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Phase 1 生まれ変わってもブラック会社に勤めていた迷宮探索者の憂鬱
第25話 よく考えたら生まれて初めての本気のケンカをした
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大きなリュックを背負い、両手に荷物を抱えながらレオンはレギオンへと帰ってきた。
「いやー、持ち切れなかったわ。もう一回取りに戻らねえと。手が空いてたら手伝ってくれよ!」
ロビーの椅子に座る二人を見てレオンが声をかけると、何やら様子がおかしいことに気が付いた。
ココロがアルマに抱き着いたまま動かない。
アルマもココロを抱きしめたままじっとしている。
二人がいちゃつく邪魔しちゃったかな?と、レオンはおちゃらけようとしたが、アルマの表情が深刻だったためやめた。
するとアルマの方からレオンに話しかけてきた。
「レオンさん……ロキさんが……」
「どうした?何があった?」
アルマの声にレオンも表情を変える。
レオンの問いに、アルマはゆっくりと事情を話し始めた。
レオンは黙ってアルマの話を聞いていた。
「そうか……」
ココロが元いたレギオンで暴力を受けたこと、それを知ったロキが出て行ったことを聞き、レオンはロキが報復しに行ったと悟る。
「レオンさん……私どうしたら……」
「いや、あいつに任せよう」
レオンはけろっとした顔でそう答えた。
話したらレオンが止めに行ってくれると思っていたアルマは、その返答に驚いて言葉を失った。
そんなアルマの気持ちを察してか、レオンは説明をした。
「あいつがやられる姿はなんだか想像できないんだよな。それにあいつが作ったレギオンだ。何があってもあいつが責任取ってくれるだろ?」
「そうは言っても……」
「心配しても仕方ない。ロキを信じて待ってようぜ。な、ココロちゃんも」
「うん……」
少しずつ落ち着きを取り戻していたココロも、レオンの言葉に頷いた。
★★★★★★★★
「おい!何を騒いでいやがる!」
ロキが4人の男を叩きのめした時、奥からこのレギオンの別の探索者が降りてきていた。
その坊主頭の男は、ここにいる連中よりも二回りも体が大きい。身長2m近い巨体に、鍛えられた筋肉の鎧を身にまとっている。
「バイデンさん!殴り込みです!こいつが殴り込んできたんです!」
ゴイスはその坊主頭の大男に、助けを求めるように声をかける。
ゴイスの言葉を受け、坊主頭の大男バイデンはロキをにらみつけた。
「一人で殴り込んで来たのか?いい度胸してるじゃねえか。ゴイス、何もんだこいつは?」
「そいつは、ウチのハーフリングを引き抜いたD級探索者です!」
ロキは反論する。
「引き抜いたなんて言い方はおかしいな。おまえらのパワハラに、耐えかねて辞めたココロを引き取っただけだ」
「パワハラ?なんだそりゃ?」
この世界にパワハラという言葉はない。
ロキの言う言葉を理解できないのも無理はない。
「とにかく、そのゴイスってやつに、ウチのレギオンのココロが暴行を受けた。その償いを受けてもらいに来てんだよ!」
「ゴイス、どういうことだ?」
「はい。ハーフリングのガキが、探索の取り分が足りないとかウチを辞めるとか舐めたことを言いやがったもんでね、教育してやっただけなんですよ」
「なるほどな。へっへへ、そういうことだ。お前も教育されたくなけりゃ、今すぐ謝れば許してやらなくもねえぞ」
「何度も言うが、ココロは今俺たちのレギオンの一員だ。他所のレギオンのメンバーに暴力を振るうことがお前たちにとって『教育』だと言うなら、今から俺がお前ら全員『教育』してやるよ!」
「おいおい、下っ端数人倒したからって、調子に乗るなよチビ?言っておくが、俺はB級探索者だぞ。俺から見たらあのハーフリングのガキだけでなく、おまえら全員チビだ。俺にとってはお前ら全員雑魚なんだよ!」
「口だけならA級だな?いいからかかってこいよ!」
「てめえ!」
ロキの簡単な挑発に対し、面白いように引っ掛かる。
巨体のバイデンはすぐに頭に血が上り、ロキへと向かってきた。
ロキはこの大男に対して、不思議なほど恐怖を感じていなかった。
バイデンの大振りのパンチを身をよじって交わす。
ロキは確信する。間違いない。こいつも動きが雑だ。
ロキはすかさずバイデンのあご当たりへ向けてジャブを放つ。
