そこにはひときわ大きな魔石が残っていた。
「やったか!」
砂巨人を倒したことを確認すると、仲間たちから歓喜の声が漏れる。
安堵もつかの間、ロキが突然片膝をついてしゃがみ込んだ。
「どうしたロキ?!どこか怪我か?」
慌ててチェインが回復薬を用意しようとすると、ロキは右手を軽く上げそれを制止した。
「魔力切れだ……」
「え?」
ロキは魔法は専門ではない。教わったことがあるという程度だ。そのため総魔力量も大して無く、数回の初級魔法行使によって魔力切れを起こしてしまい、気分が悪くなってしまっていた。
そんな情けない姿を仲間たちに笑われた後、動けるようになるまで少し休憩をし、そして一度31階層に足を踏み入れてから四人は地上へと帰還した。
「砂巨人?!」
思わず聞いたことがあるだけの、その名を呟く。
遠い異国で、砂漠を旅している時に遭遇することがあるという。
名前だけは聞いたことがあったが、実物を見るのは初めてだったし、どんな魔物なのかの予備知識もない。
「≪火炎柱≫!」
敵が姿を成すの同時にパーシィの魔法が炸裂する。
目の前に現れた敵は予定と違ったが、打ち合わせの通りにパーシィは先制攻撃の魔法を唱えたのだ。
砂巨人の足元から巨大な炎の柱が上がる。炎の柱によって、砂巨人の体の表面の砂が大きく波打った。
だがそれはすぐに元の形へと戻ってゆき、そして俺たちに向かってゆっくりと歩き出した。
「なんだこいつは?ロキ!どうすりゃいい?」
「新しい階層主だ!一定回数以上ボスが倒されると、バージョンアップしたり違うボスと入れ替わるっていうアレだ!悪い、俺もこの魔物は初めて見る!」
ダンジョンには特有の法則がある。その原因も理論も何も分からないが、確かに一定の法則が存在しているのだ。
その一つがボスの強化。
何度も何度も階層主が討伐されると、あるタイミングから階層主が強くなったり、違う階層主に入れ替わったりすることがあるのだ。
新しい階層主についての情報が広まれば対策も練れるが、その入れ替わりのタイミングで遭遇してしまうとは運が悪いというしかない。
そういう間にノエルは、仲間たちの前に出て砂巨人と対峙する。
砂巨人のリーチの長い右腕から、パンチが振り下ろされる。
ノエルは正面に構えた大きな盾でそれを受け止めるも、大きな衝撃に「うおっ!」という声をもらしながら後ろへよろめく。
「なんつー力だよ!」
ノエルに怪我はなさそうだ。
次の瞬間、後衛のチェインの放った矢が砂巨人に突き刺さる。だが矢は静かに砂に飲み込まれるだけで、なんのダメージも与えている様子はない。
それに動揺したチェインが情けない声を出す。
「ロキさん、どうしよう?」
「どこかに弱点はあるはずだ!観察しろ!」
そう言うロキも、最初からずっと砂巨人の弱点はどこかと観察を続けている。
今度は砂巨人の拳を交わしたノエルが大剣で攻撃をしかけるが、剣で切った跡は何事もなかったかのように元に戻っていた。
砂でできた肉体に剣の攻撃は通用しないらしい。
「くっそ!まるで感触がねえ!斬撃は効果ねえぞ!」
「≪火炎球≫! 」
続いてパーシィの魔法が再び唱えられる。パーシィの杖の先に発生した火の玉が砂巨人の頭部に炸裂する。
炎は砂巨人の頭部の砂を飛散させたが、すぐにまた再生し、その巨人はゆっくりとまた動き出す。
「効いてない?」
「パーシィ、おそらくこいつ火炎魔法も無効だ!後ろに下がっててくれ!」
「まじかよ!」
パーシィは炎系の魔法しか使えない単種魔法使いだ。炎系魔法の威力は申し分ないのだが、この様子では今回は戦力外になってしまうだろう。
物理攻撃無効で火炎魔法無効。この新しい階層ボスは、ロキたちがジャイアントトロール対策で用意していた装備は全て通用しそうにない。最悪だ。
再び砂巨人のパンチを盾で受け止めたノエルがよろめいていた。いつまでも一人で盾役をするのは耐えられそうにない。
ロキは後ろでの観察を一旦やめ、前へと出る。持っていた剣で砂巨人に切りかかっていった。
ボス部屋へ入ってすぐは退出不能だが、一定時間が経つと入り口から出てゆくことができる。それを時間切れ逃亡と呼んだりしているが、最悪の場合それを狙うしかない。脱出可能となる時間まで粘るとしても、ノエル一人に耐えてもらうのは困難だ。ロキは自分も前に出て少しでもノエルの負担を減らすしかないと判断した。
