迷宮探索者の憂鬱

焔咲 仄火

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Phase 2 なぜか世界の命運を担うことになった迷宮探索者の憂鬱

第100話 異世界召喚

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 王都の街並みの中、整然と並ぶ家屋の屋根の上を駆け抜ける金色の人影があった。
 屋根の上という普段目に入らない場所であり、そしてそれがあまりにも高速で移動していることから、その姿に気づいた者はほとんどいなかったであろう。
 キャッキャとはしゃぐココロを脇に抱え、獣化し狼男の姿で神殿へと急ぐレオンであった。
 一番近い建物の屋根上から神殿前の広場にレオンが飛び降りると、突如現れた黄金の狼男の姿に辺りは騒然となる。
 その姿を見つけたアルマがすぐに駆け寄ってきた。

「レオンさん!」

「アルマ!ロキは神殿の中か?女神が出たそうだな」

「それが……」

 救援に駆け付けたレオンに、アルマはそれまでの出来事を説明した。

「消えた?」

「はい。神殿の入口で女神と一緒に消えてしまったんです。今は騎士団の人が、その時ロキさんたちの一番近くにいた勇者から詳しい状況を聞いているところらしいです」

「そうか……」

 レオンは、ロキへの助けに間に合わなかったことへの後悔とロキがどこへ行ってしまったか分からない不安に苛まれる。
 その時レオンたちを呼ぶ声がした。 
 声の主は、元勇者パーティーにいた騎士バカラだった。

「おーい!陛下がお呼びだ。すぐに来てくれるか」

 神殿前の広場に騎士団によって建てられたテントが、今回の出来事の調査のための簡易的な拠点となって、騎士たちが入れ替わり出入りしていた。
 バカラに連れられてレオンとアルマがそこに入ると、そこには先に呼び出されたアポロとレオーネが既に来ていた。
 テントの中にあるテーブルを囲う椅子の一つに座った国王と目が合うと、国王は席を立ちレオン達のところへとやってきた。

「手間を掛けさせたな。今回の件を簡単に説明させてもらう。空いてる席に座ってくれ」

 レオン達が着席すると、国王が再び話始める。

「まず、あの女神という存在についてだ。妄信していた神殿とは別に、これまでも城内では女神という存在を不審に考える者もいた。そして今回の結果で、あれは人類の敵だったということが分かった」

 国王が隣に座る宮廷魔術師モールに視線を送る。
 モールは頷くと、国王に続いて説明を始めた。

「この世界の上には神の世界があると考えられている。神の世界からこの世界を見ることができるが、こちらから神の世界を見ることはできない。神の世界からこちらに干渉することができるが、こちらから神の世界へ干渉することはできない。それは水が上から下にしか流れないのと同じようなイメージだ」

 なんとなく理解できたのか、レオンたちはその説明に頷く。

「だがそんな我々よりも上位の世界が神の世界一つだけとは限らないという説もある。その一つが精霊が住む世界。それは我々よりも上位に、神の世界よりも下位にあると考えられる。そして……女神が住むのは精霊の世界よりも上位、神の世界よりも下位に位置するのではないか、それが今考えられる結論だ」

「それはどういうことだ?」

 レオンがモールに質問する。

「神殿では女神を神の横に並べて礼拝していたが、女神は神と比べるような存在ではなく、別次元の存在だということだ」

「神でも何でもないってことか……」

「名前がないために便宜上女神と呼称しているが、そういうことだ。そして女神は自分たちよりも下位の存在であるこの世界に興味を持ち、いたずらに干渉を始めた。それは勇者を召喚し、この世界をかき回すことだった」

「でも勇者は迷宮で聖鍵を持ち帰って、王国の役に立ったんじゃないのか?」

「ああ。ちょうどダイジローが呼び出される直前、王都の聖鍵の一つが消失しエネルギー不足となった王都は大きな混乱が起きた。だが彼が聖鍵を持ち帰ってきてくれた時はまさに彼はこの国の英雄だった。その時はワシも、彼はこの国の救世主だと思ったよ」

