天才魔法使いの未来まで巻き込んだ隠し子騒動

藤田 晶

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第二章

第5節 救出

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フェリは困っていた。自分の師匠、ヘラがグングンと先に行き、はじめはなんとか追いついていたものの、見失なってしまったのだ。おそらく夢中で狩りをしているのだろうが、空にいるのか森にいるのかすらわからない。こんなことならヘラ様にテレパシーを習っておくんだったわ、とフェリは思ったが、もはやあとの祭りだった。 
陸にいるにしろ空にいるにしろ、きっとヘラは探してくれているはずだ。とにかく、一度湖の近くに戻ることした。絶対に湖の近くには戻ってくるからだ。 
ため息をつくフェリに、アンジェラが湖へ飛びながら心配そうにしている。

「私ってば、何の役にも立てないのね…」

くるる!とそんなことないとアンジェラは言う。何方かと言えばヘラが悪いのだが、フェリはそうは思っていないようだった。ヘラの持つドラゴン愛され体質故に、ドラゴン達の力を100%引き出せるせいで、ただでさえ飛ぶのが早い風竜が異常に早くなったようなものだ。アンジェラももちろん頑張ったし、フェリはよくアンジェラをコントロールしている。

「ふふふ、ありがと、アンジェラ。あれっ、何だろう…?あそこだけ森が拓けているわね…」

鬱蒼と茂る森に、ぽっかりと木の生えていない草原が広がっていた。見た所魔獣もいないようだった。
アンジェラを長く飛翔させているので、ちょうどいいので少し休ませようとフェリは考えた。アンジェラを誘導して、森のひらけた部分に近づく。 
グギャッ!とアンジェラが驚いたような声を出した。嫌がるように空中に上がろうと羽をバタバタさせるが、地面にぐいっと引き寄せられてしまう。

「どうしたの?!何があ、わっ!…ひ、引っ張られて…!」

アンジェラの体は見えない何かに引っ張られていた。魔獣の姿は見えないが、ナニカは確実にいる。フェリは、炎魔法を地面に目掛けて放つ。しかし、炎魔法は防衛魔法の結界によって阻まれた。

「結界?!一体何なの…!魔獣?!」

アンジェラが苦しげにググギ、と鳴いた。ジュワッと音がすると、アンジェラの体の一部から赤い血が流れてきた。フェリは、ハッとした。ナニカの触手の様なものには毒がある様だ。いくらドラゴンには頑丈な鱗があるとはいえ、毒が鱗を溶かせば当然毒は回る。
何とかしてこの触手を外さなくてはアンジェラが死んでしまう。

「アンジェラ…!」
「おやおや、これはこれは。まだ1人生き残っていましたか。見た所、近衛兵か見習いと言ったところでしょうか。か弱い女の子を殺すのはいささか心苦しいですねぇ」
「だっ、誰なの!?」
「これから僕に殺されるのに、聞いてどうするんですか?」

ナニカも、ダレカも姿は見えなかった。
ゾワリとフェリの背中に悪寒が走る。ダレカは姿形すらわからなかったが、自分より確実に強いことと強い殺気を放っていることはわかる。ビュン、と風を切るような音がした。次の瞬間、アンジェラとフェリは地面に高速で落とされていた。
違う触手がアンジェラの体を垂直に叩いて落としたのだ。

「あ…っ!」

死んだ…
フェリは地面に落ちながらそう思った。地面に着くまでがまるで1時間くらいに感じるくらいゆっくりに感じた。ギュッと目を閉じ、衝撃が来るのを待つ。
しかし、実際には衝撃はなく、地面には居たがアンジェラもフェリもまるで羽根の上にいるようにふんわりと地面に降りていた。
アンジェラと、フェリを包むように薄く赤い結界が張られていた。一体これは何だろうか、とフェリは目を丸くする。

