迷宮探索者の憂鬱

焔咲 仄火

文字の大きさ
29 / 105
Phase 1 生まれ変わってもブラック会社に勤めていた迷宮探索者の憂鬱

第29話 個室居酒屋にて

しおりを挟む
「話がある」

 そうマルコに言われて、迷宮探索が終わったロキが連れて来られたのは、個室の酒場だった。
 普段大衆酒場しか利用しないロキは、厳かな店内の雰囲気に戸惑いながらも、マルコと二人で個室へと入った。

「この街にもこんな店があるんだ……」

「何を言っとるか!一流の探索者ほど、こういう情報が他人に漏れることのない店を使うもんじゃ!」

「どうせ俺はD級だし、聞かれて困るような情報とかも持ってないしー」

「拗ねるな!」

 ぺしぺしと、ロキがマルコの持つ杖で叩かれる。

「痛いなーもー」

「そんなことよりも本題じゃ!」

 マルコの話というのは、やはり想像していた通りの事であった。
 それは今日の迷宮探索でのこと、なぜ魔力回復薬を飲まずに魔力が回復したのかということだった。

「何か隠しているようじゃが、説明してもらおうか?おまえ明らかにアルマのヒールで魔力が回復してたじゃろう?あれは何なんじゃ?どういうトリックじゃ?」

「何から話していいか……。えーっと……前にね、レオンと四人で飲んでる時にもその話題になったんだけど。俺がアルマのヒールをかけてもらった後の体調がすごく良いっていうことを話したら、レオンもヒールかけてくれって言いだしたんだ」

「バカな。ヒールは怪我を癒す魔法で、体調管理の魔法ではない。それは日々の自己管理するものだ」

「ああ。俺もそう思ってたんだ。そしたらさ、なぜかレオンがビックリして、酔いが醒めたって言ってさ」

「ヒールで酒酔いが醒める?確かに『酔い』というのは『毒』や『麻痺』などに似た状態異常かもしれんが……」

「でも怪我を治すヒールで状態異常が治るわけじゃないだろ?」

「そうだ。もしかしてうっかりキュアーを使ってたのか?」

「うっかりで使う魔法間違える?」

「いや、ワシはないが……」

「アルマは『ヒール』って唱えてんだよ?唱えた呪文と違う魔法発動してたらヤバくない?」

「たしかにそうだが……。それに、まだ状態異常を治すなら分かるわい。お前今日は魔力を回復していたじゃろう?魔力を回復させる魔法なんぞ、聞いたことがないぞ!」

「うん。……だよね」

「だとしたらあの子は何者なんじゃ?あまりに規格外れのヒーラーじゃないか?」

「レオンが言うには……、アルマが使っているのはヒールじゃなくて、聖女が使う神威代行魔法じゃないかって……」

「何だと?!」

「ほら!声が大きいって!せっかく個室なのに、そんな大きな声を出したら他の部屋にも響くって!」

 ロキに注意され、気まずそうな顔をするマルコ。
 すぐに気を取り直して言葉を続けた。

「アルマが聖女だと言うのか?まさか?もしそうだとしたら『神殿』が黙ってないぞ?!……いや、神の力の代行者である聖女は一つの時代に一人きり。当代の聖女は勇者のパーティーの一員でもある聖女レオーネじゃ。アルマが聖女のはずはない!」

「そうだよね。レオンが言ってることっておかしいよね」

「いや、待て。だがアルマが使っているヒールが、神威代行魔法だというのなら全てに説明が付く。あの子は今まで魔力切れをしたことがないと言っていた。普通は魔力切れまで魔法を使うことで、最大魔力量が増えてゆくものだ。最初から絶大な魔力を持っているなんていう天才は今まで聞いたことがない。だが聖女だというのなら説明が付く。神威代行魔法は神の力を代わりに行使しているため自らの魔力を使うものではない。つまり魔力切れをすることがない。怪我の治癒、状態異常の回復、魔力の回復……いずれも神威代行でできるはずだ……。だが、だとしたらなぜこの時代に二人の聖女が?」

 一人でぶつぶつと考え事を始めるマルコ。
 それをロキは黙って見ていると、突然マルコははっとしてロキに尋ねた。

「そもそもレオンはなぜそう思ったのじゃ?聖女様なんて、正直ワシらには手の届かない存在じゃ。ワシだって目にしたこともない。やつは聖女の神威代行魔法のことを何かしっておるのか?」

「さあ?あいつ、あんまり自分のこと話さないから……」

「そうか……、それにしてもどうする?もし本当にアルマが聖女だったのならば、神殿……いや、統一神教会がアルマを確保しようとするぞ。それはあの子の望むことではないと思うが……」

「そうだな。アルマはどっちかっていうと平穏な毎日を送りたいみたいだし」

「アルマには話したのか?」

「いや、何も伝えてない」

「そうか。じゃとしたらこのまま黙ってヒーラーとして迷宮探索を続けているのが一番かもしれんな」

「そうだよね……」

 二人は、とりあえずこのことは自分たちとレオンの三人だけの秘密にしようと約束をした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

SE転職。~妹よ。兄さん、しばらく、出張先(異世界)から帰れそうにない~

しばたろう
ファンタジー
ブラック企業で倒れたSEが、 目を覚ますと――そこは異世界だった。 賑やかなギルド、個性豊かな仲間たち、 そして「魔法」という名のシステム。 元エンジニアの知識と根性で、男は再び“仕事”を始める。 一方、現実世界では、 兄の意識が戻らぬまま、妹が孤独と絶望の中で抗っていた。 それでも彼女は、心ある人々に支えられながら、 科学と祈りを武器に、兄を救う道を探し続ける。 二つの世界を隔てる“システム”の謎が、やがて兄妹を結びつける。 異世界と現実が交錯するとき、物語は再起動する――。 《「小説家になろう」にも投稿しています》

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...