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Phase 2 なぜか世界の命運を担うことになった迷宮探索者の憂鬱
第103話 戦いの後
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騎士団が再び女神が現れたという騒ぎを聞きつけ、神殿前まで集まってきた時には既にロキたちが女神を倒した後だった。
魔物の死体が消える迷宮の中とは違い、そこには首を斬られた女神の死体が残されていた。
女神が暴れたせいでボロボロになった地面の中で、騎士団はロキたちから一部始終の事情を聞くと改めて国王へと報告をしてほしいということで、その日のうちに王城へと呼び出された。
「俺、国王なんて偉い人と話す時の礼儀とかわかんないんだけど……」
前日まで日本でサラリーマンをしていたロキ・ケースケが不安そうにそう呟くと、同じ部屋にいた宮廷魔術師のモールが笑いながら言った。
「今日は公式な謁見ではないから、そこまで気を遣わずとも大丈夫だ。それよりも突然の呼び出しに応じてくれたことに礼を言わせてくれ」
「いえ、そんな。どこにも行くあてがないですし……」
年長者であるモールに礼を言われ、ケースケは恐縮する。
女神によって召喚されたケースケは、日本に戻る術を持たず、とりあえずロキたちと行動を共にしていた。
そうしてロキ、レオン、ケースケ、レオーネの四人が待っていると、アルマ、ココロ、アポロも呼ばれてやってきた。
「ロキさん!」
「ロキー!!!」
アルマとココロがロキの顔を見るなり駆け寄って飛びついてきた。
「心配をかけたな」
「ロキさんが帰って来ないかと思って、心配したんですよ!」
「悪かった」
アルマの目には涙が浮かんでいた。
ココロもアポロも、ロキの生存を確認できてとても安心した顔をしていた。
「ところで、そちらは誰なのだ?初めて会うと思うが……」
アポロがケースケのことを尋ねる。
女神討伐の件で呼び出されたのに、そこに知らない男が混じっていたことを不思議に思ったからだ。
ロキは一旦戸惑い、そしてケースケが女神に召喚された人物だということ、そしてケースケのことを自分の前世だと思っていたがそうではなかったことを説明した。
三人はその話を笑いをこらえながら聞いていた。
さらに間もなくして、国王がロキたちのいる部屋へとやって来た。
深く頭を下げる一同に、国王が頭を上げるよう指示をする。
「今回は、女神討伐ご苦労であった」
国王は満足気な顔で言った。
実際、クーデターを企てていた神殿女神信仰派たちと勇者を、最小限の被害で鎮圧できたし、元々悩みの種であった神殿の腐敗部分にもメスを入れることができた。
国王としては満足のいく結末であった。
「ロキ、レオン。そなたたち二人の力で魔物となった女神を倒してくれたそうだな」
「はい」
ロキとレオンは声を揃えて返事をする。
「ありがとう。二人がいなければ、今頃女神によって王都の街並みが破壊され、多くの国民の命が失われていたところだった。神殿以外の建物の被害はなく、死者も出なかったと聞く。この国を救ってくれて、本当にありがとう」
そう言って国王が頭を下げた。
王が頭を下げるなど、異例のことであり、部屋にいたモールや国王が連れて来た大臣たちも混乱する。
そして国王は二人の聖女に向けて声をかけた。
「次にレオーネ、そしてアルマよ。お前たち二人の聖女の力によって、女神をこの世界に押しとどめ、倒せる状態にすることができた。お前たちの尽力がなければ、ロキたちも女神を倒すこともできなかっただろう。そして女神によって勇者ダイジローを蘇らせられられ、我が国が奪われてしまうところであった。お前たち二人も、この国を救った救国の英雄である。ありがとう」
アルマは両手を振りながら大したことはしていないと恐縮し、レオーネは国王に頭をお上げくださいと謝る。
国王はそんな反応を気にすることなく、次にアポロとココロを見る。
「アポロとココロ。二人のハーフリングたちよ。お前たちにも感謝の気持ちを伝えさせてもらう」
「わ、私たちは何もしていませんが!」
キョトンとするココロの横で、アポロが国王の言葉を慌てて否定する。