「チッ!第二級防衛結界だと?!この女、親衛隊員だったか!」

第一級防衛魔法とは、超級防衛魔法の一種である。防衛魔法には大まかに下級、中級、上級、超級に分かれている。上級は更に、円形の結界で守る広域と、術者の身体を覆うように仕掛ける保護結界にわかれる。超級では、同じ括りだが防衛能力が桁違いの、上級結界を三層重ねた仕組みかつ、一層が壊れても直ぐに修復される仕組みだ。第三級を三層構造の結界、第二級をそれを修復、第一級をそれらを備えかつ保護結界化できることを示す。
もちろん、弱点もある。上級結界が壊れるほどの魔法でかつ修復不可能な速度で攻撃されれば、いくら超級と言えども結界は意味をなさない。余談であるが、同じ超級防衛魔法のバードケージは、物理攻撃魔法攻撃を食らっても壊れないので第一級防衛魔法の更に上、超超級防衛魔法と言ったところだろう。
一体誰がこんな結界を張ったのかフェリにはわからなかったが、助かったことだけはわかった。だが、次に攻撃されればフェリには超級防衛魔法を使うことができないので、結界は壊されてしまうのは目に見えていた。
アンジェラの具合も良くない。触手は離れたようだが、未だにジュワジュワと体から体液が焦がされているようだった。アンジェラは倒れてぐったりとしている。
助けて、ロイス…!フェリにはそう小さく呟くのが精一杯だった。

「まぁいい。超級防衛魔法と言えど高速で攻撃されれば壊れる。殺せ!結界を壊すのだ!」

見えない敵は高らかに宣言する。見えない敵の触手がざわざわと蠢いて、フェリ達に触手を伸ばす。
その時、強い風がふいた。フェリの顔に影が落ちる。

「ーーー何者だ。ウィテカー国の親衛隊員と知っての狼藉か」

しゅぱん、と肉を断つ音がした。ボトボト、と紫色の気味の悪い触手が草原に落ちる。一瞬にして触手を切り裂いたのだ。ギャッと見えない魔獣は鳴いた。
白地に、金の刺繍。傍らには、金の髪をもつ美しき竜人。ロイスとジュニアだ。フェリは、その後ろ姿を見ただけで、安心した。そして、今までギリギリで保っていた意識を失った。余程怖かったのだろう。
わずかに口角を上げたあと、ロイスは敵に聞こえないように小さな声で言った。

「ジュニア、湖に行け。ここは俺が引き受ける」
「心得た」

ジュニアは、フェリとアンジェラと共に一瞬にして転移した。

「そのローブは!ちょ、超級魔導師…なぜここに…!」
「その言い方…わが国の出身ではないな…聞いたところ北のほうの出身か」
「…くそ、超級魔導師が来ているとは!まぁいい!いくら超級魔導師とはいえ、見えない敵にはどうにもできまい!!」

ウィテカー国では魔導師とは呼ばず魔法使いと呼んでいる。魔導師と呼ぶのは北のほうの国で、他の国では魔法使いもしくは術師、魔術師などと呼ばれている。
確かに、ロイスにも敵の姿形は見えなかったがロイスは魔法のみならず体術剣術にも秀でていた。敵が動く気配を鋭敏に察知することができる。もちろん、相手はそうは知らずに、今もなお逃げ出そうと少しずつ後ずさっている。
ロイスはローブに手を突っ込んで、愛用のナイフを取り出した。そして一瞬にして相手に詰め寄る。魔法で脚力を強化し、身体に保護結界を仕掛ける。
相手は場所を特定されていないと未だに思っているようで、動かずに固まっている。

「なにっ?!」
「何者だ。目的はなんだ」

相手は驚いた様だったがすんででかわし、また逃げる。
ロイスはそれをすぐに追う。

「ぐっ、早いっ!気配で探っているのか!それでこの精度かよっ…」
「目的はなんだと聞いている」

答えはないが、ロイスはどうでもよかった。正直に言えばこの相手を倒すのにこんなに時間はかけない。しかし、このナイフでの攻撃はフェイクだ。この隙にロイスは自分の瞳に禁呪をかけているのだ。この相手が何故見えないのか、この触手は一体何なのかを見たかったのである。
禁呪が使えることをバラさないためにも、あえて後ろから攻めてみたり、飛びかかってみたり。1分もすれば、禁呪をかけることができた。
ロイスは元いた場所に後ずさって目を凝らす。

