迷宮探索者の憂鬱

焔咲 仄火

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Phase 2 なぜか世界の命運を担うことになった迷宮探索者の憂鬱

第69話 炊き出し

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 ルナが主催する貧民街での炊き出しの手伝いにきたロキたち。アルマとココロはルナと一緒に食事を配給する係をしていた。

「慌てないでくださいね」

 そう言いながらアルマは器にスープを注ぎ、目の前の男に手渡す。
 男はありがとうと言って素早く器を受け取ると、大事そうに抱えて立ち去る。続けざまにアルマの目の前に差し出される器。皆腹が空いているのか、我先にと欲しがっていた。
 一生懸命にスープを注いでゆくアルマとココロを横目に見たルナは、自信も同じ作業に明け暮れながら二人へ礼の言葉を伝える。

「アルマちゃん、ココロちゃん、今日は本当にありがとう。助かるわ」

「どういたしまして!」

「ロキさんに至っては、手伝ってくれるだけでなく、お金も出してもらったりこうしてお手伝いにアルマちゃんたちを連れて来てもらったり、いくら感謝しても足りないくらいね」

 そうして見つめるルナの視線の先にいるロキは、配給をもらいに次々とやってくる人々の列の整理をしていた。

「ところで、二人はロキさんとどういう知り合いなの?」

 ルナはふと思ったことを尋ねる。昨日今日であったばかりのロキたちの事を何も知らないからだ。

「私たちはロキさんと同じレギオンの迷宮探索者なんです!」

「まあ!アルマちゃんもココロちゃんも迷宮探索者なの?」

「そうだよ!」

 ココロが元気よく答える。アルマはにっこりと頷いた。

「二人とも華奢なのに、そんな大変なお仕事してるのね?」

「でも私たちはいつも付いていくだけで、魔物と戦うのは男性たちだけなんですけどね」

「ココロは、宝箱を探したりしてしてるよ!」

「そう、ココロちゃんもすごいんですよ。私は本当に出番がなくて、おまけなんです。えへへ」

「出番がない?でも探索者をやってるなら、何か役割はあるんでしょ?」

 二人が雑談を交わしているその時、配給の列からわあ!という声が上がった。周囲の視線が声がした方へと集まる。そこには禿げ頭の大男がいた。

「割り込むな!ちゃんと一番後ろに並べ」

「てめえ誰に口きいてんだ?あ?」

 どうやら列に割り込んだ大男が、周りの者から注意を受けているらしい。だが大男は悪びれる様子もなく、注意した男の襟首を掴むと、睨みつけた。掴まれた男は驚き、視線を逸らしながらじたばたしている。

「はいはいそこまで~」

「何だ?」

 ケンカが始まるその前に、ロキが大男に近寄ってきた。素早く大男の左手首を掴むと、逆手方向へと捩じり上げた。
 
「ロキさんに任せとけば大丈夫ですよ」

 唖然としているルナに、笑顔のアルマは平然とそう言った。

「え?でも……」

 何事もなかったかのように、アルマは再び配給作業を始める。つられてココロも続く。ルナはそんな二人とロキとを何回か見比べた後、腹を空かせて早く食い物をよこせと群がる群衆に向けて配給作業を再開した。

「て、てめえ何しやがる!手を離せ!」

「手を離したらお前暴れるだろうが」

「うるせえ!この野郎!離せっつってんだろうが!」

 大声で罵声を浴びせてくる大男。空いている右腕で後ろのロキに肘打ちをくらわせようとするが、体を捻ると捕まっている左腕をさらに捩ることとなり、自身の痛みとなって返ってくる。

「てめえ卑怯だぞ!」

「何が卑怯か知らんけど元気そうだな。元気が有り余ってるみたいだから、ちょっと稽古つけてやろうか?」

 ロキはそう言うと、くるりと回転し、ひねっていた大男の腕の内側へと体を入れる。大男に何が起きたか理解する間を与えることなく、背負い投げで大地へと叩きつけた。

「痛っ!」

 自らの巨体のせいで落下のダメージが大きい大男。男を休ませる間を与えることなく、ロキは掴んだ腕を引っ張り引き起こす。次の瞬間、大男は再びロキの払い腰で宙を舞う。再び大地へと叩きつけられ、衝撃と痛みの後に男が反撃しようとしても思い通りにならない。引き起こされると今度は大外刈りで倒される。大男は受け身をうまく取れず頭を打ってしまう。ロキの柔道の技によって、大男は何度も投げられ引き起こされを繰り返していた。
 何度も地面にたたきつけられる衝撃に、大男はだんだんと体力を奪われだんだんと弱気になっていく

