迷宮探索者の憂鬱

焔咲 仄火

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Phase 2 なぜか世界の命運を担うことになった迷宮探索者の憂鬱

第101話 男の名は……

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 世界と世界を繋ぐ、中間の世界。
 真っ白なその世界で女神がロキを殺すために異世界から召喚した男、新たな勇者。
 その男は、異世界ではスーツと呼ばれる黒い服に身を包んでいた。
 彼は何が起きているか理解する前に、女神から促されるまま聖剣を手に取り、そして振り返る。
 そこには女神の攻撃で傷つき倒れた状態でこちらを見る、ロキの姿があった。

 ロキはその男の姿を見るなり、言葉を失った。
 女神の命令によって自分を殺すよう指示されたその男に対し、ロキは脅威を感じなかった。
 それどころかひどく懐かしい気持ちになった。
 なぜなら、日本と呼ばれる異世界からやってきたその男を、ロキはよく知っていたからだ。
 そう、それはいつもロキが夢の中で体験した不思議な世界、そこにいた自分。
 ブラックな会社で働いていた、前世(と思われる)の自分自身だったのだ。

「前世の……俺……?」

「ロキ……だよな?おまえこんなとこで何やってんの?」

 その男は女神から言い渡された命令などに耳を貸さず、目の前にいるロキに向かって場違いなトーンの声で話しかけた。

「怪我してるのか?」

 ロキが血を流していることに気が付くと、振り返り女神の姿を確認する。

「こいつにやられたのか?」

 前世の自分との対面に、ロキは混乱していた。それこそ怪我した体の痛みを忘れるほどに。
 逆に前世(?)のロキ=新勇者は冷静に、状況を確認しようとしていた。
 そんな自分の命令に従わないどころか勝手にロキに話しかけている新勇者に、女神は困惑する。
 そして苛立ちながら勇者へ再び命令を下した。

「勇者よ、のんきに話などしている場合ではない。さっさとそいつを殺すのだ!」

「なんで?てかお前、鏡見てみろよ!お前の方が完全に悪役だろう?」

 新勇者は、醜悪な姿をした女神に向けてそう言い放った。

「何を……」

 女神が困惑すると、怪我で体を動かせないロキは、新勇者へ向かって叫んだ。

「女神が持っている赤い石を奪ってくれ!」

 慌てて女神が聖鍵を守ろうとするが、ロキの声を聞いた新勇者は女神に斬り掛かる。
 女神の加護によって身体能力が向上した彼の動きは早く、そして振り下ろした聖剣の一撃は強かった。
 その攻撃を放った勇者自身が困惑するほどに。

「うおっ!」

 その一撃は聖鍵を握る女神の手を破壊し、そして聖鍵にさく裂した。
 一瞬、世界の音が消え、そしてその世界全体がゆがんだ。

★★★★★★★★

 ロキと女神が消えた後の神殿前では、神殿内への立ち入りを禁止すると、集まっていた騎士団もだんだんと帰って行った。
 神殿入口へと続く階段の前では、腕を組んだレオンが、ロキが消えたという場所をじっと見つめながら立っていた。
 静かにロキを待ち続けるレオンを心配した聖女レオーネが、レオンへと近寄り声をかけた。

「ロキさんが戻ってくるまで、そうしてずっと待つのですか?」

「ん?ああ。あいつがココロに俺を呼びに来させたってことは、あいつが俺を必要としてるってことだ。俺はあいつの期待に応えなくちゃいけない」

「でも女神がこの世界に現れるのは滅多にありません。ロキさんがもし無事で戻ってくるとしても、すぐに戻ってくるとは……」

「何日だろうが何年だろうが、俺はこのままここで待つ。それくらい俺はあいつに借りがあるんだ。いや、借りがどうとかじゃないな。親友が俺を必要としてるんだ。貸し借りがあってもなくても、俺はあいつの力になるつもりだ」

