【本編完結】ヤンデレ魔王な幼馴染(男)に貞操を奪われるのは時間の問題です

にあ

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悪役令息編

キアが悪役令息で俺が主人公!?いきなり訳が分かんねーことになってんだけど!?

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お久しぶりですm(*_ _)m二章始めます!『色んな世界』を旅するリオンとキアのおまけ的なお話で、そんな大変な危機や別離なんかもない予定です。悪役令息もの、ちょっとやってみたかった(笑)。楽しんで頂けたら嬉しいです!続きも今夜また投稿します。



*******
「キ・・・キアっ!?」

ぼんやりと目を醒ました俺は、隣にあるはずのぬくもりがない事に気付いて、冷水を浴びせかけられたみたいに一気に目が覚めた。

『あの時』の、悪夢みたいに最悪だった気持ちが、一気に蘇って来る。

なっ、なんでだ!?
もう、俺達を引き裂くものなんか、何にもないはずだ。なのに、どこに行ったっていうんだよ!?

俺は焦ってベッドを飛び降りると、寝間着のまま薄暗い部屋のドアを開けて外へ飛び出た。

「キアーッ!どこだ!どこ行った!?」

廊下も薄暗くて、何があるのかよく分かんねー。ん?ていうか・・・

「あ、あれ?どこだ、ここ!?」

俺はそこでやっと、今、俺がいるのが昨日泊まったはずの宿屋じゃない事に気付いた。
宿屋じゃないどころか、その辺の街にあるような家でもない。何というか、廊下も広いし、天井も高いし、廊下のあちこちにはめちゃくちゃ高そうな調度品は置かれてるわ、うちの父さんそっくりな男が偉そうな恰好してる肖像画は掛けられてるわ、まるで王宮とか貴族の家みたいだった。

「なっ、何だここ!?俺、いつの間にこんなとこに!?」

ふと見れば、俺の着ている寝間着だって、いつもの着古してくったりした麻の寝間着じゃなくて、やたらツヤツヤてかてか、てろんとした白い服だった。これにも何かあちこちに刺繍なんかがされて、やたら高そうだ。

「何だこれ!?」

俺が色んな事にびっくりして騒いでいると、廊下の向こうからメイドっぽい恰好をした女の子が走って来た。

「どっ、どうされましたか!?リオン様!」
「えっ!?ロ、ロザリアッ!?」

え?なんで?なんでこんなとこにいんの?
メイド服を着たロザリアは、驚いた顔で目をぱちくりさせて俺のことを見ている。

「ロザリアこそ何でこんな所にいるんだよ!?しかも何でそんなメイド服なんか着てるんだ!?」

混乱している俺に、ロザリアはもっと訳が分からない、という顔で言った。

「え?なぜ、と申されましても、私はリオン様付きのメイドでございますし、これが私の制服だからですが・・・リオン様こそ、どうなされたのですか?こんな朝早くに廊下で騒いでいらっしゃるなど、旦那様に知られたらまた大目玉を食らいますわよ」
「え!?お前、ロザリア、だよな・・・?」

目の前にいるロザリアは、長い銀色の髪を珍しく後ろで一つに纏めてはいるけど、その菫色の瞳も、ちょっぴりむう、と膨らんだほっぺたも俺の知ってるロザリアと全く同じだ。

「もちろん、ロザリアでございますわ。リオン様、本当にどうなされたのです?妙な言動はいつもの事ではありますけど、今朝は特におかしいですわ。まだ寝ぼけていらっしゃるのですか?」
「え、ええ~・・・!??」

お前の方こそ何言ってんだ、って顔で見つめて来るこの子は、ロザリアと瓜二つな顔をして名前も同じだし、俺の事も知ってるのに、言ってることがおかしい。
俺付きのメイドって、何なんだよ!?
そんな訳ないのに!