「…透過魔法か」
「!」
「………数体の魔獣を無理矢理合成したようだな。そちらにも奇特な魔法使いがいるか、あるいは秘術の類か…」
「ま、まさかお前、見えて…!?」

そう。ロイスにははっきりと相手の姿が見えていた。ロイスの予想どおり、北の国特有な毛皮のローブに、遊牧民のような出で立ち。と言っても遊牧民の割にひょろ長く、魔法を使うことしかできなそうだが。
魔獣は、タコのような触手が大量に蠢き、毒属性の魔獣に見られる紫色で、食虫植物のようでもある気味の悪いものだった。
ロイスはもう聞きたいことも見たいこともなくなった。殺すだけだ。魔獣の周りには、一緒に来た近衛兵や親衛隊員が無残な姿になっていた。ロイスは静かに怒っていたのだ、どうやってこの相手を殺すのが一番いいのかを考えるほどに。
だが、意外にも相手は怯んでいなかった。

「はははっ、いくら超級魔導師とはいえ新魔獣を相手に勝てるわけがない!」
「…」
「やれ!お前たち!」

召喚魔術陣が相手の足元にいくつも出現する。次々に様々な形の魔獣が召喚され、ロイスに襲いかかる。あるものは飛びかかり、あるものは触手を伸ばす。
だが、ロイスは動かなかった。かわりに、ブルーローズがふわふわと舞い、一瞬にして襲いかかる新魔獣に付着する。

「爆ぜろ」

そうロイスが言うと、ブルーローズは赤くなり爆発した。ただの爆発魔法ではない。小さいが威力は上級魔法に値する。おかげで魔獣は木っ端微塵だ。
ロイスのオリジナル魔法、ブルーローズは、多人数でのミッション遂行用に開発したものだ。1つの役目は、味方の場所を特定することだ。2つ目の役目は、花弁の対象者の緊急時に防衛すること。3つ目は、ロイスの魔法を遠隔操作できることだ。つまり、先ほどフェリを護ったのはブルーローズで、結界の発動と同時にロイスにはフェリの居場所がわかり転移してこれたというわけだ。そして、ブルーローズを介して爆発魔法を発動したのである。他にも、ロイスから念話の形で会話をすることも可能な便利な機能がついている。
もちろん、これはロイスが膨大な魔力を有しておりかつ遠方まで離れても魔法を維持できるから成り立つ超級魔法である。
ハッと気配を察知したロイスは、後ろに跳んだ。

「!」

チリッと触手が腕先を掠めた。大型新魔獣はブルーローズでは倒せなかったようだった。
ジュッ、と皮膚が焦げる音がした。触手の毒だ。
ロイスは解析の瞳でそこを見つつ、どんな毒なのか解析する。

「ははは!この触手の毒は強力だぞ!」
「ふーん。皮膚を溶かしていくタイプの毒か。バジリスクを合成したようだな」
「なっ」
「高速治癒術式………大精霊の息吹」

ロイスは治癒魔法にも、もちろん長けていた。この世界では治癒魔法は適性がある者が扱えるとして希少であった。しかし、ウィテカー国では昔から治癒魔法使い同士の結婚が続いた結果、結構な人数が扱える。また、先人たちが頑張って誰でも使える治癒魔法も開発されているため、意外と使える者は多い。
この治癒魔法は大精霊の加護を患部に賦与することで癒しを与えて身体を修復するものだ。どこからともなく風がそよいでロイスの腕をなぞったかと思うと、患部はすぐに治癒された。
ロイスは気味の悪い魔獣を氷魔法で凍結し、爆破魔法で粉々にした。

「ひっ…」

相手は逃げ出していた。風魔法を展開し、風に乗って逃げるつもりらしい。が、メタスターのロイスにとってはそんなもの逃げることにもあたらない。
ヒュンとロイスは相手の目の前に転移し、ガッと片手で首を掴んで握り力をこめる。

「がはっ、ぎ、ぐ…っ」
「透過魔法に長けている程度で驕るな、三流が…なぜこんなモノを作った。誰が命じた」

答えを聞き出そうと更に腕に力を入れた、その時だった。
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