「やめて……くれ……もう……俺が……悪かった……」

 大男がヘロヘロになって謝罪すると、ようやくロキは投げるのを止めた。

「騒がせたな」

 ロキが周りの人たちにそう言うが、もう誰も大男の事を気にしていなかった。食べる物の方が重要なのだろう。
 そんな列を尻目に、ロキは大男へ言う。

「さあ、お前はこっちへ来てもらおうか」

「悪かったって……謝ってるだろ……許してくれ……」

「じゃあ詳しく話を聞かせてもらおうか」

「詳しくも何も、早く食いもんをもらおうとしただけだ……悪かったって」

「そういう話じゃなくて、こんな貧民街の炊き出しに、どうしてお前みたいに栄養満点な男が混じってんのかっていう話だ。ほら歩け!」

 ロキに鋭いことを言われ、大男の顔色が変わる。だが逆らっても痛い目に合うだけだと分かった大男は、逃げるタイミングをうかがうことにした。

 いつの間にか収まった騒ぎなど最初から関係なかったかのように、配給をもらおうとする人々が次々とアルマたちの元へと群がる。三人は次々と手際よくスープを注いでいた。

「ところで、ルナさんはいつもこういうボランティアをやってるんですか?」

「ううん。今日が初めてよ。でも食事を受け取るみんなの顔を見ていると、やってよかったって思うわ」

「そうですね。みんなに喜んでもらえてるみたいで良かったですね」

「この王都はとっても繁栄してるけど、貧富の差が激しくて貧しい人たちは食べる者にも困っているの。富裕層の家庭に生まれた人が一生食べる物に困らないのと同時に、貧民として生まれた人たちは貧しいまま一生を送らなければいけないの。いくら働きたくてもチャンスがないのよね。同じ人間なのに、生まれた家が違うだけで人生が違うなんて悲しいと思わない?」

「……そうですね」

「だから何かできることは無いかと考えて、せめて食べる者でも配ろうって思ったの。ボランティアでお手伝いをしてくれる人を募集していたら商人のデビッドさんと知り合って、この場所を借りる手配や食材やこの道具とかの用意をしてもらったの。そしたら手伝いの人の一人が私が用意していたお金を持ってどこかへ行ってしまって、昨日デビッドさんにお金を払えなくて困っていた時にロキさんが助けてくれたのよね」

「そうなんですね。そんなことを考えられるなんて、ルナさんすごいです」

「そんなことないわ。私一人じゃ何もできなかったもの」

「貧しい人のためにできることがないかって何か始めたのはすごいことですよ!私も何かできることがあったらしたいんですけど、何もしたことないですもん。子どものころこういう貧しい人たちを見て父に少しお金をあげたいと提案したら、父からお金を恵んでやるだけでは助けたことにならない、それは相手を見下して自己満足してるだけに過ぎないって言われたことがあったんですよね。可哀想って思うのに何もできない自分の力不足が悲しかったことがあります」

「確かにそうかもしれないわね。お金をあげるだけじゃ一時しのぎにしかならない。この貧しさに困っている人たちを本当に助けるにはどうしたらいいのか……」

「確かにその通りだな、だけど俺はここにいる全員が助けが必要だと思わない。金を与えたら貰うだけの乞食に助ける価値はないと俺は思っている」

「ロキさん!さっき騒いでいた人はどうなりました?」

「ああ、何も喋らないから諦めて、アポロに頼んで衛兵に引き渡しに行ってもらってる」

「だけどロキさん、この中にも働いて貧乏を抜け出したいまじめで前向きな人間がいるはずです。そんな人たちも仕事がなくて結局貧しさから抜け出せないでいるのです。子どもたちだって将来の選択肢がもっといろいろあってもいいとは思いませんか?」

 現れたロキの言葉が引っ掛かっているのか、ルナはロキの全員助ける必要はないという言葉に反論する。
 ロキは冷静に持論を展開する。

「そうですね。もちろん助ける価値のある人だってたくさんいると思います。もし俺が王様だったなら、道路を作るとか河川の整備をするとかの公共事業を始めて貧しい人たちに仕事を与えたり、学校を作って働くための能力を付けてもらったりしますね」

「学校ですか?学校なんて、貴族や一部のお金持ちだけが行くものじゃ?」

「国民全体の学力を上げてしまうと、支配階級は困るかもしれない。でも俺は今のこの国の仕組みよりも、国民全員が学校に行って支配される側にも力を付けさせた方が、今より多少は貧富の差も減るような気がする。ちなみに俺のアイデアではなくて、そういう国もあるからなんだけどね」

「なるほど……学校ですか……」

 ロキの言葉にルナが考えこむ。

「ところでロキさん、私たちに何か用ですか?」

「ああ、それなんだけど、ちょっとココロ借りに来た。ココロ、ちょっと手伝ってくれ」

「任せとけ!」

 器にスープをよそうだけの作業に飽きてきていたココロは二つ返事で答えた。

「私はどうしますか?」

「アルマはルナさんの手伝いを続けてくれ。人手を減らせて申し訳ない」

「分かりました!」

「ココロ、この辺りに変な奴がいると思うんだけど探してもらえるか?」

「分かった!」

 そうしてロキはココロを連れてどこかへと行った。
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