バルタゴ戦記

カササギ

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魔石のひみつ

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ゴブリンドーム手前でボロスに聞かれる。

「俺は何をサポートしたら良いんだ?」

「魔物を狩ったことは?」

「殆どない。魔物は『よごれ』が片付けるからな……。
自分でも腕力はあるほうだとは思うから

闘えないことはないとは思うが…。

正直戦いには自信がない。


氏族長が戦える者を一人手配すると言っていたからそいつを当てにしてくれた方が良いと思うぞ。」

「分かった。なら、魔石集めや武器のメンテナンスなどのサポートを頼む。」

「おうっ分かった。」

「よしゼリス行くぜ」


ゼリスが頷くのを確認し、ゴブリンドームへと雪崩こんだ。



◼□◼□◼□◼□

数分後……

「おまえら、何者だ?

流石の俺もこいつには引くぜ…」
20匹のゴブリンの骸を前に、唖然としたボロスがいた。

「バーバリアンの本気はこんなもんじゃない。」
とゼリスが呟く。

「まあ、お前らがゴブリン相手に苦戦するとは思わなかったが…。予想外だぜ。」
ボロスはぶつぶつ言いながらも手際よく魔石を取りだしていく。

「他の部位はどうするんだ?」

「剥ぎとっている時間はないな。」

「?」

「剥ぎ取りが終わったら、小部屋で待機していてくれ。全て終わったら呼びにいくから。」

「ま、待て…これだけじゃないのか?」

「……これからが本番?」
ゼリスが首を傾げた。

「オーケー俺は引き上げるわ。ボロスと一緒に部屋で待っているな。」
そう言ってヤルはさっさと小部屋へと引き返していった。

「俺は、お前らの戦いを残って見たい。良いだろうか?」

(『気配消し』ドワーフには出来ないだろうな…。いざとなったら俺がフォローすれば良いか。)

「入口付近で息を殺して見ているぐらいなら良いが、安全は保証出来ないぞ。


はっきし言ってそれほど余裕ある戦いでもないからな。
『敵がもし向かってきたらさっさと逃げる』
それが出来るなら、見ていてもかまわないぞ。」

「承知した。」

(まあ、大丈夫か…。そうだ。)

「万が一…」

「万が一?」

「敵が向かって来たら、敵の目に向かってこれを投げろ。そして小部屋に退散しろ。」
そう言ってボロスにミスリルくずを入れた袋を渡した。

「これは?」

「良く知ったもんだろ?」
そう言って手をヒラヒラさせた。




「じゃあいくぞ。ゼリス反対の入口へ」
そう言って俺はゴブリンジェネラルのポップするポイントへと走りだした。

◼□◼□◼□◼□

約一時間後、ゴブリンの死骸の山を見て
またもや固まっているボロスがいる。

「これは、ゴブリンジェネラルだよな。お前らどんだけ……」
首を振ってそれ以上の言葉は飲み込んだ様子だった。

「こういった感じで、魔石の調達はできるから心配しないで良い。」
俺はそう言い切った。

「しかし、ミスリルの屑にあんな使い方があったとは…。銀が魔物を退けることは知っていたが、目から鱗(うろこ)だな…。」

「使ったのか?」

「最後の一匹に、後ろから振りかけてやった。結構エゲツナイ効果があるな…」

「隼人、ちょっと時間は取れるか?」

「ああ。再度湧き出てくるまでに暫く時間があるから」

「銀の屑の使い方を教えてくれた礼に俺からも一つ情報をと思ってな。」

「?」
顎でしゃくり話を促した。

「魔法におけるマナ(気)とオド(魔素)の関係は知っているな。」

「ああ。」

「こいつ(魔石)は魔素が凝縮されたもんだ。それだけ言えば、隼人お前なら使い方分かるだろ?」
それだけ言うと、別のゴブリンへとボロスは向かった。

(何のことだ??

