迷宮探索者の憂鬱

焔咲 仄火

文字の大きさ
88 / 105
Phase 2 なぜか世界の命運を担うことになった迷宮探索者の憂鬱

第88話 最短踏破への道のり

しおりを挟む
「くっそ!どうすればいいんだ」

 探索者ギルドにて勇者と遭遇の後、宿に帰ったロキは、一人で頭を悩ませていた。
 どう計算しても勇者パーティーより先に迷宮を攻略できない。
 このままでは勇者の思惑通り、勇者が先に迷宮を踏破し、その褒賞として自分たちを処刑することを王へ希望するだろう。それを簡単に受け入れるような王ではないことを知っているが、逆に勇者の言い分を真っ向から否定することもできないことも知っている。迷宮を踏破すると手に入れることができる絶大な魔力を生み続ける石『聖鍵』は、それだけこの国にとって価値の高いものなのだ。
 勇者の悪行を封じ、この世界の数々のブラックな環境を打破するためには、なんとしてでもロキは勇者よりも先に迷宮を踏破しなくてはならない。

 迷宮探索の進め方についてはリーダーであるロキに全て任せ切っているため、一人で悩むロキに対して力になれない仲間たちは、不安そうにロキを見守っていた。
 一人で思考に浸っていたロキが何かを決意した表情を浮かべ振り返った時、初めて自分を見守る四人の姿に気が付く。そんな一人一人の仲間たちの顔を見る。
 強い意思を持った瞳でこちらを見つめるレオン。両手を胸の位置で握り心配そうな顔な顔をしているアルマ。アルマの横で静かにロキの反応を待つココロ。そんなココロの一方後ろに立ちいつものように動じないアポロ。
 ロキはそんな仲間たちへ向けて、頭を下げた。

「どうした?」

「すまない。みんなに頼みがある」

「何ですか?私たちにできることがあったら、何でも言ってください」

 アルマはそう言ったが、ロキは頼みごとをすぐに言い出せない。
 複雑そうな気持ちを顔に表し、言葉を選んでいるロキに、アポロが声をかける。

「いつものような自信満々な貴様はどこへいった?私たちは貴様の仲間だろう。一人で悩んでないで私たちをもっと頼ってみろ」

 レオンがアポロに続く。

「アポロの言う通りだ、ロキ。それにこれは俺の問題にお前たちに巻き込んだようなもんだ。お前が指示するなら俺はどんなことだってやる。どうすればいいロキ?何でも言ってくれ!」

「アポロ、レオン……」

「わ、私はレオンさんたちみたいに役に立てるわけじゃないですが、私にもできることはがんばってやりますから!」

「アルマ……」

「ココロもがんばるよ!」

「ココロもありがとう……。みんなありがとう」

 改めて全員の顔を見た後、ロキはゆっくりと話し始める。

「この迷宮でも、一日で1階層を攻略できることが今日潜ってみて分かった。勇者が言うようにこの迷宮が60階層までなら、最低でも後15日探索をすればこの迷宮も踏破できるはずだ」

 その説明を聞いて全員が頷く。そしてロキは説明を続ける。

「だが勇者も一日で一階層を攻略できると言っていた。しかもやつらはすでに55階層だと言う。つまりあと6日でこの迷宮を踏破してしまうつもりらしい」

 ロキたちの踏破までの最短日数15日、勇者たちの6日。どう考えても勇者たちより先に迷宮を踏破することは不可能なことは、計算が苦手な人間でも分かる。

「だがそんな勇者でも面倒がって委託した迷路階層を俺たちは一日で攻略している。正確に言えばおよそ6時間。今日は様子見みたいなところもあったから、最短で進んでボス戦も最初から躊躇なく最大火力でいけばもっと短縮できるはずだ。迷路階層を抜けた51階層以降はもっと早く攻略できるだろう。だが俺たちが勇者よりも先に迷宮を攻略するためには一日3階層を攻略する必要がある」

 仲間たちはロキの説明をかみしめながら理解しようとする。最後にロキはもっと分かりやすく結論を述べた。

「明日一日で3階層を攻略するには、俺の計算では最短で15時間。朝7時に探索を開始して、1階層攻略するたびに休憩をはさんだとして、48階層を突破できるのは深夜24時過ぎだ。あさって以降は迷路階層を抜けるからそれよりも早く終われるとは思う。五日間だけ。悪いが五日間だけこの無茶に付き合ってもらえないか」

「うん!」

「頑張りましょうね!」

「姫様が眠くなったら無理はさせられんが、それまではいいだろう」

 ココロ、アルマ、アポロが簡単に了承をする。
 無茶を承知で頼んだのにも関わらず、あまりにも簡単に了承してくれた仲間たちに対して戸惑っているロキに代わり、レオンが三人に礼を言った。

