【完結】東京異世界派遣 ーー現場はいろんな異世界!依頼を受けて、職業、スキル設定して派遣でGO!

大濠泉

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第四章 白鳥雛派遣:救世の聖女編

◆99 あれは自暴自棄の一種だ。哀しみを紛らわすための習性ってヤツだ。

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 白鳥雛しらとりひなが〈大聖女ヒナ様〉として異世界で活躍して帰還した翌日ーー。

 転送室で、東堂正宗とうどうまさむねが、星野ひかりに声をかけた。

「その後、どうなった?」

 東京異世界派遣会社では、依頼任務が終了したあと、派遣先だった異世界の状況を確認することが習慣になっていた。

 もとより、特定の異世界とのアクセスは難しい。
 一度、時空がつながった異世界であっても、そのつながりを維持することは難しく、たいていは派遣終了後、数日で途切れてしまう。
 しかも、つながりが絶たれる頃には、時空の歪みが激しくなり、異世界の側の時間進行が、極端に速くなる傾向があった。

 おかげで、派遣後の数年後、数十年後の状況が、わかったりする。
 でも、その後、突然、その異世界とのつながりが遮断されてしまう。
 次に、その同じ異世界との通じるのは、何年後か、何十年後か、誰にもわからない。
 ランダムで、こちらから制御できないのだ。

 だから、依頼任務終了後、その異世界とのつながりが絶たれるまで、後々のための情報収集にいそしむことになる。
 依頼主とコンタクトを取ったり、向こうの世界に残した増殖ナノマシンからの映像をモニターで拾ったりするする。

 星野ひかりは、そういった事後処理を終えたばかりであった。

 ひかりは正宗に膝を詰めて話し始めた。
〈大聖女ヒナ様〉が立ち去った後、異世界の王国が辿った顛末てんまつを、誰かに話したくてウズウズしていたのだ。

「それがね、けっこう激変しちゃったのよ。
 パールン王国の国家体制ってやつが」

「ほう」

 身を乗り出す正宗に、ひかりは手帳のメモを確認しながら説明する。


 パールン王国では、マローン閣下が精力的に動いた結果、大政変が起こっていた。

 マローン閣下は、じつは王家の出身で、現在のダマラス王の父、先代のピット王の弟ーーつまりは当代王の伯父に当たるのだそうだ。
 さらに、『王国の危難の際には、強い権限を持つ』と法的に規定されていた立場だった。
 まるで『天下の副将軍』である。

 そのマローン閣下を、魔族女(カレン=マダリア)の甘言に乗せられて幽閉したのだから、ダマラス王とドビエス王子父子の罪は、まぬがれない情勢となった。

 結果、マローン閣下が主導する王国は、ドビエス王子を廃嫡とした。

 魔族女を聖女と見誤り、さらには〈真の大聖女様〉であられたヒナ様に対し、数々の無礼を働いたかどで、罪に問われたのだ。
 貴族のみならず、庶民をも巻き込んだ糾弾の嵐が、ドビエス王子相手に吹き荒れた。
 父のダマラス王も退位させられ、どうにもできなかったのである。

 結果、遠方のテーラー帝国に嫁いでいたドビエスの姉、サビーネが急遽、ダマラスの跡継ぎに決定した。
 そして、彼女が女王に即位すると同時に、夫のいるテーラー帝国とパールン王国が併合されるに至る。

 さらに、テーラー=パールン二重帝国は、ちょうど領土の間に挟まる格好になった隣国カラキシ共和国と、軍事同盟を締結した。
 帝国が持つ魔法力と、共和国が持つ魔道具技術を結集して、対魔族で共闘するためだった。

 そしてパールン王家と深く結びついていたダレイモス教会でも、改革の嵐が吹き荒れた。

 ぺぺ教皇は、各地の聖職者が召集された公会議で激しく糾弾された。
 魔族崇拝者であったライリーを重用した挙句、魔族女にたぶらかされて〈大聖女ヒナ様〉を糾弾した事実は、弁明のしようもなかった。
 結局、老教皇ぺぺは退位させられた挙句、背教者の汚名を着せられて、すべての事績を抹消された。

