迷宮探索者の憂鬱

焔咲 仄火

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Phase 1 生まれ変わってもブラック会社に勤めていた迷宮探索者の憂鬱

第28話 火球 何発撃てるかな?

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「本当にいた……」

 ココロの指示通りに迷宮を進むと、そこには三匹のゴブリンがいた。
 相手はまだこちらに気づいていない。

「魔物に見つかるより先に、こちらが魔物を発見できると先制攻撃のチャンスじゃな。よくやったココロ。それじゃロキ、さっそく火球であいつらを全滅させよ」

「俺一人で全滅させるなら、剣の方が早いんだけど」

「それじゃ魔法の修行にならんじゃろ!」

「いや、それにこのパーティー編成なら、俺は前衛しなくちゃいけないし……」

「何を言い訳しとる。ゴブリン三匹程度なら魔法の先制攻撃で全滅させて終わりじゃないか!」

「えっと……」

「いいからさっさと攻撃せえ!もたもたしてると見つかるぞ」

「うう、はい。……≪火球ファイヤーボール≫!」

 ロキがゴブリンを指差し魔法を唱えると、人差し指の先に炎の塊が発生する。そしてそれは勢いよく発射され、一匹のゴブリンに衝突した。
 火球の魔法を食らったゴブリンは爆散し、消滅する。
 仲間が突然死に慌てる二体のゴブリンは、火球の飛んできた方向にロキたちがいることに気が付く。

「魔力の凝縮されたまあまあな火球じゃな。ほれ!あと二体じゃ。さっさと片付けろ」

 ロキは再び魔力を練る。その間にもゴブリンはこちらへと向かってくる。

「≪火球ファイヤーボール≫!」

 先ほどよりも一回り小さい火球がゴブリンへと飛ぶ。
 ゴブリンはかわそうとするが避けきれずに火球がさく裂する。体の小さいゴブリンは後方へと吹き飛ばされ、地面をバウンドして倒れた。

「なんだその火球は?最初のような火球を撃て!」

 マルコの罵声に、ロキは再び魔力を練る。そして三発目の火球を発射する。

「≪火球ファイヤーボール≫!」

 三度目に放った火球は、握りこぶし程度の小さい火球であった。
 しかも速度は段違いに遅く、山なりに飛ぶその火球をゴブリンは冷静に交わした。

「まじめにやらんか!ほら!来るぞ!」

 だんだんとゴブリンとの距離が詰まってくる。
 魔法で攻撃できるのはあと一回であろう。
 ロキは最後に集中して魔力を練り、四発目の火球を放った。

「≪火球ファイヤーボール≫!」

 やはり握りこぶし程度の小さな火球であったが、今度はゴブリンにさく裂する。
 左腕に被弾したゴブリンは、それでも走る勢いが少しそがれただけで戦意は失っておらず、右手に持った石斧を振りかぶってロキへと襲い掛かった。

「≪火球ファイヤーボール≫!」

 しかしゴブリンがロキへ石斧を振り下ろす前に、マルコの火球がゴブリンを焼き尽くした。
 マルコが呪文を唱えた瞬間にゴブリンの全身を炎が包み、一瞬で炎とともにゴブリンは消滅した。

「なんじゃ!最初の一発は良かったのに、どんどん雑になっとるじゃないか!同じ魔法でもバラつきがあったらダメじゃ!消費魔力は同じなんじゃから、毎回最高の威力で撃てるように集中しろ!……?」

