先生、おねがい。

あん

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 (暇だなぁ……)

 急須で入れたお茶をすすりながら、ボーッとテレビを見つめる。
 今日は先生とゆっくりするつもりだったから、お掃除もお洗濯も宿題も、全部昨日のうちに終わらせちゃってる。

 (テレビも、同じニュースばっかり)

 悲しいニュースはあまり見たくない。今自分が幸せに生きているぶん、申し訳なさで胸が苦しくなるから。本当は俺もそっち側だったのにって。

 「だ、だめだめ……」

 リモコンをとってテレビを消す。こんなネガティヴなこと考えてるって知られたら、先生を悲しませてしまう。

 「外にお買い物でも行こうかな……」

 買いたいものは特にないけど、見て回るだけでも良い気分転換になるかも。
 そう思い立って、身支度を始めたときだった。ピコンッと軽やかな音が、テーブルの上に置きっぱなしだったスマホから鳴った。アプリを開いてみると、そこには楽しそうに写真に写っている山田君たちの姿が。

 (そっか、遊園地行ってるんだっけ……、ふふ。楽しそうだなぁ)

 『写真ありがとう!明日学校でお話聞かせてね』

 そう返信してまたテーブルに置く。すると、数秒もしないうちに今度は電話が鳴り出した。その相手はもちろん山田君。俺はもう一度スマホを取って、通話ボタンを押した。

 「はい」
 『望月どうしたの⁉︎』
 「えっ?」

 あまりに唐突な言葉に驚いて、戸惑ってしまう。数秒間フリーズしていると、電話の向こうからくぐもった声が聞こえた。

 『ちょっとバカ山田ぁ!もっちーデート中なんだから、邪魔すんな!』

 (愛知君の声、かな?)

 『だって返信早すぎるから!』
 『はぁ?たまたま見てただけでしょ。ちょっと貸して』
 『あっ!俺が話すんだって!』
 『良いから!』

 そんなやりとりの後に電話に出たのは、予想通り愛知君だった。

 『もっちー本当にごめんねぇ。すぐ切るから』
 「あ、えと……」
 『あっ、ちょ、切んなって!望月は人といるときは、あんまスマホいじんないだろ!』
 『はぁ~?まあ確かにそうだけど……』
 「すごい……」

 俺は山田君の名推理に驚いてしまって、感嘆の声を出さずにはいられなかった。山田君はもしかして名探偵なのだろうか。まさかそういう才能もあったとは。

 『ん?もっちー?』
 「あ、えと、俺、今は本当に一人だから……」
 『え、そうなのぉ?彼氏は?』
 「えへへ、急に用事出来ちゃったらしくて……」
 『ありゃ。もっちー今一人だって』
 『ほらー!』
 『うるせえ調子乗んなよ山田ぶちのめすぞ』
 『豹変!』

 そんないつも通りのやりとりに、つい笑みが漏れてしまう。
 一人だとネガティブ思考に陥りがちな俺でも、みんなといるとやっぱり楽しい気持ちでいっぱいになる。改めて、みんなと友だちになれて良かったなって思うんだ。そして、自分もみんなに何かお返しがしたいって。

 『愛知!変われって!』
 『ったく、そんな叫ばなくても分かったって。じゃ、山田に変わるねぇ』
 「う、うん」

 そうして、再び山田君に電話が変わる。

 『望月!もし暇ならさ、今から遊園地来ない⁉︎』
 「え、で、でも……」
 『場所!分かるだろ⁉︎』
 「う、うん……それは分かるけど……」
 『じゃあ決まり!最寄り降りたら連絡してな!』
 「わ、分かった……」

 あまりにもトントン拍子で事が運んでしまい、呆気にとられてしまう。もちろん、一度断った俺のことをもう一度誘ってくれたというのは、とっても嬉しいことなのだけど。

 『じゃあ、一旦切るから!』
 「あっ、待って、山田君!」
 『ん?』

 俺は一拍おいて気持ちを込めてから、山田君に感謝を述べるべく口を開いた。

 「ありがとう」

 伝わったかな。それとも大げさだと思われたかな。
 ちょっとドキドキしながら返答を待っていたら、山田君の明るい声が耳元に響いた。

 『いーっていーって。俺が望月と遊びたいんだし!』

 顔は見えないけれど、きっと満面の笑みで言ってくれてるんだろうなって。胸がキュッてあったかくなって、電話の向こうの山田くんに想いを馳せて、俺は小さく頬を緩めた。

 (嬉しい……)

 通話を終えた俺は、ルンルン気分で着替えを始める。
 先生には「友だちと遊んできます」ってメッセージを送って、アパートを後にした。



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