もしかして、今の話……凄く重要な話なんじゃないか?
これがもし話の通りオドの塊だとしたら…。


マナの少ない俺にとって少なくない意味を持つな……

もしかしてマナ不足解決の糸口か?)


ボロスが魔石を取り出している間しばし考えた。


◼️□◼️□◼️□◼️□


周回を続けること数回、小部屋で小休憩をとっていると不意に人が入って来る。

「てめぇ、ミュルガ…何でここに…?」

「そりゃ、ドワーフの長老に直に頼まれたからに決まってからだろうが団長(ギルマス)。


俺が長老に頼まれて魔石を調達しているって知っているだろう?」

「まあ、そうだが。よりによってお前か…。」

「長老が、お前ならヤルも組みやすいだろうと言ってたぜ。」

「まあ、来ちまったならしょうがない。ただ、ここでの仕切りはそこのバーバリアンだからな。そいつの指示に従えよ」

(野営地でよくヤルとこそこそ話してる奴だな。微妙にヤルとの距離感があるな…)

「ボロスさん、バーバリアンよろしくな。
おっとチビもいやがったのか…。
小さくて見落としてたぜ。

おいっ蹴るんじゃねぇ…。」
(こいつこんなに騒がしかったっけか?)

「まあ、良い。早速だが、ここの獲物は何なんだ?」

ミュルガが誰に聞くとはなしに呟く。

「ゴブリンがメインだ。発生のパターンが決まっていて、ラストにゴブリンジェネラルとメイジが数体出る。」
と俺は答えた。

「まあ、そこそこだな。今まではどうやって倒していたんだ?」

「俺とゼリスの二人でひたすら数を狩っていた。」

「ほう、チビとお前だけで狩っていたと…?

団長は?」

「ヤルには撹乱と魔石取り出しをメインでやって貰っている」

「はっはっはっは。団長が見物とは…世の中変わるもんだなぁ。
おいっ…チビ、蹴るなって言っただろう。」

「ミュルガ、余計なことは言うな…」
そう言ってヤルもミュルガを睨み付けた。

「まあ、良い。じゃ、まっゴブリン狩りと洒落こもうぜ」
ヤルの言葉をサラリと流して、ミュルガはさっさと階段を降りていった。

(なんかまた自由なやつだな…)

◼□◼□◼□◼□

遅れること数分、準備を終えた俺たちは下へと降りて行く。

ミュルガはゴブリンドーム前で腕を組み待機していた。

「さてとバーバリアンとチビ頼むぜ。サクッと やっつけて来てくれ。」


「お前は戦わないのか?」


「この程度なら、お前らで充分だろう?」


「……」

(こいつ……本当に自由な奴だな。まあ、良い。数に無いものとして頑張るか。)


「ゼリスいくぞ。」

後ろを振り替える。

「おう。」



気配を消し、俺達は再びゴブリンの群れへと走り込んでいった。

数分後、全てのゴブリンを殲滅した段階で
ミュルガがパチパチと手を叩きながらドームの中へと入ってきた。

「バーバリアン、それにチビなかなかやるじゃねぇか。」

「フン」
とゼリスが横を向く。


「ただ、なあ」


「ただ?」


「この狩りの仕方ゼリスに教えたのお前か?」

「そうだが?」
と俺は頷く。

「実戦としてみた場合、
ソードのとり回し一つ取ってもなんと言うか…綺麗過ぎる。

何か武術経験はあるのだろうが、
ソードスキルについては素人だろう?
お前は体格がそこそこ良いからそれでも何とかなるが、チビだともう少し強い敵が出てきた段階で限界がくるぜ。」


「具体的にどう変えれば良い?」


「チビの場合小柄な特性を生かしきれていないから、そこを生かすだけでも格段に戦闘力が上がる。」

「続けて…」
とゼリスが促す。

「さっきゴブリンの突進を躱した後、相手の態勢を崩したな?
そして、脇のベルトからソードを抜き後ろから首を掻切った。」

「ああ。そうだ。」

「そのやり方でも悪くはねぇ。ただ、なんでギリギリまでソードを抜いてねぇんだ?
いざ抜こうとした時にベルトに引っ掛って抜けなかったらどうするんだ?
バーバリアンなら体力があるから最悪、頸椎をへし折るなどして対処出来るだろうが、お前には無理だろうが。」

