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恋人?
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「おいミゲル、何やってるんだ。女の子口説いてないで早く戻れよ」
聞き慣れた声がして、ミゲルが慌てた。
「あっ、す、すみませんユーゴさん。で、でももうちょっとだけ待って下さい」
「いや、お前、それもう脈ないだろ…って、え、まさか…」
大股でこっちに歩いて来た騎士服姿のユーゴが、私を見てハッとする。
目も髪の色も変えているけれど、やはりユーゴには分かったのだろう。
だが余計な事を言われては困る。ミゲルの見ていない隙に人差し指を唇に当てて頷いて見せると、ユーゴも小さく頷いた。
良かった、分かってくれたようだ。ホッと胸を撫でおろしていると、ユーゴはガバっと私を抱き締めて大きな声で言った。
「うわあ、こんな所で会えるなんて!俺の大事な子猫ちゃん!」
ちょ、ちょっと!?
何を言い出すのだ。
吃驚していると耳元でこっそり囁かれる。
「俺の恋人のフリしてた方がいいよ。ここでの名前は何て言うの?」
「シ、シアンよ」
小声で返すと、ユーゴは私を胸に抱えるようにしながら言った。
「おいミゲル、お前、人の恋人を口説くなよな。シアンは俺の。分かったらさっさと隊に合流しろよ」
「えっ!!?恋人!!?シアンさんが、ユーゴさんの、ですか!?」
「そうだよ、だからもう二度と粉掛けるなよ?分かったらほら、行けよ」
「わ、分かりました…」
ミゲルがよろよろと路地を駆けていくと、今度はマーサさんが口を開く。
「ええ!?シアンってば、こんな格好いい立派な恋人がいるんだったら、ちゃんと言っておくれよ!あらあ…ミゲルにもあんたにも悪い事しちゃったねえ…ごめんなさいね、余計な事をして」
申し訳なさそうなマーサさんに、ユーゴはにこりと微笑む。
「いいんですよ。シアンは恥ずかしがりだから、俺の事言うの、照れたんですね。でもまあそういう訳だから、もうシアンに誰か紹介したりとかは、しないで下さいね?」
最後、どことなく威圧感のある声でユーゴがそう言うと、マーサさんは喉をごくりと鳴らして急いで頷いていた。
「それじゃ」
軽く会釈して、二人でその場を離れながら小声で言い合う。
「シャル!まさかここで会えるなんて思わなかったよ。嬉しいけど、何であんな事になってたの?俺が来なかったら、ミゲルの奴に付いて行ったなんて事ないよね?」
「当たり前でしょ!私だって困ってたんだから…マーサさん、いい人なんだけどお節介なのよね…」
溜息混じりに色々説明したら、ユーゴは立ち止まって私の頬、そして髪に手を触れた。
「そうかあ。食べ物とかどうしてるんだろうって思ってたけど、いつもこんな風に変装して王都に来てたんだね。でも全然可愛さが隠しきれてないよ。だからあんな事になっちゃうんだよ」
「何言ってるのよ、こんなに地味で目立たないのに」
そう言うと、ユーゴは呆れた顔をした。
「ほんとにシャルは自分の事分かってないよね。髪や目の色変えたって、シャルはすごく可愛いんだよ。もう絶対そのフード外しちゃダメだよ。ああ、これから一人にするのが嫌でしょうがないけど…もう行かなきゃ。また夜に行くから俺がいなくなったらすぐ帰ってね?」
何を言ってるのだと思ったが、さっきのやり取りで相当疲れた事は確かだ。
「勿論、そうするわよ。あなたは騎士団の仕事の途中なんでしょ、早く行きなさい」
