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戦のあと
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「えっ?お前なんて言った?」
「だから、『危ないからここを暫く封印しよう』と言ったが……そんなに驚くことか?」
「お前がそんなこと言うなんて、太陽が南から登らぁな。『自重』の二文字を知らないお前の発言とは、とてもじゃあないが思えないぜ。」
とヤルが言う。
何故かゼリスも驚いた顔をして俺を見ている。
(俺って、こいつらにどんな風に見られているんだ?一度じっくり聞いてみる必要性があるな。勘違いされているようなら、きちんと正さないと。)
続けてヤルが聞いてきた。
「そんなにここはヤバイのか?」
「ゴブリンの数が半端ない上、オーガがいる。」
「オーク(ブタ)じゃなくてか?」
「ブタじゃなくてオーガ(鬼))だ。」
「そいつは確かにやばい……。
でも、だとしたらお前良く無事に戻ってこれたな。大したもんだぜ。」
「そうか?」
「ああそうだ。普通オーガ一匹退治するのにランクB のパーティーが必要とされる。
冒険者ギルドでの推奨はランクA3名だな。」
(冒険者のランクについては良く分からないが、話の流れからしてかなり退治が難しいってことなんだろう。
実際オーガ一匹の動きを止めるのにゴブリン8匹が体に取り付いてやっとだったし……)
思い出し納得する。
「それを戦って倒したんだから、スゲェぞ。」
(ん?なんで、いきなりそうなる?)
「倒しちゃいないし、戦ってもいないからな。」
(どうして俺が戦ったことを前提としてるんだ?)
「???」
「遭遇してすぐ逃げだしたぞ?」
「ま、まて、少しも戦わずにか?」
(何をそんなに驚いているんだこいつは。)
「ああ、そりゃ一目散に。」
「冗談だろ?(嘘だ!)」
二人の声がダブる。
「『オーガを一人で倒した』って言うならまだしも、『逃げた』と言って何故嘘だと言われるんだ?」
「だってさ(だってなあ)」
「おまえなら、嬉々としてオーガに突っ込んでいきそうな気がするぜ。
それこそオーガ相手に『お前こそわが強敵(ライバル)』とか言ってな……」
「そんなことする訳ないだろう。相手は鬼なんだぞ鬼」
呆れて俺は言った。
「まあその、なんだ……お前のイメージだイメージ。」
(『イメージ』って言葉でなんでも片付けようとるんじゃないぞ……ったく。)
「で、そんな状態でよく逃げ帰れたな?どうやったんだ。」
突っ込みを入れる前にさりげなく話を変えられてしまった。
(まあ拘るほどのことでもないし良いか。)
俺は経緯をざっと説明した。
すなわち、彼らが撤退した後にゴブリンの大群が突如として現れたこと。
そこからの脱出行。 そしてオーガとの遭遇。
最後にはオーガを先導しゴブリンにぶつけ、その際に生じた隙を利用し帰還したこと
等を時系列を追って説明した。
(どうだ。凄いだろう。)
二人の賛辞を期待する。実際完璧な作戦だったと言ってよいだろう。
が……返って来たのは、
またもやゼリスの
「嘘だ」
の一言だった。
(こいつ(ゼリス)嘘だと?