「うっ!」
けん制であったが、バイデンは必要以上にそれを嫌い、両手で顔を覆うような動作をする。
ロキは左手を引き戻すと同時に身をかがめ、上体を弧を描くように回転させ、バイデンの左横へと移動する。
と同時に後ろに振りかぶった右手を、バイデンの左わき腹へ向けて思い切り振りぬいた。
「うげっ!」
脇腹へのフック。それ自体がノックアウトを狙える一撃であったが、ロキのコンビネーションはそこで終わりではなかった。
ロキは続けざま右ひざを上げ、バイデンの左足太ももへ向けて、斜め上から打ち下ろすように、なたでバットを折るように、バイデンの足の骨を折るように、思い切りローキックを放った。
「ぎゃあああああ!!!」
ロキのローキックを受けたバイデンは、足を押さえて地面をのたうち回った。
激痛に悲鳴を上げ続ける。
ローを放った直後、ロキは一歩下がり構えていたが、もはやバイデンが立ち上がってくることはなかった。
巨漢のバイデンが簡単に倒され、ましてや悲鳴を上げながら地を這っている姿を見たゴイスたちは、恐れに言葉を失っていた。
「さあゴイス、今度こそてめえの番だ。『教育』してやるから、ありがたく思え!」
「ちょっ、待って……」
ゴイスが振り返ると、残っていた仲間二人は走って逃げだしていた。
ゴイスはロキに睨まれ、蛇に睨まれたカエルのように動けずにいた。
一階でロキが大暴れしている最中、そんなレギオンハウスの三階の執務室では、レギオン代表のホークが終わらないデスクワークに頭を悩ませていた。
下でバタバタ騒いでいる音は、先ほどからホークの耳にも聞こえていた。
迷宮探索者という者たちは荒くれ者が多い。またケンカでもしているのだろうか?だとしたら自ら仲裁に行くのも面倒だし、このレギオンで最もギルドランクの高いB級のバイデンに行ってもらおうか、などとホークが考えていると、二人の探索者が部屋を訪ねてきた。
聞けばレギオン内のケンカではなく、このレギオンに殴り込んで来た男がいるという。
一体どういう事だ?と、すぐに理解できなかったが、屈強なはずの探索者たちが自分に助けを求めているようであったため、仕方なくホークも下へと降りてゆく事にした。
念のため二人には対人戦闘に最も効果がありそうな武器の装備を指示する。
そうして一階に降りてきたホークがそこで目にしたのは、信じられない光景だった。
「いやー、持ち切れなかったわ。もう一回取りに戻らねえと。手が空いてたら手伝ってくれよ!」
ロビーの椅子に座る二人を見てレオンが声をかけると、何やら様子がおかしいことに気が付いた。
ココロがアルマに抱き着いたまま動かない。
アルマもココロを抱きしめたままじっとしている。
二人がいちゃつく邪魔しちゃったかな?と、レオンはおちゃらけようとしたが、アルマの表情が深刻だったためやめた。
するとアルマの方からレオンに話しかけてきた。
「レオンさん……ロキさんが……」
「どうした?何があった?」
アルマの声にレオンも表情を変える。
レオンの問いに、アルマはゆっくりと事情を話し始めた。
レオンは黙ってアルマの話を聞いていた。
「そうか……」
ココロが元いたレギオンで暴力を受けたこと、それを知ったロキが出て行ったことを聞き、レオンはロキが報復しに行ったと悟る。
「レオンさん……私どうしたら……」
「いや、あいつに任せよう」
レオンはけろっとした顔でそう答えた。
話したらレオンが止めに行ってくれると思っていたアルマは、その返答に驚いて言葉を失った。
そんなアルマの気持ちを察してか、レオンは説明をした。
「あいつがやられる姿はなんだか想像できないんだよな。それにあいつが作ったレギオンだ。何があってもあいつが責任取ってくれるだろ?」
「そうは言っても……」
「心配しても仕方ない。ロキを信じて待ってようぜ。な、ココロちゃんも」
「うん……」
少しずつ落ち着きを取り戻していたココロも、レオンの言葉に頷いた。
★★★★★★★★
「おい!何を騒いでいやがる!」
ロキが4人の男を叩きのめした時、奥からこのレギオンの別の探索者が降りてきていた。
その坊主頭の男は、ここにいる連中よりも二回りも体が大きい。身長2m近い巨体に、鍛えられた筋肉の鎧を身にまとっている。
「バイデンさん!殴り込みです!こいつが殴り込んできたんです!」
ゴイスはその坊主頭の大男に、助けを求めるように声をかける。
