迷宮探索者の憂鬱

焔咲 仄火

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Phase 2 なぜか世界の命運を担うことになった迷宮探索者の憂鬱

第84話 港湾都市ブルームポート

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「レギオン、白い部屋ホワイトルーム……ですか……」

 普段愛想が良いことで評判の良い受付嬢は、初めてそこにやってきた男たちに対して、ひどく面倒くさそうな顔でそう答えた。

「そうだ。新規レギオンの登録とメンバーの登録、それと現在最高到達階層までの案内を希望する」

 受付のテーブルに前のめりになったロキは、受付嬢に書類を突き出す。
 とりあえずその書類を受け取った受付嬢は、それをどう扱ってよいか分からず、後ろを振り返ると、「上司を呼んできますね」と言い残して奥へ向かった。

 ロキたちは勇者に遅れて港湾都市ブルームポートに着いた。
 先行している勇者パーティーよりも先に迷宮を踏破するためには、急いで遅れを取り戻さなければならない。そんなロキの焦りを無視したギルドの対応に、ロキはいらだちを隠せない。
 ロキの後ろでは、レオン、アルマ、アポロ、ココロの四人が今からすぐに迷宮に入れる装備をして、ロキが手続きを終えるのを待っている。
 そんな五人に対し、見知らぬよそ者がやって来たという目で周りの視線が集まっていた。

「面倒なのが来たな……」

 奥から聞こえてきたその声に対して、ロキは聞こえてるぞと思いながらも黙ってそれをスルーして待っていると、女の上司であろう髭の生えた中年の男がロキの目の前にやってきた。

「新規レギオンの登録をご希望なのですか?」

「そうだ。書類も不備はないはずだ。早急に頼む」

「ハハハ、ご存知ないようですが、このギルドでは新しいレギオンは受け付けてないのですよ。迷宮を探索するならどこかのレギオンに入って……」

「どういうことだよ?!」

「ですからわざわざ面倒なことをせずとも既存のレギオンに入ってもらえればお互いに面倒なことをせずにすむのですよ」

「そういうことじゃねえ!なんで新規レギオン受付をしてねえのかって、聞いてんだよ!そんなルールどこにもねえよ!勝手にルール作ってんじゃねえよ!」

「いえ、レギオン経営をするのはとても大変な事でしてね。税理士も雇わなければいけないし、常にさまざまな書類作成をする仕事も必要です。それには専門の高等教育を受けた人材を雇わなくてはいけませんし、そういう人を新しく探してくるよりも既存のレギオンに入ってもらった方が断然お得なのですよ」

「そんなん知ってるし、俺が言ってるのはそういうことじゃねーわ!いいか、俺の質問に答えろ?なんで新規レギオンの受付をしてねえって言うんだ?」

「ですから!あなたのような世間知らずが苦労しないように、我々が気を利かせて……」

「そんな気を利かせる必要はねえ!ギルドの規約に沿って新規レギオンを登録しろ!それだけだ!」

 そんなやり取りの結果、ついにギルド職員が逆ギレをした。

「さっきから何なんだおまえは!そんな装備だけ立派なおのぼりさん丸出しで現れやがって、若造が!あきらかに実力と装備が釣り合ってないだろうが!どうせ金だけ出して装備をそろえたんだろう?お前も立派なローブを着てるが、どうせ王都の魔法学園をそれなりの成績で卒業して自分の実力を過信してるんだろう?いいか?魔法使いっていうのは、長年実戦を続けてゆくことで魔力が増加して強くなっていくんだ。おまえみたいな若造が魔法使いをしてるって時点で、おまえたちパーティーの実力なんてたかが知れてるんだよ。しかも見りゃ子供まで連れて、いくら仲間が集まらなかったからって子供を命の危険にさらすつもりか?それともお遊びで1階層だけ探索してみたいなら、既存のレギオンに体験入団してみりゃいいじゃねえか!なんでわざわざ新規レギオンを登録しなきゃいけないんだよ!」

