迷宮探索者の憂鬱

焔咲 仄火

文字の大きさ
57 / 105
Phase 1 生まれ変わってもブラック会社に勤めていた迷宮探索者の憂鬱

第57話 路地裏

しおりを挟む
 レオンを拘留所まで迎えに行った帰り道。3人は人通りもまばらな夜道を歩く。
 この辺は街灯は少ないが、月明かりがはっきりと道を照らしていた。

 突然ロキがレオンの方をチラリと見ると、人気のない横道を指さす。レオンも頷き二人はそちらの道へと歩き出す。
 アルマは慌てて「どこへ行くんですか?」と声をかけるが、ロキが「ちょっと寄り道」と言ってアルマにも付いてこさせた。
 その道は人気がなく、ある程度進んだところでロキたちは立ち止まった。そしてレオンが口を開く。

「ここらなら誰も見てないからいいだろ?出てこいよ」

「え?」

 アルマはレオンが何を言っているのか理解できずに混乱する。
 するとレオンの言葉を聞いて、数人の男たちが姿を現した。

「付けていたのに気づいてましたか?」

 そこに現れたのはアモルファス。探索者ギルドでレオンに殴られた男だ。大怪我を負ったはずだが、おそらくギルドで回復魔法を受けたのだろう。現在は無傷だ。そしてその姿はこれから迷宮に潜るのかというような完全武装だった。
 そして彼のパーティ『一番旗』の仲間たち四人もいた。彼らも全身鎧と凶悪な刀身の剣や刃先がぼんやりと光った槍や斧など、おそらく魔力を纏った強力な武器を携えていた。

「さっきは恥をかかせてくれましたね。ギルド内で襲いかかってくるほどのバカがいるとは思わなかったので、油断しました。頭おかしいんじゃないんですか?」

「それで、闇討ちで仕返しか?」

「ふふ……そういうことです。この業界、舐められたら終わりですからな。80階層止まりの落ちぶれ探索者よりも、某の方が弱いなどと誤解されてたままでは、この先やっていけません」

 A級探索者同士のケンカはさすがに珍しいだろうが、実は迷宮探索者同士のケンカはよくある。ギルドの中だろうが外だろうとこの国の法律上ケンカは犯罪だが、そういうよくある探索者同士のケンカに対しては治安維持隊も甘く、大した罰を与えられることは無い。
 罰が少ないため、どこの誰より強いとか弱いとかいうことに必要以上にこだわる迷宮探索者という生き物は、すぐにこういった乱闘を起こすのだ。

「それじゃレオン、先に帰ってるぜ」

 アモルファスたちが用があるのはレオンだと分かり、ロキはアルマと先に帰ろうとする。するとアモルファスの仲間たちがロキたちの行き先をふさいだ。

「おっと、どこへ行くつもりだ?」

「お前たちが用があるのはレオンじゃないのか?」

「これはもうレギオンとレギオンの問題だろう。お前たちのような三流レギオンに我らが舐められていると勘違いされてはこまるんでな」

「面倒くせえな……」

「お主は魔法を使うらしいな。おっと、非武装だからといって魔法を使うのはおすすめできない。ケンカの罰は大したことないが、街中で魔法を使った時の罰は重い。なぜなら魔法の威力は周囲に大きな被害を及ぼすからだ。テロリストとして死刑になることも覚悟したとしても、我らの武装は当然魔法耐性が高い。我らにダメージを与えることすらできず、街を破壊するだけだぞ。クハハハ……」

 男の親切な説明を聞きながらアルマは怯えていた。
 目の前にいるのは完全武装の迷宮探索者4人。これ見よがしに胸から下げているプレートはA級探索者を表す金色の迷宮探索者証だ。
 二人の後ろでアモルファスと向かい合っているレオンはすぐにこちらの手助けをできそうもなく、レオンを迎えに来ただけのロキたちは武装してすらいない。
 先日A級探索者が着るレベルの強力な鎧を着た男を素手で殴り倒したロキだったが、今度は装備だけでなく中身も本物のA級探索者たちだ。明らかに人間の手で作られたものではない、迷宮からドロップした強力な武器防具を身にまとっている。
 さらには魔法を使ってことを荒立ててしまえば身を亡ぼすことになると言われ、いくらロキが強いとは言え、武装もしていない魔法も使えないこの状況ではなすすべもないだろう。
 ロキやレオンが大けがをしたとしてもアルマがヒールで治してあげられる。だがアルマが捕まって連れ去られたら二人を助けてあげることができない。ましてや攫われたアルマがこの男たちに襲われることを想像してしまうと、恐怖で全身に鳥肌が立った。
 恐怖におののくアルマがロキの背中に隠れるようにくっついた時、ロキが一言呟いた。

