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◆2 洞窟の隣にある、小さな魔道具店
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わが身の振りようを、あれこれ考えるうちに、目的地に到着しました。
美しい渓谷で有名な観光地です。
綺麗な湖の畔には、いくつもの別荘やコテージが並んでいました。
その背後には小高い山があり、小さな森が広がっています。
ここら辺でよく薬草を採ったものでした。
今でも、どこら辺に回復薬の元になる草が生えているかを覚えています。
この森の入口は、冒険者成りたての初心者がよく来る場所です。
実際、私が森に入ると初心者たちがウロウロしていました。
私の方から朗らかに声をかけました。
「みんな、頑張んなよ!」と。
彼らのほうも、私に会った事がある者も多いらしく(受付にいたのだから当然か)、向こうから挨拶してきたり、
「あれ? 受付の人も依頼受けたりすんの?」
「なんか、ずるくね?」
などと言う男の子までいました。
でも、私はここで薬草採取を五年間はやった時があります。
彼ら初心者に比べたら、ちょっとしたベテランになります。
なので、穴場を知っています。
さらに森の奥に入ったところで、岩場がある辺りに、珍しめの薬草が生えています。
私は予約したコテージに到着する前に、ひと稼ぎしようと、穴場へと向かいました。
「あった、あった」
屈んで薬草を採ること一時間ーー。
かなりの量の薬草が採取できました。
回復や治癒のポーションの原材料になる薬草です。
(マジで冒険者に復帰できるかも?)
そう思い、ニヤニヤしました。
でも、やはり、魔法使いや上級冒険者が装備する魔道具の原材料になるような素材は見つけられませんでした。
薬草や魔石は幾つか手に入りますが、魔法杖の材質になる神木や、ミスリルの刃を納める鞘の原材料なんかは見つけたことがありません。
(こんなんじゃ、現役復帰しても、またC級止まりかぁ……)
現実を思い、落ち込みます。
そうしたモヤモヤした気分を晴らすよう、軽く伸びをしました。
気づけば、かなり森の奥深くにまで踏み込んでいたようでした。
目の前には、幾つも岩が連なっています。
その先に、切り立った崖がありました。
崖には数多くの洞窟が穿たれていました。
(自然が作った洞窟なんだろうけど、ちょっと不気味……)
その洞窟のそばに、以前なら見かけなかったものがありました。
赤い屋根に白い壁ーーまるでおとぎ話の〈お菓子の家〉のような建物でした。
(なんだろ、看板?)
小屋に向かって、私は目を凝らします。
看板が掲げてあり、『魔道具あり〼』と書いてありました。
◇◇◇
私は美しい渓谷で有名な観光地にやって来て、森の奥に踏み込み、意外なものを見つけました。
洞窟入口の横に、赤い屋根の小さな魔道具店があったのです。
(こんな森の奥に? いくら観光地とはいえ、誰も客なんか来るはずないのに……)
好奇心を強く刺激されました。
だから、私は玄関扉を開け、身を屈めつつ、店の中に入ったのです。
「お邪魔します……わあーー!」
思わず口に手を当て、声を出してしまいました。
たくさんの魔道具が、綺麗に並べ置かれていたんです。
物騒な剣や弓といったものではありません。
指輪やブレスレット、それに水晶玉ーー。
みな魔力が込められているのが、見ただけでわかります。
露骨に霊波が感じられました。
そしてなんといっても、魔法使いならではのグッズーー魔法杖!
