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第83話 軍隊の集結
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現在、人間たちが魔界を支配している領土と、魔族たちの領土の境となっているのが、ミルス平原と呼ばれる広い平原である。これまで何度か合戦が行われた場所でもあり、多くの死者を出したため、現在ではアンデッドモンスターも多く出没する。
ミルス平原を挟んで魔族側の砦であるモスという名の小さな町に、魔王親衛隊長ルビィが辿り着いた時には、ルビィは傷だらけになっていた。
人間の領土から、道中一人でモンスターと戦ってミルス平原を歩いて縦断して来たらしい。
らしいというのは、ルビィは余計なことを一切話さなかったため、誰も詳しい事情を知りえなかったためだ。
モンスターから噛まれた傷や受けた毒を治療するため、回復魔法使いが集まる。
心配して話しかける魔族の同士たちに対し、ルビィはほとんど言葉を離さなかった。
「砦の責任者と会わせろ」
小さな声でその言葉を繰り返すルビィに、治療を終えた後、現在の責任者であるモノラルの部屋へ連れて行くと、ルビィはゆっくりと話し出した。
「魔族たちよ。人間族との終戦交渉は失敗に終わった。人間族は再び魔族へ宣戦を布告する。お前たちの頭領である魔界の副官シオンの身柄は預かった。返してほしければ力づくで取り返してみせよ。人間族はまもなくこのミルス平原に、ヴァレンシュタイン王国軍の総力を結集する。魔族軍の責任者よ、魔界の軍勢を集め、抵抗してみせよ」
「ル……ルビィ様、何をおっしゃっているのですか?!」
モノラルの問に対し、ルビィは録音した機械のように同じ言葉を繰り返すだけだった。
魔族に宣戦布告をするための、人間たちの操り人形となっているようだ。
そんなルビィの異常に対し、モノラルは回復魔法使いたちを集め、ルビィの症状を診断させる。
分かったのは、魔物と戦ったり、この部屋へ来るための判断などはできるが、ルビィの魂が抜かれてしまったかのように心がここにないという事だった。
しかしそれがどんな魔法によるものなのか、どうすれば治るのか全然見当がつかない。
そしてそれは、これまで魔法では魔族が圧倒的優位であったのに、人間族にも魔族を恐れさせる魔法使いが存在することを表していた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ミルス平原を挟んで南側。現在人間たちが占領している砦の中には、ザズーと神人エィスがいた。
それまで砦を守る軍隊の隊長の部屋だった場所に、二人は陣取っている。
戦いが始まるまで退屈をしているエィスは、ザズーを話し相手に雑談をしていた。
「ところでエィス様。魔族たちにかけた生贄という魔法は、どういった魔法なのですか?」
「あ?それは、おまえたちでも使える隷属の魔法の上位互換みたいなもんだな。隷属魔法は、主人に危害を加えたり主人の命令に逆らったりすることができないだけで、心までは奪えないだろう?」
「はい」
「生贄魔法は、神である僕に命の全てを差し出させる魔法だ。死の魔法の予約版とも言えるな。生きたままその心は死んで、僕の操り人形になるようなものだ。まあ神言を使えってもいいんだけど、神言は一度に一つの命令しかできないからね」
「なるほど。魔王親衛隊長があのざまでは、魔族も驚くでしょうね」
「それなら宣戦布告させてから爆発させたら良かったか?その方がもっと驚くだろう?」
「ハッハッハ!それは良いアイデアですね。もっと早く気付けばよかった」
「他の二人でそれをやるか」
「いや、エィス様お待ちください。副官シオンめは、何かあった時の人質に。もう一人のマグマという男は、もし魔族がシオンを助けるためにこの砦に忍び込んで来た時に返り討ちにするための駒として取っておきましょう」
