迷宮探索者の憂鬱

焔咲 仄火

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Phase 1 生まれ変わってもブラック会社に勤めていた迷宮探索者の憂鬱

第39話 一か月経過

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 ロキがレギオンを設立して、一か月が経った。

「皆さん、一か月お疲れさまでした~」

 そう言って、今月の給料の入った袋をみんなに渡すロキ。

 ずっしりとした重みの袋の中身を確認して、みんなびっくりしていた。

「こ、こんなにもらっちゃっていいんですか?」

 不安そうな顔でロキを見つめるアルマ。ロキは「もちろん大丈夫だ」と笑顔で答える。
 レオンも最初黙っていたが、シリアスな顔でロキに尋ねた。

「俺は他のみんなより稼いで入るが、ここまでもらっていいのか?あまり気にしてこなかったが、ソロでやっていた時でも多分ここまで手取りはなかったぞ」

「税理士を雇う必要がなくなった分、増えて当たり前だ。それに俺はやりくりが上手いんだ」

「だとしたらお前が税理士としての手当ももらうべきじゃないのか?」

「いや、俺の本業は税理士ではない。迷宮探索者としての収入をもらう。それでも今までより断然もらっているし、残った金はレギオンのために使わせてもらう」

「本当に税金の支払いは大丈夫なのか?」

「大丈夫に決まってるだろう!」

 心配そうに聞くレオンに対し、ロキは自信をもって答えた。

 実際、レギオンの経営は順調であった。

 節約が上手くいっている理由はいくつかあった。
 ロキは武器防具などの装備品も安価な量産品を愛用していた。装備品というものは消耗品で、どれだけ良い装備を揃えても使うほど劣化してゆき、最終的には買い替えになる。大切に使えばそれなりに長持ちはするが、それでは迷宮探索を進める支障になってしまう。それならばとロキは遠慮せずに使えるようにいつ壊れても構わないレベルの装備を愛用していたため、装備品にかかる費用が少ない。アルマとココロに至っては、非戦闘員のため、魔物と戦闘することがなく装備品が痛むこともない。
 また元々倹約家のロキは、他所のレギオンの探索者のように消耗品をあまり使わないのだが、さらにアルマの回復魔法のおかげで、各種ポーションを買う必要が一切なくなった。
 そして一番大きい節約となっているのが、他のレギオンのように迷宮探索をしないくせに高給取りの社長や事務員が一切いないことだ。ロキから言わせれば、それが一番無駄な人件費ということになる。
 他にもロキの努力で、必要経費として計上できるものは細かいものまで領収書を取って置き申請しているため、無駄に払う税金も少なく済んでいる。
 ロキの目指していたホワイトな環境の一つ、労働に応じた適切な収入の確保、それはできるようになった。

★★★★★★★★

 収入と同じくらいに、ロキの魔法の修行も順調であった。
 マルコの厳しい指導の下、迷宮で修行を続けた結果、ロキの魔力は一段と上がり、中級魔法をかなり使いこなせるようになっていた。
 そして次の段階として、上級魔法、つまり大規模攻撃魔法を教わる段階に来ていた。

 ロキたちがギルドを歩いている時に、マルコがぽつりとつぶやいた。

「そろそろ上級魔法を教えても良いかもしれんな」

「上級魔法って、大規模魔法でしょ?迷宮探索でそんなの使う機会なんてあるの?狭いところで使ったら逆に危なくない?」

「まあ、覚えておいて損はあるまい」

「そうかもしれないけど……」

「それと土系統の魔法はワシには教えられんから、それは別途誰かに教わるんじゃな」

「そんなにいろいろ覚えても、使う機会少ないだろうし……」

「何でおまえはそんなにやる気がないんじゃ!」

「いてて、そんなことで叩かないでよ!」

 そんな話をしながらロキたちがギルド内を歩いていると、見知った顔を見つけた。
 ココロが元居たレギオンを辞める時に、ココロをリンチしたチンピラ、ゴイスである。
 ロキが懲らしめたため、もはや逆らうことは無いが、たまたま目が合った。
 ロキの服の裾を掴み、ゴイスをにらみつけるココロ。
 ゴイスもその視線に気が付き一度こちらを見るが、慌てて目をそらし気づかなかったふりをして、不自然に方向転換をして反対側へと歩いて行った。
 不安そうなココロを見て、ロキが声をかける。

「あいつらのレギオンのやつらを助けてやったし、もう歯向かってくることもないだろ。大丈夫だ」

 と、ココロの頭に手をのせるロキ。
 ココロは「うん」と頷き、彼らは迷宮へと向かった。

★★★★★★★★

 びくびくしていたゴイス。仲間に愚痴る。

「あいつらデカい顔して歩いてやがって、治安維持隊に密告したら牢屋行きのくせに」

「ゴイスさん、そんなことしたらウチのレギオンの立場がなくなるって代表社長が……」

「分かってるって!だから俺だっておとなしくしてるんだろうが!」

「それにゴイスさん、あいつに一番痛い目に合わされたんじゃ……」

「バカ野郎、油断したんだよ!次にやることになったら逆にボコボコにしてやるって!」

「でもあいつ本当は魔法使いで、本気にさせたら俺たち皆殺しにされるレベルの魔法を使うらしいってペドロさん言ってたじゃないですか」

「うるせえ!殺し合いなら殺されるかもしれねえが、ケンカなら負けねえよ!」

「だからそのケンカで負けたんじゃないですかあ……」

「うるせえよ!」

「ちょっと良いかな?」

 するとそこに一人の少年がゴイスに声をかけてきた。

「なんだてめえ?」

 見ると、とても上等な服を着ている。ただの子供ではないだろう。どこぞの貴族だろうか?だがあまりにも場違いだ。ここは上流階級の人間が来るような場所ではない。血みどろの戦いをする泥臭い迷宮探索者たちの集まる場所なのだ。

「どこの坊ちゃんだ?おまえなんぞが来るような場所じゃねえ。ここは迷宮探索者が集まる場所だぞ」

 そう言って凄むゴイスに対し、少年はひるむことなく普通に話を始めた。

「うむ。ここが迷宮都市の中心の迷宮探索者ギルドなのであろう?人を探している」

「ああ?だからお前のようなガキの知り合いが来るような場所じゃねえっつってんだろ?!」

 先ほどのこともあって、少々気が立っているゴイスは怒鳴り声で答えた。

「その通りだ。なぜこんなところにいるのか私も分からないのだが、ココロというハーフリングの女性を知らないか?」

「へ……?」

「む?知っているのか?」

 何かを察知し、怯えるゴイス。
 じっくりと少年を観察すると、大人びた話し方や雰囲気が子供ではないということに気が付く。

「てめえ……まさか、ハーフリングなのか?」

「その通りだが?」

 突然がくがくと震えだすゴイス。

「し、知りません、俺は何も知りません。わかりません。すいません。さようなら」

 そう言ってゴイスは、ギルドの外へ向かって駆け出した。
 少年……のように見えるハーフリングの男性は、逃げ去ってゆくゴイスを黙って見送る。

「何だあの男は?変な男だな……」

 そう言って彼は、懐から一枚の紙を取り出す。

「やれやれ、この街から手紙が届いたことは分かっているのだが……」
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