迷宮探索者の憂鬱

焔咲 仄火

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Phase 1 生まれ変わってもブラック会社に勤めていた迷宮探索者の憂鬱

第56話 レオン

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 迷宮探索ギルド一階にある迷宮の入口、通称『ゲート』。その黒い闇の中から現れたのは装備がボロボロとなった一人の男だった。
 それを見た門番は慌てて近寄ってくる。時々大けがをして迷宮から帰ってくる探索者がおり、ゲートに常駐している門番は怪我をした探索者をギルドの回復術士の元へと連れてゆかなければいけないからだ。
 だがその男に声をかけようとしたところ、すぐにその男が誰であるかに気がついた。
 背の高いその男の髪は、この国では見ない金髪だったからだ。

「レオンさんでしたか……」

「ああ……」

 レオンが別の国から来たことは誰もが知っているし、どんなに装備がボロボロになるほどの戦いをしてきたとしても、≪不死身の狂戦士≫などの異名を持つレオンには治療の必要がないことも知られている。門番は、そのまま何も言わずにレオンを見送った。

 ボロボロの姿でギルドの中を歩くレオンの姿は目立つ。周りの痛い視線に晒されながら歩いていると、そのみじめな姿に対し悪意を持った声も聞こえた。
 陰口など言いたい奴には言わせておけばいい。レオンは周りを無視して歩いていると、声をかけてくる者がいた。

「あれあれ?だれかと思ったら、"A級"探索者のレオンさんじゃないですか~!」

 嫌味のようにA級という部分を強調して言ったその男は、レオンの進行方向を邪魔するように立ちふさがった。
 離れて嫌味を言っていた奴らを無視していたレオンは立ち止まり、その男の姿を見る。
 赤いラインの入った白い貫頭衣の上から防具をまとっているその派手な姿は、どこかで会ったことを思い出させる。

「ずいぶんとみじめな恰好ですねえ~。あれえ?もしかして今日も80階層で躓いちゃったんですかあ~?」

 周りから笑い声が響く。見ると笑っているのはこの男と似た衣装を着ている。仲間のようだ。
 どうやらこの男は、今レオンが80階層の階層主に何度も挑戦していることを知っているようだ。そこらの情報はギルドで公開されており、別におかしいことではない。他の探索者のことにあまり興味がないレオンは今誰がどの階層に挑んでいるかなど知らないのだが。

「くっくっくっ、我々は先日80階層を突破して、今81階層を探索しておりますよ!ハッハッハッ!いつの間にか追い抜いてしまいましたな!」

 なんだか勝ち誇ったような顔で、その男は一人でしゃべり続ける。レオンはきょとんとしている。

「おっと!いまさら共闘を持ちかけられてもお断りですぞ!我らは今、迷宮都市最大のレギオン『炎の聖戦士ブレイズクルセダーズ』と共闘を結んでますからな!ハッハッハッ!残念でしたな!アーッハッハッハッ!」

 高笑いをするその男をじっと見ていたレオンは、その笑いが終わるのを待つと、ようやく口を開いた。

「で、おまえ誰だっけ?」

「は?」

 先ほどまで勝ち誇った笑いを上げていたその男の表情が一変する。
 本気でその男の事を思い出せないレオンは真面目な顔で思い出そうと、自分の記憶と戦っていた。
 いつまでも自分の名前を言いだしてくれないレオンにしびれを切らしたその男は、顔を真っ赤にして怒りながら答えた。

「某は『先導する戦旗リーディングフラッグ』のアモルファスだあ!!!」

 その大声にギルド内にいる他の探索者たちから、何事かと視線が集まる。

「ああ!思い出したぞ。前に金牛亭に来たやつらか」

 名前を聞いてようやくレオンはその男の事を思い出した。
 以前金牛亭でロキたちと食事をしていた時に、共闘を持ち掛けてきた新鋭のレギオンの男だ。
 態度からするに、その時にレオンが共闘を断ったことを今での根に持っているらしい。