玄関脇には、ひときわ大きな魔法杖がありました。
木の幹がぐるぐると巻かれたようなデザインで、いかにも高級品に見えます。
大きい青い水晶玉が、先端の広くなった台に据えられていました。
水晶がキラキラと輝いて美しい。
私は引き込まれるように、じっと水晶の輝きに魅入っていました。
すると、後ろからいきなり声をかけられたのです。
「お気に召しましたか?」
びっくりして振り向くと、そこには、上品な老婦人が立っていました。
「その杖は息子が作ったものなのですよ」
「息子さんが……」
パッと見で、七十歳ほどのおばあさんでした。
だったら、息子さんは私よりも年配でしょう。
杖を前にして、私はその老婦人と会話を始めました。
「こんな森の奥にあるということは、この店は販売というより、製作がメインなんでしょう? 奥様もお作りに?」
「いえいえ、私は夫や息子ほど手先が器用ではないのよ。ほほほほほほ」
と老婦人は、口に手を当てて微笑む。
「でも、こんな森の奥にお店があるなんて思いませんでした」
「そうね、もっと街中に店を構えればいいのにって私も思ってるのよ。
でも、夫も息子も頑固で。
事実上、店というより、ここは工房ということになるわね」
「じゃあ奥様は、こちらにお住まいではない?」
「ええ。時折来るだけで、普段は王都に住んでいるんですよ」
訊けば、王都の一等地、貴族街に近い区域に住んでいるとのことでした。
この老婦人は、〈お屋敷の奥様〉ということになります。
自然と奥様の指に、目がいきました。
紅い宝石を嵌めた指輪が輝いていました。
それも、単なる紅い色石ではありません。
暗がりなのに、自前で光っています。
魔石特有の現象でした。
つまり、奥様の指輪は、深紅の魔石を嵌めた、高価な稀少品だったのです。
「素敵ですね」
と私が褒めますと、奥様は柔らかに微笑みました。
「ありがとう。でも指輪は女性のモノでしょう? 一人息子に残してもね」
ちなみに、豊かな家では、女系で指輪を伝えていく伝統があります。
私のような農家の出にはない風習でしたが。
「息子さんは、ご結婚なさっていないんですか?」
「そうなの。早くお嫁さんもらって欲しいわ。
私が晩婚でしたので、高齢出産で大変でしたのよ。
魔道具を使って妊娠、分娩をしたんです」
「そんな魔道具もあるんですね」
「遅くに出来た子とはいえ、もうかなりの年齢になってますわ。
このままじゃ、義母様からいただいたこの指輪も、他の道具たちといっしょに、商品に並べて売る羽目になってしまいます」
ほほほと明るく笑ってから、真顔で私を見据えて、奥様は言いました。
「この指輪はぜひ、息子のお嫁さんにお渡ししたいわ」
美しい渓谷で有名な観光地です。
綺麗な湖の畔には、いくつもの別荘やコテージが並んでいました。
その背後には小高い山があり、小さな森が広がっています。
ここら辺でよく薬草を採ったものでした。
今でも、どこら辺に回復薬の元になる草が生えているかを覚えています。
この森の入口は、冒険者成りたての初心者がよく来る場所です。
実際、私が森に入ると初心者たちがウロウロしていました。
私の方から朗らかに声をかけました。
「みんな、頑張んなよ!」と。
彼らのほうも、私に会った事がある者も多いらしく(受付にいたのだから当然か)、向こうから挨拶してきたり、
「あれ? 受付の人も依頼受けたりすんの?」
「なんか、ずるくね?」
などと言う男の子までいました。
でも、私はここで薬草採取を五年間はやった時があります。
彼ら初心者に比べたら、ちょっとしたベテランになります。
なので、穴場を知っています。
さらに森の奥に入ったところで、岩場がある辺りに、珍しめの薬草が生えています。
私は予約したコテージに到着する前に、ひと稼ぎしようと、穴場へと向かいました。
「あった、あった」
屈んで薬草を採ること一時間ーー。
かなりの量の薬草が採取できました。
回復や治癒のポーションの原材料になる薬草です。
(マジで冒険者に復帰できるかも?)
そう思い、ニヤニヤしました。
でも、やはり、魔法使いや上級冒険者が装備する魔道具の原材料になるような素材は見つけられませんでした。
薬草や魔石は幾つか手に入りますが、魔法杖の材質になる神木や、ミスリルの刃を納める鞘の原材料なんかは見つけたことがありません。
(こんなんじゃ、現役復帰しても、またC級止まりかぁ……)
現実を思い、落ち込みます。
そうしたモヤモヤした気分を晴らすよう、軽く伸びをしました。
気づけば、かなり森の奥深くにまで踏み込んでいたようでした。
目の前には、幾つも岩が連なっています。
その先に、切り立った崖がありました。
崖には数多くの洞窟が穿たれていました。
(自然が作った洞窟なんだろうけど、ちょっと不気味……)
その洞窟のそばに、以前なら見かけなかったものがありました。
赤い屋根に白い壁ーーまるでおとぎ話の〈お菓子の家〉のような建物でした。
(なんだろ、看板?)