そう言って押しやろうとしたら、ユーゴは私をぎゅっと抱き締めて唇にキスして来た。
「ちょ、ちょっと何するのよ!?」
びっくりして離れると、ふっと笑う。
「シャルナは俺のものだって、印を付けておかないとね」
「は、はあ!?」
「じゃあ、また夜にね」
戸惑っている私をよそに、ユーゴはそう言うと急いで駆けて行ってしまった。
「何なのよ、もう…」
思わず唇に触れる。ユーゴがあんな事を言うから、本当に痕が残っているような気がしてしまったが、当然そこには何もない。
まあ、いい。目的は果たしたし、もう帰る事にしよう。
一度はそう思ったものの、ふとユーゴの仕事ぶりが気になった。
思えば15歳でユーゴと別れてから、王都には何度もこうして買い出しには来たものの、会いそうな場所は全て避けて来た。
二度と会うつもりがなかったからだ。
だからあれからユーゴがどんな風にこの王都で生きて来たのか、私は知らない。
勿論いずれは、何とかユーゴに私と結婚するなどという夢は諦めて貰って、誰か似合いの女性を見つけ、私の事は忘れて貰いたいと思っている。
だが思いがけず再会して、また以前のように何気ないやり取りをしていたら、母として養い子の成長した様子を見る位はいいのではないか…とも思ってしまったのだ。
「…ほんの少し、見るだけよ」
自分を納得させると、私はフードをしっかり被ってユーゴが走って行った方へ足を向けた。
足早に歩くと、すぐに見付かった。そのまま陰に隠れながら見守る。
ユーゴ達は数人で固まって、街の巡回をしているようだ。
皆、がっしりとしていて凛々しく頼もしく見える。けれど親の欲目か、やっぱりユーゴが一番立派に見えた。街の人達の挨拶に応える姿も一人前だ。
そのまま見ていると、食事処の前に立っていた若い娘がバスケットを手にユーゴに近付いて行き、何か話しかけていた。
どうやらバスケットの中の料理を食べて貰いたいらしい。
どうするのだろうと思ったら、ユーゴは困ったような笑顔で首を振って断っていた。
娘はあからさまに肩を落としていたが、何となくほっとしていると、私の傍にいた若い女の子達の会話が耳に入った。
「あーあ、メルティでも駄目みたいよ」
「あんなに可愛いのにねえ。でもやっぱり、あんな素敵な騎士様だもの。きっと貴族のご令嬢とかが許嫁だったりするんじゃない?」
「あー、そうかも。羨ましーい。私もあんな素敵な人と結婚したーい」
「本当、私もー」
これは、いわゆる『モテる』という現象なのだろうか。
ずっと、私とユーゴは二人で生きて来た。だから他人がユーゴの事をこんな風に言っているのを聞いたのは初めてだ。
嬉しいような誇らしいような、それなのに無性に寂しいような複雑な気分に自分でも戸惑う。
私はそっとその場を離れると、人気のない街外れまで歩いて行って、そこで『転移』を使って家に戻った。
聞き慣れた声がして、ミゲルが慌てた。
「あっ、す、すみませんユーゴさん。で、でももうちょっとだけ待って下さい」
「いや、お前、それもう脈ないだろ…って、え、まさか…」
大股でこっちに歩いて来た騎士服姿のユーゴが、私を見てハッとする。
目も髪の色も変えているけれど、やはりユーゴには分かったのだろう。
だが余計な事を言われては困る。ミゲルの見ていない隙に人差し指を唇に当てて頷いて見せると、ユーゴも小さく頷いた。
良かった、分かってくれたようだ。ホッと胸を撫でおろしていると、ユーゴはガバっと私を抱き締めて大きな声で言った。
「うわあ、こんな所で会えるなんて!俺の大事な子猫ちゃん!」
ちょ、ちょっと!?