「そうですか……。では私もここでロキさんが帰ってくるのを待ちましょう。もし怪我をされたりした場合、回復魔法が必要になるでしょうから」

「いつになるか分からないんだろ?」

「どうでしょう?あなたはどう思いますか?」

「あいつのことだ。すぐに戻ってくるさ」

 レオンがそう言った時だった。
 ロキと女神が消えた場所が、蜃気楼のように光がゆがみ始めた。
 すぐにそれに気づいたレオンとレオーネがその場所に駆け寄ってゆく。
 そしてその場所には、先ほど消えた巨大な女神と、女神に剣を振り下ろした新勇者、すこし離れた場所に倒れるロキの姿があった。

「なんてことをしてくれたのだ!貴様あああ!」

 女神は怒り狂って叫んだ。
 聖鍵を破壊され、世界と世界の狭間の世界から強制的に戻ってきてしまった女神たち。
 狭間の世界で休息し、力を取り戻すつもりだった女神の計算が狂ったからだ。
 片手を聖剣によって破壊された女神は、反対の手で新勇者を殴ろうとする。
 だがその前に新勇者は後ろに飛びのいており、女神の拳が届く位置にはいなかった。

「なんだ?また急に体が重くなった?」

 神威結界が張ってあるこの場所では、新勇者の女神の加護の効果が切れ、先ほどの素早い動きができなくなっていた。
 だが彼にとっては先ほどの身体強化された状態が異常であり、元の体の感覚に戻っただけでそれ以上の違和感は感じていない。

「ロキ、これでよかったのか?」

「ああ!ところであんた、名前は……」

「ああ、実は、俺もロキって言うんだ。苗字だけどな。露木啓介だ」

「ケースケ……さん。ありがとう、助かったぜ!」

 そんな二人の元へ女神が襲い掛かろうと踏み込んできた。
 だが次の瞬間、レオンの飛び蹴りが女神の頭部にさく裂した。
 大きな音を立てて転倒する女神。

「ロキ、待たせたな!」

「レオン!」

 ロキとケースケは、二人同時にレオンの名を呼んだ。
 ロキを視界にいれつつも、自分の名を呼んだ面識のないケースケが何者なのかと不思議に思う。
 敵なのか味方なのか?そんなレオンの一瞬の思考の間に、傷ついたロキに気が付きレオーネが駆け寄ろうとしていた。

「ロキさん!」

 ふいに女神の視界に入ったレオーネに対し、不快に思った女神がそれを排除しようと手元にあった崩れた神殿の石材を投げつける。

「危ない!」

 ケースケがそれを察知し、レオーネに飛びついたことで、紙一重のところで石材が衝突するのを避けられた。
 押し倒すような形でレオーネにかぶさってしまったケースケは、慌てて自分の無礼を詫びる。

「すいません、お怪我はないですか?」

 ケースケはレオーネに手を差し伸べ、優しく起こすと、レオーネは黙って新勇者を見つめていた。
 ぼーっとしたまま返事のないレオーネを心配し、ケースケは再び声をかける。

「あの……大丈夫ですか?どこか打っていませんか?」

「ああ、あの、すいません!大丈夫です!助けていただいて、ありがとうございました!」

 なぜか顔を赤らめ、慌てた様子で答えるレオーネ。
 大丈夫という言葉を聞き、ケースケはほっと胸をなでおろす。

「よかった、こんなきれいな女性にけがをさせずに済んで」

「えっ?やだ!きれいだなんて……あの……私……」

「それよりここは危険です。離れましょう」

 二人が話す横では、レオンが女神と戦っていた。
 大振りのパンチを繰り返す女神と、それを交わして飛び蹴りやパンチを繰り出すレオン。
 一般人のケースケがそれに巻き込まれたらたまらないと、ルナに一緒に避難することを提案する。
 差し出された手を握り、「はい」と言ってケースケに続こうとするレオーネ。

「ルナさん……助けて……」

 そんな二人に満身創痍のロキが助けを求めた。

「そうだ、ロキ!大丈夫か!」

「あっ、ロキさん!大変!≪回復ヒール≫!」

 レオーネが魔法を唱えると、ロキはきらきらとした光に包まれ、そして全ての怪我から回復した。

「治癒魔法ですか?すごい!」

「えっ?そ、それほどでも……」

 初めて見る魔法に感激するケースケと、褒められて照れるレオーネ。
 それを横目に何をしてるんだと思いつつも、ロキは再び立ち上がった。
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