83 / 282
第二章 白鳥雛派遣:魔法使い編
◆19 王女殿下と侍女たち①
深夜の奥屋敷ーー。
ターニャ姫の寝室に、高位の侍女たちが勢揃いしていた。
侍女長のクレアに、侍女長補佐のサマンサ。
そして、厨房を預かるローブや、毒味担当のイースたちである。
彼女たちは、王女殿下といつも一緒にいる。
姫様付きとしては、護衛役のヒナだけがいない。
「ヒナさんは?」
姫様が問いかけると、侍女たちは即座に答える。
就寝前に、近況を報告するのは日課になっていた。
「私と懇意にしている騎士の報告では、すでにぐっすりお休みになっておられるとのことです」
「お茶会に続く晩餐の後、王女殿下と少し対談なされたと思ったら、急ぎ足で自室にお戻りになりましたよね」
「私も王宮付きの執事から耳にしました。
騎士どもが群がって、ヒナ様の部屋に押しかけていた、と」
貴族令嬢たちが揃って眉間に皺を寄せる。
結婚前の女性が男性をーーしかも複数一挙に招き入れるとは、はしたないにも程がある。
でも、身許確認のために、騎士たちが彼女の許を訪ねることは、約束されていた。
「仕方ありません。
王宮付きの騎士たちがあのような振る舞いをするのも、おおかた王妃様のお指図によるものでしょうから」
王妃は自分におもねらない者に対して、無駄な嫌がらせばかりをする。
大勢の者どもを意のままに操る力があるのだと、周囲に示したくて仕方ない性分なのだ。
当然、その態度に眉を顰める者もいるが、それは気骨のある者だけ。
大概の者は、権力を見せつけられれば見せつけられるほど、王妃様におもねろうと躍起になっていた。
「しかし、ヒナ様には驚かされます。
平気で大勢の男性を、女性一人で自室に迎え入れるとは。
まさに、外聞を恐れぬ振る舞い……」
「大きな声で騒いで、夜分遅くまで、男性とお酒を飲んでいたとの噂もあります。
今はさすがに就寝中でしょうけどーー」
淑女たちは声を潜める。
「なんでも、年若い騎士を何人も同室させて、お休みだとか……」
みな、顔が真っ赤になった。
「なんて大胆な。
男性と同室で就寝なんて、子供の時分でもーーいや、血を分けた兄弟相手でも、したことはございませんよ」
「大胆な方ですね。
さすがに、ベッドは共にはしておられないかと思われますが……」
動揺する女性たちの中にあって、独り姫様だけが平静を保っていた。
「いえ、彼女は異世界からの来訪者。
かの世界では、身分もない社会を築いているとか。
さぞ、秩序のない、風紀が乱れた空間が広がっているのでしょう。
わが王国の価値基準を当て嵌めることはできません。
それでも、私は彼女を信用します。
深いお考えがあってのことに違いありません」
「そうでしょうか?」
「姫様がそうおっしゃられるなら……」
複雑な表情を浮かべる女性たち。
その中にあって、サマンサが思い出し笑いをしつつ口を開いた。
「それにしても、あれで護衛役とは……」
その言葉を耳にして、みながいっせいに吹き出す。
その笑い声には、まったく悪感情がなかった。
貴族令嬢たちは正直、ヒナの素直な感情表現や振る舞いを、羨ましく思っていた。
だからこそ、彼女の身のこなしようを見る限り、やはり護衛の役に立つとは思えなかった。
護衛役としてわざわざ異世界から召喚したにも関わらず、ヒナにはまるで緊張感がなく、周囲を警戒さえしない。
護衛対象である姫様からも平気で離れて、どこかへ行ってしまう。
こんな護衛役ーー今まで見たことも、聞いたこともない。
あれでは、まるで幼子のようではないか。
「彼女のいる世界が、よほど平和なのでしょうね……」
ターニャ姫が静かに総括したあと、毒味担当のイースが進み出る。
以降、お付きの侍女たちからの近況報告が続き、王女は耳を傾ける。
「化粧担当のナーラから、化粧水の鑑定を頼まれまして」
「どうでした?」
「やはり毒が。
微弱ながら、長らく浸けていると、肌が爛れていくかと」
「相変わらずですね、王妃様は……」
今度は厨房を担うローブが進み出る。
「昨日の朝食のサラダに毒草を混ぜた料理人には、王妃様の息がかかっておりました。
即座に排除いたしましたが……」
食べ物や飲み物に毒物が混入することなど日常茶飯事。
すべて侍女たちの手で弾いているが、なかなか信頼できる料理人を雇うことができないのが現状だった。
「露骨すぎますね」
「実際に、毒殺する気はないのよ。
王妃様にとっては、いつでも消せるわよ、と脅すことが目的なのでしょう」
お姫様は深い溜息をついた。
ターニャ姫の寝室に、高位の侍女たちが勢揃いしていた。
侍女長のクレアに、侍女長補佐のサマンサ。
そして、厨房を預かるローブや、毒味担当のイースたちである。
