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今夜!?
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「ノアが気を遣わなくていいように、小部屋の円卓を使う事にしてみたのですよ。これなら距離も近いですしね。気楽に話せるでしょう?」
「はい、ちょっとホッとしました・・・」
やたら長細いテーブルのお誕生日席に座らされるんじゃないかとビクついていたけど、そんなに広すぎない部屋に、私たち3人と給仕の人たち数人だけだったので、正直助かった。
日本でも高級レストランみたいなとこ、行ったことないのに、いきなり王族と会食だなんて、緊張するよ。
でも・・・
ちらっと隣を見ると、カインはいつもと変わらない、無愛想な顔で腕を組んで、窓の外を眺めていた。
まあ、ぶすっとした顔はしてるけど隣にカインがいるから、それだけでも安心する。
「では乾杯しましょうか。女神セレスティアとその恵みに」
エルフィード王子が琥珀色の液体の入ったグラスを掲げてそう言ったので、
「・・・乾杯」
控えめに言って、同じようにグラスを掲げる。
カインも無表情のままだけど、一応同じようにしていた。
グラスの中身を飲んでみると、びっくりするくらい美味しい。少し酸味のあるワインのようなお酒だった。
「あ、美味しい!」
ワインは好きだから、思わず素でそう言ったら、王子は嬉しそうに微笑んだ。
「それは良かった。お代わりもありますよ。でもあまり沢山飲むと酔ってしまいますからね」
穏やかな微笑みを見て思う。
うーん。今はあの時みたいなヤバそうな雰囲気は一切なくて、さっきの一幕は何だったんだろうって気すら、する。
それにしても、イルマ・・・本当はイルマリアだっけ。
走って行っちゃったけどあの後、どうしたんだろう。
すごく傷付いた顔してたな・・・
好きなのに、思うようにならないって辛いよね。
私にはどうにも出来ないんだけどさ。
「おい、なんかあったのか」
色々考えていたら、それまで黙っていたカインが私の顔をじっと見つめていた。
「え?ううん、何でもないよ。ていうか、カイン全然飲んでないじゃん」
減ってないグラスの中身を指摘すると、カインは「ああ」と素っ気なく言った。
「俺は酒、合わねぇんだ。飲もうと思えば飲めるがな」
あれ、そうなの?でもそういえば家で飲んでるの見たことなかったな。
「ふーん、なんか意外だね。すっごい飲みそうな顔してるのに」
そう言うと、
「お前、俺にどんなイメージ持ってるんだ」
呆れた顔で水のグラスを傾けていた。
その後はコース料理みたいに、給仕の人達が前菜っぽいものからメインの肉料理、スープなんかを持って来てくれて、どれもすごく美味しかった。
カインは私が話しかけない限りずっと黙ったままだったから、王子に日本のことを色々聞かれてそれに答えたり、この世界やお城の感想みたいな、何でもない話をしている内に食事も終わった。
「全員、下がっていてくれ。私が呼ぶまで誰も入れないように」
食後に持って来て貰った、花の香りのするお茶に手を付けた所でエルフィード王子がそう言って、給仕の人達はみんな頭を下げて部屋を出て行った。
「この部屋は防音仕様になっています。内密の話をするにはちょうどいいんですよ」
と言い置いて、エルフィード王子が、カインを真っ直ぐ見つめる。
「それでは、これからの事について大事な話をしましょうか。カイン。あなたのステータスは今どうなっています?」