「その後本性を現したのか?」

「ああ。褒美に爵位と財産を与えると、彼は本来の傲慢で礼儀のなっていない本性を出し始めた。女神の使徒ということで誰もそれを注意することができなかった。おそらく女神は、彼がそうやってこの世界をかき回すのを面白がって見ていたのではなかろうか」

 そしてそれまで説明していたモールに代わって、国王が再び話し出す。

「そして先ほどダイジローから明かされた事実がいくつかある。まず彼が呼び出された時、女神からいくつか聞かされていたことがあったという。一つは先ほどモールが説明したように、この世界を観察している自分を楽しませろと言ったという事。そしてダイジローがもし元の世界に戻るには聖鍵が必要だと言ったのだと言う。もしダイジローが元の世界に帰りたいと思ったら、聖鍵を手に入れて自分を呼び出せと言ったらしい」

「聖鍵って、神の世界からのエネルギーを魔力という形で取り出すだけじゃなかったのか?」

「うむ。どうやら異次元への扉を開く鍵みたいなものではなかろうか?」

「異次元?」

「話を今回の事件に戻そう。ロキがダイジローを殺した事で女神が現れダイジローの蘇生を行った。その時にレオーネ、アルマ、そなたたち二人が神威結界によって女神を封じ込めようとし、消失しそうになった女神はこの世界に順応できるように実体化した。その時女神はかなりの弱体化をしたようで、ロキとの戦いとなりさらに窮地に立たされた。最終的におまえたちが手に入れた聖鍵を見つけ、それを使って女神は元の世界に逃亡した。これが今回の女神出現の顛末だ」

「ロキは、女神を追って女神の元居た世界に行っちまったのか?」

「おそらく。そして力を失った女神は当分こちらの世界に干渉してくることはないだろうと考えられる。だからこの件はこれでおしまいだ。後は女神を信仰してクーデターを起こそうとした元大司教のドルバンと、元勇者のダイジローを処分する。おまえたちには迷惑をかけたな」

「陛下。ちょっと待ってくれ。ロキは?ロキはどうするんだ?」

「こちら側から女神の世界に干渉することはできん。女神を追って行ってしまった以上、我々にはどうすることもできんよ」

「ロキはみんなを助けるために戦ったんだろ?」

「ロキには感謝している。だがどうすることもできぬのだ」

 ロキの捜索を諦めた国王と騎士団。
 そしてその後、レオンを除く四人には国王を守って戦った褒美を与える話をするということ話になったが、レオンは上の空だった。
 話が終わってテントから出てくると、レオンは立ち止まった。
 そんなレオンにアルマが話しかける。

「これからどうしましょう?」

 レオンが振り返ると、そこにはアルマとココロとアポロの視線があった。このパーティーでは、いつもリーダーであるロキが指示をくれていた。ロキのいない今、仲間たちはレオンを頼っている。
 レオンはロキがいなくなってしまったことにショックを受けている場合ではないと気が付く。

「三人は一旦宿に行って荷物をまとめておいてくれ。いつでも迷宮探索できるような装備を準備しておいてくれ」

「レオンさんはどうするんですか?」

「俺に助けを呼びに行くようにココロに言ったんだろ?ってことはあいつは俺の助けを待っているってことだ。いつでも戦えるように、俺はここでロキを待つ」

 ロキの事を諦めていないレオンに、仲間たちは頷いた。

★★★★★★★★

 何もない真っ白な空間。

 そこに突然四角い黒い物体が現れると、そこから爬虫類のような姿の女神が現れた。
 女神はロキにやられた傷で、体中が傷つきいたるところから緑色の血液を流している。

 そして直後、女神を追ったロキが現れた。
 黒い扉をくぐった直後、上下不覚になりその場所の空間を把握しようとするロキ。
 その一瞬のスキが命取りになった。

 自分を追ってやってきたロキの姿を見て女神は一瞬焦るが、焦って振り回した拳がロキへとさく裂した。
 腕を固めガードすることはできたが、巨人の肉体を持った女神の一撃はロキの全身を吹き飛ばすほどの威力であった。
 血を吐き転げまわるロキ。
 おそらく体の骨が何本か折れている。
 ぜーぜーと息を吐き、女神は無様に倒れるロキを見下ろしていた。