「ならどうすれば良いんだ?」

「ソードに特化した戦い方を覚えれば良い。身体の捌き方など良い所はそのままにして、アレンジすれば良いんだ。
まずはそうだな…。チビ、ソードを逆手に持ってみろ。」

「こうか?」

「そうだ。走り出しと同時にソードを逆手に持て。
そして…相手と交差するタイミングで相手の太ももに切りつけるんだ。引く感じでな。
次に捌いて身体を入れ換えると同時に手首を返して相手のアキレス腱を切りつけるんだ。
アキレス腱が切れ、相手が沈みこんだそのタイミングを狙って首をかっ切る。

その場合確実に仕留めるつもりで最後まで引くんだぞ。


それが出来るようになれば、お前は一段階段を登れる。死ぬリスクも低くなるって寸法だ。」

(俺のが『武道』だとしたら、ミュルガは殺しに特化した『武術』…だな。

体格のデカイ相手と死合う場合使えそうだ、

俺もこの方法を覚えておいた方が良いな。)



◼️□◼️□◼️□◼️□


その後何回目かの周回の時、それは起こった。

「危ない」

疲れが出たのか、ゼリスが地面に足を取られ、そして転ぶ。


そこに複数のゴブリンが押し寄せ……
いや、押し寄せたかに見えた。


その時、
『ヤデルポロピティル』
ゴブリンドームの入口に潜んでいた筈のボロスが中に入ってきて、ワードを唱えているのが見えた。

瞬時に、ゼリスの前の地面が陥没していく…

(土魔法か……何度見ても凄いもんだ。)

それを好機とみたゼリスは、足を取られもがいているゴブリンの首を次々と狩っていく。

そしてボロスは…魔法が発動したのを見定めた後、急ぎドームから消えていった。

「ちょっと休もうか」


肩で息をしているゼリスを見て一旦小部屋へと引き上げる事にした。

小部屋に着き提案する。
「そろそろ今日は潮時だな。帰ろう。」

俺が言うとヤルは頷いた。

「命あっての物種(モノダネ)だからな。撤退も立派な戦略だぜ。」

「でも兄貴、このペースだと5日で目標の一万には届かないぜ。俺はまだやれる。」

「まあ、やれるだろうが……」

「ならやろう。ちょっと休めばこのくらい回復するさ。バーバリアンを見てみろ、まだまだ余力がありそうだろ。俺が足を引っ張るようなざまだけはゴメンだ。」
そうは言ったものの、ゼリスが釣らそうにしているのは傍目で分かる。
(うん。空元気だな。)


「ちなみに今まででどのくらいだ?」
とヤルが魔石をカウントしているボロスに聞いた。


「今で大小含めて628個だ。内訳は大が6で中が12,小が610だ。」

「残り1372個か…」
ざっと計算し俺は言う。
(確かにまだちょっと足りないか。)

「ああ…違う。」
とボロスが言った。

「ん?計算間違えたか?」

「いや、隼人の計算は間違ちゃいない。」

「なら、どうして?」

「魔石の大きさによって威力が単純に違う。中は小20個、大は中3個の威力があると我々は見積もっている。

だからこの場合…1210個計算になる。」


「なら残り790個か。
まあ、さっきより先が見える」
そうヤルが言った。

「ちょっと待ってくれ…。」

「なんだ?隼人」

「今までの話からすると、個体の『生命力の差で威力が変わる』と考えて間違いないか?」

「ああ、そうだ。」

「なら…例えばオーガをもし狩れたら…?」


「1匹でゴブリン180匹の価値はあるぞ…?」


(これだ………)


「それと、もう一つ」


「なんだ?なんでも良いから言ってみろ。」


「さっきの土魔法…どのくらい連発できるんだ?」
それを聞いた瞬間、ボロスは呆気に取られた顔をした。


(俺、何か変な事を聞いたか?)