カインは少し目を閉じて、内側に集中するような素振りをみせた。
「はっきりとは分からねぇが、レベルマックスまでは・・・あと少しって所だろうな」
「そうですか、分かりました」
王子は頷くと、ちらっと私を見てまたカインに視線を戻した。
「それなら次の話です。私は先ほどノアと話したのですが、女神セレスティアに最初に聞いた話と、少し違うようなのです。私はレベルマックスまで聖女に協力して貰いなさい、と言われたのですが、ノアは私とは1度でいい、レベルマックスまでステータスを上げるのはカイン一人でいい、と言っていました。いつ、そういう話になったのでしょうか?」
「ああ」
特に詰め寄るわけでもなかったけど、どことなく圧の増したエルフィード王子を真っ直ぐ見返し、カインは口を開いた。
「数日前だが、ノアの前に女神が現れた。それでノアの願いを聞き入れてそういう事になったんだ。女神は魔王の力も分かってる。その女神がこれで大丈夫だって言うんだから大丈夫だろ」
「そんな・・・女神セレスティアが・・・?で、でも・・・」
ぶつぶつと呟いていたエルフィード王子が、ふと顔を上げる。
「なぜ、カインなんですか?私と貴方は同じ勇者であり、そこに何も違いはない筈なのに。確かにあなたは元来『剣聖』というレアスキル持ちではありましたが・・・私だって『聖騎士』のレアスキルを持っているのに。そもそも聖女が最初に降臨したのが、私ではなく、カインの所だったというのも、正直、納得がいきません」
うわあ・・・
さっきみたいに激情に駆られてはいないけど・・・
堪えきれずに黒いオーラが出ちゃってる王子に、私は微妙にのけぞった。
やっぱりこれって、レベルマックスになることを許されたのが、自分じゃなくカインだ、っていうことに対する嫉妬なのかな?
自分が選ばれてしかるべきなのに、そうじゃなかったってことに、王子としてのプライドが耐えられない感じ?
ま、まあ、そりゃ、そうだよね、私といっぱいえっち出来ないからなんてアホな理由で、一国の王子が怒るわけないよね。
カインはそんなエルフィード王子をじっと見ていたけど、
「そんな事、俺に言われたって知らねぇよ。女神にしか分かんねぇ基準がなんかあるんだろ」
いつものようにぶっきらぼうにそう言った。
ある意味安心するけど、ホント、王子様相手なのに口悪いよね。
なんて半分呆れて見ていたら、さらにカインは言葉を続けた。
「・・・それに、魔王さえ倒せりゃ、他の事なんかどうだっていいだろ。レベルだってな、たったの一回でも・・・前に惨敗した魔王の配下になら余裕で勝てるくらいにはなるんだ。そもそもな、エルフィード。お前もレグラスも、限界までレベル上げたレアスキル持ちだ。魔王を除けば世界に敵なんかいねぇんだぜ。特にお前みたいな権力持ったやつがそれ以上強くなってどうすんだよ?女神もその辺考えてこうしたんじゃねぇのか」
「・・・」
カインの言葉を聞くと、エルフィード王子は少しハッとした顔をして黙りこんだ。
私も、びっくりしてカインの顔を見つめてしまった。
確かに、魔王が居なくなったあと、こんなとんでもない力を持った人が王様になって、自分勝手なことやり始めちゃったら、止められる人なんかいないよね?
だから権力なんて持ってないカインを優遇して世界のバランスを取ったのか・・・
そこまで考えてるなんてやっぱり、腐っても女神―――
―――なーんて、あの邪女神がそこまで考えてこうしてるなんて、絶対有り得ないんだけどさ!