「何を白々しい!共闘を持ち掛けられた我らに追い越されたからと、わざと知らぬふりをしおって!ふん!みじめだな、かつては単独最深部探索者だったかもしれんが、80階層がソロの限界だ。我らだけでなくこれからもどんどん抜かれていくだろうよ!」

「……」

「何も言い返せぬか!そうだろうな!これからはD級探索者のお友達と仲良く中層を探索するのだな!かつてはどこのレギオンにも属さない一匹狼だなどと言われていたらしいが、結局入ったのは他のレギオンを辞めた落ちこぼれの集まりらしいな!」

「うるせえな、黙れ!」

「おっと、何か気に障ることを言ってしまったかな?やはり本当の事を言われると腹が立つか?」

 にらみつけるレオンを、さらに煽るアモルファス。

「ハッハッハッ、何だその目は!ギルドの中でケンカでもする気か!そんなことをしてみろ、すぐに捕まってしまうぞ。これだから野蛮人は困るな!やはり噂通りの下等な獣だな!」

 言いたいことを言い終えたのかそれとももっと言いたいことがあったのか分からないが、そこまで喋ったアモルファスは、次の瞬間には回転しながらギルドの壁へと激突していた。
 直後集まったギルドの衛兵に、アモルファスを殴り飛ばしたレオンが取り押さえられていた。

★★★★★★★★

「なーにやってんだよ!」

 そう言って牢屋の前で腕を組みながら困った顔で見下ろしていたのは、レオンを迎えに来たロキだった。

「なんだ?もう出られるのか?」

「バカ野郎!それなりに保釈金払わされたんだぞ!お前の給料から引かせてもらうからな!」

 看守が牢の鍵を開け、レオンに出るように促す。
 レオンは迷宮から出てきた時のぼろぼろの装備の姿のままで、そのみすぼらしい姿にロキと一緒に来ていたアルマが心配して近寄ってくる。

「大丈夫ですかレオンさん?怪我はないですか?ヒールをかけましょうか?」

「アルマ、こいつは例え怪我をしたとしてもすぐに治るから大丈夫だよ」

「え?」

 意味が分からずにいるアルマを無視して、ロキは言いたいことがあるらしいレオンにまくしたてる。

「こうしてお前を迎えに来るのは久しぶりだな!若いころは保釈金なんてとても払えなかったから、拘留期間をすぎてからだったけどな」

 アルマはこの拘留所へ来るのは初めてだったが、ロキは過去にも同じように捕まったレオンを迎えに来たことがあるらしい。アルマはそんな二人の会話に耳を傾ける。

「また一族をバカにされて怒ったのか?多分今日のやつはお前個人をバカにしただけだぞ?」

「ふん!」

 そんなことはどうでもいいという表情のレオン。
 二人の顔を交互に見た後、アルマは話の内容が分からずにロキに尋ねる。

「どういうことですか?」

「ん?アルマは知らなかったっけ?こいつは西の山脈からやって来た外国人なんだけど、その部族はこの国との交流がなくて、文化のない野蛮人だと思われてるんだけど、こいつそうやってバカにされるとすぐキレるんだ」

「ロキ!いいだろうその話は!」

「なんだよ!迎えに来てもらってそんな言い方はないだろう」

「レオンさんってやっぱり外国人だったんですねえ」

「アルマは今年この迷宮都市に来たばかりだからレオンの事知らないんだな。ケンカ売ってきたやつらも新参者だからレオンのこと知らずにケンカ売れるんだなきっと」

「俺の話はいいだろ!」

「……レオン。そろそろ話してくれてもいいだろう?なんでそんなに迷宮踏破を急いでるんだ?別に俺らも手伝わないと言ってるわけじゃないんだ。理由さえ話してくれれば考えてもいいんだ」

「いや、いいんだ。これは俺の問題だ。それに深層探索はお前の最も嫌うブラックな環境にあてはまるだろう」

「そりゃあそうかもしれないけれど……」

 二人はそれ以上言葉を交わすことなく、拘留所から出て行った。
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