………………
ああっ、そうか。話が出来すぎだからだ。)
「タイミングがあまりに上手く嵌まったのは
信じ難いところもあると思うが……
『信じてくれ』としか言いようがない。」
そうゼリスの目を見て言った。
「違う。嘘だと言った所はそこじゃあない。」
「ならどこが腑に落ちないんだ?」
「お前がそんなに策士な訳がない。」
「えっ…………?」
「あくまでお前に対するイメージだイメージ」
ヤルがフォローのつもりなのか言葉を挟む。
「……ヤルとゼリス
お前ら俺のこと何だと思っているんだ」
と睨む。
「怒らないから言ってみろ」
「脳筋」
「野蛮人(バーバリアン)」
「猪突猛進」
「バカ者」
「計画なし」
容赦ない言葉が俺を襲う。
俺のガラスの心が粉々になったのは言うまでもなかった。
◼️□◼️□◼️□◼️□
「地下を封印するかどうか考えるのははともかく一度状況を見に行こう。上手くすれば魔石がまだ吸収されず残っているかもしれない」
ヤルのこの一言でとりあえず一度下に向かうことになった。
ドーム手前まで行き、ヤルが気配を窺う。
「気配はない。大丈夫そうだ。」
ヤルの一言で緊張が解かれ、皆ふうと息を吐いた。
そろそろとドームに入る。
二人ともいつでも撤退できる様に意識を常に出口に向けているのが分かった。
(かなりピリピリしてるな……。まあ、二人とも荒事には慣れていないからな。)
「こいつはひでぇ……」
先に入ったヤルが大きな声をあげた。
凄惨な惨状に二人が息を飲んでいるのが分かる。
散らばるゴブリンの体は一体として5体満足なもの無く、みな全てどこか噛み砕かれ叩き潰されている。
そして血の生臭い臭いが辺りに充満していた。
まさに圧倒的な暴力が通った後であった。
「まあなんて言うか……敵とは言え、無惨だな。」
とヤルが、やるせなさそうに笑う。
「……ああ。取るもの取って引き上げよう。」
と俺も頷いた。
見回すと僅かだがオーガも倒れている。
「オーガの魔石を優先して採ろう、ゴブリンの魔石は後回しで良いぞ。
30分くらいを目処で、採取途中でもきっちり切り上げよう。」
そう俺は言った。
(今はオーガを警戒しているのか、まだ地上に出てくるゴブリンの姿はない。だが、いつまで籠っているかは保証はないからな……)
「ゼリス、捌くからナイフを返してくれ」
そうゼリスに言った。
「隼人よりゼリスの方がナイフの扱いに慣れている。ここはゼリスに任せないか?」
とヤルが言う。
(確かにゼリスの方が俺より器用そうだ。)
頷き同意をすると、二人に作業を頼んだ。
ヤルとゼリスは手慣れた程でヒョイヒョイと拳大の魔石を抜いて行く。
(手際が良いな。任せて正解だったか……)
魔石の採取は呆気ないほど簡単に進み、予定の30分でかなりの魔石を手に入れることが出来た。
欲は出さず適当に切り上げ、戻ることにした。
(引き際大事だからな)
◼️□◼️□◼️□◼️□
小部屋に戻るとヤルが
いつになく真面目な顔で話かけてきた。
「隼人、魔石の方のノルマだが……」
「ああ。どうした?」
「今日の狩りで無事ノルマの100個は稼ぎ終わった。」
(半分以下の期間じゃないか?)
と内心で驚く。
「そうか。で……?今後どうする?」
念のためヤルに聞く。
「お前さえ、良ければ今後もパーティーを続けてぇ。だがどうしてもな。その……戦いが……」
言い澱(よど)む。
(よっぽど戦うのが嫌いなんだな……。
今回はなし崩し的に戦闘へ巻き込んでしまった。そう意味じゃ悪かったな。)
「ヤルは『頭脳と索敵特化』で構わない。
よほどの事以外は戦う必要なんてないからな。今回は考えが足りず、なし崩し的に戦いに巻き込んでしまった。本当に悪かった。」
そう言って俺は頭を下げた。
「ワガママを聞いて貰ってすまない。」
とヤルも頭を下げる。
「やっぱり考えなしだったんだ」
ゼリスがどや顔をする。
(こいつ……)
青いと思いながら反論が口に出る。
「『考え』が足りなかったってそう言う意味じゃない。『考え』っていうより『配慮』だな。戦闘を嫌がるヤルを攻撃の人数に入れての作戦ではなく、俺とお前だけで完結出来るような作戦を立てるべきだったってことだ。」
(こんな子供相手に何をムキになってんだ俺は……)
話を変えるべく口を開く。
「とにかく俺が肉体戰専門でいくから。
ヤルは索敵、罠避け、解錠メインでいってくれ。
こいつ(ゼリス)が戦士として育てば人数的には問題もないし。」
と言ってゼリスの背中をパンパン叩く。
「お前……」
何かヤルが言いかけたが、
ゼリスが手で制する。
「ヤルの兄貴、バーバリアンに何を言っても時間の無駄。諦めよう。」
「ああ、そうだな。」
(ヤルは何を言いかけたんだ?)