それでも、事の真相を知ってる私でも、一瞬そう思っちゃうほど、カインの言葉には妙な説得力があった。
実際、カインはそう考えてるのかもしれない。
それに、本当は私が他の人とヤるのがイヤでゴネて、他の勇者達とは一回でいいってことになったけど・・・
カイン以外の二人に対しては、レベルマックスまで行かせてあげられなくてごめんねってちょっと申し訳なく思ってたんだよね。
でも、今のカインの言葉聞いたら、確かに権力持ってるうえに、ちょっと精神が危ういエルフィードはこれ以上強くならない方がいいかもしれないと私も思った。
レグラスって人のことは分からないけど、でも今の段階でも世界に敵無しなら、いい、のかな。
カインはどうなんだ、って話になるけど、私が見る限り、カインは大丈夫な気がする・・・
だって、カインが強くなりたいのは、魔王を倒して好きだった人を蘇らせたい、だけだろうし、それに、今まで見て来て、権力とかお金とかにも別に興味なさそうだしさ。
そんなことを考えていたら、
「・・・確かに一理ありますね。レグラスも貿易商としてかなりの力を持っていますし・・・私達の中で権力に無縁なのはカインだけだ。賢明な女神セレスティアならそう、お考えになるのも当然かもしれません・・・分かりました。この件についてはもう、蒸し返すのはやめましょう」
エルフィード王子はトーンダウンして溜息を付くと、居住まいを正した。
はぁ、何とか丸く収まったみたい。
無意識に詰めていた息を軽く吐き出したら、王子がこっちを向いて目が合った。
「―――どちらにせよ。ノア。私が先ほど言った事は本心ですよ」
にこりと微笑まれて、
「え?何のことですか?」
ぽかんと聞き返したら、王子は「忘れるなんてひどいな」と可笑しそうに笑った。
「これから私達が行う『儀式』の話です。言ったでしょう?私自身はそれを単なる義務とは思っていないと。儀式とか王族としての義務とか、そんな事は関係なしにあなたに惹かれている、と言ったのは、本当の事ですよ。だから」
そこまで言うと、エルフィード王子は席を立って、座っている私の前にしゃがみ込んだ。
「正直に言って、今夜、あなたと過ごす時間が待ち遠しくてたまりません。ノアに喜んで欲しくて、色々考えているんですよ。精一杯尽くさせて下さいね」
私の手を両手で包み込みながら、微笑む。
「え、えぇっ!?」
何となく、まだ先だと思ってたのに、今夜!?
「あ、あの、ちょっと早すぎませんか?私、まだ心の準備が出来てないし・・・もうちょっと日を置いて改めてっていうのは」
狼狽えて、何とか今夜すぐ致すのは避けようとしたら、
「ノア」
笑顔のエルフィード王子からじっとりした黒いオーラが滲みだして来た。
「カインとはその日にすぐ『儀式』に至ったのでしょう?なのになぜ私の事は拒もうとするのですか?なぜカインは受け入れられたのに、私は駄目なのです?」
う、うわぁ・・・圧がやばいよ・・・やっぱ、闇王子じゃんこの人・・・
さっきから思ってたけど、自分以外の誰かが自分よりも優遇される、っていうのが、エルフィード王子にとっての地雷なんだ。
あぁん、もうやだ!やっぱり私が出会う男にロクな奴はいない!
けど、こんな地雷男相手にこのままゴネて、えっちのとき酷いことされるのも嫌だし・・・
はぁ・・・しょうがない。1回だけの我慢だ。
「分かりました・・・あの、あんまり変なこととか、痛いことはしないで下さいね・・・」
やんわりと釘を刺すと、王子は最初に会った時みたいな、輝く笑顔で頷いた。
「安心して下さい。ノアに酷い事などする訳がありません」
確かに王子のセリフも、キラキラしたビジュアルも、それだけ見ればものすごく素敵であることは間違いない。正直、初めて会った時のカインに比べたら、雲泥の差、圧倒的差をつけての勝利だ。
でもなぁ・・・
「ふふ、酷い事か・・・」