しかしロキの斬撃は砂でできた砂巨人の体をすりぬけるように通過し、ダメージを与えている様子はない。
返す刀で砂巨人の拳がロキの顔面に襲い掛かる。
間一髪しゃがんでそれを交わすと、ロキは一歩後ろへ下がる。
「気をつけろロキ!まともに食らうと一発でやられるぞ!」
ノエルから激励と共に、支援の一撃が砂巨人に繰り出される。
相変わらず斬撃は砂巨人の体をすり抜けるだけだが、それでも敵は俺たち二人を相手にするのに戸惑っているようだ。
「チェイン!何か見つからないか?」
「だめです!弱点らしきところなんて見あたらない!」
後ろからチェインの弱気な声が響く。
弱気になるのも仕方がない。矢が効かないのだから、弓士のチェインにできることも何もない。
弱点ととして一番最初に疑われる頭部は、先ほどの≪火炎球≫で一時的に吹き飛んだが無傷だった。
他に弱点となりそうな特徴のある部位は見当たらない。もしかしたらこいつは特殊な魔法以外は通用しないのかもしれない。
「最悪は時間切れを狙って撤退する!それまで生き延びることを考えろ!幸いこいつは動きが遅い!変な動きをしないかだけ気を付けるんだ!」
今のところロキとノエルの二人で対処できてはいる。だが全身が砂でできているため、突然形を変えて襲ってくる可能性だってありうる。
第一に生き延びること。第二にこいつを倒すことができる方法を考えることだ。
と、次の瞬間そんな悪い予感が的中した。
なかなかダメージを与えられないことにいらついたのか、砂巨人はただ殴るだけの闘い方をやめ違う戦法に切り替えたのだ。
ドサッという音とともにその姿は崩れ落ちる。地面に広がった砂は、まるで生き物のようにうねりながら動き出した。
慌てて逃げようとしたが、その砂場はあっという間にノエルの足元に広がる。
「ノエル!」
「くそっ!」
ノエルは剣を構え砂巨人が姿を現した瞬間に抵抗しようとしたが、足元から隆起してできた人型の砂はノエルの体を覆いつくした。
窒息する?!
そんなノエルを心配したロキは、次の瞬間魔法を唱える。
「≪突風≫!」
ロキの右手から巻き起こされた突風は砂巨人の胴体へと向かい、ノエルの顔を覆っていた部分の砂が吹き飛ばされた。
視界の開けたノエルは体を覆う砂の重さに抵抗しながら、転がるようにその場から脱出する。
ロキの魔法で吹き飛ばされた部位は、再びゆっくりと砂が集まってゆき元の形へと復元される。
ダメージは与えられていない。だが、ノエルが脱出するチャンスは作ることができたようだ。
「くそっ!顔中砂だらけだ。悪ぃロキ!助かった!さすがは四重魔法使いだな!」
「威力のない初級魔法しか使えないけどな!」
そう。ロキは四種の魔法に適性のある、稀有な四重魔法使いでもある。だが得意とするのは魔法よりも剣。そのためほとんど修行したことがなく、強力な魔法は習得していない。
「大丈夫ですかノエル?」
「ああ」
後ろからノエルを心配するチェインの声。ノエルは武器を構えなおし未だダメージを与えることのかなわない砂巨人に向かい合いながら答え、そして言葉を続ける。
「それよりも、万事休すだぞ。今度あれをやられたら、また逃げられる自信がない」
確かにロキも焦っていた。さっきの攻撃は、ロキの魔法とノエルのタイミングがうまく合ったから逃げ出すことができたが、同じことをまたやれと言われても成功させられる自信はない。
それにノエルの筋力があったからこそあの中から脱出できたのであって、もし自分が取り込まれたら脱出できるかどうかも分からない。
ロキの額から冷や汗が流れ落ちる。
「ロキ!」
「なんだチェイン?」
「さっき突風で胸に穴を開けた時、中に何かありました!」
「何だと?!」
「太陽のような模様の入った石のようなものが一瞬だけ見えました!」
「こっちからは見えなかったぞ!」
「胸の真ん中の奥です!」
「本当か?」
「ええ!おそらくそれが……」
「核か!」
スライムを倒す時には、その体の中にある核と呼ばれる部位を攻撃する必要がある。
同じような不定形生物のこいつにも核があって、それが弱点なのではないか?
