迷宮探索者の憂鬱

焔咲 仄火

文字の大きさ
48 / 105
Phase 1 生まれ変わってもブラック会社に勤めていた迷宮探索者の憂鬱

第48話 ギルド長からの呼び出し

しおりを挟む
 この日、迷宮探索を終えたロキに、迷宮探索ギルドのギルド長から面会したいという話があった。ロキは渋々仲間たちと分かれ、一人応接室へと向かった。
 ロキたちのレギオンにおいてあるものとは全く違う高級な革のソファに座ると、自分たちの払っている税金はこういうことに使われているのかと思い、いささか心外に感じる。
 それにしても今日は一体何の用で呼び出されたのだろう?特に問題のある行動を取った覚えはない。だが、だいたいがこういう呼び出しはレギオンへの警告など、ろくでもないものだ。考えるほど胃がキリキリしてくる。

 しばらく部屋に一人で待っていると、その男はやってきた。
 黒い髪を短く切りそろえ、タイトな黒いスーツを身にまとった中年紳士。それがギルド長の印象だ。

「待たせてすまなかったな」

 ギルド長はそう言ってから、ロキの向かいの席へと座った。

「今日は一体何の用ですか?」

「要件がなくては会ってもらえないかね?若い探索者が立ち上げたレギオンがとても活躍していると聞いてね。どんな若者なのかと思い、一度会ってみたいと思っていたんだ」

「要件ないの?」

「用も無いのに呼び出すわけがないだろう?」

「どっちなんだよ?!」

 ロキはこうしてギルド長と話すのは初めてだが、初対面からこの掴みどころの無さに困惑した。

「まあまあ落ち着きたまえ。こうして君と一度話してみたかったのも本当だ。意外と普通の男なんだな」

「意外って……」

「いろいろ聞いているぞ……」

 そう言ってギルド長は抱えていた書類を読みだす。

「迷宮探索者ロキ。五年前15歳の時に迷宮探索者となり、大手レギオン『大いなる剣槍グレートグレイブ』に入社、同レギオンを今年突然退社し、新たにレギオンを設立する。『大いなる剣槍』在籍時には特に目を見張る活躍はなく、D級探索者止まりであった」

「うるせえよ!」

 ロキの突っ込みを無視し、ギルド長は資料を読み続ける。

「だが新たに設立したレギオン『新体制ニューオーダー』……これはどういう意味かね?」

「それは新しい仕組み、これまでのブラックな労働環境をぶち壊してホワイトな環境を作るって意味だ」

「ふむ……新たな秩序ニューオーダーか。まあいい。新たに設立したレギオンでは、これまでどこのレギオンにも見られなかった収益率をあげている。なるほど。君もご存じの通りその胸から下げたギルド証は特殊なマジックアイテムでね。探索した階層、探索箇所のオートマッピング、討伐した魔物の情報が自動で記載されている。君たちのパーティーの人数に対し、収益率が非常に高いというのは事実だろう。これは何か理由があるのかな?」

「企業秘密だ」

「まあそう簡単には教えてもらえないか。ふむ、この資料によると前のレギオンを辞めるきっかけとなったのは、最後の探索でモンスタートレイン事故に巻き込まれたとあるな。しかしなぜそれが自らレギオンを立ち上げるきっかけに?」

「……」

「ふむ、女探索者パーティーからモンスタートレインをなすりつけられたという話もあるらしいな。君たちのパーティーが苦情を申し立てたが、結局被害がなかったため取り下げられたと。最後に遭難しかけた若い女性探索者を助けたのが君だと」

「……」

「その助けられた女探索者、回復術士アルマも君と同時にレギオンを退社。そして君と、君の友人A級探索者のレオン、そしてギルドで偶然出会ったレギオンで問題を起こしていたハーフリングのココロと、一度探索者を引退した魔法使いマルコ氏との五人でレギオンを設立した。まあ後の三人はレギオン設立のために無理やり集めたという感じみたいだね」

「……」

「つまり君と回復術士アルマが、モンスタートレイン事故の最中に巡り合い恋愛関係となり、お互いにレギオンを辞めて一緒にレギオンを設立したと……」

「俺とアルマが?それはないよ!」

「違うのかね?」

「違う違う!」

 荒唐無稽な話にロキが笑っていると、ギルド長はため息をついて話を続ける。

「そんなにおかしいかね?命の危険を共にすると恋愛感情が発生することもあると思うが……。この資料もあてにならないねえ」

「そもそも何で俺のことをそんなに調べ上げてどうするつもりなんだよ?」

「うむ。君は迷宮探索だけでなくレギオンの税理士もしているそうだね。君が税理士試験で不正したのではないかという告発が来ているんだ」

「ゲイズの野郎か?」

「そうだ。だが君のレギオンから提出されている報告には全く問題がないようだし、その告発は勘違いのようだな」

「勘違いじゃなくて逆恨みだ」

「まあ君たちのレギオンのように順風満帆だと、逆恨みの一つもあるだろう。ゲイズ氏には調査したが誤解のようだと伝えておこう。まあ今回君を呼び出した理由はこれだけじゃないんだが……」

「まだあるのか?」

「うむ。先ほども言ったが、君たちのパーティーはアイテム回収率が非常に高いらしいな」

「そうらしいな」

「実は今度、大規模な素材収集の依頼が来ている。納期も急いでいるらしくてな。ご存じの通りこの街にある迷宮はここだけではない。私としても他の迷宮のギルドには負けたくなくてな。大手レギオンには依頼しているのだが、君のレギオンでも受けてもらいたい」

「どうせ貴族のバカ息子に迷宮探索を経験させるための素材収集依頼とかなんだろう?なんでそんなのやらなきゃいけないんだよ?」

「だとしたら貴族とのコネができるかもしれないぞ?」

「必要ないね」

「そういえば君はまだD級探索者のままだったな。依頼を受けてくれたら君の探索者階級を上げてやろう」

「上げてもらう必要はないね」

「受けてはもらえないのかね?貴族の依頼なら受けて損はないはずだぞ?」

「貴族もクソも関係ない。むしろ俺たちが血と汗を流して稼いだ金を税金として取り上げる貴族が気に食わないんだ。この依頼は断らせてもらう」

 ロキはそう言って席を立つ。

「そうか、報酬額は普段の倍だったんだが、残念だ……」

 ドアノブに手をかけたロキは、その姿勢のまま固まっていた。
 部屋を出て行きそうで出て行かないロキに、ギルド長が注目しているとロキは振り返って言った。

「その依頼、ぜひやらせてもらおう」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

SE転職。~妹よ。兄さん、しばらく、出張先(異世界)から帰れそうにない~

しばたろう
ファンタジー
ブラック企業で倒れたSEが、 目を覚ますと――そこは異世界だった。 賑やかなギルド、個性豊かな仲間たち、 そして「魔法」という名のシステム。 元エンジニアの知識と根性で、男は再び“仕事”を始める。 一方、現実世界では、 兄の意識が戻らぬまま、妹が孤独と絶望の中で抗っていた。 それでも彼女は、心ある人々に支えられながら、 科学と祈りを武器に、兄を救う道を探し続ける。 二つの世界を隔てる“システム”の謎が、やがて兄妹を結びつける。 異世界と現実が交錯するとき、物語は再起動する――。 《「小説家になろう」にも投稿しています》

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...