どよんとしていたら、エルフィード王子がちょっと可笑しそうに呟いたあと、私の手に軽くキスして言い足した。
「ねえノア。本当に、甘くて蕩けるような一夜を約束しますよ。たった一度だけでは物足りなくなるほど、ね」
まるで、蛇が獲物を狙うような目で見つめられて、ゾクリとした。
「ひぇ・・・」
く、食われそう。
変な汗を流しながら固まっていると、王子は、くすっと笑って手を離して立ち上がった。
「それではこれで会食を終わりにしましょうか。ノアはお風呂が好きだと聞いていますから、このあと少し休んだら浴場に案内させますね」
「あ、ありがとうございます」
「部屋に送りましょう」
王子が私の背中に手を回してエスコートしようとした時、それまで黙っていたカインが大股で近付いて来て、エルフィード王子の腕を私から外した。
「ちょっと待て。ノアと話がある。お前は先に行ってくれ」
王子はちょっと顔を顰めたけど、
「分かりました。ではノア、また後ほど」
そう言うと、あっさり扉を開けて出て行った。
「はい、ちょっとホッとしました・・・」
やたら長細いテーブルのお誕生日席に座らされるんじゃないかとビクついていたけど、そんなに広すぎない部屋に、私たち3人と給仕の人たち数人だけだったので、正直助かった。
日本でも高級レストランみたいなとこ、行ったことないのに、いきなり王族と会食だなんて、緊張するよ。
でも・・・
ちらっと隣を見ると、カインはいつもと変わらない、無愛想な顔で腕を組んで、窓の外を眺めていた。
まあ、ぶすっとした顔はしてるけど隣にカインがいるから、それだけでも安心する。
「では乾杯しましょうか。女神セレスティアとその恵みに」
エルフィード王子が琥珀色の液体の入ったグラスを掲げてそう言ったので、
「・・・乾杯」
控えめに言って、同じようにグラスを掲げる。
カインも無表情のままだけど、一応同じようにしていた。
グラスの中身を飲んでみると、びっくりするくらい美味しい。少し酸味のあるワインのようなお酒だった。
「あ、美味しい!」
ワインは好きだから、思わず素でそう言ったら、王子は嬉しそうに微笑んだ。
「それは良かった。お代わりもありますよ。でもあまり沢山飲むと酔ってしまいますからね」
穏やかな微笑みを見て思う。
うーん。今はあの時みたいなヤバそうな雰囲気は一切なくて、さっきの一幕は何だったんだろうって気すら、する。
それにしても、イルマ・・・本当はイルマリアだっけ。
走って行っちゃったけどあの後、どうしたんだろう。
すごく傷付いた顔してたな・・・
好きなのに、思うようにならないって辛いよね。
私にはどうにも出来ないんだけどさ。
「おい、なんかあったのか」
色々考えていたら、それまで黙っていたカインが私の顔をじっと見つめていた。
「え?ううん、何でもないよ。ていうか、カイン全然飲んでないじゃん」
減ってないグラスの中身を指摘すると、カインは「ああ」と素っ気なく言った。
「俺は酒、合わねぇんだ。飲もうと思えば飲めるがな」
あれ、そうなの?でもそういえば家で飲んでるの見たことなかったな。
「ふーん、なんか意外だね。すっごい飲みそうな顔してるのに」
そう言うと、
「お前、俺にどんなイメージ持ってるんだ」
呆れた顔で水のグラスを傾けていた。
その後はコース料理みたいに、給仕の人達が前菜っぽいものからメインの肉料理、スープなんかを持って来てくれて、どれもすごく美味しかった。
カインは私が話しかけない限りずっと黙ったままだったから、王子に日本のことを色々聞かれてそれに答えたり、この世界やお城の感想みたいな、何でもない話をしている内に食事も終わった。
「全員、下がっていてくれ。私が呼ぶまで誰も入れないように」
食後に持って来て貰った、花の香りのするお茶に手を付けた所でエルフィード王子がそう言って、給仕の人達はみんな頭を下げて部屋を出て行った。