「あっ、待てよ、そんな事より、キアだ!キアはどこに行ったんだ!?ロザリア、知らねーか?」

もっと大事なことを思い出して、ロザリアの肩を掴んで揺すると、ロザリアは眉をひそめて言った。

「キア・・・ひょっとして、公爵家のディアレスキア様の事でしょうか?」

ん?なんでディアレスキアなんて魔王の時の名前で呼んでんだ!?訳が分かんねー!けど、

「た、たぶんそれだ!それでっ、キアはどこ行ったんだよ!?」

ロザリアはさらに眉をひそめて、小さな声で咎めるように言った。

「リオン様!いくらご自分の邸とはいえ、次期公爵様をそのような略称で気安くお呼びになってはいけません。それこそ旦那様に聞かれでもしたら、今度は謹慎10日では済みませんわよ?」
「え、ええ~~~っ!?」

さっきから一体何なんだ!?何だか何もかもがおかしい。この家といい、嘘や冗談を言ってるわけじゃなさそうな、このロザリアの言動とか。

「どこに行ったも何も、ディアレスキア様がこの邸にいらっしゃる筈がございません。当然王都の、ご立派なご自分の御邸にいらっしゃいますわよ。もう、本当にどうなさったのですか?リオン様?ひょっとして熱でもおありなのですか?」

呆れていたロザリアが一転、心配そうな顔になって俺の額に手を当てて来たけど、俺は茫然としてされるがままだった。

「ここ・・・ひょっとしてフィラデルの街じゃねえの?」

昨日、俺とキアがやって来て、宿を取った海辺の街の名前。そう聞いてみたけど、やっぱりというか、ロザリアは首を振った。

「なぜフィラデルの名前が出るのか分かりませんが、もちろん違いますよ。うーん、熱はありませんね・・・でも本当にどうなされたんですか、リオン様?」

本気で心配そうに俺の顔を覗き込むロザリアに、俺は茫然としたままダメ押しで尋ねた。

「ここ、どこなんだ?それに、俺は誰なんだ?公爵家のディアレスキアって本当にキアなのか!?そいつも黒髪黒目なのかよ?」
「リ、リオン様!?」

ロザリアはいよいよこいつヤバいぞ、みたいな目で息を呑んで俺を見たけど、一応答えてくれた。

「こ、ここは王都レオグランスですわ。そしてこの御邸はその中心街から少し離れた所にある男爵家のタウンハウスです。あなた様は、このアルベスタ男爵家のご長男で、次期男爵のリオン=アルベスタ様でいらっしゃいます。ベーリング公爵家のご長男ディアレスキア様は、確かに珍しい黒い髪、黒い瞳をお持ちです。来週からリオン様もご入学予定の、王立学園でのご学友となりますが、これまで接点はなかった筈・・・」
「だ、男爵家・・・ベーリング公爵家・・・?王立学園・・・!?」

ブツブツと呟く俺に恐れをなしたみたいに、ロザリアが

「本当に一体、どうなされたんです?ああ、どうしよう。これは、旦那様に相談した方がいいのかしら?」
なんて呟くのを聞いて俺はハッと我に返った。

「まさか、その旦那様って・・・いや俺の親父って、アレか?」

壁に掛かってる、偉そうな格好した父さんそっくりの肖像画を指差すと、ロザリアは信じられないものを見るみたいな顔で頷いた。

「いや、あの、俺ちょっとヘンな夢見て混乱してたみたいだわ。だから何でもないからさ、父さんには何も言わないでおいてくれる!?お願い!」
「え、は、はい、分かりました。そうですね、旦那様に知られると面倒な事に・・・いえ、何でもありません」
「うん、だから俺、部屋に戻るよ。ロザリアも戻っていいよ」
「分かりましたわ」

引き攣った笑顔でスカートを摘まんで踵を返すロザリアを、半分茫然と見送って、俺はさっき飛び出して来た部屋の扉を開けて中に入った。
よく見ると、部屋の中も貴族っぽい高級そうな造りになってて、ベッドも天蓋付きの豪華なやつだった。けど、そんなのどうでもいい。

何なんだ・・・一体、何が起きてるんだ・・・!

俺の名前も、ロザリアの名前も同じで、父さんだって父さんのままなのに。俺が男爵令息で、キアが何とか公爵家の長男だとか、来週から王立学園に行くとか、どうなってんだよ!?

