天才魔法使いの未来まで巻き込んだ隠し子騒動

藤田 晶

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序章

プロローグ 邂逅

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月明かりさえ差し込まぬほど分厚い雲に覆われた夜だった。あたりにはなにも見えない。ただ、血の匂いと奇妙愉快な絶叫が風に乗って感じられた。ガリ、ゴリ、と肉や骨を断つような音も聞こえた。その様な暗闇の中から突然稲妻が空から降ってきた。ジュワ、と肉が焦げた様な音が聞こえたあと、雲が切れ月がその音を照らした。
そこにあったのは、見渡す限りの草原。否、それだけではない。数千にもなる摩訶不思議な生物の死骸。そして、とてもこの場にそぐわない純白のローブを着た人らしきものと、巨大な金色に輝くドラゴンだった。
その人らしきものは、これほど死骸があるというのに全く血に染まった様子もなかった。それどころか月明かりに照らされて純白のローブに縁取られた金の刺繍がキラキラ輝いて見えた。
ふと、青年は空をみあげた。そうして、ちらりと金色のドラゴンを見ればドラゴンの金色の瞳と青年の視線がぶつかった。

「…来るぞ、ジュニア」

人らしきものは、摩訶不思議な生物の死骸を食べるドラゴンにそう言った。人らしきものは、どうやら青年らしい。
ドラゴンはキュルキュル、と鳴いたが青年の言うことなどなにも聞いていない様に食事を続けている。
青年がふーっと息をつくと、フードを目深にかぶりなおした。

『何者だ!なぜこの場所を知っている!』
『侵入者だ!殺せ!』

突如青年の上空から声がした。空には複雑な紋様の発光体が浮かんでおりそこから数十人の黒いローブを着た者たちがドラゴンに乗り、あるいは風に乗って降りてきた。
その数十人から焔や氷、稲妻などが様々な形で青年に発せられた。中には本から何かを呼び出している様なものもいた。しかし、青年とドラゴンは身じろぎ1つせずにただそこに立っている。一気に青年に攻撃が降り注ぐ。
グシャリ、と音がした。青年は死んだのか。

『な、なぜ…一体いつ魔法を発動…し………』

死んだのは黒いローブの者達だった。青年は微動だにしていないはずなのに、土が隆起し鋭利な物となって彼らに突き刺さっていた。
青年は、魔法を発動していた。それが魔力を異様なまでにコントロールし、そう簡単には捉えられないくらいの速さと悟らせない量の魔力を使ったのだ。それを今知ったところで彼らには届いていないことだろう。
青年は初めて、フードを外した。金色の髪と美しい青い瞳が赤黒い地面に似つかわしくないくらいに輝いていた。また青年はドラゴンに声をかけた。

「帰ろうか」

先ほどとは違う穏やかな声だ。幾分か口元が微笑んでいる様に見える。
くるる、と鳴いたドラゴンはみるみるその姿を小さくし、最終的に手のひらに乗るほどのサイズになった。元気よく青年に向かって、たたた、と駆けてきた。ひょいと青年の肩に飛び乗ると青年のフードの中に潜り込んでしまった。
青年は、足元から強大な先ほどのような紋様の発光体を戦闘の痕跡があるところまで一気に作製した。
ぶわりと風が吹いた。

そこには青年も、死骸も、死人もすでになくただ清らかな風の吹く草原しかなかった。



これは、偉大なる魔法使いの予言の書であり、終わりに向けた物語。
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