「それも楽しそうだな。助けに来た仲間に殺されるんだろう?最高だな」
「ハッハッハ!」
現在シオンとマグマは、他の部屋に閉じ込められている。
万が一魔族の斥候が救出のために侵入して来て時のため、マグマには「助けに来た者がいたら殺せ」と命令してあった。
「それでザズーよ。人間の軍隊と魔族の軍隊は、それぞれどれくらいの人数が集まりそうなのだ?」
「はい。人間族は最終的におよそ五万人。魔族の方ははっきりとは分かりませんが、おそらく三万くらいは集まるでしょう」
「全部で八万人か。まあ一割くらいは残しといてやらないと、次の百年後の食事の時に困るからな。絶滅させずに、次の時までに繁殖させないとな。別の大陸の話なのだが、神人アトラスは支配しているリザードマンを前回殺しすぎて今回ほとんど増えてなくて困ったらしい」
「そ、そうなのですか。そういう場合はどうされるのですか?」
「アトラスは隣の国の半人半獣の国を攻めて、採って喰らったらしいよ。まあ今回魔族を食らおうとしてる僕も似たようなもんかもしれないけどね。乱獲してたら地上の生物がいなくなっちゃうから気を付けないといけない」
百年周期で人間を虐殺しに地上に降りてくる神人の生態は、ザズーもよく知らなかったため、あまりのスケールの大きさに恐ろしさを感じる。
それと同時に、自分が殺されないためにどれだけ他者を殺してもらうかを考える。
「ゴモラが殺られたのが痛かったな。でもまあ今回の戦いで、新しい使い魔を生み出すくらいのエネルギーは回収できそうだ。ザズー、期待しているぞ」
「はっ!」
砦には次々と人間界の軍隊が集結していた。
軍隊の兵士たちは、集まる度にエィスから、神言「死を恐れず戦え!」という言葉を投げかけられる。
これで、戦いが始まれば、死ぬことを恐れない狂った戦士となって魔族に襲いかかるようになるのだ。
逃げる事ができなくなるため、人間たちの被害も大きくなる。
だがそれはエィスにとって関係がない。人間だろうが魔族だろうが、死ぬことでエィスに魂を食われるのに変わりはないからだ。
エィスから言葉を投げかけられ、狂戦士へと変貌を遂げた兵士たちを眺め、エィスはにやりと笑いながらつぶやく。
「たくさん殺してくれよ」
ミルス平原を挟んで魔族側の砦であるモスという名の小さな町に、魔王親衛隊長ルビィが辿り着いた時には、ルビィは傷だらけになっていた。
人間の領土から、道中一人でモンスターと戦ってミルス平原を歩いて縦断して来たらしい。
らしいというのは、ルビィは余計なことを一切話さなかったため、誰も詳しい事情を知りえなかったためだ。
モンスターから噛まれた傷や受けた毒を治療するため、回復魔法使いが集まる。
心配して話しかける魔族の同士たちに対し、ルビィはほとんど言葉を離さなかった。
「砦の責任者と会わせろ」
小さな声でその言葉を繰り返すルビィに、治療を終えた後、現在の責任者であるモノラルの部屋へ連れて行くと、ルビィはゆっくりと話し出した。
「魔族たちよ。人間族との終戦交渉は失敗に終わった。人間族は再び魔族へ宣戦を布告する。お前たちの頭領である魔界の副官シオンの身柄は預かった。返してほしければ力づくで取り返してみせよ。人間族はまもなくこのミルス平原に、ヴァレンシュタイン王国軍の総力を結集する。魔族軍の責任者よ、魔界の軍勢を集め、抵抗してみせよ」
「ル……ルビィ様、何をおっしゃっているのですか?!」
モノラルの問に対し、ルビィは録音した機械のように同じ言葉を繰り返すだけだった。
魔族に宣戦布告をするための、人間たちの操り人形となっているようだ。
そんなルビィの異常に対し、モノラルは回復魔法使いたちを集め、ルビィの症状を診断させる。
分かったのは、魔物と戦ったり、この部屋へ来るための判断などはできるが、ルビィの魂が抜かれてしまったかのように心がここにないという事だった。
しかしそれがどんな魔法によるものなのか、どうすれば治るのか全然見当がつかない。
