【完結】東京異世界派遣 ーー現場はいろんな異世界!依頼を受けて、職業、スキル設定して派遣でGO!

大濠泉

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第四章 白鳥雛派遣:救世の聖女編

◆95 大っ嫌い、アンタたちなんか!

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 パールン王国予言省長官マローン閣下による、隣国の政治状況をからめたうえでの解析のおかげで、〈白い聖女様〉カレン・ホワイトこと、〈白い悪魔〉マダリアの活動の足取りが掴めた。
 そうした裏事情を知ることができた結果、どうにか、今回の〈聖女召喚バッティング事件〉から端を発した一連の事象を、全体的に把握することができたようだった。

 星野新一が眼鏡を掛け直しつつ、補足説明する。
 彼は、異世界派遣業界ギョウカイ情報網データベースにアクセスして、マダリアが属する魔族の能力を検索し終えていた。

「あのマダリアってのは、おそらく、ヒナちゃんが召喚されるタイミングで、召喚魔法陣の只中に〈空間移動〉したんだろうね。
 あそこの魔族はみな、魔法が使えるそうだから。
 近距離しか移動できないそうだけど、〈念動力〉なんかも扱えるらしい」

 東堂正宗とうどうまさむねは、いつも通りの軽口を叩く。

「あのちびっ子、〈魅了チャーム〉も、見事に使いこなしてたからな。
〈空間移動〉も、お手のものだったのだろう。
 おおかた、王子の寝室から、召喚魔法陣に移動してきたんだろうさ」

 星野ひかりは、手帳を見ながら首をひねる。

「でも、どうして王子を籠絡ろうらくしたのかな。
 直接、ダマラス王をターゲットにしていたら……」

 これには兄の新一が、冗談を含めつつこたえる。

「そりゃあ、魔族にしても、年寄りよりは若い男の方が良かったんだろうね。
 それに、王様近辺のガードが固く、付け入る隙がなかったからかも。
 常に王宮の魔法使いや教皇らに近侍きんじされてるから」

 正宗は、白鳥雛しらとりひなが無事に任務を果たした安堵感から、話を混ぜ返す。

「そんなことよりさぁ、ナノマシンが真っ当に働いてたら、面倒の大半はなかったのにな。
 初めからヒナが緑肌の聖女に〈変容〉してくれていたら、一発で王様や貴族たちから信用されただろうに」

 五十年前、〈魔の霧〉を祓って国難を救った〈聖女様〉が、イタリアの金髪白人女性だったことも、運が悪かった。
 せっかく魔族としての誇りから、妖魔マダリアが、
『緑や黒の肌になぞ、変われるものか!』
 と、白い肌のまま、人間に変化へんげしてくれてたのに。

「見慣れない黄色い肌よりは、白い肌の方がマシだったんだろうね、王国人としては。
 かくしてヒナちゃんは聖女認定されないままに、お城から追い出されてしまったーー」

 そう語ると、新一は、再び、派遣先で起こった事件の把握に努める。

「あとは、モニターで観てきた通り。
 ライリー神父が何人もの孤児を〈龍の卵〉に生贄(いけにえ)として捧げて、〈黄金の双頭龍〉が出現したーー。
 ところが、生贄がわずかに足りなかったおかげで、龍が大きく飛翔することなく、被害が少なくて終わった。
 隣国カラキシ共和国の特攻軍による、孤児院襲撃のおかげかもね」