釈然としない何かがありながらも、俺達は小部屋から出て、野営地へと急いだ。
◼️□◼️□◼️□◼️□
数10分後野営地に到着し、検品担当の『よごれ』のいる番小屋へと向かう。
そこには良く見かけるちょっと小太りの「よごれ」がいた。
あのヨレヨレって言葉がしっくりくるような奴だ。
「これがお前の分として、こいつは誰の分だ?」
ヤルが持ってきた分を指される。
顎でヤルを指す。
「いい加減本人にやらせろ」
と呆れたように言われた。
俺は肩を竦め、手のひらをお手上げとばかりに上げた。
「お前も本当、苦労しているんだな。
相方は選らばないと、苦労を背負い込むぞ。」
(まったくだ。)
頷く。
「中身の確認は出来た。今日はまだ回数(ノルマ)が稼げていないな。急いだ方が良い。」
「ああ」
それだけ言葉を返すと屑置き場に向かい
ゼリスと共にヤルの分も袋へ詰めていった。
ヤルはこちらを向きもせずミュルガと話し込んでいた。
(作業を終えてから話せよ)
俺は心の中で毒づく。
□◼️□◼️□◼️□◼️
作業が終わったのを見計らったかのようなタイミングで、ヤルが戻ってきた。
すでにミュルガの姿は見えない。
「おう、ミュルガと魔石の個数確認が済んだ。あいつ感心していたぜ。」
「見たことあると思ったら、あれはミュルガの兄貴だったのか。」とゼリスが言った。
(そういや、こいつ(ゼリス)も同じギルドだって言ってたな。顔見知りであっても不思議ないか。
まあ、俺にとっちゃどうでもいい事。)
「用が済んだなら行くぞ。」
と多少の怒りもあってヤルをせっつく。
「まあ、待て。すぐにミュルガが戻ってくる。」
とそれをヤルが押し留めた。
ミュルガは暫くして袋を持って戻ってきた。
「ヤル、これからも頼む。ゼリスこいつを落とすんじゃねえぜ。」
そう言ってゼリスに袋を渡した。
何故か俺と喋る気はないようだった。
「用が済んだ。さあ今日のノルマをさっさと済ませるぞ。」
そうヤルが言った。
◼️□◼️□◼️□◼️□
帰りに小部屋へ立ち寄りミュルガから貰った袋を置き、すぐに離れる。
「中身は見ないのか?」
「先ずは今日のノルマを終えるとしようぜ。こいつは逃げねぇ」
そう言ってヤルがニヤリと笑った。
ノルマを終え、小部屋に戻ったのはそれから約7時間後であった。
「さて、ご対面だ。」
袋を開ける。開けてでて来たのは干し肉等の食料と葡萄酒、それに折れた剣であった。
「これは?」
「ああ、ミュルガに言って余ったオーガの魔石と交換した。」
「ミュルガはどうやってこれらの物を手に入れるんだ?」
「ドワーフの連中からだ。何故か知らないがドワーフの連中は魔石を集めているらしい。魔石を渡すと、色々便宜を図ってくれるんだと。」
「ドワーフとは言え、彼らも奴隷には違いないだろう?」
「ああ、そうだ。でも奴らは腐っても専門職だ。機嫌をそこねない程度には優遇されてはいるんだろうよ。この肉や安っぽい葡萄が振る舞われる程度にはな。」
俺達は久しぶりに屑野菜スープ以外の料理をくらい酒を飲み小部屋を後にした。
後は家畜小屋(ねどこ)に戻って、明日に備えるだけだ。
(2時間は寝れるか……)
長い1日が終わった。
「だから、『危ないからここを暫く封印しよう』と言ったが……そんなに驚くことか?」
「お前がそんなこと言うなんて、太陽が南から登らぁな。『自重』の二文字を知らないお前の発言とは、とてもじゃあないが思えないぜ。」
とヤルが言う。
何故かゼリスも驚いた顔をして俺を見ている。
(俺って、こいつらにどんな風に見られているんだ?一度じっくり聞いてみる必要性があるな。勘違いされているようなら、きちんと正さないと。)
続けてヤルが聞いてきた。
「そんなにここはヤバイのか?」
「ゴブリンの数が半端ない上、オーガがいる。」
「オーク(ブタ)じゃなくてか?」
「ブタじゃなくてオーガ(鬼))だ。」
「そいつは確かにやばい……。
でも、だとしたらお前良く無事に戻ってこれたな。大したもんだぜ。」
「そうか?」
「ああそうだ。普通オーガ一匹退治するのにランクB のパーティーが必要とされる。
冒険者ギルドでの推奨はランクA3名だな。」
(冒険者のランクについては良く分からないが、話の流れからしてかなり退治が難しいってことなんだろう。
実際オーガ一匹の動きを止めるのにゴブリン8匹が体に取り付いてやっとだったし……)
思い出し納得する。
「それを戦って倒したんだから、スゲェぞ。」
(ん?なんで、いきなりそうなる?)