「すまん。こいつはまだ、魔法を使い始めたばかりで土魔法を使えることがどれだけ凄いことか分かっちゃいないんだ。」
そう言ってヤルがフォローに入り、

ミュルガが大笑いし、

「ミュルガ笑い過ぎ。こいつはバーバリアンだから仕方がないの。」
そして……ゼリスがトンチンカンなことを言った。


場が静まるのを待ってヤルが改めて口を開いた。
「隼人、何故ドワーフ族がここまで重用されているか分かるか?」

「土魔法が使える上、鍛冶スキルも持っているからか?」

「そうだ。もし、その土魔法が他の種族でも簡単に使えるとしたらどうだ?」

「稀少性が無くなるから、重用はされなくなるような気がするな。 
…と言うことは土魔法っていうのは、ドワーフ種族固有の魔法ってことか?」

「ちょっと惜しいな。他の種族でも高位の魔術師なら何とか扱えなくもないぞ。
ただ、土魔法を扱うに当たって必要とされる『マナ』の量が他の魔法に比べ半端無く多いのも事実だ。

それ故、ヘパイトの加護(土魔法に必要とされるマナ量減)を持っているドワーフ族の優位性は動かないんだ。


まあそのドワーフとて、そう何発も1日に打てるほど余裕はないってのもまた事実だ。」


「土魔法はどうしてマナ消費が多いんだ?」

「俺にも分からん。ただ、魔法に必要なマナの量は一般的にいって形がしっかりしたものの方が多くなるような気がするぞ。風より、水、水より土ってな。」

(なるほど。)


「お前みたいに体内マナの少ない奴にはまあ、縁がない魔法だと思って間違いないぞ」  


(残念だ。土魔法を戦術に組み込むのはちょっと厳しそうだな。)
そう考えた。


◼️□◼️□◼️□◼️□

その後4回の周回を経て、ヤル達と共に小部屋へと引き上げてきた。


「ノルマ達成」

ボロスが宣言すると空気が和らいだ。


「ここでもノルマかよ」
ヤルがぼやく。


「とにかく今日は終わりだ終わり」

とミュルガがはしゃいだ。


「みなお疲れさん。また明日。ゆっくり休んでくれ。」

そう言うとみなぞろぞろと出口へと歩き出した。


「隼人はまだ寝ぐらに戻らないのか?」

戻る素振りのない俺を見てヤルが気遣う。

「ちょっと試したいことがあってな。

もう少しだけここに残るつもりだ。」

「徹底の潮時はちゃんと考えろよ?
『もうはまだなり、まだはもうなり』って言うだろう?あとちょっとと欲を張っていると、足を救われるぞ。」

「ああ。肝に銘じる。ちょっとだけ確認したいことがあるだけなんで、すぐに後を追いかけるさ。先に戻っていてくれ。」

「チェッ、この頑固者め。」
これ見よがしに肩をすくめ、ヤルはお手上げのジェスチャーをする。

「勝手にしやがれ。命ここに捨てて来るんじゃねぇぞ。ミュルガ、ゼリス帰るぞ」
そう言ってヤルは引き上げて行った。

(さてと……
ボロスが残っている……?)



「ボロス、今日はもうサポートは大丈夫だ。
上がってゆっくりしてくれ」
そう声をかけた。

「興味がある。」


「?」


「だからお前がこれから一人で何をするか興味があると言っているんだ。」


「見ていても成功するとは限らないぞ?」


「ふん、それでもかまわない。」


「地味だぞ……?」


「かまわないと言っているだろう?」


「どうしてもか?」


「ああ。かの名高い『死に戻り』が何をするか是非とも見たい。」


(はあ。こいつどうしても残るつもりか…
しゃあないさっさと済ませるか。
しかし…いつの間にまた新しい二つ名を頂戴したみたいだな?