 言われてロキは自分たちの姿を確認する。
 ロキは本気で迷宮踏破するために、今回はそれなりに装備を揃えてきた。ロキのローブは迷宮都市の迷宮で入手した4属性耐性付きのもので、攻撃魔法の指向性を高めて命中力を上げる杖を持っている。アルマのローブもココロやアポロが身にまとっている革鎧も迷宮産の防御力が異常に高い特殊なもののため傷一つなく、まるで新品のような光沢を帯びている。
 そしてレオンを除く四人は見た目に若すぎる。いかつい迷宮探索者の中では浮いてしまう外見だ。
 この職員は、そんな自分たちを見た目で判断したのだろう。
 いやいや俺たち迷宮を一つ踏破してるんですけど。どうやってそれを理解してもらおう?実力行使したら傷害や器物破損で捕まっちゃうし……。と、ロキが悩んでいた時、アルマがロキの肩をポンポンと叩く。

「ん?」

「ロキさん、ジョンさんから手紙を預かってるじゃないですか?」

「ジョン?……ああ、ギルド長ね!」

「ロキさん、ジョンさんはもうギルド長じゃありません」

 ロキたちが踏破した迷宮アムトラを管轄していた迷宮探索者ギルドのギルド長ジョン・ジョーは、ロキたちの迷宮踏破の報酬で、現在では王都の迷宮探索者ギルド本部に配属されている。
 だがロキはずっとギルド長と呼んでいたため、その癖が抜けていなかった。

「まあとにかく手紙があったな……」

 ロキが荷物の中からジョンの手紙を探し出すと、ギルド職員の目の前にそれを掲げた。

「王都の迷宮探索者ギルド本部から、ここの探索者ギルド長あての手紙を預かってきた。直接ここのギルド長に渡せって言われてるから、ギルド長を呼べ」

 先ほど逆ギレしていた職員は、その手紙を見ると突然おとなしくなり、お待ちくださいと言い残し走ってギルド長を呼びに行った。

★★★★★★★★

 いつまで待たせるつもりだとロキが言うと、受付嬢が慌ててロキたちを来客室へと案内した。
 先ほどまでと打って変わって丁寧な対応となり、まんざらでもないロキはソファの上で足を組んでくつろいでいると、先ほどギルド長を呼びに行った髭の男と、小太りで白髪の男が現れた。

「おまえか。私を呼んだのは?」

 その高圧的な態度にロキは一瞬イラっとするが、冷静になって対応をする。
 ロキは立ち上がってその男に尋ねる。

「おまえがここのギルド長か?」

「そうだ。私がブルームポートの迷宮探索者ギルドのギルド長アポカリプソンだ」

「迷宮探索者ギルド本部のジョン・ジョーからの手紙だ。あんた宛てにいろいろと連絡事項が書いてある」

 ロキが差し出した手紙を、アポカリプソンは受け取る。それをじっと見た後、ロキに尋ねる。

「それで……、私にこれを渡してどうしたいんだ?」

「まずは俺たちレギオンの登録、そして現在到達階層までの案内と探索の協力を頼む」

「フフフ……」

「?」

 突然笑いだすアポカリプソンに、ロキはなぜ笑われたのか分からずに首をかしげる。

「分からんか?お前たちが言ってることが無茶苦茶だということが?」

「は?」

「まず、ギルド本部が私にこのような手紙が送ることはない。ましてや貴様らのような若輩者のパーティーを優遇しろなどと、ギルド本部が言うことがあるはずがないだろう?例えば本当にギルド本部が私に手紙を書かされるほど貴様らがお偉い貴族様だったとしたら、逆にそのような危険なことをさせるはずがない。つまりこの手紙はお前たちの捏造、もしくは金を積んでギルド本部の下っ端にでも書かせたかのどちらかだろう」

 そう言ってアポカリプソンは、ロキに見せつけるようにジョンの手紙を破った。

「あっ」

「そして最高到達階層までの案内なんて、バカな話があるか!いいか?迷宮探索というのは少しずつ階層更新しながら自分自身の実力を上げてゆくものだ。いくら自信があるからって、そんな命知らずなことなんてさせられるか!感謝するんだな。もしも私がおまえたちのくだらない策に騙されて言いなりになっていたとしたら、おまえたちが死ぬところだったんだぞ」

「何言ってんのお前?」

「まったく、おまえたちは迷宮探索者ギルドをなめてるのか?本来なら立ち入り禁止にでもしてやりたいところだが、見たところ金だけは持っているようだな。良いだろう。金さえだせばそれなりのレギオンを紹介してやろうじゃないか」

「賄賂をよこせってこと?」

「おいおい言い方が悪いな。紹介料だ」

「……」

「どうした?」

「ここの迷宮探索者ギルドもブラックなのかよ?!」
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