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第二章 白鳥雛派遣:魔法使い編
◆35 私、自分の心に正直に生きていきたい、と思っただけです
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ドミニク=スフォルト王国の王女、ターニャ・テラ・ドミニク・ランブルトと、筆頭公爵スフォルト家のご子息、レオナルド・フォン・スフォルトは、亡き先代王妃の墓前で祈りを捧げた。
そして、木陰のベンチに向かった。
二人は並んで座り、手を取り合い、それぞれに青空を見上げる。
朝の日差しがキラキラと輝き、目に眩しい。
レオナルドは空を見上げつつ、感嘆の声をあげた。
「ああ、こんな時を持てるとは。
貴女と二人きりで、ゆっくり語り合いたいと願っていたのです。
まさか、貴女の方から、僕に会いたいと手紙を下さるとは…‥。
ありがとう」
「私、自分の心に正直に生きていきたい、と思っただけです」
頬を赤く染めて、ターニャ姫は少し俯く。
レオナルドは、握る手に力を込めた。
「恥ずかしながら、ここのところ、僕は気が気じゃなかったんですよ。
現王妃様が頻りに貴女に働きかけているーーしかも、アレックを薦めていると耳にして……。
貴女の心が僕ではなく、アレックを選ぶのではないかと」
ターニャ姫は顔をあげ、まっすぐレオナルドを見つめた。
「あの人、嫌いです。ドロレス様も嫌い。
本当は、義母とは、心の交流をしなければならない人なのに。
私、ドロレス様を好きになろうと、何度も努力しました。
自分を責めたこともあります。
なぜ、先代王妃のように、万人を愛せないのか、と。
でも無理でした。不思議です。
駄目なものは、駄目なのです」
「貴女は正直で、まっすぐな人ですからね。
王妃ドロレスは虚飾といつわりの言葉しか話さないことが、わかるのでしょう。
好きになれなくて、当たり前ですよ」
実際、現王妃は、王女殿下に対して、ひとかけらの愛情を示すこともない。嫌われて当然だーーそう、レオナルドは思っていた。
「本当にそうだわ。あなたに言われて、納得しました。
あの人は、そういうヒト……」
女の直感が告げていた。あの女は危険だ、と。
ドロレス以上に身元が分からないはずの〈異世界人の魔法使い〉の方が、よほど信用できる。
最近の王宮人事は、ことごとくドロレスの息がかかった人物が絡んできていて、自分の側仕え以外、まるで信用できない。
だから父王様に無理を言って、異世界から人材を呼び寄せて、自分の護衛役にした。
実際、ヒナさんは護衛役としては職務に熱心でなく、私を独りで放ったらかしにしている。そのうえ、夜の店に繰り出すなどして、侍女たちに悪い影響を与えている節もある。
けれども、新たな考え方を、私たちに教えてくれた。
愛する男性を王子にするのは、女性のーー姫の力なのだ、と!
ターニャ王女は毅然とした様子で、ベンチから立ち上がる。
「私、婚約相手は貴方だけで十分です。
アレックとは、会う必要すらありません。
そのように、政庁の者に伝えておきます。
たとえ現王妃がなにを言ってこようと、他ならぬ、私自身の婚姻なのですもの。
好きにはさせません」
彼女の凛とした横顔を眩しそうに見上げてから、ゆっくりと立ち上がり、レオナルドはターニャ王女にーー愛するただ独りの女性に、端正な顔を向けた。
「ありがとう。
ーーでも、参ったな。
これじゃあ、女性の方から求婚されたようなものだ。
僕の方からは、また後ほど、折を見て」
照れくさそうに頭を掻くレオナルドに、ターニャ姫も頬をほんのり紅くする。
「ええ。お待ちしておりますわ」
若い男女二人ーー公爵家子息と王女殿下は、柔らかな日差しのもと、一瞬一瞬を惜しむように、互いに手を握り締めながら、時を過ごしていた。
そして、木陰のベンチに向かった。
二人は並んで座り、手を取り合い、それぞれに青空を見上げる。
朝の日差しがキラキラと輝き、目に眩しい。
レオナルドは空を見上げつつ、感嘆の声をあげた。
「ああ、こんな時を持てるとは。
貴女と二人きりで、ゆっくり語り合いたいと願っていたのです。
まさか、貴女の方から、僕に会いたいと手紙を下さるとは…‥。
ありがとう」
「私、自分の心に正直に生きていきたい、と思っただけです」
頬を赤く染めて、ターニャ姫は少し俯く。
レオナルドは、握る手に力を込めた。
「恥ずかしながら、ここのところ、僕は気が気じゃなかったんですよ。
現王妃様が頻りに貴女に働きかけているーーしかも、アレックを薦めていると耳にして……。
貴女の心が僕ではなく、アレックを選ぶのではないかと」
ターニャ姫は顔をあげ、まっすぐレオナルドを見つめた。
「あの人、嫌いです。ドロレス様も嫌い。
本当は、義母とは、心の交流をしなければならない人なのに。
私、ドロレス様を好きになろうと、何度も努力しました。
自分を責めたこともあります。
なぜ、先代王妃のように、万人を愛せないのか、と。
でも無理でした。不思議です。
駄目なものは、駄目なのです」
「貴女は正直で、まっすぐな人ですからね。
王妃ドロレスは虚飾といつわりの言葉しか話さないことが、わかるのでしょう。
好きになれなくて、当たり前ですよ」
実際、現王妃は、王女殿下に対して、ひとかけらの愛情を示すこともない。嫌われて当然だーーそう、レオナルドは思っていた。
「本当にそうだわ。あなたに言われて、納得しました。
あの人は、そういうヒト……」
女の直感が告げていた。あの女は危険だ、と。
ドロレス以上に身元が分からないはずの〈異世界人の魔法使い〉の方が、よほど信用できる。
最近の王宮人事は、ことごとくドロレスの息がかかった人物が絡んできていて、自分の側仕え以外、まるで信用できない。
だから父王様に無理を言って、異世界から人材を呼び寄せて、自分の護衛役にした。
実際、ヒナさんは護衛役としては職務に熱心でなく、私を独りで放ったらかしにしている。そのうえ、夜の店に繰り出すなどして、侍女たちに悪い影響を与えている節もある。
けれども、新たな考え方を、私たちに教えてくれた。
愛する男性を王子にするのは、女性のーー姫の力なのだ、と!
ターニャ王女は毅然とした様子で、ベンチから立ち上がる。
「私、婚約相手は貴方だけで十分です。
アレックとは、会う必要すらありません。
そのように、政庁の者に伝えておきます。
たとえ現王妃がなにを言ってこようと、他ならぬ、私自身の婚姻なのですもの。
好きにはさせません」
彼女の凛とした横顔を眩しそうに見上げてから、ゆっくりと立ち上がり、レオナルドはターニャ王女にーー愛するただ独りの女性に、端正な顔を向けた。
「ありがとう。
ーーでも、参ったな。
これじゃあ、女性の方から求婚されたようなものだ。
僕の方からは、また後ほど、折を見て」
照れくさそうに頭を掻くレオナルドに、ターニャ姫も頬をほんのり紅くする。
「ええ。お待ちしておりますわ」
若い男女二人ーー公爵家子息と王女殿下は、柔らかな日差しのもと、一瞬一瞬を惜しむように、互いに手を握り締めながら、時を過ごしていた。
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