 ひかりは渋い顔をする。

「たしかに、それはそうなんだけど……。
 ヒナさんには聞かせられないセリフね。
 ほんと、マオくんや、ピッケとロコちゃんは可哀想だった」

 新一もうれいに沈んだ顔でうなずく。

「ほんとにね。あの神父も諦めが悪かった。
 あんな幼い子供ーーピッケとロコまで道連れにするなんて……」

 正宗は無理にほがらかな口調で予測する。

「まあ、物は考えようさ。
 あの子たちがいないんじゃ、ヒナのヤツも未練ないだろ。
 さっそく、東京に帰るって言うに違いない」

◇◇◇

 東京での予想通りだった。

「ワタシの契約は、果たされたはずですよね」

 ワタシ、白鳥雛は、依頼主であったマローン閣下に念押しした。

 すると、白い顎髭を蓄えた老人は、深々とお辞儀する。

「はい。見事に〈魔の霧〉をはらっていただきました。
 孤児院の地下にございます卵型生物兵器も、今ではヒビが入って、すぐにでもカラを割ることができる、との報告が部下からありました。
 おそれ多くも聖女様の名をかたった、かの白き魔族女マダリアーーあの女が自らの魂を〈卵〉に宿し、その〈卵〉を媒介として、これまで人々の魂を喰らっておったのでしょう」

 カレン・ホワイトこと、魔女マダリアの消滅により、供給される養分を絶たれ、〈卵〉の成長が止まってしまった。
 さらには、内側に取り込んでしまった〈聖魔法〉の魔力で、殻が割れてしまったらしい。
 魔族特製の卵型生物兵器が死んだのだ。
 これで、〈黄金の双頭龍〉が復活することも、〈魔の霧〉が発生して、人間が狂うこともないであろう。

 ワタシはマローン閣下をまっすぐ見詰めた。

「もう、ワタシがこの世界に留まる必要も意味も感じません」

 内心では、マオが生きていたら、ホストクラブのホールを任せていたものを……とは思っていたけど、残念なことに、マオはもういない……。

 マローン閣下は、首を緩やかに振って懇願する。

「これからも、わが国に留まっていただけませぬか。
 聖なる光で包んでいただければ、これ以上の喜びは……」

 でも、ワタシの意志は固い。
 老人にみなまで言わせず、言葉をかぶせた。

「いえ。
 もう依頼は果たしたんだから、日本の東京ーーもともとワタシがいた世界に帰ります。
 許可を!」

 マローン閣下は厳しい目付きで、周囲を見回す。
 慌てて、王様は席を立ち、教皇や群臣らとともに、深く頭を下げる。

「今度こそ、国を挙げて、聖女様を歓待いたしますゆえ……」

 ワタシはみなまで言わせず、首を横に振る。

「もう、ワタシの仕事は果たしました!」

 聖女様のお怒りはしずまっていない。
〈謁見の間〉にいる誰もが、承知していた。

 その中で、あえて、前に進み出る者がいた。
 騎士ハリエットである。

「聖女ヒナ様、ぜひとも、ご再考を願います。
 弟のパーカーが、申しておりました。
 いずれ日を選んで、マオとピッケ、ロコの葬儀を行います。
 ですから、せめて聖女ヒナ様の参列をお願いしたくーー」

 それまで無表情であったワタシの顔が、突然、崩れる。
 両目いっぱいに涙があふれ出した。

「わかったわ。お葬式には出席します。
 でもその後、この世界ーーパールン王国に、長くとどまるつもりは、ぜってーねーから。
 だって、彼らをーー勇敢だったマオたちを、最後まで蔑視していた連中と、膝を交えるつもりはないんだかんね。
 たとえ、それが王子様、王様、教皇様だろうと、お偉い貴族様だろうとーーどんな輝かしい緑の肌をもっていようとも、ワタシにとっては恥ずべきクズ野郎どもですから!」

 マローン長官は項垂うなだれた。

「……わかりました。
 どうか、失礼の儀、重ね重ねご容赦を」

 王と教皇、群臣は、いっせいに片膝立ちになって懇願する。

「その……我々を恨まないでいただきたい」

 頭を下げて居並ぶオトコどもを見おろし、聖女ヒナは言い捨てた。

「ふん、〈真の聖女様〉がお怒りになるのが、怖いだけじゃね!?
 ほんと、ろくなオトコがいないわね!」

 ワタシはきびすを返した。

「これ以上、マジで、ワタシに触れんな。
 大っ嫌い、アンタたちなんか!」

 ワタシは最後まで王侯貴族どもをゆるすことなく、王城から立ち去った。
 ハリエットだけが、慌てて彼女を駆けしたっていった。
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