しかもよりによって『死に戻り』……か。
ゼリス辺り聞いたら
『死に戻りのバーバリアン』とか言って揶揄(やゆ)されそうだな…)

「分かった。ならそこに掛けて待っていてくれ」

そう言って椅子を勧めた。

俺も小部屋に備え付けの椅子に座り、魔石を懐からだしナイフで削り始めた。


「ガリガリガリガリ」

魔石を削る音が静かな部屋に響く

じっと俺の手元をボロスが見ているのが分かる。


(やりにくい…)
「安心しろ。これは今日取った魔石じゃないから」
沈黙を避ける為にわざとボロスに話を振る。


「そんなことはどうでも良い。何をやっているんだ?」


「見ての通り魔石を砕いている。」


「なら、何故俺を頼らん?」


「土魔法は乱発無理だと…」


「程度だろうが程度…」
呆れた顔をボロスは浮かべた。



「貸してみろ」


「ああ。」


『 ヤデルポロピティル 』
そうボロスが唱えると、魔石はボロスの手のひらで一瞬で粉になった。

『ほらよっ』と俺に渡してきた。

(しかしなんで、なんで爆発しないんだ…?)

よっぽど俺が不思議な顔をしていたのかボロスが口を開いた。
「聞きたいことがあるんなら、聞け?」

「ああ、その魔石は何故爆発しなかったんだ?」

「?」


『何を言っているんだこいつは?』そんな顔をボロスはする。


「分解をイメージした土魔法で、何故爆発が起こるんだ?」


「『オド』である魔石に『マナ』を当て、爆発させるんだろう?

それで鉱山を崩落させるつもりだと俺は思ってた。」

「普段マナをオドに向かって発出する際、

爆発していたか?」


「いや…」


「明確なイメージを持った上で、古代語を使い魔法を制御しているのに暴発など起こるわけないだろが。

破裂させる場合は無制御のマナを当てるだけだ。」


「有り難う。勉強になった。」


「で、」


「?」


「お前はその魔石の粉をどうするつもりだったんだ?」


「ああ……こうするのさ。」


俺は粉を一気に飲みこんだ…。



◼□◼□◼□◼□
数時間後


目を開けた時始めに飛び込んで来たのはボロスのアップだった。

「隼人、お前まさか『カニバリスト』か?」

「なんなんだそれは?」
頭を振りながら何とか立ち上がる。

どうやら俺は気絶していたらしい。
吐瀉物のツーンとすえた匂いが辺りに漂う。

「もしやと思ったんだが、違ったか……」

「その『カリバリスト』ってやつは何なんだ?」

「『カリバリスト』じゃあなく、『カニバリスト』だ。
『カニバリスト』はな、魔物の身体の一部を食することによって、その魔物の力を身体に宿すことが出来ると信じているカルト集団だ。」

「そんなカルトがあるなんて初めて知った。」

「ならなんでまた、魔石なんて食おうと思ったんだ?」

「俺は単に足りないマナ(気)をオド(魔素)の塊である魔石を食べることによって補えないかと思って…な。」

「それで食ったと?」

「ああ。」

『があっはっはっはっはっはっはっはっはっ
ひいっひいっひいっひ……………』
ボロスの笑い声が小部屋内に響く。

「実に、実に見事なバーバリアンぶりだな。さっきのシーフのガキがお前のことバーバリアンって言ってたのがよく分かるわ。

いや、魔石を食おうなんて…………」

ツボにはまったのか、ボロスはひきつった笑いを止める気配がない………

「そのうち倒した魔物の死体を口で食い破って魔石を食うんじゃないか…?」
ひくひくしながら尚も話し続ける。

「あのシーフのガキにも、教えてやらないと……」
サラリと恐ろしいことを呟く。

「まて、それだけは止めろ。」

「えっ?」

「だから止めろと…。」
(ただでさえ、あいつの相手は面倒なのに…こんな話題を振られたら……)

