魔王転生→失敗?(勇者に殺された魔王が転生したら人間になった)

焔咲 仄火

文字の大きさ
17 / 102

第17話 勇者、戦場へ

しおりを挟む
 魔王を打ち取ったら、俺を元いた世界に帰す。それをヴァレンシュタイン王国の国王と約束した。なんだかんだ結局こいつらの当初の目論見通り、戦う羽目になってしまった。

 それからしばらくして俺は、魔界の戦場へと連れて行かれた。
 だが現実は厳しかった。
 勇者として期待されていた活躍は、一切できなかったのだ。

 戦場で見た光景は、まさに惨劇だった。
 初めて見る魔族は、肌の色の違いと角があるというだけで見た目は人間と変わりなかった。そんな魔族と人間の殺し合い。剣で切られ、苦しみながら血を流す兵士。魔法による爆発で、体の一部を失い苦しむ兵士。
 そう、戦争とは殺し合いなのだ。それも大規模な人数が殺し合う。
 七十年以上戦争をしていない平和ボケした国で生まれ育った俺には、人が残酷に死んでゆく姿は衝撃過ぎた。
 情けないことだが、初めての戦場で俺は、目の前で苦しむ人を見て全身がすくんで身動きがとれなくなってしまったのだ。
 嘔吐する俺に浴びせられる味方からの罵声に、反論一つできなかった。

 その日、魔族の砦を落とすための戦いは人間側に多大な被害を出し、撤退せざるを得なかった。

 撤退後、軍の責任者に呼び出された俺は、こっぴどく叱られた。
 今どきの日本の若者に務まる仕事じゃあない。そう思ったが、あの味方が次々と死ぬ姿を見た後の俺は反論できなかった。

 そして俺は再び城に呼び戻された。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「とんだ役立たずっぷりだったそうですな、勇者殿」

 大司祭ザズーは、見下すような目で俺に言った。返す言葉も見当たらない。俺はなんの役にも立たなかったどころか、味方の足手まといでしかなかった。言い訳のしようがない。

「悪かった……」

「はあ?何ですか?声が小さくて聞こえませんね。もっと大きな声で言ってくれませんかねえ?」

「だから、悪かったっつってんだろ!」

 思わず怒鳴り声を上げてしまう。大司祭は、そんな俺をニヤニヤしながら眺めている。

「まぁまぁ勇者殿、落ち着いてください。ザズーよ、おまえも勇者殿を責めるのはその辺にしておけ」

 今にもケンカしそうな俺と大司祭の間に、国王が仲裁に入る。生意気な大司祭も、国王の前では大人しく引き下がる。

「それにしても、勇者殿。体がすくんで全く動かなかったと聞いておりますが、本当なのですか?」

「本当だ」

「やれやれ、威勢のいいのは最初だけでしたか。勇者殿は本気で帰りたいとは思っていないようだ」

 大司祭からの嫌味に、また俺は睨み返す。

「ザズー!」

 国王が再び大司祭に注意する。そしてもう一度俺に質問をしてくる。

「勇者殿、戦場でどうかされたのですか?」

「……俺は自分で思ってたより、そういうのに抵抗があったらしい」

 俺の言葉の意味が伝わらず、国王は不思議そうな表情を浮かべる。

「俺がいた国は、爺さんの時代から戦争をしていないんだ。俺は平和で治安の良い国で育った。人が死ぬところも、生まれて初めて見た。あんなにたくさん人が死ぬのを見て……、怖くなった」

「やれやれ、とんだ臆病者だな」

 大司教の嘲る視線を無視し、俺は国王に直訴する。

「俺にもう一度チャンスをくれ!」

「そうは言っても、克服できねば同じでしょう?」

「ああ。俺には多分、魔族だろうが人間だろうが、人の形をしている者を殺すのは無理だ。殴り合いのケンカは慣れっこだが、越えられない一線がある。もしここで殺しを覚えたら、元の世界に帰った時に俺が俺じゃなくなっている気がする」

「何を情けないことを言っている!」

「ザズー!少し黙れ!……勇者殿、ならばもう一度チャンスを与えて、そなたは何ができるのです?」

「魔王一人だけなら首を取ってくる。それ以外の殺しは無理だ。後は人間じゃなければ大丈夫だ。魔族の砦の門に突撃して破壊する。戦車とか、魔物とかなら戦える自信がある。俺にできるのはそれで全てだ」