「悪いな、ありがとう」

「いや、さすがに毎日そんな睡眠時間を削ってまで長時間労働させるのは申し訳ないんだが……」

 仲間の反応に混乱しているロキの、申し訳ない気持ちが爆発する。

「でも、勇者パーティーよりも先に迷宮を踏破するには、そうするしかないんですよね?」

「そうだ……でもこれじゃあまりにブラックじゃないか?ブラックな労働環境を改善するのが俺の目標だったんだけど……」

「何言ってるんだ。前回迷宮を踏破してから散々休みをくれたじゃないか。それに五日間だけなんだろ?」

「だけど五日間だけでもかなりつらい思いをさせてしまう……」

「ココロは迷宮探索楽しいよ!」

「姫様が楽しいのならブラックではないな。フフ……」

 レオンもココロもアポロも、全く意に介さないといった感じだ。
 そしれアルマがロキを気遣う。

「長時間の探索は大変ですけど、ロキさんのおかげで私たちは楽しく迷宮探索させてもらってるんで、前にロキさんが言っていた精神的ストレス?……っていうのはほとんど感じていませんよ。それよりもロキさんが一人で問題を抱えて悩んでいる方が心配になっちゃいます。私たちは仲間なんですから、もっと頼ってくださいね」

「アルマ……ありがとう。それにみんなもありがとう。それじゃあ明日からは悪いが付き合ってもらうぞ!」

「うん!」「はい!」「ああ!」「ふん!」

 意を決して長時間探索を申し出たロキだったが、あまりにも簡単に四人それぞれの了承を得て話がまとまる。
 実際に探索してみんなの疲れ具合を見て調整する必要はあるかと思うが、残る五日間、迷宮探索のタイムアタックが始まることになった。
 そしてその後、翌日のために早めに寝ようと話していた頃、ロキたちがいる部屋の扉をノックする音が聞こえた。

「こんな時間に誰でしょう?」

「あ、俺が出るよ」

 ロキが扉を開けると、そこに立っていたのは、聖女レオーネだった。

「ルナさん……」

「こんな遅くにごめんなさい」

「いえ、そんなことより一人ですか?敵対している俺たちのところに来て大丈夫なんですか?」

「あの人に見つかったら怒られるでしょうね……」

 俯きながら、勇者には内緒で訪問してきたことを告げるレオーネ。
 その表情は重い。
 ロキはレオーネを中へ案内すると、椅子に座り訪問の理由を尋ねた。

「ロキさん……。みなさんも、この国から逃げてください」

「それはこのままじゃ俺たちが勇者に殺されるからですか?」

「そうです。今日のあの人の言葉は本気でした。あの人は偏屈で頑固な性格をしているので、ロキさんたちの処刑を求めると言ったからには撤回しません。このままでは本当に殺されてしまいます。勇者のいない他国へ逃げてください」

「そんなことよりルナさん。あなたの方こそ大丈夫ですか?顔色が悪いようですけど、ひどく疲れていませんか?」

「それは……、迷宮探索で前面に立つバカラさんが怪我をする頻度が高いので、治癒魔法を使う回数が多くて。その疲れです。大したことはありません」

 前にも聞いていたが、レオーネは精神的ストレスの強い環境にあり、そのせいで聖女の神威代行魔法がうまく使えていない。ロキの予想ではアルマと同じように魔力切れなどしないはずなのだが、ストレスのせいで使用回数に制限があり、そして人使いの荒い勇者によって限界まで治癒魔法を使わされているのだろうと容易に想像できた。
 レオーネに対し淡い恋心を抱いているロキは、その身が心配になってしまう。

「ルナさん。俺たちに逃げろと言うのなら、ルナさんも一緒に逃げませんか?」

「え?」

 あまりに突然の申し出に、レオーネは困惑する。

「ルナさんは聖女として働きすぎです。他人のために限界まで働かされている姿を見て、俺は心配で仕方ありません。もう聖女という地位は捨てて、一人のルナという女性として生きてもいいんじゃないですか?俺と一緒にこことは違う国へ行きましょう。そこで勇者のことも聖女の仕事も忘れて、一緒に生きませんか?お金のことなら心配いりません。俺は前回の探索の報奨金がありますし、それを持ち出せなくても新しい土地でまた探索者をやってもいいし、税理士としてどっかで働いてもいい。俺こう見えていろいろできるんで、生活は心配いらないですよ」

「ロキさん……」

 それはロキにとって恋愛感情の告白でもあり、恋愛に慣れないレオーネでもその気持ちは理解できた。
 先ほどまで最短で探索をすると話したばかりの仲間たちも、もしロキが逃げたいというのならそれでもいいと考え、何も口を挟まない。
 ロキたち五人とレオーネの運命は、レオーネの返答に委ねられた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

SE転職。~妹よ。兄さん、しばらく、出張先(異世界)から帰れそうにない~

しばたろう
ファンタジー
ブラック企業で倒れたSEが、 目を覚ますと――そこは異世界だった。 賑やかなギルド、個性豊かな仲間たち、 そして「魔法」という名のシステム。 元エンジニアの知識と根性で、男は再び“仕事”を始める。 一方、現実世界では、 兄の意識が戻らぬまま、妹が孤独と絶望の中で抗っていた。 それでも彼女は、心ある人々に支えられながら、 科学と祈りを武器に、兄を救う道を探し続ける。 二つの世界を隔てる“システム”の謎が、やがて兄妹を結びつける。 異世界と現実が交錯するとき、物語は再起動する――。 《「小説家になろう」にも投稿しています》

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...