「こんな面白い話、言わない訳ないだろう?」
そう言ってボロスはニタニタ笑った。

(こいつは不味い…)
慌てて釘を刺すことにした。


「奴(ゼリス)の口から今度の話が出たら、俺は金輪際、魔石狩りの手助けはしないぞ」

「そんなに嫌なのか??単にネタだぞネタ」

「嫌だと言ってる。」

「しゃあねぇ。じゃ代わりに…じい様にだけ、じい様にだけ喋っても構わないか?……」

「それぐらいだったら…まあ……。」

「じゃあそれで、決まりな。」
そう言って握手を求められた。
「絶対だぞ。」そう念を押し握手を交わした。
(この件については、ボロス(コイツ)は今一信用ならんな……)
そう俺の勘が騒いだ。

(そう言えば……)

ふと肝心なことに気付いた。
(俺は魔石の粉を飲んで倒れたんだよな…?
気付くまでもしかしてボロスが介抱してくれたのか?)

「もしかして、ボロスが介抱してくれたのか?」

「おうよ。お前の服はかなり汚してしまったがな。命が助かっただけましだろう。」

聞いたところなんでも俺に水を大量に飲ませた後、指を口に突っ込み吐かせたんだそうだ。
(いわゆる胃洗浄ってやつか…。助かった)

「有り難う。ちゃんと礼を言ってなかったな。」

「まあ、良い。仲間だろう?困った時はお互いさまだ。しかしいくら常識が無いとは言え、魔石を食べりゃどうなるかなんて、そこいらの子供だって知ってるぞ…
肉や他の部位だって魔素抜き(ドクヌキ)しなきゃ喰えないっていうのに、その毒(マセキ)そのものをかじろうなんて……
そんなバカ初めて見たわ。
しかも………
少しずつ摂取するならまだしも一気にだぜ…」

そう言ってボロスはまたゲラゲラと笑い始めた…。

(確かに……未知の物を試すのに、少しずつ試さず一気に摂るのは軽率の謗(そしり)を受けてもやむえない…な。


いや…それ以前にアドバイスを聞いて安全かどうか確かめるのも、当然の処置だろう……)


考えれば考えるほど、自分のバカさ加減に凹んでいった…。

俺が無口になったのを見てボロスは笑うのを止め真顔になった。

「確かにやったことは馬鹿だが、発想は悪くない。魔石が大量のパワーを秘めているのは事実だからな。
それに魔石を吸うとされている『魔族』なんてものもいる。

ただ、ヒューマンじゃ無理だろ。まあ、なんだ。これに懲りたら、魔石を喰うなんてことは止めるんだな。」


「…………」


「納得いかないようだな。まあ好きにすると良いさ。でもまた、運良く助かるとは限らないからな。」
それだけ言うと話は終わりとばかり切り上げた。

「さあ、後はどうするんだ?もう帰るのか?」


「いや、再度下に降りようと思う。」


「そうか。俺は一度野営地に戻ろうと思う。」


「ああ。今日はありがとう。本当に感謝している。」


「またな。」


「おうっ。」


こうして俺たちは別れた。


◼️□◼️□◼️□◼️□


俺はドームをさっさと駆け抜けた。
(目指すはオーガの巣のみ)

リベンジ(再挑戦)だった。



かがり火手前で気配を消し、様子を伺う。

幸い一匹のオーガが他の群れと離れ巡回している。

敢えて姿を見せ、かがり火の外へ釣りだした。
たかがヒューマン1匹と侮ったか、予想通り仲間を呼ぶこともせず、オーガは追いかけてくる。

オーガの巣から十分離れた場所で、踵を返し正対した。突進してくるオーガの身体を捌き、内股を切り裂く。


(浅いか…)
皮膚の表面を薄く切っただけに留まった。
(大動脈まで切れなかった…か。)

後ろに抜けると同時に身体を翻(ヒルガエシ)しアキレス腱を切る。
(皮が硬いな…切り切れない。)
アキレス腱も絶ちきることが出来なかった。

(失敗か。固すぎるな……)

