迷宮探索者の憂鬱

焔咲 仄火

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Phase 2 なぜか世界の命運を担うことになった迷宮探索者の憂鬱

第85話 トップダウン

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「申し訳ございませんでしたっ!!!」

 港湾都市ブルームポートの迷宮探索者ギルド長アポカリプソンは、ロキたちの前で土下座をしていた。

「何?何?どうした?」

 突然の見事な土下座に、ロキも何事かと驚きを隠せない。
 昨日この町に着いたロキたちは、ここのギルドで門前払いにあった。
 勇者パーティーより先にこの迷宮を踏破したいのに、昨日は迷宮に入ることもできなかったのだ。
 怒って帰ったロキたちは、とりあえずこの町での宿舎の確保と、武器・防具屋巡り、食事処の確認などをした後、王都へ連絡を入れておいた。
 この世界にも電話に似た魔導通信機という物が有り、一般市民には普及していないが一部の資産家なら所有している。それで王都の迷宮探索者ギルド本部のジョン・ジョーや、宮廷魔術師モールに相談をしておいた。
 その結果、今日再び迷宮探索者ギルドに来たら、この男が平身低頭して謝罪してきたのだ。

「迷宮探索者ギルド本部から厳しく指導されまして、当ギルドもあなた様たちに全力でサポートするよう仰せつかっております。昨日お申し出いただいた件ですが、すでに白い部屋ホワイトルーム様のレギオン登録と皆さまのメンバー登録を済ませていただいております」

 どうやら昨日ロキがジョンに相談した後に、ジョンから直接このアポカリプソンへ魔導通信機で連絡をしてくれたらしい。本当は昨日渡した手紙に全部書いてあったのだが、このアホが読まずに破って捨てたので伝わらなかったのだ。
 話を聞くと、そのことについてギルド本部のジョンからひどく怒られたらしい。

「あの……それで……、手紙を読まなかったことについて本部から言われたのが、他のすべての業務でも同じように不備がある可能性があると言われてしまいまして、最悪の場合本部の監査を受けて問題があったら職員全員が懲戒処分を受けてしまうことになってしまいました」

「自業自得じゃねえか」

「も、申し訳ありません。その通りなのですが、ですがもしロキ様のサポートを万全に遂行できるほどしっかり職務を遂行できた場合は、監査を受ける必要がないと言っていただけたので、私どもは全力で皆様のサポートを行っていきたいと心に決めた次第であります」

 要するにジョンは、ロキたちに力を貸せば許してやるし、力不足なところがあったら強い処分をすると言ってくれたらしい。
 そんな気の利いた采配に、ロキたちは思わず笑ってしまう。
 昨日まではあんなに強気だったこの男が、ここまで卑屈になるのも面白かった。

「やっぱあれだな。組織って言うのはトップダウンだな」

「とっぷだうん?」

 ロキが呟いた聞きなれない単語に、ココロが反応する。

「つまりあれだ。組織の上層部が意思決定し、下部組織に伝えるのが基本だっつーことだ。ボトムアップって言葉もあるが、俺から言わせたらそれは理想論だ。俺の経験上、上がダメなら下がどう頑張ってもダメだ。上司がダメならその上司に、それがだめならさらに上の上司に相談するのが正攻法だな」

「一番上が無能だったらどうすりゃいいんだ?」

 ロキの言葉にレオンが素朴な疑問を投げかける。

「その場合はその組織はもうだめだ。その組織から離れるのがベストだな。とりあえず迷宮探索者ギルドのジョンは信用しても良さそうだし、この国のトップの国王にも期待してもいいんじゃないかって思ってる。そんでギルド長よ。最高到達階層までの案内も頼むぜ」

「それがですね。そちらについては皆さまから直接そのパーティーと交渉していただければと思います」

「分かった。紹介してくれ」

「あ、はい。ただ問題がありまして、あいつら少し気難しいところがありますので、ロキ様の気分を害されるようなことがあるかもしれませんが、お許しください」

「まあ探索者なんてそんなもんだろう」

「はい。そうですよね」

 へらへら笑うアポカリプソンを見て、特に問題なく進むと思っていたロキだったが、この交渉がなかなか面倒であった。

★★★★★★★★

「手伝う義理はないし、気に入らねえな」

 昨日と同じ応接室に案内されたロキたちだったが、紹介してもらった鉄壁というパーティのリーダーのプログレと名乗った男は、開口一番不快感を表した。
 ロキはその返答に対してすぐに答えず、まずはプログレの言い分を聞いてみることにした。

「俺たちがどれだけ苦労して50階層を突破したと思ってやがんだ?簡単にキャリーしてだなんて言いやがって」

 ブツブツと不満を言うプログレを説得しようと、小太りのギルド長はプログレの機嫌を取ろうとする。

「そ、そう言うなプログレ。この方たちは何と迷宮都市の迷宮アムトラを踏破したパーティーなのだそうだ。実力はギルド本部の折り紙付きだ」

「そういう事を言ってるんじゃねえよ!実力があるなら1階層から自力で踏破してきゃいいじゃねえか!俺たちの苦労をバカにしてる考えが気に入らねえんだよ!」

 確かにその考えも分かる。ロキたちがやろうとしているのはズルだ。
 自分たちがまだ到達していない階層まで連れていってもらう案内、通称キャリーをしてもらう行為は本来同じレギオン内に限られている。
 だが勇者はこのパーティーにキャリーしてもらい51階層から探索を始めたと聞いている。ロキたちが今から1階層から探索していく場合、差が開きすぎていて追いつくのも困難だ。ロキたちは勇者よりも先にこの迷宮を踏破しなければならないのだ。そのため少しでも深い階層から探索を始めたいロキは、この気難しい探索者に何とか頼んでみる。

「俺たちだって1階層から自分の足で踏破したい気持ちはある。だけど急いでいるんだ。もちろん謝礼だってそれなりに払うつもりだ。だからなんとか……」

「金を払えばいいだろうっていう、その考えが気に入らねえんだよ!」

 プログレは怒りに任せてテーブルを強くたたいた。
 木製のローテーブルは、全身鎧を着た大男の一撃で見事に真っ二つに割れた。
 それを見たギルド長は真っ青な顔になる。
 だがロキは、飽くまで冷静にプログレとの交渉を続ける。

「急いでいるんだ」

「何を急ぐって言うんだ?どうせこの迷宮はそのうち勇者様が踏破される。金を稼ぎたかったら他の迷宮を探した方が早いじゃねえか!」

「俺たちはその勇者よりも先にこの迷宮を踏破しなくちゃいけないんだ」

「はあ?何言ってやがる?バカじゃねえのか?そんなの無理に決まってるだろう?」

「やってみなきゃ分からない」

「……どっちにせよ俺はお前たちをキャリーしてやるつもりはない」

「なぜだ?勇者はキャリーしてやったんだろう?」

「へっ!勇者様は俺たちに10億セルもの大金を払ってくれる約束なんだぜ!お前たちにそれだけ金を出せるか?」

「10億?勇者の資産ってそんなにあったか?もしかしてこの迷宮を踏破した報酬から払うつもりなんじゃねえのか?お前本当に勇者からそんな大金貰えると信じてるのか?あいつはなかなか不誠実なやつだぜ……」

「う、うるせえ!ともかく俺はお前たちの事が気に入らねえんだよ!おととい来やがれ!」

 プログレはそう捨て台詞を吐くと応接室から出て行った。
 あたおた慌てるギルド長にロキは、次の深層を探索しているパーティーの紹介を依頼した。
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