「聞いているぞ。アポロよ。そなたの放った矢によってできた隙のおかげで、ロキが女神に会心の一撃を与えることができたことを。そしてココロよ。神殿勢力によって分かりにくい場所へと連れて行かれたレオンを、そなたが探し出し神殿へと連れて来たそうだな。そなたたち二人がいなかったとしても、女神を倒すことは叶わなかったはずだ。
ありがとう」
そう言われ、アポロとココロは少し照れた顔をするが、国王の感謝を素直に受け止めると、二人そろって礼をした。
最後に、部屋の隅で国王から感謝される六人を温かく見守っていたロキ・ケースケの方に国王は向きなおる。
「ロキ・ケースケと言ったな」
「あっ!はい!」
慌てて気をつけをし、直立不動になるケースケ。
「そなたが一番のキーマンであった。女神に召喚されても、女神の命令に従わずにロキの指示で聖鍵を破壊し、ロキをこの世界へと戻してくれた。その行動がなければ、女神を倒すチャンスは永遠に来なかったであろう。そなたには感謝してもしきれぬ。本当にありがとう」
「いえ、そんな、あの、俺なんか本当に何もしてないですし……」
「そう謙遜するな。それとそなたには、感謝と同時に謝罪をしなければならぬ。そなたを元の世界に戻す術は、わが国にはない。聖鍵が世界と世界を繋ぐ扉を開く鍵だということだが、我が国にはその聖鍵の使い方も分からぬ。我が国に留まってもらえるのであれば、今後自由に生活できるよう最善を尽くさせてもらう」
日本には帰れない。
そう聞かされて、なんとなく察していたものの、事実を聞かされてやはりそうだったかと理解したケースケは、少し複雑そうな顔をした。
そんなケースケに気をかけ、ロキが声をかける。
「聖鍵を使えば帰れるかもしれないんだ。どうやったら帰れるか俺も一緒に方法を探すぜ」
そんなロキの方を見ると、ケースケは笑顔を見せて答える。
「いや、俺もこの国にお世話になろうかな。実際心残りになるようなこともないし、帰れたとしてもまた毎日仕事だけで過ぎていきそうだし、こっちの世界の方が楽しそうだ」
「本当にすまない」
「いや、本当に大丈夫ですよ。住むところと仕事の紹介だけはしてもらいたいのですが」
「この国を救ってくれたのだ。仕事などせずとも、そなたが一生困らないくらいの褒賞を与えよう」
「えっ?」
国王の提案に戸惑うケースケ。
するとレオーネがケースケに声をかける。
「住むところにお困りでしたら、神殿の宿舎なら空きがたくさんありますよ。王都にお知り合いはいないでしょうし、神殿に住まわれるのであれば困った時は私がいつでもお力になれます!」
そんなレオーネを見たモールが笑いながら言う。
「フフフ、聖女殿はケースケ殿にご執心のようですな」
「えっ、そういうわけでは。ただケースケ様は私の命を救ってくれた方ですので、少しでもお力になりたいと……」
慌てて言い訳をするレオーネを、ロキは無の表情で見つめており、そんなロキの方をレオンたちがニヤニヤしながら見守っていた。
「フッ、そういう訳だ。そなたであればこの王城の一部屋でも貸すし、そなたが望めばロキたちの方でもそなたの住む場所を用意してくれるであろう。この国に住んでくれるのであれば、余もできうる限りの援助をする。心配しないでくれ」
「あ、ありがとうございます」
ケースケは国王に対し深く頭を下げた。
それからロキたちは、改めて起きた出来事の一部始終を国王に報告をした。
国王は先に騎士団からも報告を受けていたようで、国王にとっては再確認の意味合いが大きかった。
そして最後に国王は、これからの王国の課題、神殿の再編などについても協力を頼むと伝えるとモールたちと一緒に部屋を出て行った。
★★★★★★★★
国王と一緒に廊下を歩きながら、大臣たちが雑談をする。
「それにしてもあの者たちも、騎士団が集まるまで待ってくれればよかったものに」
「全く。せっかくドルバンを失脚させることができたというのに、女神討伐の手柄はあやつらだけのものになってしまった。騎士団も戦いに参加していたら、王国の威厳も立つというのに」
「しかに」
そんな大臣たちを国王が諫める。
「そう言うな。彼らにしてもそんな余裕のある戦いではなかったのであろう。それに勇者も失った今、勇者の代わりに彼らを我が国の英雄として立てれば良い。彼らも余に協力してくれると言っている。彼らを使ってこれから何をするかを考えようではないか」