「この部屋は防音仕様になっています。内密の話をするにはちょうどいいんですよ」
と言い置いて、エルフィード王子が、カインを真っ直ぐ見つめる。
「それでは、これからの事について大事な話をしましょうか。カイン。あなたのステータスは今どうなっています?」
カインは少し目を閉じて、内側に集中するような素振りをみせた。
「はっきりとは分からねぇが、レベルマックスまでは・・・あと少しって所だろうな」
「そうですか、分かりました」
王子は頷くと、ちらっと私を見てまたカインに視線を戻した。
「それなら次の話です。私は先ほどノアと話したのですが、女神セレスティアに最初に聞いた話と、少し違うようなのです。私はレベルマックスまで聖女に協力して貰いなさい、と言われたのですが、ノアは私とは1度でいい、レベルマックスまでステータスを上げるのはカイン一人でいい、と言っていました。いつ、そういう話になったのでしょうか?」
「ああ」
特に詰め寄るわけでもなかったけど、どことなく圧の増したエルフィード王子を真っ直ぐ見返し、カインは口を開いた。
「数日前だが、ノアの前に女神が現れた。それでノアの願いを聞き入れてそういう事になったんだ。女神は魔王の力も分かってる。その女神がこれで大丈夫だって言うんだから大丈夫だろ」
「そんな・・・女神セレスティアが・・・?で、でも・・・」
ぶつぶつと呟いていたエルフィード王子が、ふと顔を上げる。
「なぜ、カインなんですか?私と貴方は同じ勇者であり、そこに何も違いはない筈なのに。確かにあなたは元来『剣聖』というレアスキル持ちではありましたが・・・私だって『聖騎士』のレアスキルを持っているのに。そもそも聖女が最初に降臨したのが、私ではなく、カインの所だったというのも、正直、納得がいきません」
うわあ・・・
さっきみたいに激情に駆られてはいないけど・・・
堪えきれずに黒いオーラが出ちゃってる王子に、私は微妙にのけぞった。
やっぱりこれって、レベルマックスになることを許されたのが、自分じゃなくカインだ、っていうことに対する嫉妬なのかな?
自分が選ばれてしかるべきなのに、そうじゃなかったってことに、王子としてのプライドが耐えられない感じ?
ま、まあ、そりゃ、そうだよね、私といっぱいえっち出来ないからなんてアホな理由で、一国の王子が怒るわけないよね。
カインはそんなエルフィード王子をじっと見ていたけど、
「そんな事、俺に言われたって知らねぇよ。女神にしか分かんねぇ基準がなんかあるんだろ」
いつものようにぶっきらぼうにそう言った。
ある意味安心するけど、ホント、王子様相手なのに口悪いよね。
なんて半分呆れて見ていたら、さらにカインは言葉を続けた。
「・・・それに、魔王さえ倒せりゃ、他の事なんかどうだっていいだろ。レベルだってな、たったの一回でも・・・前に惨敗した魔王の配下になら余裕で勝てるくらいにはなるんだ。そもそもな、エルフィード。お前もレグラスも、限界までレベル上げたレアスキル持ちだ。魔王を除けば世界に敵なんかいねぇんだぜ。特にお前みたいな権力持ったやつがそれ以上強くなってどうすんだよ?女神もその辺考えてこうしたんじゃねぇのか」
「・・・」
カインの言葉を聞くと、エルフィード王子は少しハッとした顔をして黙りこんだ。
私も、びっくりしてカインの顔を見つめてしまった。
確かに、魔王が居なくなったあと、こんなとんでもない力を持った人が王様になって、自分勝手なことやり始めちゃったら、止められる人なんかいないよね?
だから権力なんて持ってないカインを優遇して世界のバランスを取ったのか・・・
そこまで考えてるなんてやっぱり、腐っても女神―――
―――なーんて、あの邪女神がそこまで考えてこうしてるなんて、絶対有り得ないんだけどさ!