そしてそれは、これまで魔法では魔族が圧倒的優位であったのに、人間族にも魔族を恐れさせる魔法使いが存在することを表していた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ミルス平原を挟んで南側。現在人間たちが占領している砦の中には、ザズーと神人エィスがいた。
それまで砦を守る軍隊の隊長の部屋だった場所に、二人は陣取っている。
戦いが始まるまで退屈をしているエィスは、ザズーを話し相手に雑談をしていた。
「ところでエィス様。魔族たちにかけた生贄という魔法は、どういった魔法なのですか?」
「あ?それは、おまえたちでも使える隷属の魔法の上位互換みたいなもんだな。隷属魔法は、主人に危害を加えたり主人の命令に逆らったりすることができないだけで、心までは奪えないだろう?」
「はい」
「生贄魔法は、神である僕に命の全てを差し出させる魔法だ。死の魔法の予約版とも言えるな。生きたままその心は死んで、僕の操り人形になるようなものだ。まあ神言を使えってもいいんだけど、神言は一度に一つの命令しかできないからね」
「なるほど。魔王親衛隊長があのざまでは、魔族も驚くでしょうね」
「それなら宣戦布告させてから爆発させたら良かったか?その方がもっと驚くだろう?」
「ハッハッハ!それは良いアイデアですね。もっと早く気付けばよかった」
「他の二人でそれをやるか」
「いや、エィス様お待ちください。副官シオンめは、何かあった時の人質に。もう一人のマグマという男は、もし魔族がシオンを助けるためにこの砦に忍び込んで来た時に返り討ちにするための駒として取っておきましょう」
「それも楽しそうだな。助けに来た仲間に殺されるんだろう?最高だな」
「ハッハッハ!」
現在シオンとマグマは、他の部屋に閉じ込められている。
万が一魔族の斥候が救出のために侵入して来て時のため、マグマには「助けに来た者がいたら殺せ」と命令してあった。
「それでザズーよ。人間の軍隊と魔族の軍隊は、それぞれどれくらいの人数が集まりそうなのだ?」
「はい。人間族は最終的におよそ五万人。魔族の方ははっきりとは分かりませんが、おそらく三万くらいは集まるでしょう」
「全部で八万人か。まあ一割くらいは残しといてやらないと、次の百年後の食事の時に困るからな。絶滅させずに、次の時までに繁殖させないとな。別の大陸の話なのだが、神人アトラスは支配しているリザードマンを前回殺しすぎて今回ほとんど増えてなくて困ったらしい」
「そ、そうなのですか。そういう場合はどうされるのですか?」
「アトラスは隣の国の半人半獣の国を攻めて、採って喰らったらしいよ。まあ今回魔族を食らおうとしてる僕も似たようなもんかもしれないけどね。乱獲してたら地上の生物がいなくなっちゃうから気を付けないといけない」
百年周期で人間を虐殺しに地上に降りてくる神人の生態は、ザズーもよく知らなかったため、あまりのスケールの大きさに恐ろしさを感じる。
それと同時に、自分が殺されないためにどれだけ他者を殺してもらうかを考える。
「ゴモラが殺られたのが痛かったな。でもまあ今回の戦いで、新しい使い魔を生み出すくらいのエネルギーは回収できそうだ。ザズー、期待しているぞ」
「はっ!」
砦には次々と人間界の軍隊が集結していた。
軍隊の兵士たちは、集まる度にエィスから、神言「死を恐れず戦え!」という言葉を投げかけられる。
これで、戦いが始まれば、死ぬことを恐れない狂った戦士となって魔族に襲いかかるようになるのだ。
逃げる事ができなくなるため、人間たちの被害も大きくなる。
だがそれはエィスにとって関係がない。人間だろうが魔族だろうが、死ぬことでエィスに魂を食われるのに変わりはないからだ。
エィスから言葉を投げかけられ、狂戦士へと変貌を遂げた兵士たちを眺め、エィスはにやりと笑いながらつぶやく。
「たくさん殺してくれよ」
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