「倒しちゃいないし、戦ってもいないからな。」
(どうして俺が戦ったことを前提としてるんだ?)
「???」
「遭遇してすぐ逃げだしたぞ?」
「ま、まて、少しも戦わずにか?」
(何をそんなに驚いているんだこいつは。)
「ああ、そりゃ一目散に。」
「冗談だろ?(嘘だ!)」
二人の声がダブる。
「『オーガを一人で倒した』って言うならまだしも、『逃げた』と言って何故嘘だと言われるんだ?」
「だってさ(だってなあ)」
「おまえなら、嬉々としてオーガに突っ込んでいきそうな気がするぜ。
それこそオーガ相手に『お前こそわが強敵(ライバル)』とか言ってな……」
「そんなことする訳ないだろう。相手は鬼なんだぞ鬼」
呆れて俺は言った。
「まあその、なんだ……お前のイメージだイメージ。」
(『イメージ』って言葉でなんでも片付けようとるんじゃないぞ……ったく。)
「で、そんな状態でよく逃げ帰れたな?どうやったんだ。」
突っ込みを入れる前にさりげなく話を変えられてしまった。
(まあ拘るほどのことでもないし良いか。)
俺は経緯をざっと説明した。
すなわち、彼らが撤退した後にゴブリンの大群が突如として現れたこと。
そこからの脱出行。 そしてオーガとの遭遇。
最後にはオーガを先導しゴブリンにぶつけ、その際に生じた隙を利用し帰還したこと
等を時系列を追って説明した。
(どうだ。凄いだろう。)
二人の賛辞を期待する。実際完璧な作戦だったと言ってよいだろう。
が……返って来たのは、
またもやゼリスの
「嘘だ」
の一言だった。
(こいつ(ゼリス)嘘だと?