それでも、事の真相を知ってる私でも、一瞬そう思っちゃうほど、カインの言葉には妙な説得力があった。
実際、カインはそう考えてるのかもしれない。
それに、本当は私が他の人とヤるのがイヤでゴネて、他の勇者達とは一回でいいってことになったけど・・・
カイン以外の二人に対しては、レベルマックスまで行かせてあげられなくてごめんねってちょっと申し訳なく思ってたんだよね。
でも、今のカインの言葉聞いたら、確かに権力持ってるうえに、ちょっと精神が危ういエルフィードはこれ以上強くならない方がいいかもしれないと私も思った。
レグラスって人のことは分からないけど、でも今の段階でも世界に敵無しなら、いい、のかな。
カインはどうなんだ、って話になるけど、私が見る限り、カインは大丈夫な気がする・・・
だって、カインが強くなりたいのは、魔王を倒して好きだった人を蘇らせたい、だけだろうし、それに、今まで見て来て、権力とかお金とかにも別に興味なさそうだしさ。
そんなことを考えていたら、
「・・・確かに一理ありますね。レグラスも貿易商としてかなりの力を持っていますし・・・私達の中で権力に無縁なのはカインだけだ。賢明な女神セレスティアならそう、お考えになるのも当然かもしれません・・・分かりました。この件についてはもう、蒸し返すのはやめましょう」
エルフィード王子はトーンダウンして溜息を付くと、居住まいを正した。
はぁ、何とか丸く収まったみたい。
無意識に詰めていた息を軽く吐き出したら、王子がこっちを向いて目が合った。
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にこりと微笑まれて、
「え?何のことですか?」
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「これから私達が行う『儀式』の話です。言ったでしょう?私自身はそれを単なる義務とは思っていないと。儀式とか王族としての義務とか、そんな事は関係なしにあなたに惹かれている、と言ったのは、本当の事ですよ。だから」
そこまで言うと、エルフィード王子は席を立って、座っている私の前にしゃがみ込んだ。
「正直に言って、今夜、あなたと過ごす時間が待ち遠しくてたまりません。ノアに喜んで欲しくて、色々考えているんですよ。精一杯尽くさせて下さいね」
私の手を両手で包み込みながら、微笑む。
「え、えぇっ!?」
何となく、まだ先だと思ってたのに、今夜!?
「あ、あの、ちょっと早すぎませんか?私、まだ心の準備が出来てないし・・・もうちょっと日を置いて改めてっていうのは」
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笑顔のエルフィード王子からじっとりした黒いオーラが滲みだして来た。
「カインとはその日にすぐ『儀式』に至ったのでしょう?なのになぜ私の事は拒もうとするのですか?なぜカインは受け入れられたのに、私は駄目なのです?」
う、うわぁ・・・圧がやばいよ・・・やっぱ、闇王子じゃんこの人・・・
さっきから思ってたけど、自分以外の誰かが自分よりも優遇される、っていうのが、エルフィード王子にとっての地雷なんだ。
あぁん、もうやだ!やっぱり私が出会う男にロクな奴はいない!
けど、こんな地雷男相手にこのままゴネて、えっちのとき酷いことされるのも嫌だし・・・
はぁ・・・しょうがない。1回だけの我慢だ。
「分かりました・・・あの、あんまり変なこととか、痛いことはしないで下さいね・・・」
やんわりと釘を刺すと、王子は最初に会った時みたいな、輝く笑顔で頷いた。
「安心して下さい。ノアに酷い事などする訳がありません」
確かに王子のセリフも、キラキラしたビジュアルも、それだけ見ればものすごく素敵であることは間違いない。正直、初めて会った時のカインに比べたら、雲泥の差、圧倒的差をつけての勝利だ。
でもなぁ・・・
「ふふ、酷い事か・・・」
どよんとしていたら、エルフィード王子がちょっと可笑しそうに呟いたあと、私の手に軽くキスして言い足した。
「ねえノア。本当に、甘くて蕩けるような一夜を約束しますよ。たった一度だけでは物足りなくなるほど、ね」
まるで、蛇が獲物を狙うような目で見つめられて、ゾクリとした。
「ひぇ・・・」
く、食われそう。
変な汗を流しながら固まっていると、王子は、くすっと笑って手を離して立ち上がった。
「それではこれで会食を終わりにしましょうか。ノアはお風呂が好きだと聞いていますから、このあと少し休んだら浴場に案内させますね」
「あ、ありがとうございます」
「部屋に送りましょう」
王子が私の背中に手を回してエスコートしようとした時、それまで黙っていたカインが大股で近付いて来て、エルフィード王子の腕を私から外した。
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