「こんなところまで追ってくるとは、しつこいやつだ……」

 先ほどまで一方的にやられて焦っていた女神だったが、今の一撃でロキの動きが止まり、自分が優位になったことを知る。
 次第にその表情は、悪意に満ちた笑顔に変わっていった。
 手放さずに強く握った聖剣を杖のようにつき、半身を起こしたロキは呟く。

「ここは……どこだ……?」

「ハハハ、ここは世界と世界を繋ぐ中間の世界。聖女の結界もここでは届かない。まあ結界がなくとも実体化してしまった私はすぐには元いた世界に戻ることもできないが……」

「中間の世界?どうしてこんなところに?」

 ロキが不思議がると、女神は手に持った聖鍵をロキへと掲げた。

「貴様らはこの聖鍵のことを理解していなかったようだな。この聖鍵は異次元への扉を開く鍵なのだ。普段は神の世界と繋がりエネルギーを生みだして利用していたようだが、本来はあらゆる異次元世界への扉を開くための鍵なのだ。それにしても、女神である私に対して、よくもこんな目にあわせてくれたな。今からお前を殺した後、100年ほどここで私は力が回復するのを待つとしよう。その後、お前たちがいた世界は滅ぼさせてもらうことにする」

「そんなことさせるかよ……」

 ロキは痛みをこらえながら聖剣を構えた。
 だが先ほどの一撃で優位に立ったことを知る女神は、笑みを堪えられない。

「先ほどまでの威勢はどうした?確かに先ほどまでは私を追い込んでくれていたが、どうやら立場が変わったようだな」

「うるせえ。てめえだって俺の切り傷がまだ癒えてねえじゃねえか。満身創痍なのはお互い様だ」

「フフ、私がまだ貴様ごときと対等に戦うと思ったか?」

「?」

「私の手を汚さなくても、私の使いを呼び出せば良い。ちょうどここには聖鍵があることだしな」

「まさか?」

「そうだ。ダイジローを呼び出した時も聖鍵の力を使ったのだ。あの時は大司教に命じて王都の聖鍵を盗ませたんだったな。聖鍵がなくなったと大騒ぎになり、ダイジローが迷宮で聖鍵を手に入れてきたら英雄だと大騒ぎだ。なくなった聖鍵が元に戻っただけなのにな。ワハハ!愚かな生き物たちだ」

「おまえ……」

「昔話はもういい。ともかくこの聖鍵で新しい勇者を召喚し、私の残ったちからで加護を与え、お前を殺させるとしよう。ふむ、この世界と相性がよさそうな魂を探し出して……」

「させるかよ!」

 ロキは女神に切りかかろうとするが、怪我の痛みで近寄ることすらできない。
 その間に、女神は手に持った赤い石を両手で掲げる。

 「開け異世界の扉よ。勇者召喚!」

 先ほどは黒くて四角い扉が開いたが、今度は足元に円形の図形が現れるとまるで竜巻のような渦巻き状の空間のうねりが生まれ、そしてそれが消え去った時、女神の前には一人の男の姿があった。

「おお!よく来たな勇者よ。お前に女神たる私の加護と聖剣を授ける。勇者よ、あそこにいる私に歯向かう愚か者を殺すのだ!」

 女神は最後の力を振り絞り、その男、勇者の前に物質創造で聖剣を作り出した。
 新たな勇者は黙って聖剣を握りしめる。
 そして、ロキの方を見て呟いた。

「おまえ……ロキ……か?」
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