………………
ああっ、そうか。話が出来すぎだからだ。)
「タイミングがあまりに上手く嵌まったのは
信じ難いところもあると思うが……
『信じてくれ』としか言いようがない。」
そうゼリスの目を見て言った。
「違う。嘘だと言った所はそこじゃあない。」
「ならどこが腑に落ちないんだ?」
「お前がそんなに策士な訳がない。」
「えっ…………?」
「あくまでお前に対するイメージだイメージ」
ヤルがフォローのつもりなのか言葉を挟む。
「……ヤルとゼリス
お前ら俺のこと何だと思っているんだ」
と睨む。
「怒らないから言ってみろ」
「脳筋」
「野蛮人(バーバリアン)」
「猪突猛進」
「バカ者」
「計画なし」
容赦ない言葉が俺を襲う。
俺のガラスの心が粉々になったのは言うまでもなかった。
◼️□◼️□◼️□◼️□
「地下を封印するかどうか考えるのははともかく一度状況を見に行こう。上手くすれば魔石がまだ吸収されず残っているかもしれない」
ヤルのこの一言でとりあえず一度下に向かうことになった。
ドーム手前まで行き、ヤルが気配を窺う。
「気配はない。大丈夫そうだ。」
ヤルの一言で緊張が解かれ、皆ふうと息を吐いた。
そろそろとドームに入る。
二人ともいつでも撤退できる様に意識を常に出口に向けているのが分かった。
(かなりピリピリしてるな……。まあ、二人とも荒事には慣れていないからな。)
「こいつはひでぇ……」
先に入ったヤルが大きな声をあげた。
凄惨な惨状に二人が息を飲んでいるのが分かる。
散らばるゴブリンの体は一体として5体満足なもの無く、みな全てどこか噛み砕かれ叩き潰されている。
そして血の生臭い臭いが辺りに充満していた。
まさに圧倒的な暴力が通った後であった。
「まあなんて言うか……敵とは言え、無惨だな。」
とヤルが、やるせなさそうに笑う。
「……ああ。取るもの取って引き上げよう。」
と俺も頷いた。
見回すと僅かだがオーガも倒れている。
「オーガの魔石を優先して採ろう、ゴブリンの魔石は後回しで良いぞ。
30分くらいを目処で、採取途中でもきっちり切り上げよう。」
そう俺は言った。
(今はオーガを警戒しているのか、まだ地上に出てくるゴブリンの姿はない。だが、いつまで籠っているかは保証はないからな……)
「ゼリス、捌くからナイフを返してくれ」
そうゼリスに言った。
「隼人よりゼリスの方がナイフの扱いに慣れている。ここはゼリスに任せないか?」
とヤルが言う。
(確かにゼリスの方が俺より器用そうだ。)
頷き同意をすると、二人に作業を頼んだ。
ヤルとゼリスは手慣れた程でヒョイヒョイと拳大の魔石を抜いて行く。
(手際が良いな。任せて正解だったか……)
魔石の採取は呆気ないほど簡単に進み、予定の30分でかなりの魔石を手に入れることが出来た。
欲は出さず適当に切り上げ、戻ることにした。
(引き際大事だからな)
◼️□◼️□◼️□◼️□
小部屋に戻るとヤルが
いつになく真面目な顔で話かけてきた。
「隼人、魔石の方のノルマだが……」
「ああ。どうした?」
「今日の狩りで無事ノルマの100個は稼ぎ終わった。」
(半分以下の期間じゃないか?)
と内心で驚く。
「そうか。で……?今後どうする?」
念のためヤルに聞く。
「お前さえ、良ければ今後もパーティーを続けてぇ。だがどうしてもな。その……戦いが……」
言い澱(よど)む。
(よっぽど戦うのが嫌いなんだな……。
今回はなし崩し的に戦闘へ巻き込んでしまった。そう意味じゃ悪かったな。)
「ヤルは『頭脳と索敵特化』で構わない。
よほどの事以外は戦う必要なんてないからな。今回は考えが足りず、なし崩し的に戦いに巻き込んでしまった。本当に悪かった。」
そう言って俺は頭を下げた。
「ワガママを聞いて貰ってすまない。」
とヤルも頭を下げる。
「やっぱり考えなしだったんだ」
ゼリスがどや顔をする。
(こいつ……)
青いと思いながら反論が口に出る。
「『考え』が足りなかったってそう言う意味じゃない。『考え』っていうより『配慮』だな。戦闘を嫌がるヤルを攻撃の人数に入れての作戦ではなく、俺とお前だけで完結出来るような作戦を立てるべきだったってことだ。」
(こんな子供相手に何をムキになってんだ俺は……)
話を変えるべく口を開く。
「とにかく俺が肉体戰専門でいくから。
ヤルは索敵、罠避け、解錠メインでいってくれ。
こいつ(ゼリス)が戦士として育てば人数的には問題もないし。」
と言ってゼリスの背中をパンパン叩く。
「お前……」
何かヤルが言いかけたが、
ゼリスが手で制する。
「ヤルの兄貴、バーバリアンに何を言っても時間の無駄。諦めよう。」
「ああ、そうだな。」
(ヤルは何を言いかけたんだ?)