 国王に注意され大司祭が大人しくなったところで、俺は悩んで辿り着いた考えを伝える。いくら譲歩してもそれ以上は無理だ。
 国王は黙って俺を見つめる。
 考えているのだろう。俺の出す条件でも良いか。そして国王は口を開いた。

「勇者殿、それでお願いします。魔王だけは勇者殿自ら殺してくれるのですね?」

「ああ……」

「それと砦の門の破壊もお願いして良いのですね?最前線で一番の危険にさらされることになりますが?」

「ああ。聖剣の魔法で何も考えずに突撃する」

 俺は勇者魔法の≪接続コネクト≫の応用で、『殲滅し尽くす聖剣エクスキューショナー』と破壊対象を接続し突撃する≪神風特攻カミカゼアタック≫という名前を登録した。
 『殲滅し尽くす聖剣エクスキューショナー』のなんでも切り裂く能力は、俺が手に握っていないと発揮しない。例えば投げつけたりしても、ぶつかった物は切断できないし、俺以外の誰かが持っても普通の剣としての能力しかない。
 だから俺は、離れているものを破壊するために、自分の身体ごと突っ込む捨て身の一撃を放つことを決意したのだ。とにかくこれからは、≪神風特攻カミカゼアタック≫の一撃で何も考えず突撃する。

「分かりました。それでお願いします。おい、ザズー!」

「はっ、陛下。何でしょう?」

「勇者殿が最前線で戦えなくなった時にすぐに帰還できるよう、転移魔法のバングルを勇者殿に貸し出せ」

「えっ?!しかし……あれは国宝の一つ、簡単に貸し出せるものでは……」

「良い。勇者殿には飽くまで善意で力を貸してもらっているのだ。無理を頼んでばかりはいられまい」

 そして俺は、帰還魔法の込められたバングルとやらを受け取った。起動条件は≪強制帰還グッバイ≫という呪文を唱えること。そうすると俺の身体は、この世界に最初に呼び出されたオーテウス大聖堂の祭壇に転移される。戦場に他の人間を残して自分だけ逃げるのは申し訳ないが、また吐いて足手まといになるよりはましだ。

 それから人間族の快進撃が始まった。
 俺の≪神風特攻カミカゼアタック≫で、魔族の砦の門を破ると、人間の軍隊がそれに続く。時には砦の中に、岩でできたロボットのようなゴーレムと呼ばれる魔法の兵器があった。俺は全てのゴーレムを≪神風特攻カミカゼアタック≫一撃で破壊。人間と魔族の肉弾戦になると同時に、俺は国王からもらった腕輪の帰還魔法で一足先に離脱させてもらう。
 そんな戦法で、次々と魔族の砦を打ち破って行った。

 戦が順調に勝ち続けていると、あれほど憎まれ口ばかり言っていた大司祭も上機嫌になった。
 だが戦場で味方の人間たちが死ぬところを見ている俺は、いくら勝ち戦だろうと、大司祭のように素直に喜ぶ事はできなかった。

 その後、魔族も魔王自らが出撃し、人間族が落とした砦を奪い返す。
 戦は数多くの砦で行われていたため、たまたま俺と魔王が直接出会う事はなかったが、それを見た者たちの証言によると、魔王の登場は恐怖だったという。
 魔王の放つ広範囲雷撃魔法、≪裁きの雷霆アポカリプス≫によって、一撃で数千人の兵士が殺されたと言う。ゴーレムを魔族から奪い、自分たちの戦力として操っていたが、そんなゴーレムも魔王の持つ神器≪灰燼に帰す弓アッシュトゥアッシュズ≫から放たれた魔法の矢マジックアロー一撃で灰になってしまったという。
 しかも魔王はそんなけた違いの攻撃を何回でも繰り返した。そのため人間たちの軍隊の中では、魔王の魔力は無尽蔵だと囁かれた。

 そんな一方的な敗北を繰り返すと、やがて砦の兵士たちは魔王の姿を見るだけで砦を放棄して撤退するようになった。

 一度は人間たちの優位になった戦争だが、魔王の前線への登場により、再び拮抗するようになってしまった。
 だが、圧倒的な強さを持つ魔王一人さえなんとかすれば、一気に人間族が有利になるのだ。
 そこで、なんとか俺が魔王を倒すチャンスを作るよう頼むと、大司祭がどこからともなく一つの情報を仕入れて来た。
 魔王が飛空艇に乗って、再び最前線に来るという。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

処理中です...