絶対ここ、俺のいた世界じゃねえ!昨日普通に寝ただけなのに、何でこんな訳の分かんねーことになっちまったんだ!?

それに、キア、お前もちゃんとここに来てるんだよな!?その、何とかっていう公爵家のディアレスキアって、ちゃんとお前だよな!?

やだよ、俺だけこんな訳の分かんねー所に飛ばされて、お前ともう会えないなんて事になっちまったら。せっかく、せっかく、もうこれからは誰にも何にも邪魔されずにお前と一緒に生きていける、って事になったのに!

なんで、こんな事になっちまったんだよ・・・!キア!早く、お前の無事を確かめたい・・・

「あ、そうだ!」

凹みそうになっていた俺は、ハッと思い出した。
そうだよ、俺には勇者の力が、魔法がある!相変わらず繊細な魔法は苦手だけど、探知くらいなら使える!

慣れ親しんだキアの気配を探して意識を集中すると――――いる!ちゃんと、近い場所にいる!
だけど、これが本当に俺の知ってるキアなのかは―――正直分からない。
だったら、今すぐに確かめに行ってやる!

俺は寝間着を引っぺがすように脱ぐと、クローゼットらしき所を漁って、着やすそうな服を探した。あんなテロンテロンのすぐ脱げそうな寝間着なんて着てちゃ、思うように動けねーからな。でもクローゼットの中にあるのも、何というか、やたら煌びやかでド派手で、全然普通の服がねーんだけど!?
もっとこう、動きやすそうな普通の服はねーのかよ?

そう思って探すと、やっと隅の方に俺が普段着ているような動きやすい、色も落ち着いた感じの服があった。

「なんだよ、あるんじゃねーか」

ホッとして茶色の上下のそれを着て、剣を腰に差そうとして気付く。

「あ――――せ、聖剣が、ねえ!!」

慌ててベッドの周りや下、部屋中を探し回ったけど、聖剣のせの字も出て来やしなかった。

「セイ!おい、呼んだら来るんじゃねーのかよ!?」

最後の手段で名前を呼んでみたけど、来る気配もない。
あーなんてこった。
こんな訳の分からねー世界で、剣も無しに戦わなきゃいけないのか。まあ、戦うなんてことがあるのかどうかも分かんねーんだけど、なんだかんだ言っても、セイは自分の手足みたいにしっくり馴染んでたし、あって当たり前みたいになってたから、いきなり無くなると自分の体の一部を置き忘れたみたいに心許なかった。

でも仕方ない。さっきクローゼットの片隅に、小さいナイフがあったから、とりあえずそれを腰に差して俺は窓を開けた。部屋は二階だったらしく、下までけっこう高さがあったけど、このくらい何てことはない。

周りに誰もいないのを確かめて、俺は身軽に下に飛び降りた。
そして、キアの気配のする方へ向かって、身体強化(ブースト)して一気に走り出す。

まだ夜が明ける前だったみたいで、東の空がほんのり明るくなっているくらいで薄暗かったけど、視力も強化されてるからこの位なら昼と同じくらいに見える。

誰もいない路地を走り抜け、大きな邸宅が立ち並ぶ辺りに来ると、キアの気配が濃厚になった。きっとこの辺りのどれかの家にいるんだろう。

一瞬立ち止まって、もっと気配を探ろうとした時、「リオン!」と押し殺した、でも歓喜に溢れた声が耳に響いて、俺はそっちを素早く振り返った。

と同時に、ぎゅうっと激しく抱き締められて視界が塞がれる。
でも。見なくても分かる。
俺は安堵で涙がこみ上げそうになった。
キアの背中に手を回して抱き締め返すと、耳元で潤んだ声が囁いた。

「リオン・・・!良かった・・・会えた・・・」
「キア・・・!俺、お前がお前じゃなかったらどうしようって・・・本当はすごく不安だった・・・」
「僕もだよ・・・」

俺とキアはそのまましばらく、お互いが溶け合ってしまうくらい、ぎゅうぎゅうに抱きあっていたけど、少し落ち着いたからやっと体を離した。
本当はもっとそうしてたかったけど、そうも言ってられねー。この訳分かんねー状況の事を話し合わなきゃ。
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