迷宮探索者の憂鬱

焔咲 仄火

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Phase 1 生まれ変わってもブラック会社に勤めていた迷宮探索者の憂鬱

第26話 決着

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「どうだ?オイ!一方的に暴力を振るわれる恐怖が理解できたか?オイ!オイ!返事しろオイ!」

 ロビーの真ん中では、ゴイスに馬乗りになったロキが、ゴイスの顔を殴りながら説教をしていた。
 顔を腫らせ恐怖の表情を浮かべていたゴイスは、殴られる度に小さな声で、すいません!すいません!と呟いていた。

 周りには何名かの探索者が倒れていた。

 ホークは目を丸くして絶句していた。

 上から降りてきたホークと、剣を持った二人の探索者たちに気が付いたロキは、もはや反撃する気力のかけらもないゴイスの上から立ち上がり、三人へと視線を向ける。
 これまでは何だかんだ「ケンカ」の領域であった。
 だが二人の探索者が持つ剣を見て意識を変える。もしかしたらここからは「殺し合い」の領域に入るかもしれない。

 ホークを守ろうと剣を持った二人が前に出る。
 ホークの指示に従って、二人はそれぞれ対人戦闘に効果の高い武器を選定して持ってきていた。
 一人が持つのは「切り裂きの剣シャープエッジ」。切断力が倍増する効果の付いた迷宮産だ。
 もう一人の持つ深緑色の剣も迷宮産である「麻痺毒の剣パラライザー」、対麻痺能力を持たない魔物であれば、切りつけた部位から毒が回り、だんだんと全身を痺れさせてゆく。
 どちらも人間に対して使ったことはないが、もし人間が切りつけられたら恐ろしいことになるだろう。
 魔物を殺し慣れている迷宮探索者であっても、殺人をしたことはなく、二人の手は震えていた。
 その場には、言いようのない緊張感が漂っていた。

「待ちなさい……」

 自分を守ろうと前に出た二人に対し、ホークは制止する。
 武器は持っていないが、このレギオンで最も力の強いバイデンが倒れている。B級探索者のバイデンを倒したということは、この侵入者が只者ではないということは間違いない。だが、まずは状況を確認したい。相手の目的を知りたい。
 そう思ったホークはロキに話しかけた。

「私はこのレギオン代表のホークといいます。あなたは何者ですか?なぜ私のレギオンを襲うのですか?」

 その質問にロキはイライラした顔で、強い口調で答えた。

「何度も同じこと説明させんな!てめえの部下のこの男が、ウチのココロをリンチしたんだよ!俺のレギオンに手を出してただでおくと思ってんのか?!」

「ココロさんを……?確かにココロさんは昨日ウチのレギオンを辞めましたが、別のレギオンに入れたのですか?」

「入ったっつーか、一緒に新しく作ったんだよ!」

「え……?新しく……、も、もしかして、A級探索者の不死のレオンがレギオンに入ったって噂は……?」

「レオンもウチのレギオンの一員だ。それがどうした?!」

「どこのレギオンで誘っても駄目だった不死のレオンを……」

 ホークの声は震えていた。ロキはホークたちが襲ってくるまで緊張したまま立っている。
 ホークは部下に尋ねる。

「ココロさんを襲ったというのは本当ですか?」

「え?あ、ああ。あのチビが舐めた事を言いやがったもんで、反省させようと思って……」

「そうですか……」

 そしてホークは、ロキに向かって頭を下げた。

「申し訳ありません。ココロさんがあなたたちのレギオンに入ったことを知らず、私の部下たちが暴力を振るってしまったことを謝罪させてください。彼らには相応の罰を与えます。もし必要であればココロさんの治療費も支払わさせていただきますし、彼らにも直接謝罪に行かせます。どうか、どうか許してもらえないでしょうか?」

 そんなホークに、剣を構えた二人の部下は困惑する。

「ホークさん、相手はD級です。いくら仲間がすごくても、今あいつは一人です。俺たち二人で……」

「バカを言うな!今すぐ剣を下ろせ!」

 ホークは二人に対して怒鳴る。
 そして再びロキに向き直り、謝罪を続ける。

「申し訳ありません、この二人には私が武器を持つよう指示をしてしまいました。私たちは、これ以上あなたたちのレギオンに対して危害を加えるつもりはありません。どうかお許しください。おい、お前たちも頭を下げろ!」

 ホークは二人の部下に対しても、ロキへの謝罪を指示する。
 しぶしぶ頭を下げる探索者の二人。
 そんな光景を見て、ロキもびっくりしたような顔を浮かべ、そして口を開く。