今の短い会話からパーティメンバー全員がそう推測をした。
砂の体には物理攻撃が効かないかもしれないが、核には攻撃が入るのではなかろうか。
勝利のきっかけが見えてきたが、一つ問題があった。
その石が砂巨人の核だとして、それをどうやって露出させたらよいのか?ということだ。
先ほどの突風でも一瞬見えただけだと言うし、角度によっては見えなかった。
また見えたとしても、すぐに砂がそれを覆い隠してしまう。
四人がそれぞれその方法を考えていた時、ロキが声を上げた。
「パーシィ!チェイン!核が見えたら攻撃をしてくれ!」
「分かった、だがどうやって?」
そんな話をする間も、ノエルは砂巨人のパンチを盾で受け止める。よく見ると盾の中央が衝撃で変形してきていた。
パーシィの質問に答えるよりも先にロキが動いた。
「≪水球≫!」
ロキの指先に水の塊が発生し、宙に浮いたそれは砂巨人へと飛んで行く。砂巨人に当たった水の玉はパシャっという音とともにはじけ、水は砂に染みていった。明らかに何のダメージも与えられていない。
「ロキ!水球は攻撃魔法じゃないだろう?!」
水球は、飲料水や体や物を洗うための水を発生させるための、生活魔法に分類される魔法の一つ。それを砂巨人に向けて放ったロキの真意がつかめず、パーシィから突っ込みが入る。
だがその声も無視をし、ロキはさらに次の呪文と唱えた。
「≪突風≫!」
先ほどと同じように発生した突風が砂巨人の胸部に穴を開けた。チェインが言ったように胸の奥にある丸い握りこぶし大の石が、今度はロキにも見えた。
核が見えたためチェインとパーシィが慌てて攻撃に入るが、それよりも先に、さらにロキの魔法が唱えられる。
「≪凍結≫!」
凍結の魔法によって水を吸った砂が、砂巨人の核を露出したまま凍り付いた。
ロキの狙いを察した仲間は一斉に攻撃を仕掛ける。
チェインの矢が当たり傷をつける。そしてその次にパーシィの放った火球が炸裂した。
ボン!という大きな爆発音が鳴り、そして次の瞬間、砂巨人の肉体はボロボロと崩れ落ちていった。
地面に落ちていった砂はやがて煙となり、そしてその姿は完全に消えた。
砂巨人を倒したのだ。
そこにはひときわ大きな魔石が残っていた。
「やったか!」
砂巨人を倒したことを確認すると、仲間たちから歓喜の声が漏れる。
安堵もつかの間、ロキが突然片膝をついてしゃがみ込んだ。
「どうしたロキ?!どこか怪我か?」
慌ててチェインが回復薬を用意しようとすると、ロキは右手を軽く上げそれを制止した。
「魔力切れだ……」
「え?」
ロキは魔法は専門ではない。教わったことがあるという程度だ。そのため総魔力量も大して無く、数回の初級魔法行使によって魔力切れを起こしてしまい、気分が悪くなってしまっていた。
そんな情けない姿を仲間たちに笑われた後、動けるようになるまで少し休憩をし、そして一度31階層に足を踏み入れてから四人は地上へと帰還した。
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