俺の動作が一瞬止まる。そのタイミングで、オーガが仲間を呼ぼうとした。

『グ……』

(ヤバい…)

急いでマナを回し、空気中のオドに向かって放った。
『ヴィーダ・ベーダ・マーナ』
真空がオーガの顔付近に生じ、その口を塞ぐ。

『グゴッ』
うめき声が聞こえ、オーガは一瞬沈黙する。

(これからが本番だ……)


続けざまに空気中の『オド(魔素)』を取り込み『マナ(気)』を回転させる。
そして…地中へ向け放出した。

(こいつの足下の地面半径3メートルほど…でいいな。構成している物質の分子がほどけて、さらさらになる感じをイメージする。)

そして

『ヤデルポロピティル』
ワードを唱えた。

ごっそりとマナが身体から吸い出されているのが分かる。
(オドで嵩上げしてこれか…きつい……
まだ……取られるのか…)
容赦なく吸い取られていくのが分かる。

(まだ取られるのか……ヤバい……何故だ…? 止まらない……。考えろ考えろ……考えろ。そうだ深さだ。深さを考えていなかった)

既にオーガは首の付け根まで地面に沈み込んでいる。

慌てて『そこで止まれ』と強く念じた。

マナの流出が止み、身体中のマナを全て持っていかれるのはなんとか避けられた。

(本当やばかった。)
最悪は何とか避けられたものの倦怠感が身体を包み、思考力が低下しているのが分かる。

目の前のオーガが手をバタバタ振り回し、何とか這い出ようとしているのが見えるが、気力が湧かない。

(ここで眠れたら…。

ダメだ……ヤツを倒さねば…

くそっ眠たい…。

ちくしょう…どうにでもなりやがれ…

ダメだ

ダメだ

ダメだ…。

生きて帰るんだ。

そうだ、ならこいつを…こいつを どうする?

そうだこれを投げるんだ…)

不意に自分が何を用意していたかを思い出す。

重たい身体を引きずり、
腰にくくりつけていた袋を取り、
そしてオーガの頭に投げつけた。

バサッと袋に入った粉末がオーガの頭に当たり降りかかった。。

『グッギャアアアアアアアアア』
オーガの悲鳴が辺りに響く…

(まだだ、まだ。倒せた訳じゃない…あとちょっと、あとちょっとだ。)

そう気持ちを奮い立たせ、オーガに近づく。

粉を拭いさろうと顔を掻きむしっているオーガの口中に魔石を4個投げ入れ

そして……

残っているマナを

魔石に向け、放った…………


そして俺はまた意識を手放した。

◼□◼□◼□◼□

喉の渇きで目が覚めた。
一瞬ここがどこか分からず混乱する。

(ああ、そうか…。鉱山の中だった。)
オーガと戦って、勝ったところまでうっすらと覚えていた。

(しかし、良く生き延びられたもんだ。)

立ち上がり辺りの気配を探る。取り敢えずは魔物の気配はない。

生き残れた安堵から、しばし脱力した。
(やった…。俺はやった。オーガを一人で倒したぞ。)
暫くするとそんな実感が湧いてきた。

しかし…?
いくら周りを見回しても肝心のオーガの死体は跡形もない。

(まさか夢?

いや、身体の体調が頗(すこぶ)る良いことからして、階位が上がったとみて間違いない。
絶対倒した筈だ。

ならば…
ダンジョンに吸収されてしまったと考えるのが妥当だな…。
惜しいことをした。
まあ、良い。生きていれば次もある。

土魔法が膨大なマナを消費するってことを、このタイミングで身を持って体験できたことだけでも収穫だったと思おう。

良いアイディアだと思ったが、やはり穴があったな…。

バーバリアンと揶揄されても、暫くはガチの肉弾戦でいくか。)

これ以上の連戦は不可能と判断し、小部屋へと戻ることにした。

帰りの駄賃としてゴブリンドームでゴブリンを殲滅し、魔石を拾ったのは言うまでもなかった。

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感想 3

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つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

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