迷宮探索者の憂鬱

焔咲 仄火

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Phase 1 生まれ変わってもブラック会社に勤めていた迷宮探索者の憂鬱

第4話 奇妙な夢

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★★★★★★★★

 ……まっすぐな廊下を歩いていた。
 向かいから歩いてくる二人組の男の話し声が聞こえる。

「そういや営業の〇〇、今週出てきてないらしいな」

「あいつも倒れたんだってよ。最近何日も家に帰ってなかったらしいし、無理しすぎだったんだよ」

 俺は思わず話しかけてしまう。

「本当かそれ?」

「え?誰?」

「あ、すいません、俺は〇〇と同期で……」

 思わず声を掛けてしまったが、この二人とは初対面だ。
 同期で営業の〇〇が倒れたと聞いてびっくりしてしまったのだ。
 あいつはけっこう営業成績が良いという噂は聞いていたのだが……。

「あ、ああ……。同期なんだ。なんか〇〇の奴、月曜日に体調不良で休むって連絡があって、そのまま今週出てきていないみたいだよ。過労が祟っておかしくなったんじゃないかな?先週も毎日てっぺん(24時)すぎまで仕事してたみたいだし、サービス残業入れたら余裕で100時間超えてたんじゃない?」

「そういや営業って先月誰か病んで退職してたよな。それもあって余計大変だったんじゃないの?」

 100時間……。サービス残業なら俺も人の事を言えたもんじゃないが、俺よりも大変なやつはたくさんいるんだなと改めて思った。
 可哀想と思えば良いのか、会社を恨めばいいのか、このやり場のない感情の持っていく場所が分からない。

「開発の〇〇も先月からノイローゼで休んでるって聞いたぜ。あと総務部も誰か休職中だったよな。ウチの会社そんなのばっかだな」

「離職率も高すぎだよな。それも40代の働き盛りが辞めるっていうね」

 〇〇は俺と同期で、今年40歳になる。無理が効かない年ごろなのか……。
 もしかしてあいつもこのまま辞めてしまうのだろうか……。

「あ、すいませんでした……、それじゃ」

「ああ、じゃあ」

 そういって二人と別れる。
 そうして廊下を通り抜け、職場に戻る。
 そこにはなぜかカンカンになっている上司が待ち構えていた。

「おい、〇〇!」
「はい?」

 名前を呼ばれ、上司の横まで歩いてゆく。

「これはどうなってるんだ?俺が言ったのと違うじゃないか!」

「いえ、それは言われた通り……」

「口ごたえするな!」

 俺の返事を遮り、突然大きな声を出して恫喝してきた。

「おまえ俺を舐めてんのか?俺はおまえなんかより、ずっと長くこの会社に勤めてんだぞ?」

 黙ったまま、勤続年数くらいしか誇れるものはないのか?と呆れる。

「なんだてめえその顔は?あ?言いたいことあんなら言えよ!」

「いえ……」

 突然火が付いたように怒り出したそのテンションについていけない。
 俺は、無表情のまま固まってしまう。

「言いたいことがないなら、俺の言うことが分かったってことだよな?じゃあこれは、今日中に直しておけよ!俺は先に帰るからな」

「はい……」

 俺が言い返さないことで自分の理不尽に納得したと思われるのも癪に障るが、まともに相手をしていると時間の無駄だ。
 意味不明な説教が手短に終わったことにほっとする。
 俺が席に戻ると、まもなくして上司は部屋を去り、俺が部屋に一人残された。
 PCに映し出される画面には、修正箇所を指示する注釈がたくさん張り付いた表が表示されていた。

「なんだよこれ、こんなくだらない指摘書いてる暇あったら、直接自分で入力して直せばいいじゃねえか。余計な仕事増やしてるだけだろ……それにこんな資料の隅の文章まで直せって、誰もこんな細かい言い回し気にしねえよ……」

 ぶつぶつと独り言をつぶやきながら作業を続ける。
 時計の針はさらに進み、部屋の中にはキーボードをたたく音が響く。

 全ての仕事が終わった頃、時計は23時を回っていた。
 終電はない。タクシーを使うほど裕福でもない。アパートまでおよそ3km。今夜も歩いて帰るしかない。
 せめて終電までに帰れるようになりたいなと思いながら、職場を出た。

★★★★★★★★

 今朝も変な夢を見てしまった。
 なんだろう?毎日の夢の話が繋がっているのだろうか?別々の夢なのだろうか?
 細かい夢の内容は忘れたが、とにかく疲れる夢だった。
 最近この手の夢をよく見るせいで、なんだか疲れが取れない。
 むしろ寝るほど疲れるような気もする。
 いや、夢のせいでない。働きすぎのせいだろう。
 今日は久しぶりの休みだ。
 ゆっくり休みたいが、昨日早く帰ってしまったせいで明日からのパーティ編成とノルマを確認してくるのを忘れてしまった。
 朝レギオンに行って確認してこよう。場合によっては明日からの装備の準備をしておかなければいけない。

★★★★★★★★

「はあ?新人研修?」

 ロキが寮から会社レギオンへ出社し、明日からのパーティ編成を質問すると、驚くべき回答が返ってきた。
 それは、今日これからレギオンの新人に対しての、迷宮での実技研修指導の命令だった。

「待ってくれよ!俺は今日は、休みの予定だろ?一か月ぶりの休みなんだぜ?」

「仕方ないだろう。他に都合の合うやつがいなかったんだ」

「いや、それは俺は関係ないだろ?そっちの計画が悪いんじゃねえか!」

「自分の都合ばかり言うな!お前が見てやらなきゃ、新人たちの育成が遅れるだろ!そしたらそれだけレギオンの収入が減って、回りまわってお前の給料だって減ることになるんだぞ!」

「だからって休みの俺に仕事させるなよ!」

「じゃあどうしろって言うんだ?できないと言うなら代謝案を出せ!」

「それを考えるのはシフトを計画してるお前らの仕事だろう!なんでも俺に押し付けるなよ!」

「言い訳ばかりするな!こっちは忙しいんだ!何でもかんでも事務員に仕事を押し付けるな!」

「だから押し付けてるのはそっちの方だろうっつってんの!どうせあれだろ?新人研修なんてやりたくないってみんなに断られたんだろ?」

「そうだ!お前もそうだが、どいつもこいつも人を育てる気がないやつばかり。人が育たないレギオンはいつか潰れるぞ!新人育成の大切さをなんで分からないんだ!」

「はぁ……」

 新人研修は嫌がられる仕事だ。
 迷宮探索者はその稼ぎに応じてレギオン内の序列も上がり、良い待遇が得られるようになってゆく。単純に成績が良いほど給料も上がるのだ。
 だが、いくら新人の面倒を見ても手柄を挙げることはできない。迷宮初心者でもできる簡単な浅層探索だからだ。
 だから新人研修の指導という仕事をやりたいなどという奇特な探索者はまずいない。
 つまり押し付けようとしているのだ。
 おそらく昨日の怒鳴りあいの報復だろう。給料を減らされるだけでは済まなかったようだ。

「もう言い合うのも疲れたわ。やりゃあいいんだろ?俺だって新人を育てることの大切さは分かってるよ。俺は休みが欲しいだけだ。代わりの休みは後でもらうからな?」

「まったく、もっと素直に引き受ければいいものを。お前と言い合うのは本当に時間の無駄だ」

「時間の無駄はこっちのセリフだ!」

 そう言い捨ててロキは執務室を出る。
 なんだか今朝見た夢と似ているなと、少しだけ夢の事を思い出した。
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