 そして、次代の教皇タタは、選出されると同時に、教会の名称をダレイモス教から大聖女教会に改めるよう宣言した。

 さらに、新たに組織された大聖女教会のパールン教区大司教には、ハリエット・フォン・ドノヴァンが選ばれた。
 ハリエットは神学校出身の騎士ではあったが、異例の就任であった。
 しかし、かの大聖女ヒナ様の信任が厚かった人物として、異論なく選出された。
 そして、ハリエットの麾下にあって精力的に布教活動をしたのは、〈聖女様に祝福された白い人〉ーーマオとピッケ、ロコら、元孤児たちであった。
 彼らは、〈大聖女ヒナ様〉の伝説を語り伝える伝道師になっていた。

 彼らいわくーー。

〈大聖女ヒナ様〉は初めから、孤児院に魔が巣食っており、〈魔の霧〉が生まれてくる、と予見しておられた。
 だから、わざわざ私たち孤児を拾いあげ、孤児院へと足を運ばれた。

 さらにヒナ様は、化粧品と薬をお造りになられた。
 これらを使ったものだけが〈魔の霧〉に毒されずにすんだ。
 ヒナ様は、自らがお造りになった〈聖魔法入りのお恵み〉を、少しでも大勢に普及させるために、市井の食品雑貨店の店先にお立ちになったり、戦禍にまみれることになっても、最前線にまで出張って将兵たちを救い続けられた。
 まさに〈慈愛の大聖女様〉であられたのだ。ヒナ様は。

 当初、ヒナ様が黄色い肌をしておられたのも、理由があった。
 人類平等を願うヒナ様は、身を賭して、王家の見識を試されたのだ。
 案の定、肌の色で王宮から追い出されることになられたが、これも想定内のこと。
 おかげで、孤児院に直接出向いたり、薬や化粧品を広めることがおできになれたのだーー。

 そうした〈伝道説教〉を耳にしたパーカーは、首かしげる。

「そうかねえ。
 もっと、単純な女性おヒトだったと思うんだが。
 なぁ?」

 兄に声をかけられたエマは微笑む。

さとい方だろうと単純な方だろうと、どちらでもいいじゃない?
 兄さん、足、治ったんでしょ。
 ワタシもヒナ様から教わったお手入れのおかげで、今日も肌がピチピチしてるわ」

「ああ。みんな緑色の肌になって平等だ。
 困ってるのは、緑の肌を誇っていたお貴族様ぐらいだろうよ。
 はっはははは……」

 パーカーは商人であったが、今では爵位を与えられて貴族となり、統合国家の初代商務大臣輔佐に抜擢された。

 二重帝国でも共和国でも、王国と同様、聖女信仰は強く、〈大聖女ヒナ様〉の活躍は響き渡っていた。
 おかげで、パーカーが、大聖女様とともに、孤児院で人助けをしていた、という前歴は、どの国でも大変歓迎されたというーー。


 ーー以上の後日譚を、正宗は聞き終えた。
 わざとらしく、神妙な顔つきで感想を述べた。

「まあ、〈大聖女ヒナ様〉として伝説が残ったんならいいじゃないか。
 なにせ、聖魔法を込めた薬や化粧品で、それなりの人数の人々を〈魔の霧〉から助けたんだ。
 マオやピッケ、ロコなんかは、死者からよみがえっている」