何を言い出すのだ。
吃驚していると耳元でこっそり囁かれる。
「俺の恋人のフリしてた方がいいよ。ここでの名前は何て言うの?」
「シ、シアンよ」
小声で返すと、ユーゴは私を胸に抱えるようにしながら言った。
「おいミゲル、お前、人の恋人を口説くなよな。シアンは俺の。分かったらさっさと隊に合流しろよ」
「えっ!!?恋人!!?シアンさんが、ユーゴさんの、ですか!?」
「そうだよ、だからもう二度と粉掛けるなよ?分かったらほら、行けよ」
「わ、分かりました…」
ミゲルがよろよろと路地を駆けていくと、今度はマーサさんが口を開く。
「ええ!?シアンってば、こんな格好いい立派な恋人がいるんだったら、ちゃんと言っておくれよ!あらあ…ミゲルにもあんたにも悪い事しちゃったねえ…ごめんなさいね、余計な事をして」
申し訳なさそうなマーサさんに、ユーゴはにこりと微笑む。
「いいんですよ。シアンは恥ずかしがりだから、俺の事言うの、照れたんですね。でもまあそういう訳だから、もうシアンに誰か紹介したりとかは、しないで下さいね?」
最後、どことなく威圧感のある声でユーゴがそう言うと、マーサさんは喉をごくりと鳴らして急いで頷いていた。
「それじゃ」
軽く会釈して、二人でその場を離れながら小声で言い合う。
「シャル!まさかここで会えるなんて思わなかったよ。嬉しいけど、何であんな事になってたの?俺が来なかったら、ミゲルの奴に付いて行ったなんて事ないよね?」
「当たり前でしょ!私だって困ってたんだから…マーサさん、いい人なんだけどお節介なのよね…」
溜息混じりに色々説明したら、ユーゴは立ち止まって私の頬、そして髪に手を触れた。
「そうかあ。食べ物とかどうしてるんだろうって思ってたけど、いつもこんな風に変装して王都に来てたんだね。でも全然可愛さが隠しきれてないよ。だからあんな事になっちゃうんだよ」
「何言ってるのよ、こんなに地味で目立たないのに」
そう言うと、ユーゴは呆れた顔をした。
「ほんとにシャルは自分の事分かってないよね。髪や目の色変えたって、シャルはすごく可愛いんだよ。もう絶対そのフード外しちゃダメだよ。ああ、これから一人にするのが嫌でしょうがないけど…もう行かなきゃ。また夜に行くから俺がいなくなったらすぐ帰ってね?」
何を言ってるのだと思ったが、さっきのやり取りで相当疲れた事は確かだ。
「勿論、そうするわよ。あなたは騎士団の仕事の途中なんでしょ、早く行きなさい」
そう言って押しやろうとしたら、ユーゴは私をぎゅっと抱き締めて唇にキスして来た。
「ちょ、ちょっと何するのよ!?」
びっくりして離れると、ふっと笑う。
「シャルナは俺のものだって、印を付けておかないとね」
「は、はあ!?」
「じゃあ、また夜にね」
戸惑っている私をよそに、ユーゴはそう言うと急いで駆けて行ってしまった。
「何なのよ、もう…」
思わず唇に触れる。ユーゴがあんな事を言うから、本当に痕が残っているような気がしてしまったが、当然そこには何もない。
まあ、いい。目的は果たしたし、もう帰る事にしよう。
一度はそう思ったものの、ふとユーゴの仕事ぶりが気になった。
思えば15歳でユーゴと別れてから、王都には何度もこうして買い出しには来たものの、会いそうな場所は全て避けて来た。
二度と会うつもりがなかったからだ。
だからあれからユーゴがどんな風にこの王都で生きて来たのか、私は知らない。
勿論いずれは、何とかユーゴに私と結婚するなどという夢は諦めて貰って、誰か似合いの女性を見つけ、私の事は忘れて貰いたいと思っている。
だが思いがけず再会して、また以前のように何気ないやり取りをしていたら、母として養い子の成長した様子を見る位はいいのではないか…とも思ってしまったのだ。
「…ほんの少し、見るだけよ」
自分を納得させると、私はフードをしっかり被ってユーゴが走って行った方へ足を向けた。
足早に歩くと、すぐに見付かった。そのまま陰に隠れながら見守る。
ユーゴ達は数人で固まって、街の巡回をしているようだ。
皆、がっしりとしていて凛々しく頼もしく見える。けれど親の欲目か、やっぱりユーゴが一番立派に見えた。街の人達の挨拶に応える姿も一人前だ。
そのまま見ていると、食事処の前に立っていた若い娘がバスケットを手にユーゴに近付いて行き、何か話しかけていた。
どうやらバスケットの中の料理を食べて貰いたいらしい。
どうするのだろうと思ったら、ユーゴは困ったような笑顔で首を振って断っていた。
娘はあからさまに肩を落としていたが、何となくほっとしていると、私の傍にいた若い女の子達の会話が耳に入った。
「あーあ、メルティでも駄目みたいよ」
「あんなに可愛いのにねえ。でもやっぱり、あんな素敵な騎士様だもの。きっと貴族のご令嬢とかが許嫁だったりするんじゃない?」
「あー、そうかも。羨ましーい。私もあんな素敵な人と結婚したーい」
「本当、私もー」
これは、いわゆる『モテる』という現象なのだろうか。
ずっと、私とユーゴは二人で生きて来た。だから他人がユーゴの事をこんな風に言っているのを聞いたのは初めてだ。
嬉しいような誇らしいような、それなのに無性に寂しいような複雑な気分に自分でも戸惑う。
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