ゴイスの言葉を受け、坊主頭の大男バイデンはロキをにらみつけた。
「一人で殴り込んで来たのか?いい度胸してるじゃねえか。ゴイス、何もんだこいつは?」
「そいつは、ウチのハーフリングを引き抜いたD級探索者です!」
ロキは反論する。
「引き抜いたなんて言い方はおかしいな。おまえらのパワハラに、耐えかねて辞めたココロを引き取っただけだ」
「パワハラ?なんだそりゃ?」
この世界にパワハラという言葉はない。
ロキの言う言葉を理解できないのも無理はない。
「とにかく、そのゴイスってやつに、ウチのレギオンのココロが暴行を受けた。その償いを受けてもらいに来てんだよ!」
「ゴイス、どういうことだ?」
「はい。ハーフリングのガキが、探索の取り分が足りないとかウチを辞めるとか舐めたことを言いやがったもんでね、教育してやっただけなんですよ」
「なるほどな。へっへへ、そういうことだ。お前も教育されたくなけりゃ、今すぐ謝れば許してやらなくもねえぞ」
「何度も言うが、ココロは今俺たちのレギオンの一員だ。他所のレギオンのメンバーに暴力を振るうことがお前たちにとって『教育』だと言うなら、今から俺がお前ら全員『教育』してやるよ!」
「おいおい、下っ端数人倒したからって、調子に乗るなよチビ?言っておくが、俺はB級探索者だぞ。俺から見たらあのハーフリングのガキだけでなく、おまえら全員チビだ。俺にとってはお前ら全員雑魚なんだよ!」
「口だけならA級だな?いいからかかってこいよ!」
「てめえ!」
ロキの簡単な挑発に対し、面白いように引っ掛かる。
巨体のバイデンはすぐに頭に血が上り、ロキへと向かってきた。
ロキはこの大男に対して、不思議なほど恐怖を感じていなかった。
バイデンの大振りのパンチを身をよじって交わす。
ロキは確信する。間違いない。こいつも動きが雑だ。
ロキはすかさずバイデンのあご当たりへ向けてジャブを放つ。
「うっ!」
けん制であったが、バイデンは必要以上にそれを嫌い、両手で顔を覆うような動作をする。
ロキは左手を引き戻すと同時に身をかがめ、上体を弧を描くように回転させ、バイデンの左横へと移動する。
と同時に後ろに振りかぶった右手を、バイデンの左わき腹へ向けて思い切り振りぬいた。
「うげっ!」
脇腹へのフック。それ自体がノックアウトを狙える一撃であったが、ロキのコンビネーションはそこで終わりではなかった。
ロキは続けざま右ひざを上げ、バイデンの左足太ももへ向けて、斜め上から打ち下ろすように、なたでバットを折るように、バイデンの足の骨を折るように、思い切りローキックを放った。
「ぎゃあああああ!!!」
ロキのローキックを受けたバイデンは、足を押さえて地面をのたうち回った。
激痛に悲鳴を上げ続ける。
ローを放った直後、ロキは一歩下がり構えていたが、もはやバイデンが立ち上がってくることはなかった。
巨漢のバイデンが簡単に倒され、ましてや悲鳴を上げながら地を這っている姿を見たゴイスたちは、恐れに言葉を失っていた。
「さあゴイス、今度こそてめえの番だ。『教育』してやるから、ありがたく思え!」
「ちょっ、待って……」
ゴイスが振り返ると、残っていた仲間二人は走って逃げだしていた。
ゴイスはロキに睨まれ、蛇に睨まれたカエルのように動けずにいた。
一階でロキが大暴れしている最中、そんなレギオンハウスの三階の執務室では、レギオン代表のホークが終わらないデスクワークに頭を悩ませていた。
下でバタバタ騒いでいる音は、先ほどからホークの耳にも聞こえていた。
迷宮探索者という者たちは荒くれ者が多い。またケンカでもしているのだろうか?だとしたら自ら仲裁に行くのも面倒だし、このレギオンで最もギルドランクの高いB級のバイデンに行ってもらおうか、などとホークが考えていると、二人の探索者が部屋を訪ねてきた。
聞けばレギオン内のケンカではなく、このレギオンに殴り込んで来た男がいるという。
一体どういう事だ?と、すぐに理解できなかったが、屈強なはずの探索者たちが自分に助けを求めているようであったため、仕方なくホークも下へと降りてゆく事にした。
念のため二人には対人戦闘に最も効果がありそうな武器の装備を指示する。
そうして一階に降りてきたホークがそこで目にしたのは、信じられない光景だった。
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