「さすが陛下。おっしゃる通りでございます!」
「彼らにとっては今後も休まる暇がないのかもしれぬがな……」
魔物の死体が消える迷宮の中とは違い、そこには首を斬られた女神の死体が残されていた。
女神が暴れたせいでボロボロになった地面の中で、騎士団はロキたちから一部始終の事情を聞くと改めて国王へと報告をしてほしいということで、その日のうちに王城へと呼び出された。
「俺、国王なんて偉い人と話す時の礼儀とかわかんないんだけど……」
前日まで日本でサラリーマンをしていたロキ・ケースケが不安そうにそう呟くと、同じ部屋にいた宮廷魔術師のモールが笑いながら言った。
「今日は公式な謁見ではないから、そこまで気を遣わずとも大丈夫だ。それよりも突然の呼び出しに応じてくれたことに礼を言わせてくれ」
「いえ、そんな。どこにも行くあてがないですし……」
年長者であるモールに礼を言われ、ケースケは恐縮する。
女神によって召喚されたケースケは、日本に戻る術を持たず、とりあえずロキたちと行動を共にしていた。
そうしてロキ、レオン、ケースケ、レオーネの四人が待っていると、アルマ、ココロ、アポロも呼ばれてやってきた。
「ロキさん!」
「ロキー!!!」
アルマとココロがロキの顔を見るなり駆け寄って飛びついてきた。
「心配をかけたな」
「ロキさんが帰って来ないかと思って、心配したんですよ!」
「悪かった」
アルマの目には涙が浮かんでいた。
ココロもアポロも、ロキの生存を確認できてとても安心した顔をしていた。
「ところで、そちらは誰なのだ?初めて会うと思うが……」
アポロがケースケのことを尋ねる。
女神討伐の件で呼び出されたのに、そこに知らない男が混じっていたことを不思議に思ったからだ。
ロキは一旦戸惑い、そしてケースケが女神に召喚された人物だということ、そしてケースケのことを自分の前世だと思っていたがそうではなかったことを説明した。
三人はその話を笑いをこらえながら聞いていた。
さらに間もなくして、国王がロキたちのいる部屋へとやって来た。
深く頭を下げる一同に、国王が頭を上げるよう指示をする。
「今回は、女神討伐ご苦労であった」
国王は満足気な顔で言った。
実際、クーデターを企てていた神殿女神信仰派たちと勇者を、最小限の被害で鎮圧できたし、元々悩みの種であった神殿の腐敗部分にもメスを入れることができた。
国王としては満足のいく結末であった。
「ロキ、レオン。そなたたち二人の力で魔物となった女神を倒してくれたそうだな」
「はい」
ロキとレオンは声を揃えて返事をする。
「ありがとう。二人がいなければ、今頃女神によって王都の街並みが破壊され、多くの国民の命が失われていたところだった。神殿以外の建物の被害はなく、死者も出なかったと聞く。この国を救ってくれて、本当にありがとう」
そう言って国王が頭を下げた。
王が頭を下げるなど、異例のことであり、部屋にいたモールや国王が連れて来た大臣たちも混乱する。
そして国王は二人の聖女に向けて声をかけた。
「次にレオーネ、そしてアルマよ。お前たち二人の聖女の力によって、女神をこの世界に押しとどめ、倒せる状態にすることができた。お前たちの尽力がなければ、ロキたちも女神を倒すこともできなかっただろう。そして女神によって勇者ダイジローを蘇らせられられ、我が国が奪われてしまうところであった。お前たち二人も、この国を救った救国の英雄である。ありがとう」
アルマは両手を振りながら大したことはしていないと恐縮し、レオーネは国王に頭をお上げくださいと謝る。
国王はそんな反応を気にすることなく、次にアポロとココロを見る。
「アポロとココロ。二人のハーフリングたちよ。お前たちにも感謝の気持ちを伝えさせてもらう」
「わ、私たちは何もしていませんが!」
キョトンとするココロの横で、アポロが国王の言葉を慌てて否定する。
「聞いているぞ。アポロよ。そなたの放った矢によってできた隙のおかげで、ロキが女神に会心の一撃を与えることができたことを。そしてココロよ。神殿勢力によって分かりにくい場所へと連れて行かれたレオンを、そなたが探し出し神殿へと連れて来たそうだな。そなたたち二人がいなかったとしても、女神を倒すことは叶わなかったはずだ。