小屋に向かって、私は目を凝らします。
看板が掲げてあり、『魔道具あり〼』と書いてありました。
◇◇◇
私は美しい渓谷で有名な観光地にやって来て、森の奥に踏み込み、意外なものを見つけました。
洞窟入口の横に、赤い屋根の小さな魔道具店があったのです。
(こんな森の奥に? いくら観光地とはいえ、誰も客なんか来るはずないのに……)
好奇心を強く刺激されました。
だから、私は玄関扉を開け、身を屈めつつ、店の中に入ったのです。
「お邪魔します……わあーー!」
思わず口に手を当て、声を出してしまいました。
たくさんの魔道具が、綺麗に並べ置かれていたんです。
物騒な剣や弓といったものではありません。
指輪やブレスレット、それに水晶玉ーー。
みな魔力が込められているのが、見ただけでわかります。
露骨に霊波が感じられました。
そしてなんといっても、魔法使いならではのグッズーー魔法杖!
玄関脇には、ひときわ大きな魔法杖がありました。
木の幹がぐるぐると巻かれたようなデザインで、いかにも高級品に見えます。
大きい青い水晶玉が、先端の広くなった台に据えられていました。
水晶がキラキラと輝いて美しい。
私は引き込まれるように、じっと水晶の輝きに魅入っていました。
すると、後ろからいきなり声をかけられたのです。
「お気に召しましたか?」
びっくりして振り向くと、そこには、上品な老婦人が立っていました。
「その杖は息子が作ったものなのですよ」
「息子さんが……」
パッと見で、七十歳ほどのおばあさんでした。
だったら、息子さんは私よりも年配でしょう。
杖を前にして、私はその老婦人と会話を始めました。
「こんな森の奥にあるということは、この店は販売というより、製作がメインなんでしょう? 奥様もお作りに?」
「いえいえ、私は夫や息子ほど手先が器用ではないのよ。ほほほほほほ」
と老婦人は、口に手を当てて微笑む。
「でも、こんな森の奥にお店があるなんて思いませんでした」
「そうね、もっと街中に店を構えればいいのにって私も思ってるのよ。
でも、夫も息子も頑固で。
事実上、店というより、ここは工房ということになるわね」
「じゃあ奥様は、こちらにお住まいではない?」
「ええ。時折来るだけで、普段は王都に住んでいるんですよ」
訊けば、王都の一等地、貴族街に近い区域に住んでいるとのことでした。
この老婦人は、〈お屋敷の奥様〉ということになります。
自然と奥様の指に、目がいきました。
紅い宝石を嵌めた指輪が輝いていました。
それも、単なる紅い色石ではありません。
暗がりなのに、自前で光っています。
魔石特有の現象でした。
つまり、奥様の指輪は、深紅の魔石を嵌めた、高価な稀少品だったのです。
「素敵ですね」
と私が褒めますと、奥様は柔らかに微笑みました。
「ありがとう。でも指輪は女性のモノでしょう? 一人息子に残してもね」
ちなみに、豊かな家では、女系で指輪を伝えていく伝統があります。
私のような農家の出にはない風習でしたが。
「息子さんは、ご結婚なさっていないんですか?」
「そうなの。早くお嫁さんもらって欲しいわ。
私が晩婚でしたので、高齢出産で大変でしたのよ。
魔道具を使って妊娠、分娩をしたんです」
「そんな魔道具もあるんですね」
「遅くに出来た子とはいえ、もうかなりの年齢になってますわ。
このままじゃ、義母様からいただいたこの指輪も、他の道具たちといっしょに、商品に並べて売る羽目になってしまいます」
ほほほと明るく笑ってから、真顔で私を見据えて、奥様は言いました。
「この指輪はぜひ、息子のお嫁さんにお渡ししたいわ」
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