彼女たちは、王女殿下といつも一緒にいる。
姫様付きとしては、護衛役のヒナだけがいない。
「ヒナさんは?」
姫様が問いかけると、侍女たちは即座に答える。
就寝前に、近況を報告するのは日課になっていた。
「私と懇意にしている騎士の報告では、すでにぐっすりお休みになっておられるとのことです」
「お茶会に続く晩餐の後、王女殿下と少し対談なされたと思ったら、急ぎ足で自室にお戻りになりましたよね」
「私も王宮付きの執事から耳にしました。
騎士どもが群がって、ヒナ様の部屋に押しかけていた、と」
貴族令嬢たちが揃って眉間に皺を寄せる。
結婚前の女性が男性をーーしかも複数一挙に招き入れるとは、はしたないにも程がある。
でも、身許確認のために、騎士たちが彼女の許を訪ねることは、約束されていた。
「仕方ありません。
王宮付きの騎士たちがあのような振る舞いをするのも、おおかた王妃様のお指図によるものでしょうから」
王妃は自分におもねらない者に対して、無駄な嫌がらせばかりをする。
大勢の者どもを意のままに操る力があるのだと、周囲に示したくて仕方ない性分なのだ。
当然、その態度に眉を顰める者もいるが、それは気骨のある者だけ。
大概の者は、権力を見せつけられれば見せつけられるほど、王妃様におもねろうと躍起になっていた。
「しかし、ヒナ様には驚かされます。
平気で大勢の男性を、女性一人で自室に迎え入れるとは。
まさに、外聞を恐れぬ振る舞い……」
「大きな声で騒いで、夜分遅くまで、男性とお酒を飲んでいたとの噂もあります。
今はさすがに就寝中でしょうけどーー」
淑女たちは声を潜める。
「なんでも、年若い騎士を何人も同室させて、お休みだとか……」
みな、顔が真っ赤になった。
「なんて大胆な。
男性と同室で就寝なんて、子供の時分でもーーいや、血を分けた兄弟相手でも、したことはございませんよ」
「大胆な方ですね。
さすがに、ベッドは共にはしておられないかと思われますが……」
動揺する女性たちの中にあって、独り姫様だけが平静を保っていた。
「いえ、彼女は異世界からの来訪者。
かの世界では、身分もない社会を築いているとか。
さぞ、秩序のない、風紀が乱れた空間が広がっているのでしょう。
わが王国の価値基準を当て嵌めることはできません。
それでも、私は彼女を信用します。
深いお考えがあってのことに違いありません」
「そうでしょうか?」
「姫様がそうおっしゃられるなら……」
複雑な表情を浮かべる女性たち。
その中にあって、サマンサが思い出し笑いをしつつ口を開いた。
「それにしても、あれで護衛役とは……」
その言葉を耳にして、みながいっせいに吹き出す。
その笑い声には、まったく悪感情がなかった。
貴族令嬢たちは正直、ヒナの素直な感情表現や振る舞いを、羨ましく思っていた。
だからこそ、彼女の身のこなしようを見る限り、やはり護衛の役に立つとは思えなかった。
護衛役としてわざわざ異世界から召喚したにも関わらず、ヒナにはまるで緊張感がなく、周囲を警戒さえしない。
護衛対象である姫様からも平気で離れて、どこかへ行ってしまう。
こんな護衛役ーー今まで見たことも、聞いたこともない。
あれでは、まるで幼子のようではないか。
「彼女のいる世界が、よほど平和なのでしょうね……」
ターニャ姫が静かに総括したあと、毒味担当のイースが進み出る。
以降、お付きの侍女たちからの近況報告が続き、王女は耳を傾ける。
「化粧担当のナーラから、化粧水の鑑定を頼まれまして」
「どうでした?」
「やはり毒が。
微弱ながら、長らく浸けていると、肌が爛れていくかと」
「相変わらずですね、王妃様は……」
今度は厨房を担うローブが進み出る。
「昨日の朝食のサラダに毒草を混ぜた料理人には、王妃様の息がかかっておりました。
即座に排除いたしましたが……」
食べ物や飲み物に毒物が混入することなど日常茶飯事。
すべて侍女たちの手で弾いているが、なかなか信頼できる料理人を雇うことができないのが現状だった。
「露骨すぎますね」
「実際に、毒殺する気はないのよ。
王妃様にとっては、いつでも消せるわよ、と脅すことが目的なのでしょう」
お姫様は深い溜息をついた。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜
まさき
ファンタジー
異世界転生した最強の金持ち嫡男、
専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活
現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。
しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。
彼は大陸一の富を誇る名門貴族――
ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。
カイルに与えられたのは
・世界一とも言える圧倒的な財力
・財力に比例して増大する規格外の魔力
そして何より彼を驚かせたのは――
彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。
献身的なエルフのメイド長リリア。
護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。
さらに個性豊かな巨乳メイドたち。
カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。
すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――
「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」
領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、
時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、
最強の御曹司カイルは
世界一幸せなハーレムを築いていく。
最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
52歳のおっさん、異世界転移したら下水道に捨てられた――下水の汚物は宝の山だった
よっしぃ
ファンタジー
【祝!3/22~25 ホットランキング第1位獲得!】
皆様の熱い応援、本当にありがとうございます!
ファンタジー部門6位獲得しました!感謝です!
【書籍化作家の本気作。まず1話、読んでください】
電車でマナー違反を注意したら、逆ギレされて殴られた。
気がついたら異世界召喚。
だが能力鑑定は「なし」。魔力適性も「なし」。
52歳のおっさんに、異世界は容赦ない。
結論――王都の地下下水道に「廃棄」。
玄湊康太郎。職業、設備管理。趣味、健康管理。
血管年齢は実年齢マイナス20歳。
そんな自慢も、汚物まみれの下水道じゃ何の役にも立たない。
だが、転んだ拍子に起きた「偶然の浄化」が、すべてを変えた。
下水には、地上の連中が気づかない「資源」が眠っている。
捨てられた魔道具。
長年魔素を吸い続けた高純度魔石。
そして、同じく捨てられた元聖女、セシリア。
チート能力なし。異能なし。魔法も使えない。
あるのは、52年分の知識と経験、そして設備屋としてのプロ意識だけ。
汚物を「資源」に変え、捨てられた者たちと共に成り上がる。
スラムから始まる、おっさんの本気の逆転劇。
この作品には、現代の「病気」と「健康」に対する、作者の本気のメッセージが込められています。
魔力は毒である。代謝こそが命である。
軽い気持ちで読み飛ばせる作品ではありません。
でも、だからこそ――まず1話、読んでください。
【最新情報&著者プロフィール】
代表作『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』(オリコンライトノベル部門18位記録)の著者が贈る最新作!
◆ 2月に待望の【第2巻】刊行!
◆ 現在、怒涛の展開となる【第3巻】を鋭意執筆中!
◆ 【コミカライズ企画進行中】!
すでにキャラデザが完成し、3巻発売と同時に連載スタート予定です。絶対的な勢いで駆け上がる本作に、ぜひご期待ください!
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
【完結】モンスターに好かれるテイマーの僕は、チュトラリーになる!
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
15歳になった男子は、冒険者になる。それが当たり前の世界。だがクテュールは、冒険者になるつもりはなかった。男だけど裁縫が好きで、道具屋とかに勤めたいと思っていた。
クテュールは、15歳になる前日に、幼馴染のエジンに稽古すると連れ出され殺されかけた!いや、偶然魔物の上に落ち助かったのだ!それが『レッドアイの森』のボス、キュイだった!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった
仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。