「ゲロゲロゲロ……」

 マルコの説教を聞いている間、うつ向いていたロキだったが、マルコの話の途中で突然嘔吐した。

「うわ!吐いた!ロキ汚い!」

「ロキさん、大丈夫ですか?!」

 笑うココロと、心配して駆け寄りロキの背中をさするアルマ。
 マルコは言葉を失って立ち尽くしていた。

「まさか貴様……、あれだけで魔力切れか?」

「うう……すいません……30階層を突破したときはもうちょっと調子よかったんだけど……」

「うそじゃろ……?おまえワシが魔法を教えてから今まで何をしてた?」

「たまには魔法使ってましたよ!本当に……うう……気持ち悪い……」

「たまに?おまえ、ワシは毎日魔法使って魔力総量を増やせって言ったじゃろう?」

「すいません……」

「ロキさん、大丈夫ですか?ヒールかけますか?」

「アルマ、ヒールが治すのは怪我だけじゃ。魔力切れは治らん。そいつを甘やかすな」

「アルマ、ヒールかけて!」

 マルコの言葉に逆らって、アルマにヒールをかけてほしいと懇願するロキ。
 アルマはどうしてよいか迷い、マルコとロキを交互に見る。

「≪回復ヒール≫」

 意を決してロキにヒールをかけるアルマ。
 マルコはため息をついて、呆れるような顔で呟く。

「はあ、だからヒールじゃ魔力切れの不快感は治らんと言ったじゃろう」

「ありがとうアルマ」

 先ほどまで魔力切れで真っ青な顔をしていたロキは、笑顔でそう言った。
 顔色は血色を取り戻し、表情には覇気を取り戻している。

「???」

 そんなロキの変化にマルコは不思議そうな顔をしていた。

「すいませんマルコさん。初級魔法は間を置かないと3~4回が限度で。生活魔法なら何十回でも使えるんだけど」

「???」

 普通にしゃべりだしたロキに、マルコは再び理解できない顔をする。

「マルコさん?」

「あ、ああ。生活魔法なら何十回だって使えるのは当たり前じゃ。とりあえず初級魔法を10回連続で使えるくらいになってもらわんと中級の全体魔法を教えるには早い。ほら、魔力回復薬飲んでもう一度火球の練習をやるぞ!」

 マルコは懐のカバンから小さな赤い液体の入った瓶を出して、ロキに差し出した。

「いや、それ不味いからいいです」

「……」

 ロキがそれを拒否すると、その場に沈黙が訪れた。

「いや、不味いからとかじゃなくて、魔力を回復させて火球撃てっつってんの!」

 マルコが額に血管を浮き上がらせながら怒鳴った。

「あ、何かまた魔法使えそうな気がしてきたんで大丈夫です」

「気がしてきたって……、魔力を回復させるにはこの苦い魔力回復薬を飲むか、ゆっくり休んで少しずつ魔力を取り戻すしかないじゃろうが!もし回復したって言うなら、もう一発撃ってみろ!」

「壁に向かって?」

「ロキ、それだったらあそこの岩陰にたぶんスライムがいるよ」

 ココロに言われて見た先には、大きな岩があったが、スライムの姿は見えない。
 岩を凝視して少し待つと、隙間から水色の物体がにじみ出てきた。

「本当にいた!何でわかるのお前?」

「分かんない。何となく」

「何となくって……」

 呆れるロキに、マルコが推測して語りだす。

「もしかしたら小人族ハーフリングは、勘が鋭いのかもしれん」

「種族特性ってこと?」

「うむ。ワシもハーフリングの知り合いはおらんし推測にすぎんが、体が小さく戦闘能力が低いため、生き延びるために感知能力が高くなったのかもしれんな」

「マジか?勘で俺のこれまで鍛えてきた索敵能力を超えるのか……」

 三人が驚いたような顔でココロを見つめる。
 ココロは何が何だかわかっていないようだ。

「そんなことよりも、魔力が回復したならあのスライムに火球を放ってみんか!」

「あっ、はいはい。≪火球ファイヤーボール≫!」

 ロキが呪文を唱えると、今日一発目に放ったサイズの威力の強い火球がスライムへと放たれた。
 爆裂した火球は、スライムを倒すだけでなく、その場の岩を黒く焦げさせた。
 それを見たマルコは、驚いた顔をして言葉を失っていた。

「まだ撃てそう。ココロ、魔物の場所は分かるか?」

「えっとね、ちょっと向こうの方」

 ココロに促され、四人は前へと進む。そしてココロが指さしたところにいた大コウモリへ向けて、ロキは再び火球を放つ。

「≪火球ファイヤーボール≫!」

 先ほどよりも少し威力の弱い火球が大コウモリを焼き尽くす。
 すると奥からもう一体の大コウモリが襲い掛かってきた。

「≪火球ファイヤーボール≫!」

 さらに威力が落ちた火球であったが、見事に当たると、大コウモリは地面へと落下した。

「あ、気持ち悪くなってきた……、アルマ」

「はい。≪回復ヒール≫!」

「ありがとう!」

 ヒールをかけられ、ロキは再び気分のよさそうな顔に戻った。

「どういうことじゃ?全く理解できん」

「ココロの索敵能力が?そうだよな。飛んでる大コウモリなら音が聞こえるけど、天井に張り付いてる状態だと一切気配しないもんな」

「それもそうじゃが、おまえの魔力回復じゃ!普通何時間も休まないと魔力は元通りには回復せんのだぞ?」

「まあまあ、世の中には不思議なことがあるんだって」

「ううむ……」

 ロキの言葉にマルコが言葉を失った後、再び探索を再開し、その後もロキの魔法の練習が続いた。
 その日最終的に、ロキは火球を連続で五回撃てるようになっていた。
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