「ココロに危害を加えたのは、誰の指示だ?」

「それは……」

「……ゴイスです」

 事情を知らなかったホークが言葉に詰まると、横の探索者が答える。
 ロキが足元に視線を移すと、そこには顔面を変形させて震えているゴイスが横たわっていた。

「こいつにはしっかりと教育しといた。今後二度とウチの邪魔するんじゃねえぞ!」

「は、はい!もちろん!」

 こうしてロキの殴り込みの目的は達成され、黙って見送る三人の男を後に、ロキは自分のレギオンへと帰っていった。

「ほ、ホークさん、なんであいつを帰しちまったんですか?」

「うるさい!それより早くポーションを持ってこい!こいつらにかけてやれ!」

「迷宮じゃないんだし、神殿かギルドに連れていけば……」

「バカ野郎!ウチが襲われたことを宣伝したいのか?!この件は今後一切口に出すな!いいか!あいつらのレギオンには今後絶対に関わるな!倒れてるこいつらにもしっかりと伝えておけ!」

「何をそんなにビビッているんですか?たかだかD級探索者ですよ?!」

「バカ野郎!何度も言わせるな!!いいか?あのレオンが入ったレギオンだぞ?ただのD級探索者じゃねえに決まってるだろうが!B級のバイデンだって倒されてるじゃねえか!」

「レオンってのはそんなにヤベえんですか?」

「ヤバいなんてもんじゃねえよ!そもそもウチにはいないA級探索者ってのはどんな奴らか分かってるのか?B級までなら誰だってなれるんだ。それまでA級探索者が先に攻略した迷宮を探索してるだけなんだからな!だがA級探索者っていうのは、それまで誰も潜ったことのない迷宮の最先端を攻略している頭のイカれた連中だ。レオンはそんなA級探索者の中でも、唯一パーティーを組まない単独探索者だ。特別イカれてる野郎なんだよ!これまでどのレギオンでスカウトしても断り続けていたあの不死のレオンがレギオンに入ったらしいって情報を聞いたときは耳を疑ったが、あんなヤバいオブヤバいやつと一緒だったなんて……。畜生、あんなヤベえやつ、この街のどこに居やがったんだ?どうしてD級なんだ?どうしてあんなヤベえやつの噂が今まで入ってこなかったんだ?畜生……」

「ホークさん……あの……、治安維持組織に言ったら逮捕してくれるんじゃ?」

「バカ野郎!もしあいつが逮捕されたとしても、その時はウチのレギオンが、手ぶらできたあいつ一人の殴り込みでこれだけ被害受けたことが街全体に知られちまうだろうが!お前だって迷宮探索者は舐められたら終わりだって分かってるだろう?その時はお前たちだってこの街じゃ生きていけねえぞ!」

「それじゃ……」

「どっちにしたってウチは終わりなんだよ!あいつらに土下座したって何だって、今夜のことは無かったことにしてもらうしかねえんだ……。畜生、ゴイスが余計な事しなければ……」

★★★★★★★★

「ただいまー」

 間の抜けた声でロキが帰ってきた時、レオン、アルマ、ココロの三人はすぐに玄関へと迎えにやってきた。
 ロキの顔を見ながら、三人は何も言わずにいる。

「ど、どうした?三人とも……」

 アルマがロキに話しかける?

「あの……仕返しに行ったんじゃなかったんですか?」

「お?おお。そうだな。話し合いに行ってきた。もうココロに暴力を振るわないと約束させてきたぜ。必要なら直接謝りに来るって言ってたけどどうするココロ?」

「やだ。顔も見たくない」

「そうか。とにかくもう俺たちに関わらないようきつく言っておいたから、もう大丈夫だ!」

 レオンはロキの傷ついた拳を見て話し合いではなかったのを理解するが、ロキの顔を見て、なぜ無傷なのか不思議で仕方なかった。

「それじゃみんなで晩飯食いに行くか!」

「はい!」「うん!」

「え?待って、俺まだ荷物が……」

 荷物を運び終えていないレオンが戸惑うが、アルマが「明日で良いじゃないですか!」と言ってレオンの反対意見を却下し、四人は金牛亭へと向かった。

★★★★★★★★

「いやー、やっぱ毎日魔物と戦っている迷宮探索者の体ってすごいよね?」

「なんの話だロキ?」

「前世だと俺デスクワークだったんでそんなに体力無かったんだけどね、今の俺の体ってすげーよね。テレビで見た格闘技の動き真似たら簡単にできちゃったんだよね」

「テレビ?」

「ワンツーパンチとか、コンビネーションとか思い出して、真似してみたんだよ。面白いように決まるんだよね」

 金牛亭で酒に酔ったロキが殴り込みの話を話し始めてしまうと、その詳細を聞くほど三人は引いていった。
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