ありがとう」
そう言われ、アポロとココロは少し照れた顔をするが、国王の感謝を素直に受け止めると、二人そろって礼をした。
最後に、部屋の隅で国王から感謝される六人を温かく見守っていたロキ・ケースケの方に国王は向きなおる。
「ロキ・ケースケと言ったな」
「あっ!はい!」
慌てて気をつけをし、直立不動になるケースケ。
「そなたが一番のキーマンであった。女神に召喚されても、女神の命令に従わずにロキの指示で聖鍵を破壊し、ロキをこの世界へと戻してくれた。その行動がなければ、女神を倒すチャンスは永遠に来なかったであろう。そなたには感謝してもしきれぬ。本当にありがとう」
「いえ、そんな、あの、俺なんか本当に何もしてないですし……」
「そう謙遜するな。それとそなたには、感謝と同時に謝罪をしなければならぬ。そなたを元の世界に戻す術は、わが国にはない。聖鍵が世界と世界を繋ぐ扉を開く鍵だということだが、我が国にはその聖鍵の使い方も分からぬ。我が国に留まってもらえるのであれば、今後自由に生活できるよう最善を尽くさせてもらう」
日本には帰れない。
そう聞かされて、なんとなく察していたものの、事実を聞かされてやはりそうだったかと理解したケースケは、少し複雑そうな顔をした。
そんなケースケに気をかけ、ロキが声をかける。
「聖鍵を使えば帰れるかもしれないんだ。どうやったら帰れるか俺も一緒に方法を探すぜ」
そんなロキの方を見ると、ケースケは笑顔を見せて答える。
「いや、俺もこの国にお世話になろうかな。実際心残りになるようなこともないし、帰れたとしてもまた毎日仕事だけで過ぎていきそうだし、こっちの世界の方が楽しそうだ」
「本当にすまない」
「いや、本当に大丈夫ですよ。住むところと仕事の紹介だけはしてもらいたいのですが」
「この国を救ってくれたのだ。仕事などせずとも、そなたが一生困らないくらいの褒賞を与えよう」
「えっ?」
国王の提案に戸惑うケースケ。
するとレオーネがケースケに声をかける。
「住むところにお困りでしたら、神殿の宿舎なら空きがたくさんありますよ。王都にお知り合いはいないでしょうし、神殿に住まわれるのであれば困った時は私がいつでもお力になれます!」
そんなレオーネを見たモールが笑いながら言う。
「フフフ、聖女殿はケースケ殿にご執心のようですな」
「えっ、そういうわけでは。ただケースケ様は私の命を救ってくれた方ですので、少しでもお力になりたいと……」
慌てて言い訳をするレオーネを、ロキは無の表情で見つめており、そんなロキの方をレオンたちがニヤニヤしながら見守っていた。
「フッ、そういう訳だ。そなたであればこの王城の一部屋でも貸すし、そなたが望めばロキたちの方でもそなたの住む場所を用意してくれるであろう。この国に住んでくれるのであれば、余もできうる限りの援助をする。心配しないでくれ」
「あ、ありがとうございます」
ケースケは国王に対し深く頭を下げた。
それからロキたちは、改めて起きた出来事の一部始終を国王に報告をした。
国王は先に騎士団からも報告を受けていたようで、国王にとっては再確認の意味合いが大きかった。
そして最後に国王は、これからの王国の課題、神殿の再編などについても協力を頼むと伝えるとモールたちと一緒に部屋を出て行った。
★★★★★★★★
国王と一緒に廊下を歩きながら、大臣たちが雑談をする。
「それにしてもあの者たちも、騎士団が集まるまで待ってくれればよかったものに」
「全く。せっかくドルバンを失脚させることができたというのに、女神討伐の手柄はあやつらだけのものになってしまった。騎士団も戦いに参加していたら、王国の威厳も立つというのに」
「しかに」
そんな大臣たちを国王が諫める。
「そう言うな。彼らにしてもそんな余裕のある戦いではなかったのであろう。それに勇者も失った今、勇者の代わりに彼らを我が国の英雄として立てれば良い。彼らも余に協力してくれると言っている。彼らを使ってこれから何をするかを考えようではないか」
「さすが陛下。おっしゃる通りでございます!」
「彼らにとっては今後も休まる暇がないのかもしれぬがな……」
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