「≪烈風ホワールウィンド≫」

 次の瞬間、槍を持つ男の右腕が肘の辺りから切り落とされた。

「え?」

 あまりに突然の出来事のため、腕を切り落とされた男は何が起きたか理解できていない。

「なんで……」

「上級魔法の魔力を凝縮させると、いくら魔法耐性がある鎧でも簡単に切断しちゃうんだな」

「上級魔法……?え……、俺の腕が……???」

 男は理解できずに固まっている。あまりのショックに痛みもまだ感じていないらしい。

「は、早く上級ポーションを……」

 仲間は腕の切れた男を助けようとするが、今はケンカの最中だ。そんな隙を見せていいのだろうか?

「≪凍結クイックフリーズ≫」

 ポーションを取り出そうとした男は、ロキの魔法で氷の彫像のように固まり動けなくなる。
 その姿を見て残る二人も恐怖する。

「炎の魔法だと跡かたもなく焼き殺しちゃいそうだから自粛しとくか……」

 この時点で降参しておけば痛い目に合わずに済んだのだが、男たちは恐怖で思考が停止していたため、ロキの次の魔法を食らってしまうこととなる。

「それじゃ次は土の上級魔法、隕石落としの凝縮版を実験してみるか」

 ロキが弱い者いじめをしている反対側では、アモルファスとレオンが一対一で向き合っていた。
 アモルファスが構えた長剣の刀身からはぼんやりと黄色の光が溢れ、パチパチと音を立て火花を散らしている。

「さっきのような不意打ちは通用しないぞ。ひと思いに殺さずどこまでも苦しんでもらおうか。ふふ……この帯電剣で斬られる痛みにどこまで耐えられるかな?」

 そう言うと、アモルファスはレオンに向けて躊躇なく、その危険な魔法の剣を振り下ろした。
 剣を受けようと左腕をかざすレオン。ならばその腕を切り落としてやろうと、アモルファスは全力を込めて自慢の剣を振り下ろす。

 ガギン!

 想像していた感触と違う、何かとても硬いものとぶつかった衝撃に、アモルファスの剣は弾き飛ばされる。
 姿勢を崩し後退したアモルファスは、レオンの腕を切り落としたはずなのに一体何とぶつかったのか不思議に思う。
 その視線の先には左腕を顔の前にかざしたレオンがいるだけだ。だがその腕は、月明かりを浴びて淡い金色に光っていた。風もないのにレオンの黄金の髪がなびく。その髪の色と同じ色で腕からも体毛が伸びていることに気づく。

「な……何だ?!」

 アモルファスはレオンの変化に怯えつつ、剣を正面に構え警戒をする。
 レオンはその腕だけでなく、上半身全体が金色の体毛に包まれていた。

「貴様何をしている?!」

 レオンの変化に怯えるアモルファス。怯えながらもその姿の観察を続ける。よく見るとレオンの体が一回り大きくなっていることに気づく。

「何も武装していなかったはず……変身……だと?」

 目の前にかざした左腕をゆっくりと下げるレオン。
 その顔は先ほどまでの色男の顔ではなく、

「お……狼?」

 金色の体毛に覆われた、大きな口をした狼の顔をしていた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

SE転職。~妹よ。兄さん、しばらく、出張先(異世界)から帰れそうにない~

しばたろう
ファンタジー
ブラック企業で倒れたSEが、 目を覚ますと――そこは異世界だった。 賑やかなギルド、個性豊かな仲間たち、 そして「魔法」という名のシステム。 元エンジニアの知識と根性で、男は再び“仕事”を始める。 一方、現実世界では、 兄の意識が戻らぬまま、妹が孤独と絶望の中で抗っていた。 それでも彼女は、心ある人々に支えられながら、 科学と祈りを武器に、兄を救う道を探し続ける。 二つの世界を隔てる“システム”の謎が、やがて兄妹を結びつける。 異世界と現実が交錯するとき、物語は再起動する――。 《「小説家になろう」にも投稿しています》

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...