 そう言いながらも、正宗は笑いをこらえるのに苦労していた。
 逆に、ひかりはこらえることなく、素直に笑みを浮かべる。

「ふふふ。ーーそれだけじゃないわ。
 何万人もの肌の色を緑に変えてしまった。
 王国だけでなく、教会でも大変革がなされるきっかけとなったのは間違いないわ」

 面白がっていると、いきなり後ろから声が聞こえた。

「二人して、なんの話してんの?」

 ひかりと正宗が振り向くと、白鳥雛がさわやかな顔で立っていた。
 二人して話に盛り上がって、彼女の来訪にまったく気づかなかった。

「雛さん、おはよう。よく眠れたみたいね」

 ひかりが挨拶すると、雛も軽く伸びをして答えた。

「うん。ぐっすりと眠った。
 やっぱり異世界だと緊張してたのかな」

「嘘つけ!
 おまえ、はしゃいで、シャンパンタワーやってただろ!」

 正宗のツッコミをいつも通り無視して、雛はドッカリとソファに身を沈める。

「ああ……。
 ワタシはホンモノのシャンパンコールシャンコがやりたい。
 ーーそれで、ひかりさんに相談なんだけど、ワタシが向こうの世界で作った化粧品、クリーム中心にほんのわずか、持ってこれたんだけど、そいつを十万円で売ってあげる。
 特別価格よ。本当は五十万円はするんだから」

「いくら聖魔法入りっていっても、コッチの世界で有効かどうかも、わかんないもの。
 十万円って、高いじゃない? いらない」

「え~~、マジで、高くないよ。
 ひかりさん、お風呂あがりに、青缶のニ◯アをつけてるだけじゃね!?
 女子力、低くすぎー」

「なによ。私には、あっているの。
 押し売りはやめて!」

 女同士のやり取りに、正宗が割って入る。

「ヒナ、俺が五万で買ってやる。
 それだけあれば、当座は良いだろう?」

 正宗は上機嫌だった。
 すぐさま財布からお札を取り出す。
 雛は小首をかしげながらも、提案に乗った。

「ぜんぜん足りないけど、まあ、いいよ。ちょうだい」

 雛は札を五枚、引ったくると、そのままきびすを返して、部屋から飛び出していった。

 白鳥雛がいなくなってから、ひかりが正宗に尋ねた。

「ウチの〈大聖女様〉は、なんであんなにお金欲しがっているの?」

「オトコを失った哀しみは、オトコで埋めるしかないんだろ。
 それが〈ホス狂い〉の女なんだよ」

 おかしいな、とひかりは思った。
 マオもピッケも生き返ることができたんだから、「オトコを失った哀しみ」はないはずなのにーーと。
 でも、考え直した。
 あれほど可愛くなついていたマオもピッケも、自分を崇拝する信者になってしまった。
 それでは、ヒナさんにとって「オトコを失った」も同然だったのかもしれない、と。

 だから、別の方向からツッコミを入れた。

「でも、ヒナさん、『ホスト通いは卒業した』って、言ってなかったっけ?」

 正宗は肩をすくめる。

「『今はメンコンだからいいでしょ!?』ってさ」

「メンコン?」

「メンズコンセプトカフェのこと」

「それってーーホストほどどキツく搾取さくしゅされないけど、結局、同種の商売じゃない?」

 呆れるひかりに、正宗は深く椅子にもたれかかってこたえる。

「さっきも、『ホンモノのシャンコが聞きたい』って言ってたしな。
 じつは、いまだに〈ホス狂〉を卒業出来てないのかも。
 売掛金が溜まってたりしてな。
 ああ、ウリカケ、今は法律で禁じられてたっけか?」

 ひかりは溜息をつく。

「なんか哀しいね。
 世界が違えば、伝説級の大聖女様だってのに。
 お金もあんなに稼いでたでしょ?
 でも、コッチの現実世界にまったく持ち越そうとしないなんて。
 なんだか、肝心なところで抜けてるっていうか、欲がないっていうか。
 せめて、ホストやメンコンっての? ひとときの夢の世界で癒されればいいけど」

「さあ、どうだろうね。
 自らハマりに行ってるだけだからな。
 あれは自暴自棄の一種だ。
 哀しみをまぎらわすための習性ってヤツだ」

 はああ~~。

 ひかりと正宗は、あきらめの吐息といきらすばかりであった。

(了)
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