釈然としない何かがありながらも、俺達は小部屋から出て、野営地へと急いだ。
◼️□◼️□◼️□◼️□
数10分後野営地に到着し、検品担当の『よごれ』のいる番小屋へと向かう。
そこには良く見かけるちょっと小太りの「よごれ」がいた。
あのヨレヨレって言葉がしっくりくるような奴だ。
「これがお前の分として、こいつは誰の分だ?」
ヤルが持ってきた分を指される。
顎でヤルを指す。
「いい加減本人にやらせろ」
と呆れたように言われた。
俺は肩を竦め、手のひらをお手上げとばかりに上げた。
「お前も本当、苦労しているんだな。
相方は選らばないと、苦労を背負い込むぞ。」
(まったくだ。)
頷く。
「中身の確認は出来た。今日はまだ回数(ノルマ)が稼げていないな。急いだ方が良い。」
「ああ」
それだけ言葉を返すと屑置き場に向かい
ゼリスと共にヤルの分も袋へ詰めていった。
ヤルはこちらを向きもせずミュルガと話し込んでいた。
(作業を終えてから話せよ)
俺は心の中で毒づく。
□◼️□◼️□◼️□◼️
作業が終わったのを見計らったかのようなタイミングで、ヤルが戻ってきた。
すでにミュルガの姿は見えない。
「おう、ミュルガと魔石の個数確認が済んだ。あいつ感心していたぜ。」
「見たことあると思ったら、あれはミュルガの兄貴だったのか。」とゼリスが言った。
(そういや、こいつ(ゼリス)も同じギルドだって言ってたな。顔見知りであっても不思議ないか。
まあ、俺にとっちゃどうでもいい事。)
「用が済んだなら行くぞ。」
と多少の怒りもあってヤルをせっつく。
「まあ、待て。すぐにミュルガが戻ってくる。」
とそれをヤルが押し留めた。
ミュルガは暫くして袋を持って戻ってきた。
「ヤル、これからも頼む。ゼリスこいつを落とすんじゃねえぜ。」
そう言ってゼリスに袋を渡した。
何故か俺と喋る気はないようだった。
「用が済んだ。さあ今日のノルマをさっさと済ませるぞ。」
そうヤルが言った。
◼️□◼️□◼️□◼️□
帰りに小部屋へ立ち寄りミュルガから貰った袋を置き、すぐに離れる。
「中身は見ないのか?」
「先ずは今日のノルマを終えるとしようぜ。こいつは逃げねぇ」
そう言ってヤルがニヤリと笑った。
ノルマを終え、小部屋に戻ったのはそれから約7時間後であった。
「さて、ご対面だ。」
袋を開ける。開けてでて来たのは干し肉等の食料と葡萄酒、それに折れた剣であった。
「これは?」
「ああ、ミュルガに言って余ったオーガの魔石と交換した。」
「ミュルガはどうやってこれらの物を手に入れるんだ?」
「ドワーフの連中からだ。何故か知らないがドワーフの連中は魔石を集めているらしい。魔石を渡すと、色々便宜を図ってくれるんだと。」
「ドワーフとは言え、彼らも奴隷には違いないだろう?」
「ああ、そうだ。でも奴らは腐っても専門職だ。機嫌をそこねない程度には優遇されてはいるんだろうよ。この肉や安っぽい葡萄が振る舞われる程度にはな。」
俺達は久しぶりに屑野菜スープ以外の料理をくらい酒を飲み小部屋を後にした。
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「この石ころ、古代の神様への捧げものだったんだ。あっちの変な踊りは、雨乞いの儀式の簡略化された形……!」
ただ、前世の知識欲と少しでもマシな食生活への渇望から、忘れられた神々を祀り、古の儀式を復活させていくだけだったのに。寂れた土地はみるみる豊かになり、枯れた泉からは水が湧き、なぜかリゼットの言葉は神託として扱われるようになってしまった。
本人は美味しい干し肉と温かいスープが手に入れば満足なのに、周囲の勘違いは加速していく。
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