迷宮探索者の憂鬱

焔咲 仄火

文字の大きさ
30 / 105
Phase 1 生まれ変わってもブラック会社に勤めていた迷宮探索者の憂鬱

第30話 マンドラゴラかラフレシアか

しおりを挟む
 翌日はマルコが休みのため、ロキ、アルマ、ココロの三人での探索となった。
 三人で一緒にレギオン社屋を出発し、レギオンへと向かう。

「足が遅くてすいません!」

 ロキの歩く速度に遅れてしまい、申し訳なさそうに言うアルマの足元に視線を落とすと、ロキはアルマの履いている靴が気になった。

「アルマ、迷宮を探索するなら、もっと歩きやすい靴に変えた方がいいんじゃないか?その靴は街中を歩くならオシャレでいいかもしれないが、もっと靴底が厚くてしっかりと紐で縛るような靴の方が迷宮を歩きやすいんじゃないか?」

 アルマが現在履いている靴は、いわゆるスリップオンタイプの履きやすい靴で、リボンの形の付いた女の子が好みそうなデザインのものであった。平坦な街中を歩くのであれば気にならないかもしれないが、迷宮の中を歩くのであればいわゆる登山靴やブーツの方が疲れにくい。
 デザインが気に入っていてこだわっているのかと思ったが、アルマの答えはロキの想定外の返答であった。

「これはこの街に来る時に履いてきた靴なんですが、迷宮探索用の靴を買いたくてもお金がなくてなかなか買えないんですよー」

 お金がないというのが恥ずかしいのか、照れ笑いを浮かべながら話すアルマ。
 ロキはビックリしてすぐに提案した。

「そんなの自分の金で買わなくてもいい。これからは装備品はレギオンの金で買おう。善は急げだ。今すぐ買いに行こう」

「えっ?!買って貰っちゃっていいんですか?!」

「いいも何も大手の上位メンバーはレギオンの金で装備品を揃えてるんだ。俺たちのレギオンは二チームしかないんだから、レギオンの金で装備を揃えて当たり前だ。そもそも自分の金で装備品を買わなきゃいけない事がおかしいんだ!装備品を買った時は領収書をレギオンに提出させられてただろ?実はそれは必要経費として計上できて、税金対策になってるんだ」

「……?すいません、よく分かりません」

「簡単に言うとだな、俺たちは今まで収入に応じて税金を払った後の金額を給料として貰っていた。その金で装備品を買ったら、装備品の金額分税金が安くなるはずだが、俺たちの手元には戻って来なかった」

「え?どこに消えたんですか?」

「レギオンに入ってたんだ。俺たちが自分の金で装備品を買うほどレギオンが得をするなんて、おかしな話だ。俺たちのレギオンではレギオンの金で装備品を買い、それで税金を計算してから差し引き分を給料として払えるようにしていきたいと思う」

「難しいですけど、その方が得ってことですよね?」

「俺も税金の専門家じゃないからうまく説明できなくてすまん」

「いえ、全面的にお任せします!」

 その後もう少し説明をして、これまで給料の中でやりくりして迷宮探索に必要なものを揃えなければいけないと聞いていたものが、給料は全て自分の好きなことに使っていいと分かり、アルマとココロは給料で何を買おうかという話題で盛り上がっていた。
 そしてギルドの武器防具販売所にて、アルマが疲労軽減の効果が付いたブーツを購入すると、ココロも同じように敏捷性上昇の効果の付いた靴を購入した。

「それじゃ探索の準備はできたな。今日から売却用のアイテムを集めるための探索を行う。今日狙うのは薬草だ。薬草はポーションの原料となる貴重なアイテムだが、あまりたくさん集まりすぎると買取価格が安くなってしまう。そしたら今度はまた違う素材を取りに行こう」

 マルコから魔法の練習は怠るなと言われてはいるが、練習しているばかりでは稼ぎが厳しくなる。
 そこで魔法の練習はしつつ、収入を確保するためにドロップアイテムを集める探索をすることにした。

「「はーい!」」

 ロキの話を聞いた女性二人の能天気な返事が響く。
 二人はいまいち迷宮探索という危険な仕事に対しての心構えが足りないような気もするが、まあ浅層探索をしているうちは特に問題はないだろう。

「ロキさん、薬草ってどこで手に入るんですか?」

「ああ、植物系の魔物がよくドロップするんだ。特にトレントという木の魔物は薬草のドロップ率が高い。だがトレントはそもそも遭遇する確率が低い。一般的に薬草採集するならマンドラゴラという魔物を倒しに行くことが多いが、今回は食虫花ラフレシアがターゲットだ」

「何でマンドラゴラじゃないんですか?」

「実はな、ギルドでは全ての探索結果のデータが集計されている。トレントの薬草ドロップ率は80%、マンドラゴラが32%、ラフレシアなら18%とかな。それだけじゃない。各階層の魔物との遭遇回数なんかもデータがあるんだ」

「へえー、でもそれだったらやっぱりマンドラゴラの方が薬草が手に入りやすいんじゃないですか?」

「そこだ!ドロップ率だけならそうだ。だから薬草採集をしたい者はマンドラゴラを倒しに行く。だけどな、遭遇回数を調べてみると、トレントとの遭遇が最も多い27階層での一日での平均遭遇数は0.5体。マンドラゴラの遭遇が多いのが17階層で平均遭遇数は32体。19階層のラフレシアの平均遭遇数は10体、だがそれは平均で19階層にはラフレシアがポップする沼地が数か所あることが判明している」

「えっと、私も実家がお店をしているので簡単な計算ならできるんですけど……」

「結論を言うとな、1日の探索でトレントを倒しに行って薬草を手に入れることができるのは0.4個、つまり5日で2個だな。マンドラゴラを倒しに行った場合は一日およそ10枚。だがラフレシアのポップ箇所へ行って例えば100体倒せば18枚」

「倒せば倒すほど増えるってことですね?」

「そうだ。それプラス倒した数の魔石が手に入る。薬草で稼ぐならラフレシアだ。ギルドにはこういうデータがただで見れるのに、誰も有効活用できていない。俺たちはこのデータを使って稼ぐぞ!」

★★★★★★★★

 結局、この日ロキたちが倒したラフレシアの数は180体。手に入れた薬草は32枚だった。
 ドロップ率はギルドの資料通りであったが、一つだけ誤算があった。

「ラフレシアって臭いですね……」

「鼻が曲がりそー」

「ううむ……、二人の買ったばかりの靴にも臭いが付いてしまってそうだな。帰りに強い石鹸と臭い消し買って行こう……」

「もうラフレシアとは戦いたくないです……」

「ココロも嫌ー」

「……すまん」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

SE転職。~妹よ。兄さん、しばらく、出張先(異世界)から帰れそうにない~

しばたろう
ファンタジー
ブラック企業で倒れたSEが、 目を覚ますと――そこは異世界だった。 賑やかなギルド、個性豊かな仲間たち、 そして「魔法」という名のシステム。 元エンジニアの知識と根性で、男は再び“仕事”を始める。 一方、現実世界では、 兄の意識が戻らぬまま、妹が孤独と絶望の中で抗っていた。 それでも彼女は、心ある人々に支えられながら、 科学と祈りを武器に、兄を救う道を探し続ける。 二つの世界を隔てる“システム”の謎が、やがて兄妹を結びつける。 異世界と現実が交錯するとき、物語は再起動する――。 《「小説家になろう」にも投稿しています》

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...